「M」

第11章 side-B


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『そんな事があるはずがない!!』
リンクアウトしてきた私の報告を聞いて、教授はそう怒鳴った。

『でも、本当なんです。梨華ちゃ・・・石川梨華は確かに向こうの世界に未だ存在します』
その私の言葉が終わらないうちに、教授はPC端末のキーボードを叩き始めていた。
そしてコンソールの画面を見て再び私にむかって怒鳴る。
『この結果を見たまえ!ほらこの通り、彼女のデータは消失している。これで存在できるわけがないのだ!』
そう怒鳴られても私にはどうしようもない。

『君が昨日の昼に消したオブジェクト。調べたところ人形かなにかのようだが、あれが未だ向こうの世界にあるかね?復活したかね?』教授がおこったまま私に尋ねる。
『いえ。確かに私の目の前で消えましたし、そしてそのままですけれど』
『だろう。そしてこの石川梨華と君が消した人形のデータ属性は、現在全く一致しておる。つまり存在データだけが強制的になんらかの理由で消去されたことを意味するのだ』
『強制的に?』
『・・・うむ・・・・そうだ・・・・強制的にだ』
ここで教授の口調が急におとなしくなった。
そしてしばらくの沈黙の後、教授は再び話し始めた。
『君がオブジェクトを消した時の挙動を詳細に調べてみたのだがね、他のオブジェクト欠損の場合と全く同じパターンを示していたよ』
『全く同じパターン?』
『そうだ、基本シーケンスが全く一緒だったのだ。これが何を意味するかわかるかね?』
『・・・・いえ』
私は正直に答えた。
『つまり、他のオブジェクト欠損も、君が消した人形と同じ原因で起こったということだ』
『同じ原因・・・・』
『そうだ・・・・いるのだよ。意図的にm世界内のものを消している何者かがな・・・・』
『そ、そんな。そんなはずはないです。だってあの中には私しか・・・・・』
『そうだ。あの中にいる生身の人間は君だけのはずだ。だが、別に生身の人間でなくてもこれは可能かも知れない。例えばコンピューターウィルス。あるいはあちらの世界の人間の誰かが偶然、君に渡したシールと同じ効力を持つ何かを作り出した可能性も全くのゼロではない』
『ウィルス・・・・向こうの人間・・・・』
『いずれも私には考えられない可能性なのだがな・・・・だが、あれはシステムの不具合という類のものではないと思う。誰かの意思を感じるのだ』
そこまで言って、教授は何かに気がついたらしく表情が変わった。
『ちょっと待て。君は確か、その石川梨華という向こうの人間を何者かが襲おうとしたと言っていたな』
『はい。梨華ちゃんはうまく逃れることができたんですけれども』
『それはいつの話だ。もちろん、向こうの時間でだ』
強い興味をひかれたらしく教授の表情は真剣そのものだった。
『えっと・・・昨日の夜の、確か、20時35分から36分頃です』
私はエレベータの監視映像に時間が表示されていたので、かなり正確に覚えていたその時刻を教授に伝えた。
教授はPC端末に向き直り、コマンドを打ち始めた。
そして
『やはりな』とモニターの出力を見ながら答えた。
『え?』
『石川梨華のデータが消去された時間を調べてみたよ・・・・これを見てみたまえ』
そういって教授は私にコンソール画面を示した。
そこにはこう表示されていた

(>Vanished Time Day -1 Time 20:35:21)

『君の記憶の通りだ。彼女が消えたのは昨日の夜の20時35分21秒。彼女が襲われた時間と一致する。
つまり、彼女はそのときに「消された」のだ』



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