「M」
第17章 side-B
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どこかで見た事のある景色だなと、私はぼんやりと考えていた。
どこで見たんだろう。
いつ見たんだろう。
確かに記憶のどこかに眠っている景色。
そうだ、小さいころ私が住んでいた町の風景だ。
父と母が事故で亡くなるまで家族3人ですんでいた静岡の町。
小さな女の子がいる。
セピア色に塗られた川と、橋と、そして堤防。
その堤防のそばで一人釣り糸をたれている。
小さいころの私だ。
別に釣りが好きだったわけじゃない。お父さんが釣りが好きだったんだ。
だからよく勝手に一人で釣りにいっては、お父さんが追っかけてくるのを待っていた。
私が一人で釣りに行くと、どんなに疲れていても必ず、お父さんは釣りの道具をもって後からやってきてくれた。
だからお父さんに甘えたいとき、私はいつもこの堤防のところへ釣り道具をもって一人できていたんだ。
ドボンッ!!
小さな私のそばで川が大きな波しぶきを立てた。
大きな石が、川に投げ入れられたみたいだ。
振り返ると、そこにはいじわるそうな表情で小さな私を見る男の子達が3人立っていた。
同じ学校の同級生の子たちだ。
『女のくせに釣りなんかしてんじゃね〜よ』
『そうだよ。生意気だ』
『こんなドブ川の魚なんか釣ってど〜すんだよ』
そして男の子の一人がまた石を、彼女の近くの水面に投げ入れる。
ドボンッ!!
あ〜あ、お魚逃げちゃうな。
『そうだ、多分あいつ釣った魚を食べるんだぜ。そんでもっとでかくなるんだ』
『え〜今よりでっかくなんのかよ〜こえ〜俺達なんか踏み潰されるぜ〜』
『あいつのお父ちゃんってたぶんゴジラだよ。ゴジラ。あいつも怪獣になるんだよ。ぎゃはは』
ただ座ってみたいた小さな私は、やがて膝を立てて、立ちあがろうとする。
だが、丁度その時、男の子たちの背後から大人の男性の声がした。
『おい。お前達何をやってるんだ』
男の子達が振り返ると、そこには釣りの道具を持った、大柄な男性が立っていた。
私の、お父さんだ。
『やべ』
そう言うと、男の子達は一目散に逃げて行った
お父さんは堤防を降りて、小さな私の横に座った。
『ゴジラとはひどいな』
とお父さんがポツリと言った。
小さな私は何も答えずに、そのまま釣り糸をたれていた。
『釣れたか?』
とお父さんが尋ねる。
小さな私は首を横にふる。
『そうか』
そしてお父さんも釣りを始めた。
大きな背中と小さな背中が、特に会話をすることもなくずっとそこに並んでいた。
そして私の意識は再びまどろみの中に落ちていった・・・・・。
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3時間前、私は現実の世界に戻ってきていた。
今回私は初めて、通常のリンクアウト方法、つまり自分の部屋のベッドを経由するのではなく、消去シールを使うことによる強制リンクアウトによってm世界から現実の世界に戻ってきた。
自分の消去シールは上坂によって消されていたが、上坂が囮として使ったシールが一枚あったからそれを使用したのだ。
それは、m世界内の梨華ちゃんの部屋をどうやって出ればいいかがわからなかったからというのが一つの理由。
玄関に下りれば、自分や亀井たちの護衛が何人かいるはずだった。彼らに今の状況をどう説明していいのがわからなかった。
ましてや、加護のことを説明したくなかったし、他の誰かに加護の冷たくなった姿を見せたくもなかった。
もう一つは、ただ、向こうの世界から消えてしまいたいという、半ば自暴自棄的な願望のためだった。
梨華ちゃん、紗耶香、加護、亀井・・・・大事な仲間を次々に失った。しかも加護は自分の目の前で・・・・あんな残酷な方法で・・・・。
何もかもが嫌になりかけていた。もうこんな悲しい世界にはいたくないと思った。自分が消えてしまいたかった。だから、目の前にあった自分に消去シールを使った。
