「M」

第18章 side-B


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『港区・・・・・六本木の辺りか・・・・』

西田がm世界にリンクインしたのち、宗像はmシステムの端末に向かい出来る限りm世界における上坂の行動を調べようとしていた。
宗像なりに、西田の行動をサポートしたかったのだ。
彼女は精神的に限界ギリギリのところに立っている。仲間を失い、そして家族を失った。
それも今まで宗像が思っていたような偽りの仲間でも偽りの家族でもなく、本物の人間の仲間と家族を。
それでも、彼女は再びそんな世界に戻っていった。悲壮な決意を瞳に秘めて。
そんな彼女の姿は美しかった。
それは女性として意識したとかいう類のものではなく、人間として美しいと宗像は感じたのだった。
そんなはじめて味わう感覚に宗像は感動していた。
だから、彼女のために出来る限りのことをしたかった。

システム内には、上坂が送り込んだプログラムがいくつか動いているはずだった。
上坂がm世界内で自由に姿を変えていることからもそれは明白だった。そんなシステムを自分は作っていない。上坂は自分が作ったプログラムをこっそりと外部から送り込んで起動しているのだ。
それを探すことからはじめた。うまくいってそれを除去できれば、少しは上坂の行動を制限できる。
あるいはそのプログラムを改変してやつを追い出すことすらできるかもしれない。

プログラムはすぐに見つかった。
上坂は大胆にも、システムの一番上位の領域に「kamisaka」という自分の名字をそのままつけたプログラムエリアを作り、そこに作ったプログラムを置いていたのだ。
だが、そんなにも簡単に見つかったことが、逆に宗像を落胆させた。
このような目立つ場所においておくということはすなわち、除去される心配がないと上坂が判断しているということだ。
そしてさらに調べてみて、その宗像の推測は事実であることが判明した。
「kamisaka」の下にある一連のプログラムはすべて自己増殖型ウィルスの形態をとっていたのだ。
システム内に自分のコピーを作り、そのコピーがまたコピーをつくりといって増殖していくタイプだ。
おそらく、システムの下位領域にはここにあるプログラムのコピーが制限数一杯までたくさんひしめいているに違いない。それらをすべて除去するのはほぼ不可能だ。上坂のことだから、プログラムが削除された分自動的に補充するようなアルゴリズムにしているだろう。

宗像は落胆しつつも、せめてプログラムの特徴だけでも調べておこうとした。
そしてプログラムの中に、つい昨日追加されたばかりのプログラムが3つあることに気がついた。
宗像はその3つのプログラムを調べた。
調べるといっても、とりあえずそのプログラムのコピーをとり、安全な領域においてからテスト実行して様子をみるというくらいしかできることはない。
ゆえに、最初の2つのプログラムの働きは何もわからなかった。
宗像は最後のプログラムをあまり期待せずに調べてみた。
するとこちらには多少の反応があった。
テストシーケンスの実行を繰り返すうちに、このプログラムがオブジェクト消去を抑制するプログラムであることがわかった。消去シールを貼って強制的に消すというプログラムを無効化するプログラムだ。
『なるほど・・・・消去シールで自分が消されないようにということか・・・・』
西田君が消去シールで上坂を消し、そして即座にネットの接続を切って彼をm世界から切り離すという作戦を知っているのだろうと宗像は思った。
『まずいな・・・・』
だが既にリンクインした西田にそれを伝える術がなかった。

何か出来ることはないかとさらにプログラムを調べるうちに、それが範囲限定で作動するプログラムであることを宗像は突き止めた。
そしてその範囲が六本木周辺に現在は設定されていることもわかったのだった。

『つまり六本木の周辺に西田君を呼び出し、そしてそこでまた誰かを消すつもりということか・・・・・いや待てよ、奴自身もこの妨害プログラムのせいで何も消すことは出来ないはずだ』
『・・・・そうか、消すのではなく・・・・・もっと残酷なことをするつもりということか・・・・・』
そして宗像は上坂の行動に頭をめぐらせるうちに、別のことに思い至った。
『待てよ・・・・消せないということは・・・・・』
宗像の表情がにわかに緊張感をはらんだものに変わった。
『いかんっ!!』
宗像は思わずそう叫んでいた。
『あの馬鹿め!自分がどんなに危険なことをやっているかわかっておらんのか!下手をすれば西田君も危ない!』

宗像はリンクインカプセルの中で眠る西田を見た。
いやな予感がして胸の鼓動が速くなるのを感じた。



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