Drugs for Diabetes Mellitus (DM)

1、糖尿病(Diabetes mellitus)

糖尿病は、インスリンの欠乏により、慢性的に高血糖を来す疾患であり、
種々の特有の代謝異常を伴う疾患群である。40才以上では10人に1人が糖尿病である。

糖尿病の診断は、A)と B)を合わせて行う。
A)以下の3項目のいずれかがあれば糖尿病型とする。
 1) 空腹時血糖値が 126 mg/dL 以上の場合
 2)非空腹時血糖値が 200 mg/dlL 以上の場合
 3) 経口ブドウ糖負荷試験 (OGTT) 2時間値が 200 mg/dL 以上の場合

B)上記の糖尿病型に下記の項目のいずれかが加われば糖尿病とする。
 1)違う検査日で糖尿病型が2回確認された場合
 2)糖尿病の特徴的な症状(口渇、多飲・多尿、体重減少など)がある場合
 3)HbA1cが6.5%以上の場合
 4)過去に糖尿病と診断された病歴がある場合
 5)糖尿病性網膜症がある場合
 

糖尿病は、成因により4つの型に分類される。

1型糖尿病(Type 1) 

膵β細胞破壊に基づく糖尿病で、自己免疫機序、原因不明もの。
生命維持のためにインスリン注射が不可欠である。

2型糖尿病(Type 2)

膵β細胞からのインスリン分泌低下と、肝臓、筋肉や脂肪組織に
おけるインスリン抵抗性による。高血糖状態が持続すると、
インスリン抵抗性を助長し、これがインスリン分泌を低下させると
いう悪循環になる。

その他の特定機序、疾患による糖尿病

遺伝子異常が解明されたもの。他の疾患や状態に伴うもの。

妊娠糖尿病

妊娠中に発病、あるいは発見された耐糖異常


       



2、インスリンの生理作用と分泌機序
1889年、von Mering and Minkowskyが、膵臓を摘出した犬が、糖尿病になることを見出した。
1922年、Banting and Bestが膵外分泌管を結紮し、外分泌腺を破壊して、インスリンを抽出した。
インスリンは、12回膜貫通型のglucose transporterにより、細胞内に取り込まれる。

タイプ

組織分布

性質

GLUT4

筋肉、脂肪

インスリン依存性取り込み。血糖下げるのに最も重要な働きをしている。

GLUT1

インスリン非依存性取り込み。BBBでの糖の輸送。

GLUT2

膵臓

膵β細胞でのインスリン遊離の調節。


グルコースによる膵β細胞からのインスリン分泌とsulfonylurea類の作用点
血中のglucose濃度が上昇すると、glucoseは膵β細胞のグルコーストランスポーター(GLUT2)により細胞内に取り込まれ、ミトコンドリアでATPが産生される、ATP濃度が増加すると、ATP感受性 Kチャネル(内向き整流性K+チャネル、Kir6.2)が閉じる。Kチャネルが閉じると、脱分極が生じ、これが電位依存性Caチャネルを開き、Ca++が流入し、高濃度存在するInsP7(IP7)を介して急速にインスリンの遊離が引き起こされる(Science, 318,1299,2008)。
経口糖尿病薬であるtolbutamideは、スルフォニルウレア受容体(SUR1)に結合し、Kチャネルを阻害(閉鎖)する。


Insulin(左)とその受容体(右)
Insulinは、A鎖(上)とB鎖(下)からなり、両端近くでそれぞれ -S-S-結合(赤線)で結ばれている。
Insulin受容体は、αとβサブユニットの四量体からなる。Insulinがαサブユニットに結合すると、βサブユニットがtyrosine kinase domainにより自己リン酸化され、活性化される。さらに、このtyrosine kinase は、IRS-1やIRS-2などをリン酸化し、続いてPI3-kinaseとAktの活性化を引き起こし、転写因子のFoxo1やFoxa2をリン酸化することにより、糖新生や脂肪酸の酸化を抑制する。インスリン抵抗性症候群では、Foxa2が細胞質にとどまり不活性化されている。(Nature, 432, 1027, 2004)
その他にインスリンは、細胞内に取り込まれているGLUT4 を細胞膜にリクルートすることにより、グルコースの
取り込みを促進させる。



3、糖尿病治療薬
1) インスリン製剤(Insulin preparations)

1型糖尿病および、血糖値が制御しにくい2型糖尿病では、インスリン頻回注射による強化療法が行われている。
強化療法で厳格に血糖コントロールすることにより、網膜症などの細小血管合併症の発症や進展を阻止できる。

