やつあたり雑記帳…聴いたり読んだり Mar '01

読んだ本と、むかし買って最近聴きなおしたCDについて綴ります。

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  3月前半

ハイ・フィデリティ   ニック・ホーンビィ 著/森田義信 訳   新潮文庫   \705

 ちょっと前の、話題の小説です。ふつう、オレは、ベスト・セラーだの話題の作品だなんてのは読まないんだけど、今回は魔が差しました。読みながら後悔しました。つ、辛過ぎる…。

 いつものとおり、あらすじと翻訳者の後書きを斜め読みして購入決定。あらすじは、まぁあらすじですから、どうということはないんですが、この本は後書きがなかなか凄い。
 本文中に出てくる歌手、バンド、レコード、曲名、映画、俳優、女優、映画・TVプロデューサーetcについて、実にオタッキーな解説つき。ぱぱっと眺めて、「これにツッコミ入れつつ読むのもおもしろいかな」と不埒な考えが頭をよぎって「よし、買ってやろう」だって。その尊大さが素敵なオレ。
 んで、ツッコミの成果はというと、「あやしいぞ」が一件、「認識ズレてませんか」が一件あっただけで、あとはじぇんじぇん手に負えましぇん。映画俳優の名前なんて、日本で言えば「小林薫」や「片平なぎさ」あたりに相当する人なんて判るわきゃないっすよ。いちばん得意なポップ・ミュージックでも「知りましぇん」、「存じ上げましぇん」がいっぱいあった。はい、降参でしゅ。

 ストーリーは、主人公がこれまで別れた恋人の中で、ショックが大きかったほうからトップ5を選ぶことからはじまる。なんでそんな不毛なことをしているかというと、さっき同棲相手に出て行かれて、そのショックを和らげるためだ。過去の婚姻歴・同棲歴の有無を問わず、このキモチがわからない男は、トコトン恵まれてるか、でなきゃヘンタイだ。とはいえ、ここまでは他人ゴト。あはは、馬鹿だねこいつ。
 一人称の視点で徐々に明らかになっていく主人公は、大学中退で(あ、やべぇ)、中古レコード店の経営者(オレ会社員だもん)で、元クラブDJ(オレ芝居で音響やってただけだし…)で、恋人にプレゼントするオムニバス・カセット作りの名人(…名人、ではないよなオレ…)という、1959年生まれの男。
 オレよか四つ年上で、これは今から六年前のロンドンが舞台。つまり、主人公が36歳のときの話。それが判った時点でやめときゃよかったんだよ…。

 オムニバス・テープはねぇ、いくつか作りましたよ。名人とはとうてい呼べないレベルでしたけどね。あれはあれでなかなか難しいもんなんです。まず、A面一曲目は、ポップでキャッチーな曲で、二曲目はさらにアップテンポ、三曲目で落ち着かせて、四曲目はしっとりと聴かせて…。テープの長さにあわせて、うまいこと調整しながら、出来あがりが満足いくものだったときの達成感といったら…!
 しかしこの主人公、すごいよね。オムニバス・テープでナンパしちゃうんだもン。これは、到底マネできません。それに、この主人公が羨ましく思えるのが、さすがにロンドンっ子だけあって、背景程度に出てくる登場人物でさえセンスのいい黒人音楽を聴き慣れていること。センスある顧客あってのアーティストなんだね。
 ところが、このアーティスト、センスある顧客を相手にしつづけるうちに「センスこそはすべて」へと転がって行きます。ありがちなんだよね〜。周囲にいるのがセンス最悪のカワイコちゃん(死語か、これって?)ばっかりだったらこうはならないんだけど、センスが良くてルックスもグッドでってぇ女の子がわずかでもいると、もう止まりません。わかるわかる。

 同棲相手が出ていって、どう考えても自分が悪い。いや、悪いばかりではないのだけれど、ここでなんとか踏ん張らないとこの先で待つのは真っ暗な老後のみ。うわ〜、そんなのはごめんだ。
 たしかに、一から十までばっちぐーなパートナーとは呼べないが、常識的な、悪くない女じゃないか。たとえヨリを戻せないまでも、せめて後悔くらいはしてもらいたいじゃないか。ぶちぶちぐじぐじ言いながら、加速度つけて落ち込んでいく主人公を追っていくと、どんどん他人ごとに思えなくなる。
 いや、落ち込む一方じゃないんですよ、こいつだって。店のバイトに無理矢理ライヴに連れて行かれたアメリカのカントリー歌手(ドリー・パートンやタニヤ・タッカーとは違うタイプよ。カウボーイ・ジャンキーズのマーゴ・ティミンズがソロになった感じだとオレは思ってる)とウマイこと行っちゃって、セコい野望を膨らませてみたり、むかしふられた女に電話して、フリーだったらどうにかしようとしたり、あぁもうオレたまらん。

 これ以上、書き連ねると手近なバルコニーから飛び降りたくなっちゃうのでやめるけど、パンクやニューウェーヴと一緒に若き日々を過ごして、もうとっくにいい歳のはずなのに「どうもオレは中身があの辺でヒネちゃったな」と思ってる人は、読んで悶絶してもらいたい。たとえ一本でもオムニバス・テープを作ったことがあるならなおさらだ。あ、ちなみに女子禁制だかんね。

 追記。
 オムニバス・テープっつっても、サザンとかチューブとかユーミンとか杏里とかドリカムとかあるいは若者用のラルクだのグレイだのモー娘。だのはお呼びじゃないので近づくなよ。吉幾三とか北島三郎とか言うのも論外だぞ。マイケル・ジャクソンやらバックストリート・ボーイズやらも関係ないかんな。ふん、だ。





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