初日-2003.7.12
 

 今回は、<序>などといった前置きなく、さっさと本文に入ってしまう。

 例によって車での深夜の出発。
 目指す東北まで、地図でざっと見るだけでも500km強。向こうに朝到着したいと考えるなら、どうしてもこの時間の出発にしなければならない計算になる。
 東京へ入り、首都高速から東北自動車道へすぐ乗ってしまえば楽なのかもしれないが、考えるところがあって国道4号線を北上する。
 千住から埼玉県へ。なんとか東京までは持ちこたえていてくれた天気も、埼玉 へ入ったとたん、ポツポツと雨が落ちてきてしまう。
 ヤレヤレ。
 この先、しばらく何の風景の変化といった楽しみもない深夜の移動についてはほとんど書くことがないので、その間、この旅行へ出るきっかけについて書いておこう(結局前置きを省いた意味なし)。
 今回の旅行は珍しく前もって予定が明確である。ずばり『金田一温泉オフ』合流である。
 極力『参加』としたがらないのは、当のオフは前日から『金田一温泉』で催されており、私が合流できるのは二日目の『鶯宿温泉』からとなってしまうので、『金田一温泉オフ参加』と語るには若干の抵抗があるからに他ならない。だってそうでしょ。残念なことに私は『金田一温泉』には行かないんだもん。
 出発直前まで、その日の仕事の様子次第では行くこともどうしようかと考えていたのだが、幸い、この日ばかりは、そこそこの時間で仕事も終えることもでき(実際、この前日までの数日間は、かなり仕事が厳しかったのである…)、すでに盛り上がっているであろうオフ組へ電話で合流申込みを伝えたのである。新幹線、もしくは飛行機で向かうという選択肢も考えないわけでもなかったが、予定されているオフ行程を考えると、合流するのは宿泊予定地の『鶯宿温泉』が一番無難であろうと考え、『金田一温泉組』が到着するであろう夕方までは時間もあるわけだから、その時間を有意義に使うため、車での移動を選んだのは言うまでも無いことである。
 余談になるが、車での東北方面旅行(福島県より北)に関しては、過去二度経験があり、その二度とも、ちょっとしたトラブルがあり、苦い思い出があった。今回の旅行を無事満喫して、このジンクスにすらなりつつある過去の忌わしい思い出を払拭できたらいいなとの思いも胸中に秘めていたのである。
 経験されたことのある方ならよくわかっておられることだろうが、深夜の幹線道路は大型貨物トラック、貨物トレーラーなどがやたらと多い。特に長距離荷物搬送トラックなどは、我が者顔で走っている車もある。これが高速ならさっさと追い抜いてしまうところだが、なかなか思うようにはいかない。さらに、好天であればこれほどまでに鬱陶しいとは感じなかったのかもしれないが、そぼふる雨が少しずつ水たまりをつくるようになり、対向車のタイヤが跳ね上げる水しぶきや、前方を走る車の巻き起こす霧上の水しぶきが視界を悪くする度にストレスが積み重ねられていく。
 それでも埼玉を走り抜け、栃木県も宇都宮を過ぎると空が白み始め、夜明けの訪れを感じさせるようになった。
 さすがに、ちょっと疲れたので、国道4号と東北自動車道がようやく並走するようになる矢板I.Cから東北自動車道に乗り、矢板北P.Aで一休み。以後、しばらく東北自動車道を北上することにする。
 福島県をトボトボと高速道路使用で走り抜け、宮城県へ。雨はほとんど感じない程度。
 この時点での選択枝は二つ。仙台をうろつくか、もう少し先へ進んで目的地へ向かうか。
 ま、いいや。時間はあるんだし、それよりも何よりも、この先待ち受ける名立たる横溝ファンたちとの合流の為、何か仙台の古書店で、興味深いものでも手に入るようなことでもあれば土産話しくらいにはなるかな?と考え、仙台に立ち寄る。

 しかし、やはりまだ朝早すぎることもあり、仙台市内もまだ閑散としている。もちろん古書店など開いているわけもない。仕方ないので、仙台と言えば、やはり青葉城?…というわけで、伊達正宗公の像でも見てこようと仙台城趾へ。
 仙台城趾は現在城壁の修復作業中ということもあり、工事関係の車両や、シート、保護壁などがあちらこちらと目につき、いにしえの風情に浸ってみようかという赴きにはちょっと残念。
 珍しくも神妙に神社でこの旅の無事を祈り、駐車場で仙台市内の古書店の情報を確認して市内へ改めて移動。
…でもねェ、やっぱりいくら神社をお参りしたからって、店の開店時間を早めるまでの御利益はなかったみたいで、車を駐車場へ預け、時間待ちをしながら町中をちょっと散策。
