メタボと女性の腹囲 | ![]() |
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本年4月から「特定健診」が始まりました。男性の腹囲は85cm以上を、女性は90cm以上をメタボの基準値として採用しています。諸外国では女性の腹囲は男性の腹囲よりも10cmくらい小さい値を用いていますので、日本の基準値はおかしいとの議論が多く出されました。しかし、4月から腹囲は原案通りの値で実施されています。 女性の腹囲が男性の腹囲より多いのは、審査の甘い国内論文(Circ. J., 66, 987, 2002)に発表された阪大医第二内科からのデータがそのまま採用されたからです。この論文では、臍の位置でCTをとり、男女とも100平方cmに相当する腹囲を、男性85cm、女性90cmとしました。しかし、女性の内臓脂肪量を男性と同じ100平方cmとするのが適切かどうかの疑問が出ます。それ以外に、この論文に対して、症例数が少ないなどのクレームが出されました。しかし、結局は肥満学会の会長である阪大医第二内科の松沢名誉教授の主張が通ったのでしょう。かってのコレステロールの基準値(220mg/dL)は、中年女性に対してかなり厳しい設定でしたが、今回の女性の腹囲は、逆にゆるい設定になっています。 私の勤務する人間ドックで、4月から本格的に腹囲を測定しています。これまで男性221名、女性125名と人数は少ないのですが、表1に腹囲の基準値にひっかった人のなかで、他の検査値に異常のある人の割合を示します。
男性で腹囲85cmを超える人は、実に53%です。一方、女性はわずかに10%です。ちなみに、腹囲90cm以上の男性は19%です。日本の女性はスリムであることが分かります。心筋梗塞の発症率の男女比は、1:3~4ですので、女性の腹囲はこれでも良いと松沢氏は述べていますが、腹囲90cm以上の女性で、HDL(善玉)コレステロール値が40mg/dL以下の人はゼロです。一般に、女性はHDLコレステロールが高いので心筋梗塞になりにくいのです。ちなみに腹囲85cm以上の男性ではHDLコレステロールが40mg/dL以下の人は14%もあります。女性に比べて男性の心筋梗塞発生率の多さはHDLコレステロール値で何とか説明できると思います。肥満度(BMIが25以上)で比較すると、腹囲90cm以上の女性では肥満の割合は92%です。腹囲85cm以上の男性では、肥満の割合は60%です。男性では肥満でないのにおなかの出ている人が多いことが分かります。 脳卒中の割合には男女差はありませんので、女性の腹囲90cmは緩るすぎることが分かります。したがって、将来の心血管疾患や脳卒中の発症をかなり見逃がす危険性があります。特定健診の受診者のデータは、電子ファイルとして、厚労省に集計され、将来の心血管疾患や脳卒中の発症リスクとの関連性が統計的に調べられる予定です。女性の腹囲値90cmは近い将来修正される運命にあります。 人間ドックの検査値の異常項目数を見ると、女性は男性の1/5くらいですので、女性の腹囲の基準値を85cm位にするのが適当と私は考えますが、科学的根拠があるわけではありません。 仮に男性の腹囲を90cmに、女性の腹囲を85cmにして、しかもHDL(善玉)コレステロール値を、男性は40mg/dL以下、女性を50mg/dL以下を異常として調べてみました(表2)。
わが国では、検査値の基準値に男女差を導入すると、医者が複雑に感じるとの理由で、ほとんど男女差を考慮していません。しかし、HDLコレステロールには男女差をつける方がより正確に将来の発症リスクを拾い上げることができると思います。また、高血圧は女性にリスクをもたらす可能性がありますので、注意が必要です。 現在、男性の腹囲と女性の腹囲の修正値がいくつか提案されていますので、載せてみます。 いずれも女性の腹囲は男性より小さく設定されています。専門家でもこんなに基準値の違いがでるのです。
さて、将来どの値になるのでしょうか? ついでに、腹囲は測定する度に値がかなり変わります。測定する人により最大4cmくらいの誤差がでます。こんな不正確な値を判定基準の第一項目にするのも大きな問題です。 (2008/7/5) |
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