だけど、今もその悲劇的な世界は自分の目の前にあった。
この大きな円筒形の機械の中に。
窓から差し込む月明かりに照らされたその表面はただ無機質に輝いていた。
暗く、そして私しかいない真夜中の広い研究室の中では、この機械がやたらと大きく、そして不気味に見えた。
私はこの機械を見ながら思った。
このシステムにリセットボタンがついていたらよかったのに。
これがゲームだったら、即リセットボタンを押して、セーブしてある場所からやり直せるのに。
上坂が、このシステムに入り込む前の、楽しかったあの時に。
だけど。
リセットボタンはこの機械にはない。そういう点で、やはりこの中の世界は、現実世界と一緒なのだ。
PCからの警告音が真夜中の研究室に響いた。
私がそちらに目をやると、コンソールに文字列が数行、順に表示されていくところだった。
誰かがm世界内にリンクインしつつあることを示すメッセージだった。
誰か・・・・そんなのは一人しかいない。
私は、m世界内の自分の部屋の監視カメラを見るアプリケーションを起動した。
そして1秒もかからずに起動したウィンドウの中に、私がこれまで何度も何度もテレビや鏡の中で見てきた姿を見た。
(あれは・・・)
私は思わず目を見張った。
そのウィンドウにうつる女性の姿は、私だった。
私?
あれは私なの?
違う・・・・上坂だ。
身長145cm足らずのその慣れ親しんだ姿がベッドから起き上がり、軽く自分の体を見回してチェックしている。
『その姿で・・・今度は誰を消そうって言うの・・・・』
頭に血がのぼるのが自分で感じられた。
彼は、あれだけのことをやって、まだ満足していないのか。
そして今度は私の姿で誰かを殺めようというのか。
どこまでやれば、気が済むのか。
私が・・・・私が何をしたというのだろう・・・・。
怒りと、悲しみと、悔しさと、そんな負の感情に気が狂いそうになる。
やがて、監視カメラの中の私の姿をしたものは、部屋のパソコンに向かい何かを打ち込み始めた。
だが30秒ほどですぐに打ち終ると、部屋を出て行った。そしてもう戻っては来なかった。
私はPC上に別のウィンドウを立ち上げた。mシステムのメインオペレーション画面だ。
そこに向かってコマンドを打つ。
『Terminate Network』
リターンキーを押す。すると、
『Input PassWord Level-2 > 』
とパスワードを聞いてきた。
レベル2のパスワード・・・・・私はこのレベル2のパスワードならば知っている。
覚えているパスワードを急いで打ち込む。
気が変わらないうちに、冷静になるまえに、一気に打ち込んでしまえと、私の中の誰かが叫んでいた。
そして、リターンキーに私の右手の中指が伸びる。
このキーを押してしまえば全ては終りだ。上坂はmシステムとの接続手段を失い、永遠にシステムの世界から追放される。
押してしまえばいいんだ。あんな狂人の精神がどのような異常をきたそうと知ったこっちゃないじゃないの。もとから狂っているのだから。
加護や、亀井や梨華ちゃんや紗耶香にあいつがした事を考えたら、これは正当化されてしかるべき行為だ・・・・・絶対に。
だが、そんな私の感情の叫びとはうらはらに、中指が震えていた。
手が・・・・指が・・・・動かなかった。
息が苦しい。
『押しちゃえよっ!!』
私は声をだして叫んだ。
だけど・・・・私の指は動こうとはしなかった。
『いくじなし・・・』
私はまた泣いていた。あと何度私は涙を流さなくてはならないのだろう。
今の私には、上坂を追いかけてリンクインする気力が残っていなかった。精魂尽き果てていた。
そして、それ以上に、また悲劇を目にするのが怖かった。
加護が自分の腕の中で徐々に冷たくなっていく感触がまだ私の中に残っていた。
もう、あんな思いには耐えられない。
机の上で両腕を組み、その腕の間に顔をうずめた。
しばらく、何も考えたくなかった。