 ようやく店を開けてくれた(店にしてみたらこれが普通なんだろうけど)古書店を見てまわるが、残念ながら目にとまる目星しいものは無し。
 ま、そんなもんでしょ。 …そうそう美味しい話は転がってないぞ…と。
 落胆こそしなかったものの、さすがに時間が気にかかってくるようになってしまい、残念ながら収穫ないまま仙台市を後にする。
 県道22号というのを北上すると東北自動車道泉I.Cに出る。この頃になると街も活発に人の出入りが多くなってきたので、早々に高速へ乗って更に北上。目指すは岩手県平泉にある『夢館 奥州藤原歴史物語』という観光蝋人形館である。
 岩手県へ到着。ここまで来るとすっかり天気も良くなり、どうやら雨の心配もなさそうどころか暑いくらいである。
 平泉といえば、遥か大昔、学生時代に歴史の時間に習ったような憶えもあるが、そんな記憶も忘却の彼方。この蝋人形館のことと、横溝正史の作品に登場する『蝋人形』のことに思いを馳せるといったことをしていなければ、ここを訪れてみようという気になったかさえ疑問である。
 観光客でにぎわう金色堂をしり目に、蝋人形館だけを立ち寄りの目的地としているような観光客はおそらく私くらいのものだろう。
 『夢館 奥州藤原歴史物語』
 いやぁ、なかなか面白かったっす。
 普通の蝋人形館だと、有名人・著名人のそっくりな人形を並べて展示しているだけというものが多いなか、ここは、歴史上の話しの場面 を蝋人形に再現させていて、その出来もなかなかリアルでよろしい。難を言えば、生じっかリアルなだけに何体か、おや、ちょっとデッサン狂ってないか?と思わせるようなポーズの蝋人形が逆に目についてしまったということくらいか。
 ガラスのつい立てに阻まれることなく、その肌の質感を楽しめるのは大変喜ばしい蝋人形館でした。
 お土産販売のコーナーで、手作りの『ずんだ饅頭』を試食させてもらい、これがまた大変美味だったので、購入。ここまでにしておけばかなりの好印象のままだったのだろうが、食堂で遅めの朝食兼昼食でもと思ったところ、団体客の対応に大わらわで、フリの一人だけの客への対応はややぶっきらぼう。仕方ないっちゃ仕方ないのだろうが、やっぱり残念ではあった。注文したとろろそばもね。
 館を出て、駐車場からオフ組へ連絡を入れてみる。
 ……………。
 つながらない。なんだ?そんなに山の中にいるのだろうか?それともどこかの洞窟の奥深く、地底探検の最中なのだろうか? ま、夕方になれば宿泊予定地もわかっていることだし、連絡とれるだろう。
 平泉を出て、盛岡をめざす。
 時間の余裕があるようなら盛岡の古書店でも見て廻ろうかと思っていたのだが、途中、道路標識に「幽玄洞」という案内表示を発見。『洞』というくらいなら洞窟なのかな?程度の認識しかなかったものの、面白そうだったので、道路標識に導かれるまま進路を変更。
 ところがである。突然道路標識から「幽玄洞」を示す文字がなくなってしまい、通 り過ぎてしまったのだろうかと地図を見たりもしたのだが、手持ちの地図はそれ程詳しいものではなかったので「幽玄洞」の文字すら載っていない。仕方なく、町にでも出ればわかるかなと辺り一面 田圃の光景の中をそのまま走り続ける。気が付くと一関手前まで戻ってきてしまい、目に付いた玩具屋さんで道を訊ねる。この玩具屋さんが親切な人のうえ、私の車の川崎ナンバーを目にすると、御自分も以前川崎に務めていたことがあるんだよと、懐かしそうにお話してくれ、「幽玄洞」への道を地図まで書いて教えてくれた。自分の車で地方を走っていると、ナンバープレートに気付き、不思議と「以前川崎にいた」という人と出会うことがある。 それ以上に「こんな遠いところまで…」と驚かれることも少なくはないのだが。
 ともあれ、教えていただいた道を「幽玄洞」へ。
 到着してみると、確かに観光用洞窟であった。
 …しかし…。
 駐車場へ車を停め、ふと気が付くと、なんでわざわざ東北まで来て、洞窟なんか見にきてるんだろうと、可笑しさがこみ上げてきた。これまでの普通の旅行気分なら絶対に来てないな。…それもこれも、オフ組が今頃洞窟見学してるんだろうという思いに突き動かされての衝動なんだろうけど…。ま、いいや。しばし、ニヤニヤ笑いを残したまま地底探検。
 それほどいくつも洞窟探検をしたことはないので、こんなモノと言われてしまえば、そうなの?と納得せざるを得ないが、期待していたほど神秘的な光景はお目にかかれなかった。横溝作品に登場するような洞窟というような印象とはちょっと違うかな?