分類

製剤

内容など

作用時間

作用開始時間

超速効型
(Ultra short acting)

insulin lispro
insulin aspart

ヒトインスリンB鎖C末の
アミノ酸2ヶを置換し、
6量体から単体に解離しやすく
したもの。

5hr

15-30min

速効型
(Fast acting)

regular insulin
semilente insulin

可溶性結晶zinc insulin
無結晶insulin + zinc ions

6-18hr

1hr

中間型
(Intermediate acting)

isophene insulin(NHP)
lente insulin

insulin + protamine
30% semilente + 70% ultralente insulin

18-24hr

2hr

持続型
(Long acting)

ultralente insulin
insulin zinc protamine
insulin glargine

難溶性結晶zinc insulin
insulin glargineは、遺伝子組換insulinで皮下で結晶化し、ゆっくり溶け、作用は24時間持続する。

36hr

7hr


副作用
低血糖
  血糖の低下が速いときは、epinephrineが遊離されるので、その症状が出る: 発汗、脱力感、空腹感、頻脈など。
  血糖の低下がゆっくりのときは、脳の症状がでる: 頭痛、視力障害、錯乱、昏睡、痙攣など。
注射の局所の皮下脂肪萎縮や全身のアレルギー反応がみられる。



2)経口抗糖尿病薬(oral antidiabetic drugs)

経口抗糖尿病薬は、2型糖尿病で、運動および食事療法で効果が不十分な時に用いる。

種類

薬物

作用機序や副作用

Sulfonylureas

第1世代:
tolbutamide
acetohexamide
第2世代:
glibenclamide
gliclazide
第3世代:
glimepiride

膵β細胞を刺激し、insulin分泌を促進し、血糖値を下げる。図のように、
ATP-sensitive K+ channelのSUR1 に結合し、Kチャネルを阻害し、
結果として細胞の脱分極から、電位依存性Ca++ channelを開き、細胞内
Ca++を増加させ、insulin分泌を引き起こす。
副作用は、低血糖、血液障害、肝障害、アレルギー反応などである。 

Biguanides

metformin
buformin

嫌気性解糖系を促進させ、glucoseを乳酸に分解し、肝臓からの糖放出を
抑制する。2型糖尿病に用いる。
副作用は、乳酸アチドーシス。

α-glucosidase inhibitors
(α-GI)

acarbose
voglibose
miglitol

消化管上皮で、デンプン、マルトースなどをα-glucosidaseで分解し
単糖にして、吸収する。この酵素を阻害することにより、糖の吸収を遅
らせる。軽症の2型糖尿病に用いる。
副作用は、消化器症状、アレルギー反応がある。劇症肝炎にも
注意が必要。

Thiazolidinediones

pioglitazone

インスリン抵抗性改善薬と呼ばれ、peroxisome proliferator-activated
receptorγ(PPARγ)と特異的に結合する。脂肪細胞の分化を促進
したり、GLUT4やlipoprotein lipaseなどの発現を増大させたり、TNF-α
産生を減少させることにより、インスリン抵抗性を改善する。副作用として、
肝障害や浮腫がある。

Phenylalanines

nateglinide

速効型インスリン分泌促進薬で、インスリン分泌パターン改善薬とも
呼ばれる。作用点はSulfonylureasと同じである。
2型糖尿病の食後血糖の改善に用いる。


  
   tolbutamide



        


4、話題
英国で、40-75才の2型糖尿病の患者約1,400人にスタチン系薬物(atorvastatin)を3.9年間投与し、プラセボ群
(約1,400人)と心血管イベントの発生率を調べたところ、37%の低下がみられた。冠血管系疾患は31-36%減少、
脳卒中は48%減少、死亡率も27%減少した。2型糖尿病におけるスタチン療法の有効性が報告された。
(H.M.Colhoun et al, Lancet, 365, 685, 2004)

肥満と2型糖尿病では、Glut4トランスポータが選択的に低下している。Glut4ノックアウトマウスにおいて、
レチノール結合蛋白4(RBP4)が上昇しているのを見出した。肥満と2型糖尿病においても血清RBP4が上昇していた。
Rosiglitazone(インスリン感受性薬)の投与でRBP4レベルは正常化した。正常マウスにRBP4を過剰発現させると
インスリン抵抗性を来した。Fenretinide(尿へのRBP4の排泄を増加する薬)は、高脂肪餌で飼育でした肥満マウス
の血清RBP4を正常化し、インスリン抵抗性と糖不耐性を改善した。以上のことより、RBP4は、脂肪細胞由来の
シグナルとして2型糖尿病の病態に関与している可能性がある。 (Q.Yang et al., Nature, 436, 356, 2005)

カロリンスカ研究所のグループは、2型糖尿病患者で筋肉のDiacylglycerol Kinase δ(DGKδ)発現が低下して
いるのを見出した。糖尿病ラットでは、血糖値を正常にすると、低下していたDGKδ活性が回復した。
また、DGKδヘテロマウスを作成して調べたところ、インスリン感受性やインスリン伝達機構や糖輸送が
減少しており、後に肥満になった。さらにDGKδノックアウトマウスでは、インスリン抵抗性やエネルギー
代謝の異常を示した。以上のことより、糖尿病では、高血糖によりDGKδ活性が低下し、インスリン抵抗性が
生じると考えられる。 (A.V.Chibalin et al, Cell, 132, 375, 2008)


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(2008/2/18)