気分障害治療薬(Drugs for Mood disorders)  English

躁うつ病は、人口の約2-3%に見られ、感情障害を主症状とし、周期的経過をとるこ とが多い。人格の荒廃を来さない。

A.抗うつ薬(Antidepressants)

1、うつ病の症状
 ほとんどすべての活動と娯楽への興味や喜びの消失、他人に理解できない苦悩や悲哀 感、
 強い自責の念、朝に症状が強い。思考障害はない。15%が自殺を企てる。

2、抗うつ薬の発見と生体アミン仮説

1)生体アミンを枯渇させるreserpine投与でうつ状態になる。

2)抗結核薬のiproniazidを投与した患者の気分が高揚する。
   この作用がMAO阻害によることが明らとなる。

3)imipramineなどのアミン取り込み阻害薬が治療効果を示す。

4)うつ病患者で、脳脊髄液中の、NEとその代謝物(HVA、MHPG)の減少がみられ る。

5)うつ病患者で、脳脊髄液中の5-HIAA減少がみられる。

6)PET解析で、側頭葉や中縫線核において、5-HT1A受容体の減少がある。

7)原因遺伝子:不明であるがXBP1、DEP1、CREB1などが報告されている。
     

3、うつ病の治療薬

抗うつ薬の分類

作用機作、特徴および副作用

三環系抗うつ薬
  (tricyclic antidepressants)

NEと5-HTに対しては、取り込み抑制が受容体遮断作用より強い。
抗ACh、抗His作用がある。正常人にはほとんど作用なし。
効果が出るのに3-4週かかる。その間、思考力や集中力の低下をきたす。
抗コリン作用は強く、口渇、便秘、頻脈、排尿障害などがみられる。
その他、起立性低血圧(α1の遮断による)。緑内障には禁忌。

四環系抗うつ薬
  (tetracyclic antidepressants)

ACh性受容体の遮断作用は弱い。抗5-HT、抗α2、抗Hist作用がある。
有効スペクトルが広い。不安、不眠、食欲不振に有効。
速効性で抗コリン作用は少ない。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬
  (selective serotonin-reuptake
   inhibitors, SSRI)

副作用が少ない。不安障害(パニック障害、恐怖性障害、
外傷後ストレス障害、強迫性障害など)にも有効。
Lithiumや他のserotonin作用薬との併用によりセロトニン症候群
(錯乱、発熱、ミオクローヌス、筋硬直など)が生じることがある。

セロトニン・ノルアドレナリン再取り
込み阻害薬
  (serotonin-norepinephrine
   reuptake inhibitors, SNRI)

第4世代薬であり、5-HTとNorepiの取り込みを同程度に阻害し、他の受容体
との親和性を示さないのが特徴である。抗うつ効果はSSRIよりも強く、
5-HT1Aの脱感作が速いために、より速効性である。
抗コリン作用はほとんどない。
卒中後のうつ病にも有効。不安障害にも有効。

 (注)MAO阻害薬のsafrazineは、肝障害や薬物相互作用を起こしやすいので、製造中止となっている。

  

 
   
imipramine 

    
   
fluvoxamine 


4、imipramineの作用機作の模式図

imipramineは、12回膜貫通型アミントランスポータを
抑制することにより、
遊離されたNAや5-HTの再取り込みを
阻害する。




Imipramineの治療効果発現までに時間がかかる理由
Imipramine投与初期においては、5-HTの再取り込み抑制によりシナプス間隙の5-HTが
増加するが、これにより前シナプス膜の5-HT1A autoreceptorが活性化され、神経発火頻度
の抑制と5-HT遊離の抑制が起こるので、シナプス間隙での5-HTのレベルは増加しない。
しかし、1-2週間経つと、シナプス前のautoreceptorは脱感作され、発火頻度と5-HT遊離の
抑制がとれ、シナプス間隙の5-HTが増加するようになる。さらには、後シナプス膜の5-HT受容体
のsensitizationも生じるために、5-HTの作用が増強される。
また、後シナプス膜のβ受容体のdown regulationも生じる。β受容体の変化は抗うつ作用の
基本に関係していると考えられるが詳細は不明である。



5、各薬物の薬理活性の比較

 分類

薬物

取り込み
阻害など

NE RI

(nM)

5-HT RI

(nM)

