麻酔薬(Anesthetics)
A.全身麻酔薬(general
anesthetics)
中枢神経系全般に働き、かつ非特異的にCNSを抑制する。
1、吸入麻酔薬(Inhalation
agents)
肺から吸収・排泄が速く、麻酔の震度調節が容易であるが、装置が必要である。
1842年アメリカのLongがエーテルを初めて首の腫瘍摘出に使用。
1844年とWellsが笑気を抜歯に使用。1846年Mortonがエーテルを抜歯に利用。
1847年イギリスのSimpsonはクロロホルムを無痛分娩に使用。
1956年 Halothaneが新しい吸入麻酔薬として登場した。
2、吸入麻酔薬の強さ
麻酔薬の強さは、最小肺胞濃度(minimum alveolar
concentration、MAC)により定量的に示される。
MACは、皮膚侵害刺激に対する反応が、投与された患者の50%に見られなくなる場合の
吸入麻酔薬の肺胞濃度である。MACが小さいほど吸入麻酔薬の作用が強い。
3、血液への溶解度
血液/ガス分配係数(blood/gas
partition
coefficient)は、平衡状態に達した吸入麻酔薬の濃度に対する
血液中の吸入麻酔薬の濃度の比であり、吸入麻酔薬の導入と麻酔からの回復の指標となる。
例えば、血液/ガス分配係数が小さいnitrous
oxideは、吸入麻酔薬の導入と麻酔からの回復が速い。
1)Ether
Etherは、引火性であり、導入と覚醒に時間がかかり、現在では用いられないが、Guedelの麻酔深度の
記載は有用である。
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Ether麻酔の深度 |
状態 |
|
第I期(痛覚消失期) |
意識は不完全ながら保たれる。酩酊様状態、痛覚は弱くなる。 |
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第II期(興奮状態) |
意識はなくなる。高位中枢からの抑制が除かれるので、興奮状態となる。 |
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第III期(外科的手術期) |
延髄の呼吸・循環中枢を除き、全般的に抑制される。 |
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第1相 |
筋肉の弛緩、眼振、呼吸は確保 |
|
第2相 |
筋肉の弛緩、眼球の固定、手術によい時期である。 |
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第3相 |
著しく筋肉の弛緩、瞳孔散大 |
|
第4相 |
呼吸が弱くなる、血圧が低下 |
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第IV期 |
延髄の麻痺、あらゆる反射の消失 |
3)halothane
笑気は、引火性のない揮発性麻酔薬である。麻酔作用はかなり強い。
鎮痛、筋弛緩作用は弱いので、笑気や筋弛緩薬を併用する。
呼吸中枢の抑制作用があるので、呼吸管理が必要である。
気管支拡張作用があるので、喘息や肺気腫にも使用可能である。
心筋抑制作用と血管拡張作用があるので、血圧の低下をきたしやすい。
心筋伝導系のアドレナリン感受性を高めるので、不整脈を起こしやすい。
子宮筋の弛緩作用があり、弛緩性出血をおこす場合がある。
ときには、肝機能障害や悪性高体温症を引き起こすことがある。
肝障害のために、最近では、enflurane、さらにisofluraneに代わっている。

halothane
4)isoflurane
心筋抑制がほとんどない。体内で代謝されないので肝障害が少ない。
halothaneより導入、覚醒が速い。脳血流の増加作用あり。
用量依存性の呼吸抑制作用あり。

isoflurane
5)sevoflurane
我が国で最も多く使用されている。導入と覚醒が速い。用量依存性の呼吸抑制作用あり。
強い鎮痛作用ある。CO2吸着剤のソーダライムやバラライムにより分解され、腎毒性のある
compound Aが生じる。
4、吸入麻酔薬の性質まとめ
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MAC |
血液/ガス分配係数 |
麻酔作用 |
鎮痛作用 |
筋弛緩作用 |
導入・覚醒 |
代謝 |
|
halothane |
0.75 |
2.54 |
+++ |
+ |
+ |
fast |
20 |
|
methoxyflurane |
0.16 |
13 |
++++ |
+++ |
++++ |
slow |
− |
|
enflurane |
1.68 |
1.9 |
+++ |
++ |
+++ |
fast |
2.4 |
|
isoflurane |
1.16 |
2.11 |
+++ |
++ |
+++ |
fast |
0.17 |
|
ether |
1.9 |
15 |
+++ |
+++ |
++++ |
slow |
− |
|
nitrous oxide |
105 |
0.47 |
+ |
++ |
- |
very fast |
0 |
B.静脈麻酔薬 (intravenous anesthetics)
1、barbiturate静脈麻酔薬
超短時間作用のthiopentalやthiamylalが用いられる。呼吸抑制と循環抑制がある。
副交感神経刺激作用とヒスタミン遊離作用がある。
2、ketamine
phencyclidine誘導体である。意識消失や鎮痛作用の他に、活発な大脳辺縁系の覚醒波を示すので、
解離性麻酔薬(dissociative
anesthetics)と呼ばれる。体表面の強い鎮痛作用を示す。
脊髄後角からの上位中枢に至る痛覚伝達を抑える。
3、propofol
他の麻酔薬と構造が全く異なる。thiopentalに匹敵する速さで麻酔効果が得られる。呼吸抑制作用がある。
肝障害作用はない。麻酔の維持導入に用いられている。GABA-A受容体に働くと考えられている。
最近、全静脈麻酔(total intravenous
anesthesia)としてよく用いられている。

propofol
4、fentanyl
fentanylは麻薬性鎮痛薬で、完全静脈麻酔(total
intravenous anesthesia)として用いられている。
5、neuroleptanalgesia
(NLA)
強力な麻薬性また、fentanylは、完全静脈麻酔(total
intravenous anesthesia)として用いられている。
鎮痛薬(fentanyl)と鎮静薬(droperidol)の併用で、意識の存在下で、周囲に無関心となり、
手術可能な無痛状態をもたらす。心臓への直接作用はないが、fentanylは呼吸抑制作用がある。
C.麻酔薬の作用機序
1、Meyer-Overtonのリポイド説(1900)
麻酔薬の作用強度は、その薬物のオリーブ油への溶解度に比例する。
この説は、多くの矛盾点も存在する。

2、膜蛋白説
麻酔薬が膜蛋白質の受容体やイオンチャネルに働く。最近はこの説が有力である。
1) GABA-Aやglycine受容体に働き、チャネルの特性を変化させる(Nature, 389, 385, 1997)。

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GABA-A(Glycine)受容体のenfluraneに感受性のあるアミノ酸(赤色数字) |
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このK+チャネルのαサブユニットは、4つのドメインから形成されている。各ドメイン(図)は、4つのセグメントから形成され、2つのP領域(イオンフィルターとして働く)を持っている。 |