続・エキスパートへの道

モデル・監修・綾小路鬚麻呂

目次

・カービング時代の働きかけ
・山まわりの大切さ
・山まわりの練習
・重心移動の練習
・ターン後半の引き込み
・引き込みの練習方法
      
カービング時代の力の働きかけ



左の写真はカービングターンの入り口(谷回り)のワンショットですが、この写真からは矢印のように、ターン内側に倒れ込むような印象を受けるかもしれません。
しかし、この滑りは、谷回りからカービングポジションで板全体をドリフトするようにスキッドさせ、そのずれていく板にしっかりと重心が付いていくように滑っているのです。

カービング時代になり、内足がクローズアップされたり、傾くと言うことに注目が集まるようになったせいか、自分からターン内側に棒が倒れ込むように傾いてしまい、内外両スキーにしっかりと圧を加えることがおろそかになっている滑りを多く目にします。



つまり、傾くという意識に捕らわれすぎたり、内足を意識しすぎてしまう結果、左図のようにターンの内側に倒れるような力のイメージで滑ってしまうケースです。
今のカービングスキーはこのような内倒であっても滑れてしまうのですが、ターン前半はこれでも良いのですが、ターン後半、フォールラインを過ぎてもこの力の意識が続いてしまうと、ターン後半体がターン内側に入りすぎ、次のターンへの運動が振り込みになってしまい、運動が繋がりません。
昔からの基本は「外足荷重」ですが、カービングの時代は「外足を生かすための内足であり、両スキーにしっかりとウエイトを乗せる荷重方法」がとても大切だと思います。


先ほどと同じ画像ですが、このときの足裏の力の働く方向は、白い矢印のように両スキーのソールの面にウエイトを乗せていく感覚です。白い矢印の方向にウエイトを乗せる意識で、ずれていく板に体を追従させていきます。
このときにとても大切なポイントがあります。それは「肩のライン」です。写真のように肩のラインを斜面と水平にするように起こすこと=くの字姿勢を取ることで、白い矢印方向にウエイトをしっかりと乗せていくことが可能になります。肩のラインが極端に内側に傾くと、どちらかというと外力に釣り合うだけでスキーの面に積極的に重心を乗せていく動きには繋がりにくくなります。
このとき、赤矢印のように腰をやや沈めることで、さらにスキーにエネルギーがたまり、体が弓になりになって、いわゆる「外腰のため」のポジションが出来上がります。


左の写真は一見カービングターンに見えますが、実際はターン外側にズラシながら滑っています。しかし、このようなポジションでのずらしカービングは、ゲレンデで一見しても通常のカービングターンにしか見えません。
よく見ると、シュプールがずれていることと、スピードの乗りが悪いことくらいですが、急斜面で効果のある滑り方です。ずらすことそのものよりも、ずらしに乗っていける重心の移動意識がポイントです。
一連のターン運動の流れの中で、ターン外側に重心が付いていく様子がイメージできるでしょうか?
2コマ目の内足大腿の立ち上がった高いポジションから、5コマ目の内足大腿が畳まれた低いポジションへ、両スキーにウエイトをしっかり乗せて弧を描いていき、マキシマムでは両スキーに対ししっかりと圧を加え、両スキーにエネルギーをためて行きます。

ターン前半の高いポジションから、ターンマキシマムでの低いポジションへ向かう舵取りを抜き出したのが左写真です。
立ち上がっている内足大腿が後半畳まれていることから、ポジションが低くなっていることが分かりますが、このときに大切なのが、肩のラインを水平に保つ意識をキープして両スキーに重心が付いていくようにイメージすることと、内足を自分から引き上げる意識ではなく、重心を低いポジションに下げていく結果、内足が畳まれるイメージの方が、内足のすねと外足のすねが同調しやすくなりますし、内すねが立ったX脚が防止できます。
両肩と両腕の水平を保ったままマキシマムに向かってポジションを下げていく。このとき、外足の突っ張りを保ったまま下げていくのではなく、あくまでも「両足に縮むように」下げていくのがとても大切なポイントです。特に外足が縮む方法に重心を下げていくことで、重心が次第に外スキー方向に近づき、その後の切り換えの時の重心と板の軌跡が交わるクロスオーバーが上手くいくようになります。



上のターンでの重心の移動方向の意識を図にしてみました。板の推進力を損なわないよう、推進力を得られる方向にウエイトをしっかり乗せていく感覚です。
両スキーにウエイトを乗せていくことで板に推進力が生まれ、マキシマムに向かって板がたわみ、そのたわみの解放で切り換えに向かって板が走るようになります。



このときの重心の移動のイメージが上の左の図ですが、重心の軌跡も弧を描く事が大切で、フォールライン以降に重心の軌跡と板の軌跡が近づいていきます。これは、高いポジションから低いポジションになるときに、両足を縮めて荷重していくときのイメージラインです。
右の写真のすねの傾きを見てもらいたいのですが、1コマ目で角付けの強い左外足のすねが、2コマ3コマめで両すね同時に返っていますが、これは上物の重心が切り換えで谷に素早く落ちていくからなのです。重心がいつまでもターン内側に残っていると、谷足、写真の左足が切り換えで素早く返ることはありません。切り換えで谷足が持ち上がる人は、重心が谷に落ちていかないことが多いので、谷回りから両スキーを雪面にへばりつかせるようなエッジングをするためには、重心を落としていくイメージも大切ですし、前のターンの後半のマキシマムで両スキーにしっかりとウエイトを乗せることが切り換えでの素早い重心移動に繋がるというのも、とても大切なポイントです。


