やつあたり雑記帳…お出かけ記録

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Dec. '02

12/ 4 元ちとせファースト・コンサート「冬のハイヌミカゼ」 at NHKホール


 12月 4日 元ちとせファースト・コンサート「冬のハイヌミカゼ」 at NHKホール


 NHKホールは、これが二度目である。その前はというと、ニール・ヤングが The Lost Dogs と共に来日した時だから、かれこれずいぶん昔になる。
 当時のニール・ヤングは、アルバム「This Notes For You」を出した頃で、日本での人気は最低だった筈である。チケット発売日に「ぴあ」に電話して、難なく一階席をせしめたのだから、牧歌的な時代だったのだな。そのライブはというと、八十年代前半の、アルバム一枚毎に作風が変わる時代から、後の轟音グランジ親爺へ移り替わる時期だったので、前半アコースティック、後半ヘヴィ・ロックの二部構成だったような記憶がある。
 まぁ、ともかくオレ自身としては、一日二食はあたりまえの貧乏どん底時代から、いちおう定職を持って外タレのライブにも行けるようになって日が浅い頃であり、「いやはやロック・コンサートってーのは、随分とデカい音を出すもんだな」とか感心していた頃である。
 歴史的考察は、ここまで。

 三月の初めに、ある人物から電話があった。聞きたいことがある、という。
 なんじゃらほいと促せば、「元ちとせの曲で、卒業式に歌われた曲といえばなんでしょう?」と言う。
 「大陸横断ウルトラクイズ」かと思ったのだが、その人物もまたほかの人から問い合わせを受けたのだと言う。その疑問を最初にもった人物は、新聞紙上でその記事を読んだのだという。
 「ご期待には添えないが、相談料はいつものスイス銀行の口座に振り込んでおいてくれ」と応えて電話を切ったのだが、なんとなくその質問は頭の片隅に残った。
 そんでもって、こうしてパソコンに向かっている本日この日の二十時間前に、くだんの電話の人物に会った。そのときは、この疑問については話さなかったのだが、その翌日である今日になって元ちとせについて考えていたら、実に都合よく、この質問がよみがえって来たのである。

 もしお時間が許すならば考えてみていただきたい。「元ちとせの曲で、卒業式に歌われた曲といえばなんでしょう?」

 回答は、「可能性はいくつかあるが、現実的にはありえない」になるはずだ。
 三月の初めといえば、「そろそろ卒業式をしましょうか」と言い出す時期であり、この時点において過去形「卒業式に歌われた」と表現されているとすれば、それは「去年の話」になるはずで、その時点における元ちとせの活躍ぶりを考えれば答えは導き出される。
 2002年の3月、元ちとせはナニをしていたのか?
 同年2月に発売されたデビュー・シングル「ワダツミの木」がヒット・チャートを上昇中で、そのプロモーションに追われていたハズである。つまり、インディーズ盤「Hajime Chitose」、「コトノハ」はすでに発売され、一部で人気を博していたとはいえ、まだまだ海のものとも山のものともつかない正式デビュー前の新人だったのである。「コトノハ」に収められた「竜宮の使い」がそれらしく思えるとしても、まだまだ一般的な知名度を持つには至ってはいない。現実的な話ではない。
 どうもこの元ちとせという人は、メジャー・デビューに至るまでのバック・グラウンドがかなり特異であるためか、正式なデビューからまだ一年そこそこなのだということを誰もがついつい忘れてしまうのではあるまいか。

 なんでこんなしょうもないことをつらつらと並べ立てているかと言うと、この「冬のハイヌミカゼ」公演が彼女の公式HPにて発表され、「ん〜、12月4日って何曜日だぁ?」とカレンダーを見たら「おや、大安ですか」。
 あちこちで話を聞いたり、あるいはオレが知るわずかな実例を眺めると、ゲイノー界というのはひどく旧弊な考え方を色濃く残している部分があるようで、「気休めだろうがなんだろうが担げる縁起はすべて担ぐ」という人がかなりいるらしい。いや、正直言ってオレ自身も、ライブの企画などに狩り出されるときは、御幣担ぎを進んでやる方だ。なにしろ、人気と言う得体の知れぬものを相手にやっているのだから、同じく得体の知れない縁起にでも縋らなきゃやってられないのである。
 とはいえこの時点では、「わざわざ大安を選んだのかのう、ご苦労さんなこっちゃ。うまいの、このヨーカンは」と茶をすすっていたオレである。

 さて、いつの間にやらやってきた12月4日である。
 寒い中、ご丁寧に雨まで降って、「武田まゆみRIKKIに続いて三人目か(注1)」などと思いながら渋谷へと向かう。
 いちおうオレ自身にはレア物趣味はまったくないつもりだが、ここ数年、ライブハウスやら特設会場みたいな安直な場所に行くことが多く、早いモノ勝ちの席取り合戦に参戦することも多かった。しかし、今回はNHKホールである。指定席である。開場直後の混雑を避けて、余裕を持って渋谷駅を降りると、ほとんど雨はやんでいる。
 「まだまだちとせ如きには負けんわ」と高笑いをしつつNHKホールを目指したら、みんなが道をあけてくれたっていうのはウソだからな、言っとくけど。

