『イチゴラーメン』

「お前は馬鹿か」
とりあえず料理を見て一番に思いついた言葉を口にしてみた。
なんかつい最近同じ言葉を言ったような気がするがな。
「大体こういう料理はもっと適任者がいるだろうが!」

『●イチゴラーメン
採れたて新鮮のイチゴを使ったラーメン
つぶしたイチゴとスープが一体となり
縮れ麺によくからむ』

あいかわらず何考えてるかわからなさすぎるぞ、この本は。
こうやって平然と常識の範囲外の料理を出してきやがる。
「どうしたの、祐一? また変な料理にあたったの?」
俺の声で本の存在に気づいたのか、横から名雪が本を覗いてくる。
そこに書かれてる料理を見た名雪の目がみるみる輝いていく。
そりゃお前にとってみれば至福の料理かもしれないが…
「今日の夕御飯はイチゴラーメンに決まりだね♪」
すっかり上機嫌の名雪。こいつはイチゴなら何でもいいのか?
…多分いいんだろうな。
「しかし、わざわざ夕飯に決めなくてもいいだろ」
「どうして?」
「俺と名雪はともかく、他のみんなまで食べることもないだろうに」
「えー、でもこの前はあゆちゃんも真琴もおいしそうに味見してたし…」
いや、あれは明らかに嫌がってたぞ。
「それにまた秋子さんにこんな変な料理を頼むのもなぁ…」
「お母さんのことだから、ちゃんと作ってはくれると思うよ」
でもこの前いつも頼ってるって言われたばっかりだし、さっそく頼むのもなんか…
「どうしたの、名雪、相沢君…ってまぁ原因はその本なんでしょうけど」
そこにどこかから帰ってきた香里がやってきた。
「で、今日はどんな料理なの?」
「イチゴラーメンだ」
「…それはまた名雪が喜びそうな料理ね」
「実際喜びまくってるしな」
俺は横で鼻歌交じりに次の授業の準備をしている名雪を見て言った。
「しかし問題はこれをどこで食べるかなんだが…」
「秋子さんに頼んだら作ってくれるんじゃないの?」
「それはそうなんだが、毎回変な料理を頼るのも悪いかなと思ってなぁ」
「ふーん」
それに、秋子さんに頼むとうっかり余計なものまでついてくることがあるしな。
香里は少し考えてるような雰囲気だったが、何か思いついたようだった。
そして俺に向かって言った。
「…イチゴラーメンを置いてるラーメン屋、教えてあげましょうか?」
「置いてる店を知ってるのか!?」
というかそれ以前に実在する料理だったのか!?
香里が店を知ってることよりそっちのほうが驚きだ。
「少し前に夕方のローカル番組で紹介されてるのを見たのよ。だから場所は知ってるわ」
「へぇ〜。で、どんな味なんだ?」
「さぁ」
「さぁって、テレビでやってたんだろ?」
「あたしは途中までしか見てないの。名雪に教えてあげようと思って
店の場所だけはちゃんとメモしておいたけどね」
そういうと香里はノートを1枚破り、サラサラと店の地図を書いていった。
「はい、多分これでわかると思うから」
「お、ありがとな」
地図には商店街の入り口からその店までの道が書かれていた。
これを見る限りだとそんなに遠くはないようだな。
「香里は来ないのか?」
「あたりまえでしょ。そんな変な料理は自分の時だけで十分よ」
その気持ちもわからんでもないな…
香里もいろいろとこの本には苦労させられてるようだな。
あんまり無理に誘うのも悪いのでおとなしく引き下がることにした。
まぁ代わりにあいつを誘ってやることにしよう。
道連れは多いほうがいいし、ちょうどこっちに向かってきてるしな。
「よう相沢、今日の料理はどんなのだ?」
出会って開口一番にそんなセリフとは、さすが伝説のタカリ魔、北川潤だな。
「よう北川、お前今日は運がいいぞ」
「はぁ?」
「今日は俺の機嫌がいいから特別におごってやろう」
「…熱でもあるのか?」
ひどい言われようだ。
まぁ確かに普段の行動から考えれは、俺がおごるなんてめったにないことだしな。
「まぁおごってくれるんなら俺は喜んでいくけどな。で、料理は何なんだ?」
「ラーメンだ」
あえて具体的な名は伏せておく。そこまで言ったら確実に来ないだろうしな。
「なるほど、ラーメンか。じゃあ学校帰りに寄っていくで決定だな」
「あぁ、忘れるなよ」
「俺がおごりを忘れるわけないだろ」
自信満々に言うあたりがさすが北川といった感じだ。