この写真はオーソドックスな小回りですが、やはりマキシマムのときに両スキーにしっかりとウエイトを乗せる意識で滑っています。そのためのポイントとしては、ターン後半の内腕の意識です。
ターン後半、写真のように内腕がしっかりと前に出て、内腕・内腰などの内側の体の重みが両スキーにどっしりと乗ることが大切で、このときに内腕が後ろに引けてしまう人は後半両スキーにウエイトが乗っていません。この内腕の意識はロングターン・ショートターン共通です。逆に言うと、ターン後半の内腕の位置を見れば、後半板にウエイトが乗っているかいないかが判断できます。

また、小回りでも、板の軌跡に重心が付いていく意識がとても大切で、その意識がないと内傾角はあるけど板がすっぽ抜けた走りのない小回りになってしまいます。
左の小回りでは、重心移動をもっと積極的に左右に運び、もう少し肩のラインを水平に保てば、そこからさらに足を側方に伸ばすことが可能になり、より深回りに発展します。

ただし、ターン後半に腰を敢えて回すことで深回りにつなげたり、後半の抜けや流れを作ることもとても大切なことです。従って、ターン後半での内腕のブロックをしたりしなかったり、腰を回したり回さなかったりの調整は滑りのバリエーションを広げてくれるのですが、内腕のターン後半の位置を一つの基準として捕らえておくことで、ベースとなる滑りが確立されると考えています。
体が弓なりで、外腰にためのあるポジションは、左図を見れば分かるように、頭とブーツを結ぶ直線が同じでも、体を棒のようにして倒れたときより、体が弓なりになった方がエッジ角が大きいことが分かります。
つまり、外腰のためを作るように弓なりになると言うことは、弓なりの度合いに応じてエッジ角を変えられると言うことで、弓なりとは言わなくとも、上体を起こした「くの字姿勢」を取ることによって、エッジングの強弱を調整可能になります。ただし、繰り返しになりますが、単純に腰をターン内側に倒し込むようにくの字姿勢を作るのではなく、極論してしまうと、体軸で強い内傾角を取れる人が、そこから上体を起こすようにするイメージのくの字姿勢のほうが、両スキーを外側により強く押すことが可能になります。また、腰を沈めるときは、あくまでも両スキーに体重が乗る方向に沈めます。

ここまで見てきたように、カービングターンと言っても、自分からターン内側に傾いたり、内スキーばかりに頼るのではなく、高いポジションから低いポジションに滑り込んで両スキーに圧をためていく、そのときに肩のラインの水平を意識してしっかりエッジングする、ターン後半内半身が回らないようしっかりと内腕を前にキープする(=後半の外向)、このような意識が板の走りと切れを生み出します。
ただし、くの字姿勢を意識するあまり、外腰が後ろに引けて外股関節で折れ、ターン前半から外向姿勢を取ってしまうと、両スキーにウエイトが乗るエッジングにはつながらないので注意が必要です。切り換えで板の前誤差をスイッチしてしまうひとは要注意です。
また、内肩が下がり、ローテーションした滑り方では、外スキーを踏みに行くことは無理だけど、外力に釣り合うような柔らかいエッジングとなめらかな流れのあるターンになるので、谷回りは内肩下がりで流れを出し、フォールライン以降は肩のラインを斜面水平に保って強いエッジングをするという滑りもあります。
カービングターン=傾きと二本線のシュプール、といった考えではなく、両スキーで雪面を剥ぎ取る(ピーリング)するようなエッジングに強い推進力が生まれ、ズレ幅が限りなく少なくなった物がカービングターンという考えの方が、応用力があり、かつ、板に対して荷重するという最も基本の部分を押さえることが出来ると思います。
両スキー、踏めていますか?




山まわりの大切さ

前回の「カービング時代の力の働きかけ」の続きですが、今回は「山回りの大切さ」についてです。
左写真の2コマ目のエッジの立ち方に注目すると、谷回りの時点できちんと外スキーのインエッジ・内スキーのアウトエッジが雪面に食い込み、内足大腿がやや畳み込まれ、軽い傾きがあるけれど両スキーにしっかりとウエイトが乗ったポジションであることが分かります。
このような2コマ目のポジションを作ることを可能にするのが、1コマ目の力のかけ方なのです。


前回も述べましたが、カービング時代になり、「傾き」とか「内足」の言葉が一人歩きし、左の図のようにターン弧に対し、ターン前半で内側に倒れ込んでしまった後、その倒れ込んだ力のまま後半を迎えてしまう滑りがとても多くなってきました。と言うより、ゲレンデで目にする滑りのほとんどがそうなっていると言っても過言ではありません。
谷回りで重心をターン内側にヒョイっと落とし、その落としたポジションのまま板に乗っかるだけの舵取りで後半を迎えてしまう滑りです。
カービングスキーは足裏に側圧を感じやすいので、その側圧とバランスを取るだけの受動的な滑りです。極端な例では、ターン後半の山回りで、内足メインに乗ってしまい、外スキーが浮いてしまう方も目にします。