 洞窟の中は涼しかったのだが、出て来たとたんの暑さにはちょっと霹靂とした。車のエアコンを全開にして、車に乗り込んでも平気なくらいに車内の温度が落ち着くのを待つ間にオフ組へ連絡を入れてみるが、まだつながらない。…おいおい、そんなに地下深くまで潜っているのかい?まさか観光用の通路を外れて、財宝探しとかしてるんじゃないだろうな…。見つけた財宝のおこぼれには与れるのだろうか?…思う方は勝手なものである。
 幽玄洞を後にし、改めて盛岡へ。
 市内の古書店巡りを考えないでもなかったが、翌日オフの参加者一同で廻る予定になっているので、ここでは先走ることなく、取り敢えず今夜の宿の確保を先にしておいた方がいいだろうと、盛岡を横切り、鶯宿温泉へ向かう。
 鶯宿温泉へ入ると、すぐにオフ組が宿泊するはずの宿が目についたので、もう到着しているのだろうか?と、駐車場へ乗り付けてみるとレンタカーのワンボックスワゴンが一台停まっている。これかな?と思い、電話をかけてみる。今度は無事つながったが、話を聞いてみると、まだ盛岡駅へ向かっている途中らしい。もう一人の合流予定者とも落ち合えていないとか…。おやおや…。一体何があったの?
 ともあれ、人の心配もそうだが、それにもまして自分の寝床は確保しなければならないので、それだけ伝えると温泉郷の中へ。
 『鶯宿温泉』という名前は聞いたことあったのだが、どういった温泉場なのかあまり情報がなかったので、温泉観光協会の案内所を探して、案内地図などをもらう。飛び込みで、一人の客でも宿泊させてくれる宿を確認してみると、幸いにも呆気無いほど問題なく宿の確保はできた。
 宿へチェックインを済ませ、ホテルの下駄をお借りしてカランコロンと音を響かせて一人周囲を散策してみる。これが、結構好みの温泉場である。あまり観光観光しておらず、厳しい言い方をしてしまえば、やや閑散とした寂れ具合もある意味浮ついていない分、落ち着いて川のせせらぎを満喫するにはもってこいかもしれない。大きなホテルが温泉街の中に川を挟んで二つ。それと温泉郷の入り口、『KENJI WORLD』という観光施設のすぐ横に一つ、この三つの大資本ホテルが観光客を取り込んだまま、客は温泉街を散策してみようなどというつもりでホテルから出て来ることもないから、残念なことにホテル以外の温泉街はあまり盛り上がりがみられない。…これは結構地方の温泉地では良く見られる傾向だ。私の宿泊させていただいたホテル(!)も、私以外にあと一組だけしか宿泊していなかったようだ。週末だというのに…。
 ホテルに戻ると食事前に風呂を満喫。ほとんど『亀の湯』状態で、ゆったりとくつろぐ。へんくつな老人でもサービスでつけて欲しいくらいだと、湯の中でわがままな妄想に肩までどっぷり浸かる。
 温泉からあがると、どうやらオフ組も宿に到着したらしく電話に着信記録が残されていた。あわてて電話を入れると、夕食後螢を見に行くらしい。合流する旨伝え、夕食を取ってから一行の宿の駐車場まで行き、ようやく合流を果たした。

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