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『西田君・・・・西田君・・・・』
遠くから声が聞こえる。
聞き覚えのある声だ。誰の声だったろう。私はまどろみの中で考える。
『西田君』
肩を軽く揺さぶられて、私はやっと目を覚ました。
『・・・・・・教授』
私はいつのまにか眠り込んでしまっていたことに気がついた。
机の上で腕を組んで、そこに顔をうずめて寝ていたのだ。夢を見ていた気がする。だけどどんな夢だったか思い出せなかった。
右腕がしびれていて動かない。ずっと頭をのせていたので血が通っていないらしい。
それでもなんとか体を起こすと、毛布が私の背中を滑って床に落ちた。
『あ・・・』
眠り込んでいる私を見て教授が掛けてくれたのだろうか。
私は毛布を拾って教授の方を見た。
『あの・・・・ありがとうございます』
『それはいい』
そっけないが、少し照れているようにも見えた。
そして教授は心配そうな表情で私に話しかけた。
『うまくは・・・行かなかったようだね』
私の表情を見れば一目瞭然だったのだろう。
『・・・はい』
『消去シールをあいつに貼ることができなった。ということか?』
『私の行動は・・・全部読まれていました。そして・・・大事な仲間を2人もまたうしなって・・・・』
『2人失った?私が調べた記録では1人しか消されていないのだが・・・・・』
『1人は・・・・・消されたんじゃなくて・・・・・・・上坂に・・・・・』
その後は言葉にならなかった。
『消されたんじゃない・・・・・・・まさか』
私は涙目で首を振ることで、教授の推測を肯定した。
『そうか・・・・』
教授も私もしばらくは声を出さず、ただ沈痛な表情でうつむいていた。
広い研究室の中、ただ私が鼻をすする音だけがしばらくは響いていた。
しばらくして、教授が再び私に話し始める。
『それで、どうする?西田君は今どうしたいのかな?』
『え?』私は返答に困った。
『再びリンクインして奴と戦うか、それとも、このまま実験を中止するかということだ』
『中止・・・・』
『あぁ。このままでは君の精神的負担が強すぎる。無理ならば止めていい。そして、システムを止めよう』
教授はきっぱりとそう言った。
『システムを止める?止めるっていうことは・・・』私は顔を上げて尋ねた。
『向こうの世界は消える。そこに生きている人間達もろとも』
『ダメです!!それだけは!!』私は思わず大きな声で言った。
教授は特に驚かずに言葉を続けた。
『ならば、また君はリンクインしなければならない。あの中に』
そういって隣の円筒形の機械に目をやる。
『え・・・』
私の中では理解できない理屈だった。
別に私がリンクインしなくても、システムの中のm世界を存続させておけばいいのではないか。
警察がこちらの世界の上坂を見つけて捕まえてくれるまでの間でいい。
私がリンクインしなければ、上坂はショーの観客を失い、私の仲間を消すのを止めるかもしれない。
だからそれまでおとなしくこちらの世界で待つという手もあるのではないかと私は思ったからだ。
『実は君に話していなかったことがある』
教授が私を見る。すこし申し訳無さそうな表情。こんな教授ははじめて見た。
『結論から言えば、あのシステムの中の世界は君がいなくては成り立たない世界なのだ』
『え?』
教授の言っている意味がよくわからなかった。
『君が一定時間以上リンクインしなければ衰退していく世界なのだよ。こちらの世界で1週間程度君がリンクインしなければ、向こうの世界はもはや意味をなさない世界となるだろう。そして2週間もすればすべてが消えうせる。そういう世界だ。だが残念ながら、その程度の時間では上坂を捕まえることができるとは思えない。だから、選択肢は2つしか無いのだ。リンクインするか、それとも、あの世界を諦めるかだ』
『私がいないと・・・成り立たない世界・・・・』
私はその言葉を反芻して意味を理解しようとした。だがやはりまだよくわからなかった。
