The Who というロック・バンドをご存知ですか。
1963年頃、ロンドンで結成され、1965年にシングル”I Can't Explain”でデビューして、1984年に解散したロックバンドです。
当時のイギリスでは、The Beatles の成功によって膨大な数のロックバンドがデビューした。有名なところを挙げれば、チャック・ベリーのようなアメリカの現代的な黒人音楽の影響を強く受けたロックンロールを演奏するThe Beatles 、マディ・ウォーターズやロバート・ジョンソンなどアメリカのブルースミュージックの影響が大きいThe Rolling Stones や Yard Birds、ブルースミュージックの影響とイギリス在来のトラッドミュージックが混在する Kinks といったバンドが、それぞれに強烈な個性を主張していました。
そのなかでも The Who は、'50年代のイギリスの流行音楽であるスキッフルやモータウン・ミュージックの匂いが感じられる音楽を演奏し、モッズと呼ばれるイギリスの若者たちに支持されていたのです。
デビュー当初は、マネージメントがトラブルを抱えていたせいで幾つものレコードレーベルを渡り歩き、オリジナルアルバムに対してベスト盤が妙に多いバンドとして知られていました。”A Quick One”は、デビュー2年(正味23ヶ月)目で2枚目のオリジナルアルバムです。
当時のバンドで2年で2枚というのは異常に遅いペースで、例えば、Kinks は、ファーストアルバムの発売が '64年10月で、翌年の 2月には早くもセカンドアルバムを出しています。まぁ、これはちょっと極端な例かもしれませんが。
一方、シングルは(レコード・レーベルとのトラブルもあって)、ファーストアルバムとセカンドアルバムの間に5枚も出しています。そのうち1枚は 5曲入りミニ・アルバムですから、バンドの創作意欲とは正反対の状況だったことがうかがえます。
おそらくは、こうしたトラブルの日々が、バンド、とりわけギタリストのピート・タウンシェンドにひとつのアイデアをもたらしたのでしょう。
それは、ひとつの物語を創造し、その物語を音楽で表現する「ロックオペラ」でした。このアイデアは、後に名盤”Tommy”、”Quadrophenia(四重人格)”に結実するのですが、その最初の一歩がこの”A Quick One, While He's Away”なのです。
スタジオ録音で 9分09秒にもなるこの曲は、以下の六部構成になっています。
1.Her man's been gone
2.Crying Town
3.We Have A Remedy
4.Ivor The Engine Driver
5.Soon Be Home
6.You Are Forgiven
曲のストーリーは、いたって単純明快。
彼氏が出て行って、約束の日に戻ってこない。彼女は泣き続けて町の名物にまでなってしまう。友達の紹介で別な男と付き合いはじめるが、彼氏が戻ってきたので謝った彼女は元の鞘に収まってめでたしめでたし、というものです。辞書を片手に訳し終わって脱力したわ、わし。
演奏も、当時では最強のライヴ・バンドであった The Who にしては、可愛らしいとすらいえるものです。
とはいえ、なにしろコンセプト・アルバムという言葉が生まれて間もない時代(例えば、The Beatles の ”Sgt. Pepper's Lonley Hearts Club Band”は、レコーディングさえ始まっていない)ですから、「ロックオペラ」などとは思いついただけでも充分に常軌を逸した発想といえるでしょう。
”A Quick One”というタイトルからして「やっつけ仕事」、「アルバムの穴埋め」的な評価を下している人もあります。しかし、バンドは執拗とも言えるほどにこの曲にこだわりました。リイシュー版の”Live At Leeds”、サントラ盤”The Kids Are Alright”では同名の映画には含まれない演奏が収録されていますし、The Rolling Stones のTVスペシャル「Rock'n Roll Circus」では、リハーサルを含めて3回演奏したといいます。
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