そして放課後。俺と名雪と北川の3人は、香里からもらった地図を頼りにラーメン屋を探した。
そのラーメン屋『どんどこラーメン』は意外とあっさり見つかった、のはいいのだが…。
「…またここかい」
そこは例のたい焼き屋と駄菓子屋がある場所のすぐ近くだった。
向こうに行くとまたひどい目にあいそうなのでそっちのほうを見ずにラーメン屋に入る。
「いらっしゃいー!」
その店内は、ちょっと見る限りではいたって普通のラーメン屋だった。
しかし、見た目に騙されてひどい目にあうのはよくある話なので、警戒に越したことはないだろう。
俺たちがテーブル席に座ると、ほどなくして店員のおにーさんが注文をとりにきた。
「ご注文は何にしますか?」
「そうだなー、しょうゆもいいけど塩もいいよな…」
「イチゴラーメン3つで」
のんきにメニューを開いている北川は無視して、店員にそうつげる。
「は?」
「かしこまりました。オーダー、イチゴ3つ入りまーす!」
北川は今の言葉の意味が理解できないのか、まだ固まったままだ。
名雪はもうすぐ食べれるとあってますます上機嫌だ。
「どんなのが出てくるんだろうね、楽しみ〜」
「俺はびくびくしてるけどな」
「おい、相沢!」
「TVで紹介されるぐらいだからきっとおいしいんだよ」
「物珍しいからだけだと思うぞ、俺は」
「おいこら、人の話を聞け!!」
まったく、うるさいやつだ。
「何だ北川、会話の途中だろうが」
「そんなことより、イチゴラーメンって何だよ!?」
「何って、そのままさ。ラーメンにイチゴが入ってるんだ」
ついでに今日の本の内容を北川に見せてやる。
「…騙したな、相沢」
「俺はちゃんとラーメンっていっただろうが、イチゴラーメンだってラーメンには変わりないさ」
「くっそー、急におごってくれるとかいうと思ったら、罠だったのか…」
今頃気づいても遅い!
なんとなく勝ち誇った気分になる俺。
…こうでもしてテンションあげておかないと、とてもイチゴラーメンとか食べれそうにないしなぁ。
そんなこんなしてるうちに、どうやら目的の物が完成したようだ。
「おまたせしました、イチゴラーメン3つでーす」
そして俺たちの前に問題のブツが置かれた。
しょうゆらしきスープに縮れ麺、ほうれん草と卵とチャーシューまでは普通のラーメンだが…
「…ほんとにイチゴが入ってるんだな」
「さすがイチゴラーメンだね」
数等分したあとに包丁でつぶしたと思われるイチゴが、スープの表面の半分を占拠していた。
スープがHOTではなく冷たいタイプなのが唯一の救いかもしれない。
「早く食べようよ〜」
名雪はもう待ちきれないといった感じだ。
これを見ても喜ぶとはさすがは名雪というか…
「なぁ、俺も食べなきゃ駄目か」
「当然だ。せっかく俺がおごってやったんだからありがたく食べろ」
ここで逃がしてたまるかってんだ。
しかし、俺も覚悟を決めて食べるしかないか。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます♪」
「…いただきます」
おそるおそるスープを口に入れる。果たしてその味は…
「……意外と大丈夫かもしれん」
「ていうか結構おいしくないか、これ?」
そう、その味は予想に反して悪くなかった。
イチゴとしょうゆという、普通は交わることのないような味が、
この場ではすっかり息のあったパートナーのようであった。
冷たいスープってのも大きいのかも知れないな。
「イチゴなんだからおいしいに決まってるよ」
名雪が至福の表情をしながら答える。
でも、その考えは間違ってると思うぞ。
結局そのまま3人ともイチゴラーメンを完食して店を後にしたのだった。
今日はこの本のおかげで新世界を体験してしまったな。
馬鹿にしてすまなかった、イチゴラーメンよ。



<次はみかんラーメンだ!>




余談1:
「お会計2520円になりますー」
「ラーメン1杯840円(税込)…」
「新鮮なイチゴを使ってるから高いんだね〜」
「相沢、おごってくれてサンキュな」


余談2:
「ていうか名雪、いつのまにたい焼きなんて買ったんだ?」
「今さっきそこの店で買ったんだよ」
「一口屋か…」
「だって、こんなのが売ってたら買わないわけにはいかないよ」
「どれどれ…」

『○ダブルイチゴ
イチゴクリームとイチゴジャムの入った
まさにイチゴ好きにはたまらない一品』

「確かに、名雪的には外せない一品だな…」



<次はりんごラーメンだ!>


後書き:つーわけで今回は食物奮戦記番外編『イチゴラーメン』でした。
ちなみにこの話は、本編の『チャーシュー』を先に読んでると楽しみ度UP(当社比)です(^^)
というか、この話を書いたきっかけが、
『チャーシュー』を読む→イチゴラーメンって何だよ…→検索→発見!?→番外編の題材はこれに決定!!
といった流れになってるので(^^;
しかもかなりむりやり書いてます(書こうと思ったのが今日の午前2時すぎ、一通り書き終えたのが午前6時半ぐらい)
実際食べてみたい気もするんですが、さすがにこっちで売ってる店を見かけることはないですからね…
トマトラーメンなら昨日食べましたが(何
というわけで食べたことないので本当においしいかどうかは不明です。
だから、もしイチゴラーメンを食べて不味かったとしても、責任は取りませんのであしからず(^^;

今回は香里と北川が出せたので、まだ出てない登場人物は残り4人。あと2回ぐらいで全員出せるかなー。
それではまた〜

04.01.20