そんな私を見て教授が説明を続ける。
『あの世界の事象の生成に、君の脳を使っているんだ。正確には君の脳の「夢を見る」機能だ』
『私の脳の知識を使っているだけじゃなかったんですか?』
私は実験前にそう聞いていた。
『うむ。それを君に黙っていたのは申し訳ないと思っている。だが、君がそれを知ることで、実験に影響がでることを懸念したのだ』
『それは別にいいですけど・・・・・それで?』
とりあえず先を聞きたいと思ったので、私はそう言って話の続きをうながした。
『あの世界で起こる様々な事象、変化、動き、それらを作るために君の脳の夢を見る機能を使った。君の脳のその部分による、さまざまな事象を組み合わせて作った意味のある時間の流れを参照しているんだ。といっても、君の脳が見る夢をベースに世界を作ったというわけではない。ただその脳のシステムを拝借していたと言ったほうがいいだろう』
教授はさらに続ける。
『だが、それも実験の初期段階だけのつもりだった。夢をみる機能をシステム内にコピーして、いずれはすべてそのコピーで代用できるようになるはずだった。君がいなくても成り立つ世界にすぐになるはずだった』
『だけど』私が言葉をつぐ。
教授はうなずいて続ける。
『そうはならなかった。m世界で起こる事象ははすべて自然淘汰をベースに構築している。より適したものが生き残り、適さないものは滅びる。それをシステム内で計算しているわけだ。だが、なぜかコピーが生成した事象はシステムが100%淘汰してしまうのだ。いや、淘汰というよりも免疫機能が働いてそれを殺してしまうといったほうがいいだろう。なぜなら、君以外の人間を使っても結果は同じだったからだ。生き残るのは、君の脳を経由して作られた事象だけだ』
『私以外の人間?』
『あぁ。実は私も一度リンクインしたことがあるのだよ。君がいないときにね。だが結果はそういうことだった。理由はわからん。そもそも人の脳の夢を見る機能については実際のところまだよくわかっていないのだ。それを安易にコピーしようとした私のミステイクだ』
教授が自分のミスを認めるなんてことは初めてだ。私はそれに驚くと共に、事態の深刻さを感じた。
教授がそのような態度をとるということは、おそらくそれは修復が不可能だということだろう。
『君がいないとこの世界は成り立たない。つまりはそういうことだ』
私がいないと成り立たない世界・・・・私がリンクインしないと、全てが滅んでしまう世界。
それでは私は、あの世界での神ではないか。それは私にとって嬉しい事実では決してなかった。私はそんなものになりたくはない。ただあの世界の中の一人として生きていたいだけだった。
だが、それ以上に気になることがあった。
『私の夢を見る機能を使っているということは・・・・・あの世界は私の都合のいい夢だっていうことですか・・・』
私は教授にそう尋ねた。
それが私の一番知りたいこと。そして一番そうであったら嫌なこと。
『それは違う』
だが教授はきっぱりと否定した。
『夢を見る機能は君の意思とは完全に独立している。ただ機能として勝手に拝借しているにすぎん。例えればコンピュータのサブチップとして使っているというようなものなのだ。あくまで機械的な計算用にね』
『でも教授はそれを私に隠してた』
私は食い下がった。
『うむ、実は私もついこの間まで君の意思がm世界の流れに関与しているかもしれないとは疑っていたのだ。如月さんははじめからそんなことはないと否定していたがね』
如月さんといえば、宗像教授にしては珍しく心から敬服している脳生理学の権威の方だ。私も何度がお会いしたことがある。
もう70がそこらのお歳で学界は引退されているのだが、それでもこのmシステムの理論的な側面でかなりの貢献をされたと聞いた。
『だが・・・・如月さんのいうとおりだった。私にはそれが今朝はっきりと分かったのだ』
『今朝?』
『うむ・・・・』
教授は何か言いにくいような表情をして、少し目をそらした。
