「久々に聞いたことのない料理がでたなぁ」
まぁどう考えても料理じゃないものなら、これまでたくさん見てきたんだが…
名前から判断しててっきり蛸めしのことかと思ったんだが、どうやら違うらしい。
「でもこれなら自分でも作れそうだな」
というわけで今回はスーパーで材料を買って自分で作ってみることに決定!
なんか最近は簡単な料理でも誰かに頼ろうとするあまり自爆、
ってパターンもよくあるらしいしな。
俺は早速スーパーによって帰ることにした。
「挽き肉、レタスにトマトとチーズっと。材料はこんなもんでいいかな」
スーパーでの買い物を終えて帰路につく俺。
夕飯に作ると秋子さんに連絡を入れたら、相も変わらず一秒で了承が返ってきた。
「ていっても、これだけだと夕飯にはちょっと物足りないかなぁ…」
そう思って秋子さんに電話しなおそうとした時、
ざっ
足音がしたので振り返ってみると、舞が傘を持って立っていた。
今朝の登校時間には雪が降ってたから、傘を持っててもおかしくはないだろうが。
「お、舞じゃないか」
「……」
「そうだ、今日うちに来ないか。今日は俺が当番の食物を作るから食べていけよ」
「………が護る」
「ん?」
「蛸さんは私が護る」
「……は?」
「蛸さんは私が護る!」
「ちょっと待てぃ!!」
なんか激しく勘違いしてますよこの人は。
「なあ舞、俺は別に蛸を食べようとしてるわけじゃないんだ」
「でも、今日の料理が蛸さん」
「違う違う、名前だけ見たらそう思うかもしれないけどこれは…」
「祐一、言い訳は男らしくない」
「だから、違うんだって!」
「…問答無用」
びゅっ!
そのまま勢いよく傘を振り下ろしてくる。もちろん全力で避ける!
びゅっ!
さらに第二撃が鋭く迫る。これも必死に避ける!!
びゅっ!
切り返しで第三撃が襲ってくる。これもまた華麗なステップで避ける!!!
がきっ
避けた傘はそのまま電柱に鈍い音をたてて激突した。
どうやら傘の骨が折れたらしい。
「…祐一、許さない」
「いや、今のは不可抗力というか、俺は悪くないというか…」
「祐一も折る」
なんか凄いこと言われてるんですが。
「こうなったら…全力でBダッシュ!」
「…逃がさない」
こうして俺としては納得いかないものの、
動物さん守護活動部部長とのレースが始まってしまったのだった。
「ハァハァ、こ、ここまで来ればなんとか…」
商店街を走りまくって必死に舞を撒いたあと、家の近くまでなんとか行くことが出来た。
あと少しで家に着くけど、そろそろ体力的にもきついのでここらで休憩をすることにした。
「舞を撒いた、って言ってもダジャレじゃないぞ」
誰へでもなくフォローしてみる。ていうか言ってる本人が寒くなってきた…
「全く、何をくだらないことを言ってるのですかね」
「げ、久瀬」
誰かと思えば某メガネ野郎がそこに立っていた。
「君はまた何か不愉快なことを考えていませんか」
「そんなことないぞ。それに今はお前にかまってるヒマはないんだよ」
こんなとこで時間潰してたら、せっかく撒いたのに追いつかれてしまうからな。
「奇遇ですね。僕も君と話してるような時間は全く持ち合わせていませんよ」
「そうか、じゃあな」
こんなやつは無視して、早く家に帰ってお目当てのタコライスを作らないと…
がっ
その音に何だか嫌~な予感がしたので振り返ってみると、
舞が折れた傘を道に突き立てて立っていた。
「…追いついた」
少し疲れてるようだが、その目は未だに獲物を狙う目のままだった。
「おやおや、川澄さんではないですか。こんなところで何をしてるんですか?」
「祐一を折る」
またきっぱりと断言してくる。
しかも、蛸を護ることよりそっちがメインになってる気がするぞ。
「校内暴力はいけませんよ。生徒会長として見過ごすわけにはいきませんしね」
「祐一をかばうのなら、久瀬も仲間?」
「いや、僕は別に相沢君の仲間というわけではなくてですね、ただ暴力は…」
「それなら久瀬も折る」
「だから暴力は…」
「…覚悟」
そして舞は俺たち二人めがけて傘を振り上げる。絶体絶命のピンチ!
