「M」

第17章 side-A


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矢口が玄関のドアを開けると、加護が驚いた表情で矢口を見た。
『あれ?矢口さん』
インターホンで応対した亀井か、この部屋の主である石川がでてくるものと思ったのだろう。
『まぁ入って』
矢口はそういって加護を招き入れると、部屋の外をうかがって誰もいないのを確認してからドアを閉めた。

『お邪魔しまーす』
加護は靴を脱いで、部屋へと上がり、リビングへ向かう。
彼女が靴を脱ぐのを見て矢口もここではじめて靴を脱ぎ、加護の靴の隣に並べた。

『おう、亀ちゃん』
『はーい』
リビングに入った加護は亀井と挨拶を交わし、部屋をぐるっと見回す。
そして、
『あれ?梨華ちゃんは?』
と、誰にともなくたずねた。
『うん、いないの。でもすぐに戻ってくると思うよ』
矢口は加護に不安を与えまいとそう答える。
『ところで加護はなんでここに?』
『梨華ちゃんがね、一人じゃ寂しいから遊びに来てって電話してきたから』
そう言って、持ってきたビニール袋をリビングの端にある食卓の上におく。

加護も?ということは、亀井と加護の2人を一度に消すつもりだったのだろうか?
妙に急ぐな・・・・・矢口は不審に思った。
でも、一人消えるたびに警戒は厳重になっていくだろうから、急いで消していくほうがあいつにとっては得策ということかもしれない。

『しまったなぁ。亀ちゃんと矢口さんもいるって知ってたらあと2つ買ってきたのに。3つしかないから一人分足らないや』
と、加護が自分で持ってきたビニール袋を見ながら言った。
『なーに、それ?』
亀井がソファーから腰を上げながら加護に尋ねる。
『ん?ケーキ。そこの駅前のケーキやさんのミルフィーユがね、すっごくおいしいの。だから買ってきたんだよ』
加護はすごく嬉しそうにそう答える。
『3つって・・・一つ多いじゃん』と矢口。
『えへへ・・・あいぼん2つ食べるつもりだったの』
『まったく・・・・また松本さんに3倍とか言われちゃうよ』
なんとも加護らしい行動に矢口のほほが緩む。
矢口はそのビニール袋の中のミルフィーユを覗きながら、加護にたずねる。
『梨華ちゃんは、他になんか言ってた?』
『うううん。仕事終わったら遊びに来てってそれだけ』
『そっか。』
『ねぇ、亀井ちゃ・・・・』
そこで加護の声が途切れた。
『?』
矢口が顔を上げて加護を見ると、加護がなんとも不思議な表情をして固まっていた。
加護の目線の先を追うが、リビングのドアの前で亀井がニコニコしているだけである。
『ん?どうしたのさ加護?』
矢口が尋ねると加護は目をパチクリパチクリさせて相変わらず亀井を見ながら答える。
『え・・・・亀ちゃん・・・・だよね?』
『何を言ってんの?』と矢口。
『あれ・・・・なんか今怖い顔で矢口さんのことを見てたから・・・・』
その瞬間、矢口の脳裏にひらめくものがあった。
急いで亀井を振り返る。

そこにはリビングの入り口をふさぐように亀井が立っていた。
軽く微笑んで、
『怖い顔って・・・・こんな顔?』
と加護の方を見ながら言う。
その瞬間、
矢口がいまだかつて亀井には見たことのない表情がそこに現れた。
明らかに狂気を含んだその表情。
上坂が石川の姿をしていた時にたまにみせた嫌な表情が、
そこにあった。

『上坂・・・』
矢口はそうつぶやいた。
『ふふ・・・・先輩を呼び捨てはよくないんじゃないの・・・・西田君』
亀井の姿をした上坂がそう答える。
加護はただわけがわからないという表情で二人を見る。
『下がって・・・加護』矢口は右腕で加護を制して、自分の背後へと移動させる。
加護は事の次第はよくわからないものの、矢口の表情から今が非常に危険な状態なのを感じ取り、おとなしく矢口の背後に隠れるように移動する。

