10月の俳句                

岩戸窯では毎月最後の土曜日に
「岩戸句会」を食事をしながら
季節の移ろいを詠んでいます
参加してみては如何ですか、  連絡先 小坂一韶
                         TEL:0557-80-3207

issyoの俳句ブログ

第206回 岩 戸 句 会

老犬の(まなこ)穏やか柿をむく   洋子

 

 原家の「タロー」が、十八才十一カ月で逝った。犬としては長寿であり、寝込んでからわずか二日目の朝だったそうである。秋葉家の「ドン」、坂井家の「ポチ」に続いてのこと。

 タローの子供を産んだのがモモだったし、タローと野良犬クーロの子供がデンだ。何度もタローを預かったし、私にとっての思い出は少なくない。

犬を飼えば、必ず死に立ち会わねばならない。十五才のモモもそう遠くないかもしれず、私も覚悟せねばならない。最近のモモは、オスワリもせず、呼んでもなかなか来ない。野良犬としてやって来た時のように、おどおどしている。これも老化現象だろうか。


日本シリーズが盛り上がってきた。巨人と楽天。海の向こうでもレッドソックスとカージナルス。さてさて、どうなりますか。優勝チーム同士の本当のワールドシリーズをやったら、面白いのにね。

さて、二百七回、十一月の岩戸句会を行います。万障お繰り合わせの上ご参加下さい。


日 時  十一三十日 () ~      十一月・神無月(陰暦の十月) 

会 場  岩戸窯                        三日 文化の日

兼 題  憂国忌                       七日 立冬

提出句  六句まで                    二十二日 小雪                                      


憂国忌御鐉(みけ)神酒(みき)奉り火入窯   雲水

 

四十三年前の十一月二十五日、放浪の途中の長崎の食堂で、三島由紀夫の自決をテレビニュースで知った。享年四十五才。

私は、この事件に驚き、誰かと話したくて長崎の街をさまよった。勿論、見知らぬ土地で話し合える知人などおらず、誰かに話しかける勇気もなく、唯うろうろとさまよい歩いただけだった。

実は、当時の私は、三島由紀夫を馬鹿にしていたのである。三島の作品や言動を見ていて、「彼は、とっくに死んでいなければならず、生きているのはおかしい」と思っていたからである。

ところがその三島由紀夫が、彼の信念に則り本当に自決した。彼は、自分の思いを実行に移し、成し遂げてしまった。自決の仕方とか、場所とか、そんなことはどうでも良かった。自決を実行したことに私は驚愕したのであった。


 


○△5 老犬の目穏やかなり柿をむく   洋子 

人  2 老班を三つ憂れいて鰯焼く

佳 △3 すらすらお世辞も言えて菊日和

佳 ◎2 夜長し羊が先に寝てしまう

   1 たちまちに手荒れはじまるつるし柿

     野分去り土に平伏す若き苗

                    

地  4 秋麗喪服きりりと若き嫁     豊春 

佳 ◎4 山育ち鰯の頭喰えと言う

  △2 屋敷神熟柿の元に眠りけり

  ◎1 口開き弛緩の極み落ちアケビ

     常に増す濃い目の化粧体育祭

     秋深し靴音残す法務局

 

佳  2 早生蜜柑香りの飛沫顔に浴ぶ   薪

佳  2 人形にビロードの服秋深む

  △2 通草の実アンパンマンの笑う口

  △1 ぴちぴちと鰯跳ねおり無為の日に

     新米や勘で決めたり水加減

     一房の無欠の愛や黒葡萄

 

  ◎2 ワイン抜く月おぼろなり指おぼろ 章子

佳  1 鰯焼く住所不定の猫の来て

  ○1 晩秋や裏富士のあの男貌

   1 愁思なる曙近き闇のあり

     秋の蚊や居場所なくして我が甲に

     行く秋や逆さ富士なる山中湖

 

  ○2 大樟の落ち着き払う秋祭     歩智

  ○2 新米や一粒毎の旨味かな

佳  1 源氏名は櫻と申し柿落葉

   1 小鰯を一匹放し量り売り

   1 秋刀魚焼くいつのまにやら高級魚

     新蕎麦やランチタイムの長い列

 

◎4 約束が枯葉のごとく散りゆけり  遊石

   1 鰯干す網代の女の白き指

  ◎1 爽やぐ風仏間に入れてうなずけり

   1 天仰ぎ溜め息のなか鰯雲

     犬に吐くセンチな言葉秋の暮

     十月や立掛けられし回覧板

 

○△3 落葉掃く明日は今日の倍返し   炎火

  △1 鰯雲午後から曇後小雨

     ドングリや舗装道路の坂の下

     外道にも脂乗りたる神無月

     奈良産の松茸の香のおくび哉

     鰯漁地下水脈の果ての海

  

  ○4 金木犀次は婆さま立ち止まり  雲水

   3 空腹の腹が出ている獺祭忌

   2 団栗を拾う少年時代を拾う

  ○2 死んだなら忘れておくれ女郎花

  ◎1 群れ鰯山河幾たび再生し

     風ひょうと桜紅葉の散り初むる



投句

 

息切れしらせん階段柿日和   正太

義歯なれど蜜のしたたる熟柿かな

雨あがるタイヤの跡に実無し栗

人は死を粧うなかれこの良夜

残菊や朝日こぼれる薄化粧

この愁思弥彦の宿から五合庵

 

ひこ鰯指で捌いて酢醤油に    空白

秋となり栗も御芋も本もよし

 

名を変えてうつりひゆくや秋の月   稱子

手摺頼りに昇る石段こぼれ萩

風生るる風に任せて秋の蝶

葬式のはなし諤諤温め酒

庭先の溢れ咲く菊父母に活け

秋刀魚人気少し憧れ鰯かな 

 



ワイン抜く月おぼろなり指おぼろ  章子

 

美しい流れを感じられる心地よい句と思いました。

作者は若くはないけれど、指のきゃしゃな女性が、今晩の秋の月は春の月のようにおぼろに霞み、何となく心も弾むと、ワインでも抜いて優雅に過ごそうかと、いざワインを抜こうとすると昔のように一気にすぱっとは抜けず、指に力が入らない、指も今晩の月のようにおぼろ・・・・と急にさみしさを感じてしまう。同感させられるとともに、上品なおしゃれな句と思い天にいただきました。(洋子)

 

 


 

秋うらら喪服きりりと若き嫁  豊春

 

 結婚式に参加している若い女性も華やかで美しいが、喪服の女性の方が更に美しいと思う。それは、アクセサリーが控え目、化粧も控え目で素顔に近く、悲しみや憂いをたたえているからではないだろうか。

 それにしても、日常的にほとんど着なくなった高価な女性の「和服」。文明開化と共に失われた多くの「和」の文化。勿論、完全に失われたわけでもなく、なんとか残ってはいるが・・・・着物で言えば、呉服店が消え、貸衣装店が大流行りの昨今ではある。(雲水)