鎮静作用

抗Mus作用

三環系

imipramine

HT>NE

   37

      1.4

++

+++

desipramine

NE>HT

    0.8

    17.5

+

+

amitriptyline

HT>NE

  35

      4.3

+++

+++

nortriptyline

NE>HT

    4.4

    18.5

++

++

四環系 

mianserin

シナプス前
α2阻害

    71

4000

+++

+

maprotiline

NE>HT

    11

5900

++

++

SSRI 

fluvoxamine

5-HTに
選択的

 1300

   2.2

+

+

paroxetine

5-HTに
選択的

  40

      0.1

+

0

sertraline 5-HTに
選択的
 900    1.0 + 0

SNRI 

milnacipran

NEとHTに
選択的

   83

     9.1

0

0

duloxetine NEとHTに
選択的
    7.5      0.8 0 0
  抗Mus作用:抗ムスカリン作用、 
   RI:取り込み阻害をIC50値(nM)で表示。数字が小さいほど阻害作用が強い。

 

B.抗そう薬(Antimanic drugs)

1、そう病の症状
 
不眠、多弁、他人への干渉、観念奔逸、病的意欲亢進、社会的逸脱行為などが見られ る。

2、治療薬
 1)Lithium carbonate
 1949年にLithiumがそう病に有効なことが発表され た。  

薬理作用

そう・うつ病ともに有効である。
作用発現までに数日から数週かかる。従って、急性患者には向精神薬を用いる。
70-80%のそう・うつ病の発病を押さえる予防効果がある。
治療の初期血中濃度は、0.8-1.2meq/Lである。
類似した薬物は現在のところ知られていない。

副作用

体内に蓄積されやすく副作用が出やすいので、
TDM(Therapeutic drug monitoring)が必要である。
1.5meq/Lを越えると中毒症状がでる。
悪心嘔吐などの消化器症状、多尿、振戦、全身倦怠などが生じる。
長期投与により、皮膚症状、瀰漫性甲状腺肥大や
心臓、腎臓の障害がでることがある

作用機序

Na-K-ATPase活性抑制、
adenylate cyclase活性抑制、
phosphatidylinositides代謝回転抑制、
GSK3活性抑制、
IMPase活性抑制などがあげられているが、正確な機序は不明である。

 2) Mood-stabilizing anticonvulsants carbamazepine, valproate, clonazepam
  てんかんで、そう病を発症した患者が、抗てんかん薬でそう症状が改善したことか ら、
  用いられるようになり、気分安定薬と呼ばれている。抗てんかん作用に比べて、抗そう作用は発現
  までに時間がかかるので、抗てんかん作用とは、作用機作が異なると考えられている。
  最近、これらの気分安定薬が、lithiumと同じく、IP
3レベルの低下を引き起こすことが示された。


C、話題
Substance P のneurokinin 1型(NK1)受容体の阻害薬のMK-869が、抗うつ作用を持つことが知られている
(Science, 281, 1640, 1998)。NK1受容体のノックアウトマウスの解析から、NK1受容体の阻害により、
シナプス前部5-HT
1A自己受容体のdown regulation が起こり、5-HTの遊離が促進され、抗うつ効果が現れる
ことが示された(J. Neurosci., 21, 8188, 2001)。

抗うつ薬のfluoxetineおよびimipramineを数週間マウスに投 与すると、歯状回の subgranular zone(SGZ)の神経新生
が起こる。これと比例して抑うつ行動の改善が見られた。SGZにX線照射すると、抗うつ薬の効果が消失した。
これらのことより、抗うつ薬の作用に海馬における神経新生が関係していることが示された。
(L.Santarelli et al., Science, 301, 805, 2003)

うつ病では、セロトニンシグナル伝達系の異常があることが知られている。5-HT-1B受容体は、自己受容体として
知られているので、この受容体と結合する遺伝子を探索したところ、p11(S100-EFハンド蛋白ファミリー)を見出した。
両者の結合部位は細胞膜であった。p11は、抗うつ薬や電撃痙攣刺激によりラット脳で増加したが、うつ病モデル
動物脳やうつ病患者脳では減少していた。p11の過剰発現により、5-HT-1B受容体の反応性増加がみられ、
また抗うつ薬投与で見られるマウスの行動を再現できた。p11ノックアウトマウスでは、うつ病様の行動、
5-HT-1B受容体の反応性低下、抗うつ薬効果の減少が見られた。以上のことより、p11による5-HT-1B
受容体のダイナミックな調節が、うつ病の病態に関与している可能性を示唆している。
(P.Svenningsson et al, Science, 311, 77, 2006)

Download for Acrobat Reader



(2006/12/8)