「主様……」
 夜中、突然―――いや、突然というのは正しくない―――俺は楊明が来るのを、きっと知っていたのだから。
 それならばいつものように、というべきであろう。
 ……まぁそれはともかくとにかく楊明はココに来たのである。
 この、俺の部屋に。――いつものように、顔を蒸気させながら。

「今日も……シテいただけますか?」
 潤うような瞳で楊明は俺を見つめた。
 月明かりに照らされたその顔は……普段のどこかあどけない少女とは思えないほど非常に扇情的だ。
 月には、そのような魔力があるのだろうか、それとも俺の抱くイメージのせいだろうか。
 ……正しいことは分からないが、今の楊明は間違いなくぞっとするほど艶かしかった。
「主様……?」
 俺が何もいわないが不安だったのだろう、泣きそうな顔で楊明は俺のほうを見つめた。
 その姿は非常に愛らしく、普段の傍若無人な楊明は影も形もない。
「……もちろん、するさ」
俺は少し、戸惑いながらもそう応えた。

 ――瞬間、彼女の顔が非常に満ち足りた顔になる。――まるでその一言で彼女はすでに報われたかのように。
「――で、今日は何をすればいいんだ?」
「――何でもいいんですよ、主様の思われるままに。主様の望まれることを私がするのが今の私のよろこびですから、……どんなに、しようがいつものように誰も起きたりはしませんし」
「いつものことながら準備がいいな……」
俺は苦笑する。
「主様のせいですよ、私をこのようにした……」
そういって楊明は顔を横に向ける。
「……じゃあ、始めるか」
「はいっ」
瞬間、彼女の顔がよりいっそうほころんだ。

「で、ここがこうなりますのでフェルマーの最終定理が証明できました」
「…なぁ楊明。実際問題としてこんなこと教えなくてもいいんじゃないか?」
瞬間、楊明が怒った。
「主様がやってほしいっていったんでしょう!」
「イヤ、どんな問題か気になっただけだし」
「なんですか、全く。だったら今度は実験装置で宇宙が誕生する瞬間でも見てみます?」
「いや、この前やった核爆弾の爆発実験(注:発案者楊明)みたいになるの嫌だし」
あのときの実験は思い出したくもない。
「主様がいつも変なことしか尋ねないのが問題なんですよ、そんなことじゃ、財布をなくしたとき「こんな時楊明がいてくれたらなぁ」なんて考えを素で思いつくような大学院生になっちゃいますよ」
……なんのことやら。
「大体主様がちゃんと定期的に授業を受けてくれれば、夜中に突然私が授業をやらなくても…」
楊明の話によるとあまりにも俺が何も聞かないので禁断症状が突発的にでてくるらしい。
だから俺も付き合っているわけなのだが……正直の話やめてほしい。
楊明に定期的に色々聞けばいいのだが、ついついほかの事優先させてしまうんだよなぁ…。
どうしたものか…。



<主様の睡眠を妨げるのはいけません!>



あとがき
私がいけない楊明ときいて掲示板の6523で書いたSSの加筆修正版です。
一緒に掲載したいということで少し書き直しました。
……いやぁdaicさんがあそこまでいけない楊明を書かれるとは思っておりませんでした(苦笑


それでは



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