1:まずはエントリーから。オーディションの静かなる戦い(4/30)

 厄年、さらに天中殺でもあった一年を無事乗り切り、仕事もクイズも少しずつ運が向いてきたな、と思っていた3月半ば、普段お世話になっているチャットで驚くような一報が入った。
「タイムショック21が個人戦になる!」
 さすがに、これは色めきだたざるを得なかった。以前から出たいとは思っていたものの、5人1組の団体戦のためメンバーを集めることは決して楽ではない(クイズ関係の人間と組もうとは思っていなかったし、それ以外だとテレビに出たがらない人が多い)。一応何とかしてエントリーを出したばかりだったが、この一報を聞いてすぐさま、番組ホームページからエントリーを出した。
 しばらくして、スタッフから電話が来た。月末のオーディションへの招待だ。希望の日時を伝え、詳細の書かれたFAXを受け取る。そして、その中にはやたら気になる内容がいくつかあった。以下にざっと列挙してみよう。

・オーディションは10分100問の筆記、タイムショック問題、面接の三段構成。
・面接前でも成績が悪いとそこで帰らされる。
・毎回の番組には50人が参加。収録は最終予選から始まり、上位10人までがタイムショックに挑戦できる。

 一つ目、やはり気になるのがクイズのボーダーライン。この段階では全く判明しなかったので、何点取ればよいのかさっぱりわからない。
 二つ目、どうやら最終予選まで進めるのは難しくはなさそうだが、その先は狭き門。キツイ面子がそろうと大変なことになる(何をやらされるかはまだ不明)。


 さて、3月某日、いよいよオーディションの日となった。会場となる神谷町の放送センター、ロビーには既に方々で見たようなクイズ屋どもがわんさかと…中にはかつて「クイズ王」ものの番組で活躍された方や、「クイズ王」と呼ばれる方(まあ、大磯ロングビーチにはクイズ王が1万人いるらしいが)までそろいもそろった濃い面子。
「…帰っていいですか?(泣)」
 と泣きも入りかけたが、所詮は自分もその一人。それに「出たい」という強い想いが先行している以上はそんな泣き言など言えない。気を取り直して、オーディションへと臨むことになる。
 いよいよ開始。まずは10分100問の筆記試験から。普通の一問一答問題で1問6秒というのはかなり厳しいペースだが、問題と解答欄が一緒なのでスムーズに解けるというのが有りがたい。また、スタッフから「番組の問題に準じている」という説明も。そらそうだ。2行にもわたるような問題を出されたらテーブルひっぺがえしたくなるって。


対策法
*記入はボールペンが理想的。シャープでもいいが、芯を十分に補充しておくこと。また、一度間違えた答えを書いても二重線で消して書き直すなどして、消しゴムは一切使わないこと。時間の大幅な無駄。
腕時計は必携。問題用紙は全4枚(だったと思う)なので、1枚毎に時計を見ながらペースを調整していくと良い。
*スピードに自信が無いという人は、すぐに答えが出ない&わからない問題は完全に捨てる。一応ヤマ勘で答えを埋めること。そうでない人は、考えたら分かりそうな問題は一旦飛ばして後で残り時間を利用して解答。時間との勝負、取れないもののために取れるものを落とすのは避けたい。
*問題は既収録、未放送の問題から。だから難易度は全然高くない(もともとこの番組で難しい問題はそう出ないが)


 筆記の形式を知った段階から、一つ目の対策法は既に立てていた。ともあれ、その甲斐もあってか成績は悪くなさそう(80程度と踏んでいた)。採点後の発表、無事に名前が呼ばれてまずは一安心。この段階で30人近くいた参加者も20人ほどになった。ボーダーこそ不明だが、絶対評価ではあるらしい。
 続いてタイムショック式予選。同様に未放送の問題がMDによって出題される(問題を読むのは当然矢島さん)。順次別室へと解答者が呼ばれていき、通過すればそのまま面接へと進めるが、失敗するとそこでお帰り。しかも通過者はさらに別室へと通されるため、人数が減っていく様はいろいろな意味で恐い。
 いよいよ私の出番。緊張を紛らわす意味を込めて、「失礼します」とかなりはっきりした声で入室。ここで「7問以上で通過」とボーダーが知らされる。番組さながらに問題番号を選択した後、ディレクターさんの「よろしいですか?」の一言に、「ちょっと待って下さい」と言って深呼吸。リラックスできそうにもないが、このままなら余計に緊張しそう。よし、「お願いします!」。
 MDから「スタート!」と番組同様のシャウトがながれ、初の「魔の一分」に挑む。