 NHKホールに到着し、さて席は、と探すと、二階席の端の方、チョモランマとまでは呼ばぬまでもカトマンズの郊外あたりである。頭上には三階席の床が屋根のように張り出して、雨が降っても濡れそうもないが、元来ここはホールの中である。ちーともうれしくない。
 遥か彼方のステージ方向に目を凝らすが、ホントに遠いのと疲れ目なのとステージ上が暗いのとででナニがどうなっているやらさっぱりワカラン。ただ、PA装置が「なんかずいぶん少ねーぞ」と不安になる。ここまで聴こえるんだろうか?そのうえ、なんだかステージ上は、妙に人口密度が高そうだ。
 これまで、元ちとせのライブは四回(うち、タダのに三回)行ってるんだが、たいていパーカッションの藤井玉緒とギタリスト(間宮工が三回?)、一回だけゲスト付き、という編成だったから、「なんだなんだ?ナニが出てくるんだ?」と興味が湧いたが、パンフを買う金がもったいないのでやめた(注2)

 そんでもってはじまると、やっぱし音が小さい。というか、オレの席まで音が届かないのだ。
 普通のロック・コンサートで味わう「おらぁ、こっち来んかい!」と胸倉を掴まれて引きずり込まれる、あの感じがないのだ。見下ろすと、芥子粒ほどに見えるアリーナ席ではじゅうぶんに音楽を堪能しているらしい。
 「構造上の問題であろうか?」首をひねってみたところで判るわけもない。
 ちなみにバック陣は、中央の元ちとせを中心に、リック・ウェイクマンよりはちょっと控えめなキーボード、ベース、ドラム、キーボード、パーカッションが取り囲み、後ろにストリングス・カルテットとホーンセクションという豪華絢爛さ。しかし、しかしだ。
 いいのか、これで?

 つらつらと考えてみるに、この「冬のハイヌミカゼ」は、元ちとせのファースト・コンサートであり、事務所だのレコード会社だのといった彼女の周囲も、ひとつの「門出」として万全の体制を取ろうとしていたに違いない。
 ホーン、ストリングス合わせて10人を超えたとかいうバックバンドを仕切るのは、キーボードのDr.Kyon(元ボ・ガンボス)。リズム隊にはベースに井上富雄(元ルースターズ)、ドラムに上原“ユカリ”裕(元シュガー・ベイブ)。パーカッションの藤井玉緒ももれなく付いていて、他の人たちは忘れちゃったけど、なんとなく聞き覚えがありそうな名前がぽつりぽつりと。
 つまり、いつもの「手打ち蕎麦名店式最小限ユニット構成」ではなく、「幕の内弁当どころかおせち料理式フルバンド構成」でのステージングだったのだ。それも結構贅沢な。
 ホントーにいいのか、これで?。
 いや、終わってしまったものにいまさらケチを付けてもしょうがないとはオレも思うし、事務所だかレコード会社だかの気持ちも判らぬではない。
 しかし、しかしだ。

 なんか中途半端だったような気がするぞ。

 たしかに、ライブにおいては、繊細さというのは再現が難しいのは判る。ダイナミズムで押し切ることにしました、というのは理解できる。ポップ・ミュージックのライブでは、そうなるのがむしろ当然なのだ。あるいは、単に席が悪かったのかもしれん。NHKホールの構造上の問題だったのかもしれん。ナニしろ”ぱいぷおるがん”を設置したホールだからな。
 しかしね、オレの気分としては、きつねうどんの出前を頼んだら五目ちゃんぽんが届いた、てなもんだ。しかも、「今日はちょいと、評判の高い店のを取ろうか」と見栄を張って、遠くの店に出前を頼んだから、届いた頃には「なんだかさめて伸びちまってた」てな気分だ。

 怒涛のメジャー・デビュー年を締めくくる形で、都内でも交通の便の良い、そして最大のコンサート・ホール(注3)でのファースト・コンサート。実力派ミュージシャンを大勢、サポートに付けて。なおかつ、東京公演は、大安吉日を選んで(注4)

 じつに、大切に扱われているのがよく判る。それは、わかる…。
 でもさぁ、と考え込みつつ、オレは完全に雨の上がった帰り道を辿ったのだ。



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注1.
ネリヤ★カナヤの武田まゆみ(奄美大島名瀬市出身)は、雨女を通り越して「災害女」と呼ばれるほどの実力の持ち主。雨を呼び、風を呼び、雪を降らせ、台風の進路を変えることが可能だと噂されている。また、RIKKI(奄美大島瀬戸内町出身)も、ライブ当日の降水確率が高いことで知られる。そういえば元ちとせ(奄美大島瀬戸内町出身)自身も、この年6月の「一万人のフリー・ライブ」で一時ではあるが雨が降ったことを都合よく思い出した。
 なお、武田まゆみに関しては、昨年の奄美ツーリング中、あまりにも雨に祟られるので、「悪口を言ってごめんなさい。雨を止めてください」とメールを送った(武田まゆみは、千葉県にいた)ら、ホントに晴れてきたことがある。おそれいったか。




注2.
「給料日、三日過ぎたら給料日前」とは、オレがモノした名句である。無断使用厳禁。




注3.
武道館だの代々木オリンピック・プールだの東京ドームだのは、コンサート・ホールとは呼ばないかんね。そこんとこヨロシク。




注4.
ところが、大阪公演11/29は、仏滅だった。これはひょっとして、オレの深読みのしすぎか?!




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