このような滑りの人のターン後半の「山回り」のポジションは、上の写真のように内肩が下がったり、内腕(写真で言うと左腕)が後ろに引けていたり、内腰(写真の左腰)が回っています。
つまり、板に対して働きかけず、重心がターン内側に倒れるように残ったまま後半を迎えると、そのような力の働きかけが上物である上半身のポジションとして現れると言うことです。


このようにターン後半の山回りで、重心がいつまでもターンインサイドに残ってしまうと、左図のように切り換えでの重心移動が上手く繋がりません。こうなると、切り換えで体を振り込んだり、シュテムのように板を開きだしたり、前後差を極端にスイッチしたりなど、切り換えの運動がおかしくなります。結果、その次の谷回りもおかしくなるのです。
そんなこと常識だし、分かっているよと思う方が大半なはずですが、本当に、本当にこうなっていませんか?
絶対に自分はこうはなっていないという自信と確信はありますか?
かなりな上級者であっても、カービングをしている自分のシルエットを確認してみてください。ターン後半いつまでも外足突っ張っていませんか? 内半身が後ろに引けていませんか? 後半の山肩が下がっていませんか?
繰り返しますが、本当に自分はそうなっていないという確信はあるでしょうか?
是非ご自分のターン後半、山回りの姿勢を再チェックしてみてください。

カービング時代になり、谷回りでターン内側に重心を落とし込み、特に内主導などという言葉のような切り換えをした場合に多いですが、その内側重心のままターン後半を迎えてしまうのではなく、左図のように、谷回りで重心を落とし込んでも、即座に外スキーや内スキーの面に向かって力を働きかける方向に重心を移動させる意識がとても大切なのです。
谷回りで重心を落とす。しかし、即座に外スキーが踏める方向に重心を移動させる。これが本当に大切で、このような重心の移動イメージと意識の結果、左図の山回り部分のように、回り込んでくる板に対し、重心が徐々にどっしりと乗せられる山回りポジションが出来上がるのです。


谷回りで重心をフォールライン方向に落とし、即座に板の方向に重心を戻す意識の舵取りの結果、左図のAのような板に対する力の働きかけの山回りポジションが出来上がります。
Aの山回りの時点では、上物である上体には谷方向に向かう力が出来ています。一方で、板は切れ上がって腰の下に飛び込んでくるようなアンダークロスの準備が出来ています。
ここでイメージしてみてください。二つ上の重心が山側に残った山回りでの上物はターン内側(山側)に倒れるようなポジションで外力と釣り合ってバランスを取っているだけですから、けっして次のターンには繋がりません。一方で左図のAような重心の力の働きかけがあるポジションでは、その後オートマチックにBのような谷回りに繋がることが良く分かります。つまり、山回りでの力の働きかける方向の結果、山回りのポジションが決まり、そのような山回りのポジションと重心の運び方が、次のターンの谷回りを良いものにすると言うことが言いたいのです。



さて、ここでもう一度最初の写真を見直してみましょう。
フォールラインに絡んだあたりの1コマ目では、写真の黒矢印のように、両スキーの面にしっかりと体の重さを伝えている雰囲気が伝わるでしょうか?
内腕の握り拳の重ささえも内外スキーに向かって乗せていくイメージで滑っています。このような重心を板の面に乗せていくイメージの舵取りの後半が上の図のAのような山回りに繋がり、そのような山回りがあるからこそ、2コマ目のような谷回りのポジションが出来上がるのです。


次のターンに繋がる二つ上の図中Aのような山回りのポジションでは、必ず外向傾姿勢が見られます。左の写真はその外向傾姿勢を表していますが、ハイスピードの実戦的なターンでは、もっとポジションが下がり、左腕がより高く、より前に出てきます。
この外向系の腰の向きは、今から重心が移動していく方向を示しています。写真からは、上物の重さが両スキーにしっかりと乗っている内面的な感覚をつかんで貰いたいです。このまま横滑りをすれば、どこまでも上物は板のズレに付いていきます。カービングであっても、オーソドックスなターンであっても、基本は板に対してウエイトを乗せ続ける重心移動なのです。重心を乗せていく方向を、板を横に押す方向なのか、限りなく板の進行方向に乗せていくのかの違いでしかありません。


今まで書いてきたことを、実際の滑りで見てみましょう。
左写真は、中斜面から緩斜面に入る直前のオーソドックスなやや弧の大きな小回りですが、1コマ目では赤矢印のように両スキーの面に向かってウエイトを乗せています。緑矢印が重心の向かう方向です。この山回りのポジションがとても大切なのです。
2コマ目では、エッジが緩んできていますが、直前の山回りで、上体は既に板の面に向かう方向に働きかけているので、エッジをゆるめる(=ターンから抜け出す)足下の動きと同時に、オートマチックに上体(重心)が谷に向かって落ちてゆきます。しかも、外向があるので、上半身が谷を向き、体にねじれがあるポジションになっているのが分かります。
そして、このような山回りがあるからこそ、その延長で3コマ目のような谷回りからリーディングエッジを捕らえたターン前半のポジションが作られるのです。
ターンは連続運動なので、山回りがあるからこそ次の谷回りがあるわけで、その山回りでの重心移動感覚とそのときのポジションの善し悪しが、切り換えの運動、ひいては次のターン入り口に繋がっていくと言うことです。
カービング時代になり、近年では内主導やら外主導がクローズアップされ、傾きや内足にも注目が集まりました。しかし、正確なターン始動のためには今回記述したように、その直前の山回りが上手くできていることが絶対的な必要条件なのに、実際は山回りがとてもおろそかになっているような気がしてなりません。
山回りの練習には、斜滑降や横滑りがとても大切で、外足荷重は言うまでもなく、両スキーの面に自分の重さを伝えること、しかも移動していく板に重さを伝え続ける重心の移動意識が本当に重要だと考えています。
前回書いたカービングポジションでのズレのターンは、このような重心のイメージがあるからこそ可能になるのですが、棒が倒れるように重心がターン内側に最後まで倒れ込む人には、カービングポジションでの谷回りからのズレのターンは不可能です。