『まさか・・・・亀井の姿でリンクインし直してたなんて』
『それはちょっと違う』
<亀井>が答える。
『え?』
『仕方が無い、一ついいことを教えてあげよう。俺は別にリンクインし直さなくても、この世界での姿を変えることが出来るんだ。だから、石川梨華の姿でリンクインしてから俺はまだリンクアウトしていない』
矢口は驚いた。そんな、自分にもできないようなことが上坂にはできるのか。
『このシール』
といって<亀井>はポケットから一枚の銀色のシールを取り出す。
『これはね、この世界のものを消すだけでなく、消したオブジェクトの外見データをコピーする。そしてその使用済みシールはオブジェクト消去機能はなくなる代わりに、そのオブジェクトへの変身機能を有するようになる』
そういって<亀井>は自分の腕にそのシールを貼った。
すると<亀井>の姿がぐにゃりと崩れ、その一瞬のちに、<石川>の姿へと変わった。
『このとおり』
矢口は何も言わずただ上坂の言葉を聞いていた。
加護はただ呆然として一言も発せずにいた。
<石川>はそんな二人をおもしろそうに眺めながら、また別のシールをポケットから取り出し、腕に貼った。
するとまた同じ過程を辿って<石川>の姿が<亀井>のそれに戻った。
『どうだい?おもしろいだろ?』
そういって<亀井>はにやにやと笑っている。
『そもそもそれくらいはとっくに気がついていて欲しかったものだけどな。考えたらわかりそうなものだろ。石川ってのを消すときだってそういった技術がないとできないじゃないか。俺はマンションに隠れてたって設定なんだぜ』
『それは・・・梨華ちゃんの姿をしてマンションに入って、待ち伏せしていたから・・・』
矢口は自分がそう思っていたことを口にした。
『2回も同じ人間、それも芸能人なんて目立つ人間が入っていたっらすぐばれるだろ。俺が入っていった時は彼女の妹の姿で入ったんだよ。そしてその姿で彼女を消した。で、そのまま石川梨華に変わってなりきろうとしたんだが、エレベーターの監視カメラにうつってしまっただろ。あれが誤算だった。監視カメラのないエレベータを出たところで消すつもりだったんだがね。
『だからしかたがないので、マンションの管理人の若い男を消してそいつになりきり、朝まで待ってから、改めて彼女の姿になって出て行ったんだ。でもまぁそのおかげで、管理人室で君やマネージャーがうろたえてる姿を一緒に見れたのはなかなかに楽しかったけどね』
あの時の若い管理人が上坂だったのか。自分のすぐ近くで何食わぬ顔でいたあの男が・・・・。今までまったく気がつかなかったことを矢口は無性に悔しく感じた。
『しかし、不思議なものだな。いざ俺が誰かを消そうとすると、たいていばれるんだよな。今もそこの彼女にばれちまったし、石川って子の時も、妹じゃないってすぐにばれちまった。姿形は一緒なのにな。人形同士通じ合うものでもあるのかね?』
『それが、人形じゃないって証拠なのかもしれないよ』矢口はそういった。
『ふん』と<亀井>は鼻で笑った。

『亀井は・・・・亀井も・・・・・』
矢口は尋ねようとしたが、それがなかなか言葉にならなかった。
だが矢口の聞こうとすることは伝わっていた。
『昼間だったな。今日は彼女だけがオフだったらしいからね。一人じゃ怖いから遊びに来てくれって電話したら、友達との約束をキャンセルしてすぐに来てくれたよ。優しい後輩じゃないか。ははは』
といって<亀井>は笑う。
『くっ』
矢口の中でいいようのない嫌悪感がつのる。