対策法
現在ではここで脱落することがないらしいので緊張する必要はないが、ここで高い点を取れた方がよいのは事実。
*実戦同様とはいえカメラがない上にセットでもない。ここでいっぱいいっぱいだと思いやられる。
*正誤判定が一切無いが、今答えた解答が合っているか否か、決して気にしてはならない。その場の一問一問に集中すべし。


「8問正解です、おめでとうございます」
 終了後にそう知らされ、やっと緊張が解けた。ややへたりこみつつも「よかったぁ〜 ありがとうございます!」と答える私(この問題は後に放送された高校生大会でも放送されたが、その時の解答者は10問正解。負けている、と思うとちとブルー)。そのまま別室へと行き、他の通過者の方々とともにプロフィール用紙への記入とポラ撮影を行う。
 提出した順番で面接開始。担当者は2人いて、1対1の面接を同時進行で行う。もちろん、この場ですぐに結果が出るものではない。終わった人は即帰されるので、部屋の人数がだんだん減っていく。先ほどとは違えど、また異様な雰囲気。どうやら面接には時間をかけるようで、一人当たり10分はかかっている様子。
 そしていよいよ私の名前が呼ばれる。担当のディレクターさんとプロフィールについていろいろトークを繰り広げることとなる。
 最初に「フリーライター」という私の肩書きに突っ込んできた。よし、狙い通り。パズルやギャンブルがメインの今の仕事を説明する。そしてその直後、プロフィールに何故かあった「月収」の欄へと話が及ぶ。ここでついに私の本領が発揮されるときが来た。
 この仕事の収入というのは実に不安定なもので上下動がかなり激しい。その旨を説明した後、ふと浮かんだことがあった。半月ほど前に行って来た確定申告。
「この前、確定申告に行くために初めて年収を計算したんですよ。そしたら自分でも驚きましたよ、104万ですよ!?
 この瞬間、相手のディレクターさんが椅子をひっくりかえさんばかりに爆笑した。よし、掴んだ!
 結局その後は貧乏トークに終始。他にもいろいろ話したが相手の食いつきは抜群。素のトークで幾度となく笑いも取れたし、今までの中で最高の手応えを得ることができた。


対策法
*実はこの面接、あまり高いウェイトを占めていない。詳しくは後述するが、肩肘張らずに臨むことをオススメする。
*しかし、良い印象を残した方がいいのは当然。
*スタッフはいわゆる「クイズマニア」「クイズ屋」が多くなるのは承知している様子。かといって、クイズの話題しか面接で話すことがないのはどうかと思う。
*「強くて、クイズマニアとはまた違うキャラ」が一番の理想のようにも思われる。かといって無茶な受け狙いは引くだけのハズ。素のキャラで売れそうな部分を売り、それがゴールデンタイムの笑いで成立しそうならもうけものだ。


 同時に入った大学生の子よりも3分ほど長く話して面接を終了。一緒に受けた知り合いがファミレスで飯を食っているというので合流する。そこには今回のオーディションでご一緒だったあるクイズサークルの方々(私よりも遙かに先輩)もいたので、今日を振り返りつつ貴重な話を聞かせてもらう。あと「年収104万」話は、ここでもヒットした(同時にかなり心配されたが)。
 オーディションと呼ばれるものの中では最も充実したひとときを終えて帰宅。そして数日後、仕事をしながらTVを見ていたら自宅の電話が鳴った。
「佐々木康彦さんですか?テレビ朝日…」
 来たっ!ひととおりのやりとりを済ませた後、電話を切ってから大きなガッツポーズを取った。小学生から長年の夢だったクイズ番組の出場、しかも初となるレギュラー番組への出場を果たした瞬間だった。


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