なお、今回述べたことは、現在の基礎スキーの考え方と一致しない部分もあるかと思いますが、あくまでも一個人の考え方であることを念のために申し添えておきます。


山まわりの練習


カービングターンで、「外足を突っ張って内足を畳む」とか聞かされてしまうと、ターン後半までどうしても外足を突っ張ってしまい、同時に重心がどんどんターン内側に入ってきてしまいます。これだと次のターンに入れないことはこれまでに述べてきました。
しかし、それまでターン後半に外足で突っ張っていた人が、いきなり突っ張った足に縮みましょう!と言われても、実は外力に拮抗して突っ張った股関節を曲げて外足に縮むことは容易なことではありません。遠心力に耐えている力を緩めると言うことはターン外側に放り出される事に繋がるからです。
個人差がありますが、谷回りで最大限に伸ばした外足大腿は、舵取りの早い時期に突っ張りを解く意識を持つと、後半の縮みが使いやすくなります。


さて、今回注目している「山回り」ですが、常に板の滑走面にウエイトを乗せていくためには、山回りでの外向傾が必要で、そのようなポジションと力の働きかけが次の谷回りに繋がると言うことを述べてきました。
左写真は山回りでの外向姿勢です。
上体や腰の向きは谷側方向を向いていますが、これだと頭の位置がまだターン内側に残っています。

こちらは上の外向に外傾(くの字姿勢)を加えたポジションです。
外力がないので膝くの字(実際は腰くの字or弓なりな姿勢)になっていますが、上の写真に比べ頭の位置がより谷側に来ています。つまり、このようにくの字姿勢があった方がスキーの面への働きかけがしやすい事が分かりますし、次のターンにも入りやすくなります。
もうひとつ、この写真で言えるのはエッジングの強弱です。上の写真と左の写真のエッジ角を見比べると、下の写真の方のエッジ角が強いことが分かります。つまり、くの字姿勢を取ることで、スキー板のエッジ角の強弱が調整可能になります。
山回りでのこのような姿勢は、スキーヤーが板に働きかける結果出来上がる姿勢ですし、逆に姿勢をこうすることで板に働きかけることも可能になりますが、あくまでも形ではなく、板に対する力や重心の働きかけが大切なのは言うまでもありません。

舵取りのとき板に対して重心が常に追従していく感覚を最も覚えやすいのが「横滑り」です。
写真のように、高いポジションから低いポジションへと安定してずれに乗っていく事が大切です。
足裏全体で雪を押しのけていくように、また、その足裏に体の重さがしっかりと伝わるように、微動だにせずどこまでも雪を押しのけながら体が付いていく低いポジションの横滑りをマスターしましょう。ちなみに、写真の右腕(谷側の腕)を少し前に出すと、上体や腰が正対し、ずれ幅が少なくなり板トップ方向へ推進力のある横滑りに移行します。
おそらく横滑りでも、谷側の足が右足か左足かで苦手な方があるはずです。苦手な方のポジションはそのままターン後半の姿勢になって現れるので、横滑りでしっかりとポジションをチェックしておきましょう。可能なら、横滑りしていることろをビデオに撮って貰い、苦手な方のポジションを自分で見るのも良いと思います。

では、実際の滑りのなかでの山回りの姿勢を見てみましょう。
左の写真は中斜面でSL板を使ったロングターンですが、1コマ目のニュートラルポジションから2コマ目の高いポジションの谷回りになり、そこから3コマ目の低いポジションへと移行します。
3コマ目はターンから抜け出し、ニュートラルポジションへ向かう局面ですが、一つ上の写真の低いポジションの横滑りと共通するポジションであることが分かります。外向傾と言っても、その外向や傾き(くの字)の量により、ずれと切れ、そして板に対して力を働きかける量や方向が調整可能となります。
また、3コマ目の畳まれた大腿が伸びることで再び4コマ目の高いポジションが出来上がります。大腿の畳まれた低い山回りのポジションがあるから、切り換えで大腿の立ち上がりが使えるのです。
ターンは連続運動なので、前のターン後半(山回り)が次のターン前半(谷回り)に繋がると言うイメージがとても大切で、最も意識しやすく調整しやすい山回りをクローズアップすることは上達への近道だと思います。


スクール講習のように、バックショットで見てみましょう。
1コマ目のニュートラルなポジションから、脚が伸びて2コマ目の高いポジションになりますが、立ち上がり運動を使った外股関節は突っ張っています。
しかし、ターン後半までこの外股関節の突っ張りを維持してしまうのではなく、フォールラインに絡む前後で適度な緊張を保ちつつ脱力するように緩め、マキシマムに向かい両足に縮んでゆきます。両足に縮むと言っても、実際は雪面の斜度による高低差があるので、外足の方が伸び、内足の方が大きく畳まれるポジションになります。2コマ目の高いポジションから、3コマ目の低いポジションに向かい、両スキーにエネルギーがたまるようにスキーの面に向かって重心を乗せるように縮んでいます。3コマ目の左腕の位置がチェックポイントです。
3コマ目の山回りの姿勢をどのようにして作るか、また、そのときにどのような内面的な力の使い方をしているのかなど、このような山回りの質に注目してみてはいかがでしょうか。