そして円筒形の機械に目をやる。
『この中の世界は、現実の世界と変わらない世界なのだな。それは・・・・人間も同じだ。人形などではない』
教授のこの言葉に私は驚いた。
教授はm世界の物理的特性が現実世界と変わらないことには確固とした自信をもっていた。だがそこで生きる人間が、われわれ現実世界の人間と同じであるということは決して認めたことがなかった。私がいくら、彼らが感情を持ち、意思を持ち、そして命をもっていると説明しても、極めてよく出来た人形だという認識を変えることはなかったのに。
私は、そんな教授の変心のわけを尋ねようと声に出そうとしたが、それを教授の声がさえぎった。
『だが!』
力強い声だった。
『それでもやはり優先すべきはこちらの世界であり、そしてこちらの人間なのだ。君への負担が強すぎるなら、今のm世界を破棄することもやむを得まい。そして、また一から作り直せばよい』
『それは・・・・嫌です』
私はきっぱりと言った。
『私は・・・・私は逃げてたんです。現実の世界からシステムの世界の中に逃げていた。とても楽しい世界だったから。
自分を変えることができたから。こちらの世界では出来なかった仲間ができたから。
でも、今度はシステムの中の世界にいることが苦しくなったからといって、その世界を見捨ててまた現実の世界に逃げるだなんて、それじゃ私は一生ただの弱虫です。お願いです・・・もう少し・・・続けさせてください』
そういって私は教授に頭を下げた。涙が床にぽつりぽつりと落ちた。
自分がわがままを言っているのは分かっている。
これは実験であり、仕事でもあるのだ。私の世界などではない。私の気持ちがどうこうとか、逃げるだとか逃げないだとか、そんな個人的感情を持ち込むべきところではないのだ。
だけど、それが私の正直な気持ちだった。
『たとえ上坂がいてもか?』
『はい・・・・・私はさっき、警察が彼を捕まえるまで待っていればいいかとも思ってました。そして彼がいなくなってからm世界に戻ればいいと。でも・・・・それも逃げてるんですよね。だって、その間にまた何人の人が、そして仲間がひどい目に会うかわからないのに。なのに、私は現実から目をそむけて、一人安全なところで待っていようだなんて一瞬でもそう思った。自分が・・・恥ずかしいです』
『そうか・・・分かった』
教授はそう答えてくれた。
私は頭を上げて教授をみた。
優しさと、いたわりとが入り混じったような目で私を見ていた。こんな風に心を開いて接してくれたのは初めてだ。
どうしてだろう?
それはむしろ私の問題だったのかもしれないなと思った。
なぜなら、私の方からも教授に心を開いたことがなかったからだ。
私はいつも、いつこの実験が打ち切られるのかとビクビクしていた。
教授の顔色を伺いながらいつもm世界の中のことを報告していた。
私がどんなことをあちらの世界で感じ、どれほどあちらの世界の仲間が好きで、どんなに一生懸命生きているかを説明したことなんてなかった。
『ありがとうございます』
私は涙でいっぱいの目で教授を見ながら、心からそう伝えた。
『なに・・・実験を継続するというだけのことだ』
教授はそう答えて目をそらした。
研究室の時計を見た。今は午前8時30分。
リンクアウトしてきたのが午前4時半ごろだったから4時間、m世界の時間で15、6時間は経っているだろう
家族や仲間みんなが心配しているに違いない。早くリンクインしよう。そして今度こそは上坂を追い出すんだ。
『じゃぁ教授、早速行って来ます』
私はそういって腰を上げ、カプセルへと向かおうとした。
『その前に』
教授が制止した。
『はい?』
『もう一つ・・・君に話しておかなくてはならないことがある・・・・』教授が沈痛な表情でそう言った。
『わかりました』
私は再び腰を下ろした。
『落ち着いて聞いてくれ・・・・君にとっては辛い話だ』
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