『さて、おしゃべりはこのくらいにしてそろそろショーの始まりと行こうじゃないか。加護さんも退屈してきただろう?』
<亀井>はそう言って矢口の背後の加護に目を向ける。
加護にこんな異常な事態が飲み込めるわけは全くなかった。だが本能で危険を察知しているのか、矢口の腕をつかむ手が震えていた。
『おいらから離れちゃだめだよ』
矢口は背後の加護にそう声をかける。

勝てる。
上坂はこちらの作戦を知らない。
上坂が近づいてきたところで、自分の持っているシールを貼り、そして外部とのネット接続を切ってしまえば、彼とは永久にさよならだ。
加護と、そして他のまだ残っているみんなは守れる。亀井はもう戻らないけれど・・・・・・いや、今は感傷的になっている場合じゃない。
矢口は加護をかばう様子を装いつつ、両手を自分の背後に回して、パンツの右側のうしろポケットに手を入れた。
そしてそこから消去シールを取り出す。

はずだった。
そこに消去シールがあるはずだった。
だが、ポケットの中の矢口の手はただ空を切るばかりだった。
矢口の全身から冷や汗が吹き出したす。
(そ・・・そんな・・・)
念のため、入れたはずの右側のポケットの逆、つまり左側のポケットにも手を突っ込む。
だが、そこにも何もなかった。
矢口の表情が瞬時に蒼白に変わる。
(おかしいよ・・・そんなはずは・・・・)
確かにポケットに入れておいたはずだった。

矢口の表情が、半ば泣いたようなものに変わるのを見て、<亀井>の表情がさらに崩れた。
『探し物はこれかな、矢口さん?』
そういってポケットから青色のシールの束を取り出す。
それはまさに矢口が持っていた消去シールだった。
『なっ!?』
矢口は驚愕の叫びを上げた。
『大事なものはしっかり持っておかないといけないねぇ。さっき、一緒に部屋の中を探っているときに、ちょいと失敬してみました。ははは』
『ぐっ・・・・・くそっ・・・・・・』
洗面所を調べていたあたりの頃だろう。あの時矢口は、亀井とぴったりくっつきながら部屋を調べていた。
そうか・・・・行動を・・・・読まれていたんだ。矢口は臍をかむ。
『しかしひどいな。君もこれをもってるんだったらこの前会った時にそう教えてくれてればよかったのに。どうりで僕が自分のシールをあげるっていったのに断ったはずだ』
『・・・・』矢口は何も答えない。いや、答える余裕がなかった。
『でも言っとくけど、俺のシールの方が高性能だぜ。君のシールと違って誰でもが使えるんだ。もっとも現実世界の人間なら誰でもって意味だがね。こっちの人間には使えない。あとなんといっても変身機能だな。だからこんなこともできる』
<亀井>はそう言って、別のポケットから銀色のシールを取り出した。
そしてその銀色のシールを、青色の、矢口のシールの束に貼る。すると、青色のシールの束が消えうせた。
『さて、ここで問題。この、今君のシールの束を消したシールを、君に貼り付けるとどうなるでしょう?』
『・・・・・ま・・・さか・・・』
矢口の頭の中で、シールの束に変身してしまい、身動きが出来なくなった自分の姿が浮かぶ。
それは、どんな拷問よりも恐ろしい行為に思え、矢口は身震いがした。
『残念でした。ははは。』<亀井>は矢口の恐怖の表情をみて笑う。
『そんなことはできないよ。このシールのコピー機能は人形専用だ。それにもし出来たとしても、そんなことをすれば俺は犯罪者だ。それはできない』
矢口はほっとする自分を感じていた。
『だが・・・・人形を消す分にはいくら消しても犯罪ではない』
そういってまた別のシールを取り出し、台座からはがして身構えた。
その視線は矢口を通り過ぎて、背後の加護に向かっている。
その瞳は狂気に満ちていた。