カービングスキー出現以来、紆余曲折してきた感のあるカービングテクニックも、ここにきて目新しい話題もなくなってきました。同時に、カービングのメリット・デメリットも次第に明確になってきたように思います。
カービングスキーの最大のデメリットは、板の回転性能が高いため、重心がターン内側に倒れたままでも滑れてしまう事だと思います。それにより、ずらしが使えないノーコントロールのスキーヤーが増えてしまいました。
内側に入りすぎたポジションから外スキーに働きかけられるポジションへの意識改革をすることにより、冒頭でのカービングスタイルでのスキッディングが可能になります。舵取り期にスキーの移動方向に重心が追従し、板に対して働きかけるというスキーの大原則を今一度見直すことで、より対応力のある滑りになることでしょう。そのためには山回りでのポジションや力の使い方が大切になると考えています。

重心移動の練習

カービングターンであっても、ターン内側に棒が倒れ込むような力ではなく、左図のように、舵取りでは板の方に重心を乗せていくような力を掛けると言うことを述べてきました。
また、その様な舵取りの結果で「山回りでのポジション」が作られ、そのような山回りのポジションが次のターンに繋がることから、山回りの大切さを再認識してきました。

今回は、そのような重心移動を可能にするための練習メニューの紹介です。

ちなみに、今後ここで使うかもしれない時計の文字盤での表現を紹介しておきます。レッスン中はストックで雪に字を書くようにして説明することが多いですが、切り換えの部分は文字盤の12時と6時、フォールラインに絡むのは3時と9時になります。
谷回りは12時から9時、及び12時から3時になります。
これを一つ上の図の赤矢印で話すと、12時から10時は重心がターン内側に落とし込まれ、10時から7時までは板に対して重心を乗せていくイメージになります。
仲間内での会話も、このように文字盤の共通認識があると話しが通じやすいです。少し話しが逸れました。

さて、本題に戻り、二つ上の図のように、谷回りで次のターン内側に落とし込まれた重心を、すかさず両スキーの滑走面に向かって乗せていく練習ですが、まずは片足ターンを示す左図を見てください。
黒い線が雪面についたスキー、点線が雪面から浮かせたスキーです。まずはAの時点で外スキー一本に乗り込み、Bの位置では谷足一本で切り換え、そのままCの位置まで谷足で滑ったら、次のフォールラインに絡むCの位置で外スキーに乗り換えます。
つまり、フォールラインに絡む9時・3時に来たら外スキー一本に乗り込み、次のフォールラインまでその足で滑ります。AからC(9時から3時)まで一本の足で滑るシーンをイメージしてみてください。

やってみると分かるのですが、左図のBで谷足切り換えをするためには、その前のAからBでの山回りで赤矢印のように、重心がしっかりと外スキー方向に荷重されている必要があり、ターン後半いつまでも重心が山側に残っていると切り換えが上手くいきません。
また、Cの時点で外スキーに踏み換えるためには赤矢印のようにターン外側に重心を運ぶ意識が必要となります。

この片足ターンでの練習は、谷回り(BからC)でターン内側に倒した重心を、山回り(CからD)でターン外側に戻す動きになるわけです。

左は、一つ上の片足ターンを実際に演技している写真です。イメージしやすいようにバックショットから見てみます。
1コマ目は谷足で切り換えた直後で山足が浮いています。2コマ目はフォールラインに絡んだ直後で、時計で言う9時頃になります。1コマ目で浮かせた山足(外足)を2コマ目で雪面に付けます。同時に、1コマ目でターン内側に倒れた重心を、2コマ目で外スキー方向に戻します。
1コマ目のストレート内倒の上体が2コマ目でわずかに起こされてくの字姿勢になっているところに注目してください。

1コマ目でターン内側に入った重心を、2コマ目で外スキー方向に戻し、そのまま山回りをします。そこから再び谷足で切り換えたのが3コマ目です。4コマ目では再び重心がターン内側に入り、ポジションはストレート内倒です。そこからフォールラインに絡むあたりで外スキーに踏み換えたのが5コマ目です。4コマ目のストレート内倒から5コマ目のわずかなくの字姿勢になる部分がやはり注目ポイントです。

左の写真はその片足ターンをしているときの山回りのワンショットです。写真の足元を見ると、内スキーが浮いていますが、外スキーの面に対してしっかりとウエイトが乗り、適度な外向傾が取れていることが良く分かります。
この写真のように外スキーにしっかりとウエイトが乗っているからこそ、切り換えで重心が落ちていく谷足切り換えが可能になるのです。同じシーンで重心がいつまでも山側に残っていると切り換えが上手くいきません。
舵取りでスキーの面に乗り、切り換えではその面を返していく意識が有効です。
なお、この片足ターンはそれ自体を練習メニューにすることも可能ですが、遊び感覚でまずは出来るかどうかやってみるのも良いと思います。実際の滑りの中で出来ている運動であれば、一発で出来てしまうでしょう。

