6:戦いが終わり、突きつけられる非常な現実(5/23)

「ああ、違ったか…」
 ため息混じりの悲鳴がコロシアム内にこだまする。そして、追い打ちをかけるようにナレーションが現実を突きつけた。
「正解は、9問。佐々木さんはここで退場となります。」
 ゴンドラが下まで降り、直後に目の前のゲートが閉められた。もう、スタジオには戻れない。負けが確定したのだ。
 スタッフがベルトを外す。動きたくない気持ちはあるのだが、もう帰らなければならない。カメラに追われつつ、スタジオの外へと足は動いていった。
 途中、カメラの前で何を話していたか、はっきりとは覚えていない。ただ、最後の問題を間違えて解釈していたことには気づいていたので、そのことを悔やんではいたと思う。
(ちなみにその12問目、正しくは「?÷23であまりが1」なので、答えは1。数学的に厳密に言えば−∞なのだが、番組としてはコレが正解で問題ないだろう。っていうか、あのゴンドラでそう答えるヤツがいたらイヤだ。)


 ピンマイクを返し、別棟である控室(最初に筆記通過者が通された場所)へと戻る。既に敗者となられた4人が勝負の行方をずっと見ていたようで、「お疲れさま」「惜しい!」と声をかけてくれた。その瞬間、それまでの緊張が全て解け、へろへろと座り込みそうになった。
 スタッフの方から賞金受け渡しの説明を受ける。即金ではなく、口座に振り込まれるようだ。ここでも「いけそうでしたけどねぇ」と言われた。でも結構、オイシく映っていたようでもあったから、自分なりには満足していた。
 残していた弁当とパンを食べつつ、残りの方々の勝負を拝見する。4位の今尾さん、おそらくクイズ番組史上だれも為し得ていないであろう「パーフェクト三冠」を期待した(過去にミリオネア、アタック25で達成)が、9問止まり。控室に戻ってきた彼女も、結構悔しそうだった。
 残るベスト3。誰かに11問以上を達成して欲しいと思っていたが、片岡君、宮坂さん、そして石貫さんといずれも10問。初代チャンピオンは4人となった。今尾さんと私は「だれか11問行ってくれないと悔いが残る」と言っていたのだが、この結果に少々がっかり。諦めのつかない負けとなってしまった。


 弁当とパンを食べきった。自分でも驚くほどに早く。やはり緊張していたんだなぁ・・・と思ったところで、スタッフの方から「この部屋で勝者の方への説明がありますので、申し訳ありませんがお帰り下さい」という旨のお達しが。勝者の方と挨拶できないままになったが、敗者の6人はここで帰ることとなった(今尾さんだけは観覧中のお母さん待ち)。
 雨の中、東陽町の駅へと向かう。道中は今日の感想戦で盛り上がった。その他、もっと驚いた事実が判明。東大生の中村君が高校時代にアタック25に出場しており、そのときの相手に僕がよく知っているやつがいたということ(もっと面白いことも聞けたが、さすがにココでは控えておく)
 駅が見えた。もう現実に戻らねばならないと思うととても寂しい。しかし今日の経験はとても貴重だったし、これからの話の種にもなる。そう思うと本当に幸せだった。東西線に乗り、最終的には一人になる。せつなくもあり、でも嬉しくもあり。思いを交錯させながら改札を抜け、家路を急いだ。


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