「あーっ、舞、こんなところでどうしたの?」
と、そこに後ろから佐祐理さんがやってきた。
ぴたっと振り上げられた傘が止まる。
なんとか助かったみたいだ。
さすが佐祐理さん、あなたは女神だ…って何か久瀬っぽくてヤだな。
佐祐理さんは現在の舞と俺と久瀬の状況を見て、ぽつりと一言。
「…スイカ割りの練習?」
いや、どう見てもそうは見えないと思うんですけど…
「違う」
「じゃあ何なの、舞?」
「祐一と久瀬が蛸さんを食べようとしてたから、成敗しようとしてた」
「へぇーっ、そうなんですかーっ」
「いえ、僕はそんなことは一言も言ってませんよ。全ては彼が悪いのです」
「違うんだよ佐祐理さん、実は今日の食物のこれを舞が勘違いしただけで…」
俺は佐祐理さんに今日の食物のページを見せた。
料理名には首をかしげてた佐祐理さんも、説明文を読んで
少なくとも蛸は使わないことを理解してくれたようだ。
舞もこうやって読んでくれたらよかったんだけどなぁ…
「ねぇ、舞。祐一さんたちは、蛸を食べるわけじゃないみたいだよ」
俺から本を受け取った佐祐理さんが、舞に今日の食物の説明文を見せてくれた。
『●タコライス
炒めた挽肉と刻んだレタス、トマト、チーズなどの
タコスの具材をご飯にのせた沖縄独特の料理』
「…蛸さんが入ってない」
「だから言ったろ、蛸じゃないって」
「うん」
やっと納得してくれたみたいだな。よかったよかった。
しかし、簡単な料理のはずだったのに、やはりあっさりとは終わらなかったか…
「そうだ、佐祐理さんもうちに来ませんか。俺がタコライスをご馳走しますよ」
「ありがとうございます、祐一さん。舞も来るよねーっ」
「はちみつくまさん」
佐祐理さんたちと家に到着した俺は、さっそく材料を持って台所に向かった。
まずはレタスを千切り、トマトを角切りに。
そしてスライスチーズも千切りにしてこれで上乗せ具材の準備は完了。
次に牛挽き肉をフライパンで炒めてタコスミートを作る。
秋子さんに聞いたところ、味付けは塩コショウでもいいらしいけど、
チリパウダーを使ったほうが味が出るとのことだったので、
用意してくれていたチリパウダーをささっとかけて味付け。
肉が炒め終わったら、お皿の上にご飯を盛ってその上に今炒めた熱々ミートをトッピング。
その上からレタス・トマト・チーズを好きな順番でのっけて、最後にチリソースをかけて完成!
とまぁここまでおよそ10分程度。ご飯というより軽食って感じの食べ物だな。
出来上がったタコライスを人数分盛って食卓へ運ぶ。そしてさっそくみんなに食べてもらうことにした。
その感想は…
「うん、なかなかおいしいよ、祐一」
「そうね、お肉の味付け具合もいい感じね」
「ボクにはちょっと辛いかも…」
「祐一でもあんなに簡単に作れるんだったら、今度は真琴が作ってみようかな~」
「…みまみま」
「初めての料理でもこんなにおいしいなんて、さすが祐一さんですねっ」
「おいしいのは認めますが、まぁこれくらいの料理なら僕にでも作ろうと思えば作れますね」
とまあ結構好評だったりした。
やっぱ自分の作った料理がみんなに喜んで食べてもらえると嬉しいよなぁ。
と、そんなことを再び感じた夜だった。
<団らんの一時>
04.09.09