「ふあ…」
太助の口から自然とあくびが漏れてくる。
大きなソファーを独り占め、ゆったりと腰掛けて背をもたれている体勢であり、
しかも特に何をするわけでもなくボーッとしている状態ならば無理もない。
今日は休日。誰もが各々の思うままの時を過ごし、満喫するはずの日である。
しかし今太助のそばには誰もいない。
七梨家の住人はそれぞれ、試練の考案だとか、宿直をサボりすぎて呼び出しをくらったとか、
スーパーの特売日であるために意気込んで買い物に出かけただとか、
太助とシャオのためになる計画立案のために某宅へゴーだとか、
そんなわけで、一人太助は留守番しているのであった。
いや、唯一離珠だけは居る。いつものようにシャオが太助のそばにと呼び出したのだ。
しかし彼女はテーブルの上でお休み中。
あちこちに落書きされた紙が広がっている。さっきまで太助の相手としてお絵かきに奮闘していたのだ。
今は疲れてすやすやと小さな寝息を立てている真っ最中なのだ。
愛らしいその姿を見て、“俺もちょっと一眠りしようかな”などと太助が思ったその時であった。
がちゃり
扉の音がした。リビングの扉が開く音が。
誰だろうと太助が見やると、そこへ顔を覗かせたのは、フェイだった。
長めの髪をゆらしながら、いつもの無表情、そして相変わらず同じ服であり、相変わらずの態度を見せている。
ただ、太助にとっては彼女がそこに居ることが、この家に居たことに首をひねった。
この家には今、太助と、彼の前で寝ている離珠以外に誰もいるはずはなかったのだから。
「フェイ?那奈姉と一緒に出かけたんじゃなかったっけ?」
「………」
不思議に思い太助は尋ねるが、彼女は無言のまま。
ただじいっと彼の方を見つめているだけ。
何故か気まずくなる太助。更に声をかけようとしたその時であった。
フェイは懐からあるものを取り出した。
それは世間一般では眼鏡と称されるもの。視力矯正のために用いられる道具だ。
太助の知り合いでは約一名くらいしか身につけていない。
が、フェイが取り出したそれは、見慣れたものとは明らかに違っていた。
レンズにぐるぐるぐるとうずまき模様が描かれている。これではものを見るどころではない。
“一体何だ?”と思いながら、やはり太助が言葉を発しようとしたとき、フェイはそれを装着した。
そして、太助より早く言葉を紡ぎ出す。
「ミステリィ〜」
「………」
太助は沈黙した。いや、させられた。
声を発しようとしたことなどはるか彼方へ飛んでいってしまった。
優秀な探偵といえど、この事象を探し出すことは難しい、いや無理なことであろう。
しばし流れる沈黙の時間。
そして…フェイはその状態のまま、後ずさりしながらリビングを去った。
がちゃり
再び扉の音がする。今度は閉まる音が。
先ほどまで太助が感じていた眠気は、もはや跡形もなく消え去ってしまった。
<これがはじまり>
後書き:いいんかねえ、こんないいかげんな始まりで(苦笑)
ただの声優ネタです。再逢ドラマCDでのフェイの声と、「魔探偵ロキRAGNAROK」の大堂寺繭良の声が
同じ堀江由依さんがやってるってだけのことですから。
(分からない人には分からないネタなんだよな…)
まあでも、自分が書いてる短編ものは声優ネタに限らず突拍子もなかったり、
はたまた意味不明なのが多かったりするので多分分からなくても関係ないかと(謎)
で、これは単に短編のはじまり〜ってことなので、深くは気にしないでください。
2003・4・19
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