ただし、これとは全く逆の重心移動である、左図のような片足ターンも必要になります。
つまり、フォールラインに絡んだら外足ではなく、今度は内足に乗り換えるパターンです。重心の意識は真逆になるこの両者のパターンを繰り返し練習することで、外スキーを主体にしたポジション作りと、内スキーを主体にしたポジションが覚えられ、最終的には両者のポジションが一致することで、内外両スキーが自在に操れるポジションが完成します。

ここまで述べてきたことを、雪面に一番近いスキーの板で見てみましょう。
板に対し、矢印Aの方向に押せばスキッド(ずらし)になります。板をずらし、そのずれに正確に乗っていくためには「外向傾」が必要になります。
次に、力を加える方向を矢印Aの方向からBの方向に意識します。つまり、板を推進させる方向へと力のベクトルを変化させるわけですが、このときに外向傾姿勢が弱くなり、若干板に正対する方向に腰が向くことになります。
そして、矢印Cの方向へ板を推進させていくのがカービングです。しかし、内面的にはいつでも矢印Aの方向へ力を加えられる意識が大切です。

つまり、カービングターンでの板への力の働かせ方は、板を押しずらすAの方向をベースにして、より積極的に板が推進する方向Cへ力を働かせると言うことになります。従って、Cの方向へ推進させているカービングターンの途中で、障害物があって急遽ライン変更を強いられたとき、ベースにAの方向への意識があれば、一瞬でAのずらす方向へ力の加え方を変更して減速とライン変更が可能なのですが、自分からターン内側に倒れ込み、それによってエッジが立っただけの人は、即座にAの方向への荷重は出来ません。

実際の滑走写真で示すことが出来ずに申し訳ありませんが、長い斜面があれば、左図のような連続ターンが練習には有効です。
つまり、最初のターンは1の方向(上図のA)へずらして滑ります。意識としては外向傾ポジションで横滑りの連続でターンをする感じでも構いません。
そして、次のターンでは矢印2の方向(上図のB)へやや推進させて滑ります。
最後に、矢印3の方向(上図のC)へ推進させるカービングターンへと変化させます。

図では便宜上ワンターンごとですが、実際はそれぞれを2ターンくらいで繋いでいきます。あくまでも、滑りながら板に対する力の働きかけの方向を意識し、一つ上の図のAの方向からBの方向、そしてCの方向へと変化させていく結果、最終的に一つの滑りの中でカービングターンへと移行させます。

つまり、板をずらすことと、板を切ること、言い換えれば、板を横に使うことと縦に使うこと、この両者は対極の向こうとこっちみたいな技術ではなく、板に対する力の働きかけの方向が違うだけで、流れとして繋がった技術であることが分かります。

自分からターン内側に倒れ込むようなカービングターン、ポジションで言えば内倒ローテーションだけのカービングターン、それで滑ることは可能ですが、板の回転性能に体を任せるだけのターンでは、応用力もなく、暴走しやすく危険でもあります。
やはり、ズレ・切れ、両方自在に使いこなせるスキーヤーこそエキスパートだと考えます。


ターン後半の引き込み

ターン後半の山回りで「外向傾姿勢」が大切と言うことを述べてきました。
しかし、ターン後半で外向傾姿勢を強く取ると板の抜けが悪く感じる事が多くなります。これは、山側の上半身や腰や前に構えた腕が谷回りに向かって走ろうとする板の抜けを抱え込むように阻害してしまうからです。従って、ターン後半の山側半身の強いブロッキングを作らず、後半は板に正対した方がスムーズな板の抜けのためには有効な場合もあるのですが、後半の正対は次のターンに繋がらなくなります。
そこで、今回は、「ターン後半外向傾姿勢を強く取りながらも、山回りで板が走る方法」を解説します。

上の左の写真は、ターン後半の山回りの姿勢を表します。スムーズな切り換え運動に必要不可欠なのは「ターン後半柔らかく脚を使う」事なのですが、脚が柔らかく使えるような滑りは切り換えで吸収動作(ベンディング)が見られます。
しかし、切り換えで吸収動作が見られるからと言って、左写真の赤い矢印のように「自分から」板に縮んでいくと板の走りを殺してしまいます。
これは、右の図を見てもらえば分かりますが、青い矢印の方向に走っていこうとする板に対し、白い矢印のように自分から縮んでしまうと、白い矢印のウエイトが板にのしかかってしまい、板の走りが出ません。


そこで、ターン後半脚を柔らかく使い、吸収動作を表現し、板の走りを生かす方法として、「引き込み動作」を使います。
先ほどのように切り換えに向かい自分から縮むのではなく、自分の腰下に板を引き込みます。つまり、左の写真のように赤い矢印方向に走ろうとする板の動きを、ブーツを腰下に引き込むことで、板の走りを手助けする感じになります。
板を引き込むことで板は走り、引き込み終わった時点では右写真の青い丸のように股関節と膝が突っ張るような緊張感無く曲げられ、しかもブーツは確実に腰の真下に来るため、板はフラットな状態を通過する事になります。

