「M」

プロローグ


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どこかで見た事のある景色だなと、私はぼんやりと考えていた。
どこで見たんだろう。
いつ見たんだろう。
確かに記憶のどこかに眠っている景色。でもなんとなく、それを思い出す事はできないように思えた。
見覚えはあるのに、全く自分とはかかわりの無い別の世界であるように思えた。
だけどその景色を見ていると、なぜか私の心の中に強いさみしさがこみ上げてきた。

小さな女の子がいる。
セピア色に塗られた川と、橋と、そして堤防。
その堤防のそばで一人釣り糸をたれている。
あの子はなんで一人で釣りなんかしてるんだろう。

(ドボンッ!!)
女の子のそばで川が大きな波しぶきを立てた。
大きな石が、川に投げ入れられたみたいだ。
だけど女の子はさして驚く様子も無く、振りかえって堤防の上を見上げる。
するとそこには、いじわるそうな表情で女の子を見る男の子達が3人立っていた。

『女のくせに釣りなんかしてんじゃね〜よ』
『そうだよ。生意気だ』
『こんなドブ川の魚なんか釣ってど〜すんだよ』
そして男の子の一人がまた石を彼女の近くの水面に投げ入れる。

(ドボンッ!!)
あ〜あ、お魚逃げちゃうね。かわいそうに。

『そうだ、多分あいつ釣った魚を食べるんだぜ。そんでもっとでかくなるんだ』
『え〜今よりでっかくなんのかよ〜、こえ〜俺達なんか踏み潰されるぜ〜』
『あいつのお父ちゃんってたぶんゴジラだよ。ゴジラ。あいつも怪獣になるんだよ。ぎゃはは』
そんな風に言っている男の子たちをただ座ってみていた女の子だけど、やがて膝を立てて、立ちあがろうとする。
すると、それまで小さな小さな女の子だったその子は、立ちあがりながらどんどん体が大きくなっていき、
すっかり立ち上がった時には、その幼い顔には似合わないとても長身の女の子になっていた。

『やばい、デカ女が怒ったぞ』
『逃げろ〜』
『食べられる〜』
そう言って、意地悪な男の子達は笑いながら逃げていった。

やがて彼女は再び川のへりに座り、釣りを始めた。
体はまたもとの小さな女の子に戻っていた。


そして私の意識も再びまどろみの中に落ちていった・・・・・。



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>第一章 side-A

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