<亀井>は、矢口と加護の方に一歩足をすすめた。
それに呼応して、矢口と加護も一歩後ろへさがる。
するとまた<亀井>が一歩前に進む。
そしてまた矢口と加護も下がる。
(どうすればいい・・・・どうすれば・・・・)
矢口は混乱する頭の中で必死に考えた。どうすれば加護を守れる。どうすれば。
だが、何も思い浮かばない。
ただ矢口は後ろに下がるしかなかった。
そして何度目かの後ろへの一歩を踏み出したとき、矢口は加護にぶつかってそれ以上は下がれなくなった。
後ろを振り向くと、加護は背後の窓に背中を当て、これ以上は下がれないと涙目で矢口に訴えていた。
『チェックメイト』
<亀井>がいやらしい笑いを浮かべながらそう言う。

その時、矢口の脳裏に石川がエレベーターで抵抗したときの監視カメラの映像が思い浮かんだ。
一緒だ。あの時石川は、これ以上は下がれなくなった後、思い切って相手に体当たりをしたのだった。
おそらく自分の妹の姿をした上坂に対して。
石川にしては、無謀で、また勇気のあるその行為に対し驚嘆した矢口だったが、今にして思えば、相手が持っているのがただのシールで、また相手の外見が、本物ではないにしろ自分の妹という女性の姿だったのが石川にそのような行為を可能にさせたのだろう。
・・・・そうか、相手は亀井なんだ。華奢でそれほど力も強くない亀井だ。本気でかかればシールを奪えるかもしれない。
そしてあのシールは自分にも使えると上坂は言っていた。ならばあのシールを奪って、それを上坂に貼ってしまえば、上坂を消せる。それからネット接続を切ってしまえばこちらの作戦通りになる。

(よし!)
矢口は自らに気合を入れた。
そして矢口のその気配を察知したか、<亀井>が身構える。
だが、<亀井>がその警戒態勢を万全にする前に、矢口が前方へ跳んだ!
全力でダッシュすると、そのまま<亀井>に体当たりする。体の小さい矢口とはいえ、全速力でぶつかる勢いの力が勝り、<亀井>は後方へと突き飛ばされた。もんどりうって倒れながら、2回3回と横になった体が回転する。そしてその間に、銀色の消去シールが<亀井>の手から離れ、リビングの入り口のドアの前の方まで飛んで行った。
『しまった』
そう叫んで<亀井>は急いで立ち上がろうとする。
だが、同じく体当たりの衝撃で倒れていた矢口の方は、その時には既に立ち上がっていた。
そして矢口は、リビングの入り口のドアへとダッシュする。
相手はまだ立ち上がっていない。勝てる。

そして矢口は<亀井>よりも早く、シールを拾い上げた。
『取った』
そして振り向いてシールを掲げる。あとは、これを<亀井>に貼れば。


しかし、振り向いた瞬間の光景は、矢口が全く想像だにしないものだった。
<亀井>は落ちたシールになぞ目もくれていなかった。
起き上がった<亀井>は、そのまま加護のいる方向へと走っていた。
そしてその右手には、はじめから準備していたであろうナイフが握られていた。
加護へ向かいながら、その目だけが矢口の方向を向く。
<亀井>の目は矢口に笑いかけてこう言っていた。「作戦通り」・・・・・と。

はめられた・・・矢口は理解した。



その後の光景は矢口の目には全てがスローモーションで映っているかのようだった。
加護へと向かう<亀井>。
そしてただ呆然とそれを見る加護。
矢口にはもう何もできなかった。

一歩一歩加護との距離を詰める<亀井>。
右足が前に出る。
そして左足が前にでる。
そしてまた右足が前に出る。
やがて、<亀井>は加護のすぐ真横に到達する。
<亀井>はその右手をやや後方にふる。
その右手が角度にして斜め下45度くらいのところまで上がって止まる。
握られたナイフが軽くきらりと光る。
そしてナイフが再び下がり始める。最初はゆっくりと、だが、徐々に速度を増しながら。
<亀井>の体の横をすり抜けて、前方へと繰り出されていく。
そしてその切っ先は遂に目標の場所に到達する・・・・・・・。