ここで最初の話題に戻りますが、ターン後半の山回りで、外向傾姿勢を強く取りながら板を走らせる方法として、この引き込み操作を使います。板を引き込むことで、山側の半身がブロックされていても切り換えに向かい板が走るし、ニュートラルを通過した後も、ブロックされた山側半身と板が一体化して谷回りを作ることが可能になります。
引き込み操作により、山回りで板が走り、後半脚を柔らかく使うことが可能になり、両スキーが確実にフラットになるニュートラルが作られ、吸収動作のポジションが生まれると言う、一石二鳥ならぬ一石四鳥くらいのメリットが生まれる人もいるはずです。特に、ターン後半強い突っ張り癖のある人には有効です。
この引き込み動作は結果的に抱え込み動作になるのですが、ロングターンにもショートターンにも使います。脚の突っ張りが無くなるので、谷回りで重心を積極的に谷に落としていくことにも繋がります。

左の写真は、引き込み操作を使ったオーソドックスな急斜面小回りです。一コマ目の角付けのあるスキーを、二コマ目のように腰下に格納するように引き込んで走らせ、引き込んで走らせた延長で、重心をしっかりと谷側前方に運んで、板と体が一体化して谷回りでも更に走らせます。
引き込んで走らせた後の谷回りでは、体が置いて行かれることなく、積極的に重心を運ぶことが大切です。


少し脱線しますが、重心を積極的に運ぶことについてのワンポイントですが、小回りでは、左図のAのように重心の横移動が無く、板だけを回すような小回りではなく、Bのように、積極的に重心を左右に運ぶことにより、より大きく深い弧を描くことが可能になります。
しかし、Aの運動のまま単純に運動を引き延ばしてBの弧に近づけてしまうと、単に間延びしただけのターンになってしまいます。
そこで、「重心移動」という着目点でBのターン弧を考えてみたいと思います。

上の右の写真を小回りの後半と考えてください。
先ほどのBのような弧を描くために、重心(体)を大きく左右に運ぶとします。
仮に、重心を大きく左右に移動させると言うことで、右写真の青い矢印のように切り換えで青い矢印のように板の進行方向に近い側に重心を運んでしまうと、上左写真のように板と重心が左右的になかなか離れず、谷回りで角付けが強まらず、深い弧に繋がりません。

そこで、谷回りをやや長く取る意識を持ち、右写真の青い矢印のように切り換えで敢えて重心を谷方向に運びます。
このときに、まずは外スキーをしっかりと踏み、外スキーを踏んでから重心を谷方向に運ぶことが必要です。もし、外スキーを踏まずに重心だけが中に入ってしまうと、外スキーの浮いたエッジングになってしまい、板の走りが生まれません。まずは外スキーを踏んで、踏んでから重心を中に運びます。単純に重心を中に運ぶ意識だけだと棒が倒れるように肩のラインまでターン内側に傾いてしまうため、肩のラインを斜面と水平に保つ意識を保ちながら、切り換えで重心をターン内側に意識的に運びます。
谷回りでのこのような意識を持つことで、よりエッジが立ち、板が強くたわみ、弧が深くなり、ターンから抜け出すときは強いエッジングがフラットに戻るまでの「間」が出来ることで、S字部分が長くなり、結果的に左右スペースの大きな小回りに移行可能です。
つまり、3つ上の図のAの様な小回りから、Bのような横スペースを大きく取った小回りをするためには、単純にリズムを遅くするのではなく、エッジングの質を変化させることで必然的にそのような弧になることを実践するべきだと考えます。
で、そのような谷回りでの重心移動を可能にするのは、今回ずっと述べてきた「山回りのポジショニングと板に対する力の掛け方」なのです。

また、ターン後半に内腕や内ストック(山側の腕とストック)が遅れないようにするためのワンポイントを紹介します。
ストックを突くときは左写真のように、両腕の構えを広く取り、頭と両方の握り拳の位置を変えずに維持したまま、手首の小指側をリリースするようにリングを前に出せとよく言われますが、それだとどうしてもストックを突くときに肩が回ったり突く方の肩が下がったりしがちになります。
ストックを突いた肩が下がってしまうと、その肩がストックを突いた位置に残って置いて行かれやすくなりますし、谷側のストックを突くために谷腕を前に出す反動で、肩が回り山腕が後ろに引けてしまいます。そこで、左写真のように、両肘と肩を結ぶ線は絶対に動かさずに固定しておき、左写真の青い矢印の位置、つまり、肘から先を動かしてストックを突く癖を付けておくと、突いたストックに肩が持って行かれることも、突くために肩が回ってしまうことが少なくなります。
右写真の右手が肘から曲がっているのが分かりますが、握り拳を巻き込むほど極端に肘から曲げてしまうことは避けましょう。

引き込みの練習方法

今回は、ターン後半の山回りで板を走らせる一方法である「引き込み操作」の練習方法を紹介します。
まずは左写真を見てください。1コマ目から5コマ目まで雪面からの腰の高さが変わらずに一定であることが分かりますが、緩斜面の低いポジションの直滑降からスタートし、片足を交互に伸ばして行きます。
1コマ目は左足を伸ばした状態で、2コマ目は伸ばした左足を腰下に引き込むように格納したところです。3コマ目はそこから右足を内力を使って伸ばして行き、4→5コマでその右足を走らせながら腰下に格納していくところです。
全コマで雪面からの腰の高さが低い位置で一定なので、自分の筋力を使って外脚を伸ばして雪面を捕らえ、次にその脚を腰下に引き込むように格納しているのが分かると思います。3コマから5コマの右足に注目すると、板が走りながら腰下に引き込まれ、そのために股関節や膝関節が柔らかく曲げられ、格納しきった状態では関節が深く曲げられています。格納する操作はそのまま吸収動作になります。
直滑降をキープし、けっしてこの段階ではターンにならないように注意してください。


