以前も飲んだことがある気がするものがでてきた。
前回は確か、後ろから羽交い絞めにされた上に無理やり口の中に突っ込まれたんだったっけ。
……冷静に振り返るとあんまりいい気分じゃないな。
まぁこの本にかかわって起こった事は、圧倒的に悪い方向に向かってるのが多いわけだが。
『●豆乳
たっぷりと水に浸けた
大豆を粉々に潰し
煮込んで作った飲み物』
「…何か前も同じ説明文だった気がするぞ」
ったく、手抜きで出すぐらいならもっとページ削ってさっさと終わってくれればいいのにな。
そんなことを思いながら、とりあえず学校の帰りに買って行こうと思い、スーパーへ向かうことにした…。
「さぁ、祐一さん。豆乳いっきの準備ができましたよ」
「たくさん用意しましたので、どんどんいっきお願いしますねーっ」
「……」
気が付くと俺はどこかの部屋の中でイスに座っていた。
そして目の前のテーブルには、何かが入った無数のコップが並べてある。
そのテーブルの両脇にいるのは…
「栞と佐祐理さん…?」
「はい」
「こんにちは、祐一さん」
俺は状況が全く把握できず、ただ聞き返すことしかできなかった。
「…えーっと、これは?」
「豆乳ですよーっ」
「いや、そういうことじゃなくて」
「祐一さんが今日は豆乳を飲むと聞いたので、ぜひ豆乳いっきをと思って用意してみたんです」
どうやらいつのまにか情報が漏れていたようだ。
その漏れた情報が、彼女らいっきシスターズの耳に入ってしまったということらしい。
恐るべし、いっきシスターズ!!
……
「それにしても随分とコップがあるけど、これ全部豆乳?」
「はいっ。さっき栞さんと2人で買ってきた○文の豆乳シリーズですよ」
「パックのままだと何味かわかっちゃって面白くないと思ったので、コップに入れてみました」
そんな遊び心はできれば発揮してほしくないんだが…
なんせ中には明らかに色がおかしいのが混ざってるわけだし。
「さぁ、祐一さん、このクジを引いてくださいっ」
そういって佐祐理さんはどこからか箱を取り出してきた。
「クジ?」
「はいっ。当たった番号の豆乳をいっきしてくださいねーっ」
ここまで来るともはや回避不可能と悟った俺は、諦めて箱の中に手を入れ、
そして箱の中で一番最初に触れたクジを手に取った。
「5番って書いてました」
「5番ですね。はい、どうぞーっ」
渡されたコップの中身は、豆乳の白っぽい色はちょっと違った少し濁った色をしていた。
…もしかしていきなりハズレ?
しかし、両脇にいる2人が期待のまなざしで俺のいっきを待っている以上、
飲まなくてはならないのが世の常。
意を決した俺は、その謎の液体をいっきに飲み込んだ。
ゴクッゴクッゴクッ
「ふはぁ…」
コップ1杯程度の量だったので、意外とあっさり飲み終わることに成功した。
しかし、この後味はかなり薄めだけど…
「…バナナ豆乳?」
「正解ですーっ。さすが祐一さんですね」
「ちなみに、バナナ果汁は4%入ってますよ」
4%…なんか中途半端だな。
「それでは、次のいっきお願いしますね」
「…やっぱり全部飲まなきゃダメ?」
「もちろんです。祐一さんのためにせっかく集めてきたんですから」
俺のささやかな抵抗はあっさりと却下された。
やむなく次のクジを引くことにする。
「おっ、8番だ」
「えっと、8番はこれですね」
そう言って栞が持ってきたコップには、ほんのりオレンジ色のついた豆乳が入っていた。
なんとなくその色から、フルーツ牛乳ならぬフルーツ豆乳じゃないかと推測。
ゴクッゴクッゴクッ
「ぷはぁ…」
どうやら予想通りフルーツ豆乳だったようだ。しかしちょっと後味がすっぱい気がするなぁ。
「なぁ栞、これってフルーツ豆乳だよな」
「はい、そうですよ」
「何のフルーツが入ってるんだ?」
「えーっと…このパックによると、オレンジ・みかん・りんご・パインの4種類みたいですね」
ほぅ、意外といろいろ入ってるんだな。
そのせいか、さっきのバナナ豆乳よりはこっちのほうがおいしかったし。
そんなこんなで2杯目も無事クリアした俺は次のクジを引くことにした。
「さて、今度は2番か…っと、これはコーヒー豆乳っぽいな」
そのコップには茶色の液体が注がれていた。見た目は普通のパックのコーヒー牛乳と遜色ない。
ゴクッゴクッゴクッ
至極普通っぽかったので、あっさりと飲み終わる。しかも結構おいしい。
これはうっかりスーパーで見かけたら買いそうだ。
「佐祐理さん、これなかなかおいしいですよ。
甘ったるくない分、そこらのコーヒー牛乳よりいいかも」
「そうですかーっ、喜んでもらえて佐祐理うれしいです」
さて、お次は何番のを飲むことになるのかな…
「3番…って何か変な色してるんですけど」
さっきのコーヒー豆乳から一転、緑がかった液体がそのコップには入っていた。
よくよく見ると抹茶色にも見えなくもない。
ということは抹茶豆乳ってことなのかなぁ…。
ゴクッゴクッゴクッ
「うむ、やっぱり抹茶豆乳だ」
しかもちょっと甘いけど飲めないことはない味だし。
そんなわけで、見た目的にハズレくさかった抹茶豆乳があっさりクリアできたことに
調子をよくした俺は、残った豆乳を片っ端から片付けていった。
紅茶豆乳にココア豆乳や牛豆乳(牛乳+豆乳らしい)、ごま豆乳に玄米豆乳と、
よくもまぁこんなに種類をそろえたもんだというのが素直な感想だった。
さすが、日本の豆乳売り上げシェアの約半分を占める紀○フードケミファだな。
そしてついに豆乳も最後の1杯になった。なったんだけど…。
「佐祐理さん、これなんです?」
「何って、豆乳ですけど…」
豆乳、いや飲み物として明らかに色がおかしい。
美術の時間が終わった後の絵筆を洗った水のような、というか。
どこかの古池から汲んできた水のような、というか。
この物体を的確に表すいい表現が思いつかない。
ただ一つ確かなことは、もしこんなのを教室で飲んだとしたら、
クラスメート全員から非難を浴びること間違いなしだということだった。
「祐一さん、今日のラストいっき、頑張ってください!」
オチが明らかに見える展開に躊躇している俺に、栞が応援の言葉をかけてきた。
だから、そんな期待のまなざしで見つめないでくれって。
ただそうは言ってもこの場から逃げることはできないので、覚悟を決めるしかないんだが…
恐る恐るそのコップを手にとり、息をゴクリと呑む。
「ええぃ、ままよ!」
そしていっきに流し込む!
ごきゅごきゅごきゅ
……
……
ガクリ
「うわぁぁ、祐一さんがぁ!」
「だ、大丈夫だ。まだ、なんとか生きてる」
てかマズすぎだろ。思わず逝ってしまいそうだったじゃないか。
「うーん、おかしいですねぇ」
佐祐理さんはあいかわらずのマイペースで首をかしげていた。
「体にいいと思ったんですけど…」
「あのー、佐祐理さん?」
「はいっ?」
「これって、何味なんですか?」
「これは、健康が気になる人におすすめの青汁豆乳ですよーっ」
いや、無理。
<いそふらボ〜ン♪>
06.02.17