不思議と、音がしなかった。
いや、それはただ単に矢口の聴覚が麻痺していただけなのかもしれない。
だが無声映画のスローモーションを見ているかのように、矢口には何の音も感じられなかった。
自らの悲痛な叫び声によって現実に引き戻されるまでは・・・。


『加護ーっ!!』
矢口は加護に駆け寄った。
無我夢中で駆け寄った。
その間に、<亀井>は自らその体を加護から離し、後方へと下がった。
自分の右手をみて恍惚の表情をうかべながら、よろよろと後ずさっていった。
さきほどまでその右手に握られていたものは今はその手の中にはなかった。

加護のところにたどり着いた矢口だが、どうすればいいのか全くわからなかった。
加護はしっかりとその足で立っていた。
そして自分の胸を見、そこに突き立てられている金属製の物質を、意味がわからないという風に見つめていた。
加護が着ていた青いシャツのその一部分だけが赤く染まり、そしてその赤は徐々にその面積を広げつつあった。
加護は視線を上げた。そこに矢口がいた。矢口が目に涙をいっぱいためて自分を見ている。
『矢口さん・・・・』
そのことばを発した瞬間、加護の体が矢口の方へと崩れた。
矢口は必死に加護の体を支えると、そのまま加護を自分のひざに乗せて横にしてやる。
『加護っ!しっかり!!』
矢口は加護にそう語りかける。もう後ろにいる上坂のことなど意識になかった。
ただ加護のことだけを考えていた。
『がんばれっ!すぐお医者さん呼んであげるから!!』
そういって、電話をとるために加護の体を一旦床におこうとした。
だがその瞬間、加護は矢口の手をぎゅっと強く握り返してきた。
『加護?』
『や・・ぐち・・・さん』
そう自分の名を呼ぶ加護の目は、矢口に行かないでと訴えているようだった。
矢口の涙が加護のほっぺたの上にぽつりぽつりと落ちて行った。
それに呼応するかのように、加護の目にも涙が浮かんできた。
『やぐ・・・ち・・・さん』
『大丈夫だよ。大丈夫だからっ、ねっ、加護』
矢口は自分の名前を呼び続ける加護にそう答える。
加護は別に何かを伝えたくて矢口の名前を呼んでいるわけではなかった。
ただ、今自分のすぐ近くにいる、自分が大好きな人間の名前を呼んでいるだけだった。
矢口はそんな加護の手をしっかりと握る。
『や・・・・ぐ・・ち・・・・さ』
『うん。ここにいるよ。加護、おいらここにいるよ』
『や・・・ぐ・・・』
そして・・・加護は目を閉じた。
矢口の手を握っていた小さな手から力が消えた。


『か・・・ご・・・?』
もう返事はない。
『ねぇ・・・加護ちゃん・・・・』
矢口はそれでも加護に語りかける。返事がないのはわかっていた。だけど語りかけずにはいられなかった。
『加護ちゃん・・・ねぇ・・・加護ちゃんってばぁ・・・』
矢口の脳裏に、「やぐちさーん」と笑顔で自分を呼ぶ加護の幼い表情が浮かんだ。
ミニモニを一緒にやっていたころ、加護はよくそうやって嬉しそうに矢口の名を呼んだものだった。
そして返事をした矢口に対し「呼んでみただけ〜」と言ってよくからかっていたのも加護だった。
そんなふうに彼女が自分の名を呼ぶことはもうない。彼女の笑顔ももう・・・・。
もはや矢口の目は次から次に出てくる涙のせいでほとんど見えていなかった。
『やだよ・・・加護ちゃん』
『お願い・・・・』
『おいてかないで・・・・』
そして矢口は加護の頭を抱きかかえて泣きじゃくった。

上坂の姿はいつの間にかそこにはなく、ただ体を震わせて泣く矢口と、もう動くことのない少女の姿がそこにはあるだけだった。



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