上の写真は、この引き込み操作の運動を表していますが、スタートは左写真のように低いポジションの直滑降です。そこから左写真の赤い矢印のように、内面の筋力を使って脚を側方に雪面をえぐるように伸ばしてエッジングします。
脚を伸ばしきったのが右写真です。右写真の直後、伸ばした方のスキーは自分方向に帰ってくるので、走りを殺さないよう、股関節を柔らかくして板を腰下に格納し、再び左写真のような低いポジションの直滑降に戻ります。
伸ばした板の動きは、ヒュンヒュンヒュンという感じで腰下に帰ってくるのが正解です。筋力を使って突っ張るように伸ばし、伸ばした後は突っ張った脚を脱力するように柔らかくして格納します。つまり、外スキー側の股関節は、伸ばし突っ張りの緊張と脱力引き込みの弛緩を繰り返します。この股関節の緊張と弛緩の連続がとても大切になります。つまり、ターン後半に外股関節をいつまでも突っ張っていたのでは、板の走りを殺してしまう事に繋がりますし、前から述べているように重心がいつまでも山側に残ってしまうのです。


少し話が逸れますが、引き込み操作の練習をしたら、一緒に是非やっておくべきメニューも紹介しておきます。
今度は、上左の写真のように高いポジションの直滑降からスタートし、左写真の青い矢印と赤い矢印のように、重心を下げることで突っ張った外脚で外スキーを体の側方に押し出してエッジングします。
腰を下げても外脚の突っ張りをキープすることで、外スキーが押し出されて行き、結果的に右のようなポジションになります。右写真のポジションから左写真のポジションに戻るのですが、引き込み操作で格納した先ほどとは違い、今度は脚の突っ張りを維持したまま外スキーを引き寄せるので、スキーが腰下に戻ってくると、それに伴い重心が押し上げられ、高いポジションの直滑降に戻ります。
つまり、内スキーの真上に重心が落ちて内足は深く曲げられるのですが、外脚の突っ張りを維持するので、重心が下がった分外スキーが押し出されます。後半外スキーが体に近づくと、今度はその分重心が持ち上がることになります。
この練習では、外脚は突っ張ったままですし、外股関節は常に緊張しています。

一つ上の右の写真と二つ上の右の写真は、ポジションだけを見ると同じなのですが、二つ上の右のポジションは曲げられた脚を伸ばす筋力を使って得られたポジションですし、一つ上の右のポジションは重心を下げることで得られたポジションなので、同じように見えるポジションでも全く異なる運動の結果であることに注目していただきたいのと、どちらも外スキーをたわませる方向に力を使って、足裏には強い側圧を感じていることも大切なポイントになります。仮に雑誌やDVDで見るスキーヤーの「形」だけにとらわれて真似してしまうことは運動の本質の勘違いに繋がることになりかねません。


この外脚の突っ張りを維持した実際の演技が左写真です。
1コマ目は右足を突っ張って側方に押し出したところ。2コマ目はその右足の突っ張りを維持したまま引き寄せたことで重心が持ち上がり、高い姿勢に戻ったところ。3コマ目は再び重心を下げて左スキーが体側方に押し出されたところです。
重心の上下の動きが明確に現れます。

引き込み操作を使って板を走らせて低いポジションで格納する滑りと、外脚を突っ張ったまま引き寄せて重心が持ち上がる滑りの違いをイメージしてみてください。この両者の使い分けは、カービングターンには必須で、一つのターンの中で外股関節は緊張と弛緩を繰り返しますし、外股関節が突っ張っても内股関節は脱力するなど、左右の股関節で異なる使い方を必要とします。
ノーマルスキー時代の滑りが抜けない方は、左右両股関節が同時に突っ張ったり同時に弛緩してしまい、左右のブーツの高低差の付く今風のカービングターンにつながらないことを多く見かけます。

ここで、「重心を下げること」に関して触れておきます。
小回りやロングターンでの外腰にタメのあるくの字姿勢を作るときに多用しますが、左写真の赤いライン(ふところ)を真下に下げるようにして重心を下げていきます。
このときに懐を下げるからと言って上体が前に潰れるのではなく、下げた分だけ腰が下がり、腰が下がった分黄色い矢印のようにブーツがターン外側に押し出されます。つまり、懐を下げ、腰が下がり、ブーツが側方に押し出されることで板の角付けが増し、板がたわみ、強いエッジングが可能になります。板の面への垂直方向の適度な荷重は板の推進力につながり、板のたわみの解放は走りにつながります。
右の写真のようにくの字の強い姿勢を作ろうとして、自分からふわっとターン内側に入ってしまうと、外スキーへの荷重が甘くなってしまいます。そのような重心移動もOKなのですが、内面的な感覚として、左写真のように重心を下げることで下半身の強い内傾を作り、両スキーをさらにたわませることで強いくの字を作る方法も覚えておくと良いでしょう。
ただし、このような内面感覚は個人差がとても大きい部分なので、同じ事をしようとしても、人によって意識の置き所がときに真逆なこともあるので、自分に置き換えるときには自分なりにアレンジした方がよいと思います。