まもって守護月天! SideStory(西暦2000年度バレンタインデー記念作品)
あたしのハートを召しあがれ
初出 2000年02月14日
written by
双剣士
「なあシャオ、俺さ‥‥シャオのこと好きなんだ。ずーーっと前から」(原作コミック63話より抜粋)
中国から来た3人の精霊と鶴ヶ丘中学校の面々による、退屈とは無縁の騒々しい日々。思い通りにならない日常に誰もが不満を抱きつつも、いつまでもいつまでも続くと思っていた、胸がわくわくする平和で穏やかな毎日。さまざまな想いに悩まされつつも、一緒にいれば自然と笑顔が浮かんでくる、楽しくて温かい、大好きな仲間たち。
七梨太助の一言は、その微笑ましい関係に大きな波紋を投げかけた。恋を知らない守護月天シャオリンは太助の言葉を聞いて、依然として残る胸の中のもやもやに戸惑いつつも、この人を信じよう、今は見えない心の内をこの人と一緒に探していこう、そう考えて、小さくとも確かな一歩を勇気をもって踏み出した。
2人を取り巻く精霊や人間たちも、おおむね太助の言葉を好意を持って受け止めていた。自分の好きな人が、本人のほんとうに好きな相手と手をたずさえて歩き出そうとしている。喜びこそすれ、残念がる理由がどこにあろう。
慶幸日天ルーアンと野村たかしは以前から薄々気づいていた胸の奥の想いを、この言葉を機として一挙に昇華させた。そしてそれ以降の彼らは、表向きは以前通りに振る舞いつつも、太助とシャオリンの仲を以前のようにあからさまに妨害することは無くなった。
山野辺翔子と七梨那奈、そして騒動の仕掛け人でもある万難地天キリュウの3人は、こうなるのが遅すぎたと言いたげに顔を見合わせた。そして手探りで霧の中を歩くかのような2人の前に道を指し示すべく、さまざまな企みを嬉々として画策し始めた。これは溢れんばかりの姉弟愛と友情ゆえの行動だ、と自分たちを納得させながら。
だが、この風潮に飲まれまいと抵抗を続ける者もいた。宮内出雲と愛原花織。シャオリンの暴走に巻き込まれて気を失っていた2人は、太助が勇気を出してシャオリンに告げた言葉のことを知らないし、想像しようともしない。彼らにとって、今の状況が面白かろうはずも無かった。
そして、翌年。いかに時代が変わろうとも、年が移ってゆく限り、2月14日は巡ってくる。恋人たちの神聖な儀式の日が。例年にない不況と寒波のお陰で人々の懐は冷え切っていたが‥‥そんなこと、恋心を抱いた美男子と乙女には関係ないのだった。
**
「やぁ、シャオさん。これは奇遇ですね(ふぁさっ)」
街中の女性の心を数知れず打ち落とした、若く美しい神主の誘いの声。それを聞いたシャオリンは、自分のことを呼ばれた、と単純に認識して振り返り、行儀よく頭を下げた。
「あら、出雲さん、こんにちは」
シャオリンは何の悩みもなさそうな笑顔を出雲に向けていた。今日は機嫌が良さそうだ、と思った出雲は、ずずずっとシャオリンのそばに歩み寄り、左半身の姿勢でキラッと白い歯を見せた。
「これはこれは‥‥これからお買い物ですか? 何でしたら、不肖この宮内出雲、シャオさんの荷物を持ってあげてもよろしいのですが‥‥」
「ありがとうございます。でもお夕飯のお買い物を終えて、これから帰るところですから」
買い物かごを両手で持って、出雲の前に差し出すシャオリン。出雲はかすかな期待を込めて中を覗き込み‥‥ちょっと残念そうな表情を浮かべながら、前髪をふぁさっと揺らした。
「これは‥‥シャオさん、失礼ですが大切な何かを忘れてはいませんか?」
「はい?」
シャオリンは買い物かごを覗き込むと、人差し指を口に当てて天を見上げた。口をもごもごさせながら頭の中で反芻する。
「卵は買ったし‥‥あと、今夜のお料理に要るものといったら‥‥」
「いや、そうではなくて‥‥ほらあれ、明日は、あの日でしょう?」
今日は2月13日なのだった。だから必然的に、明日は14日になるわけで‥‥。
「忘れてしまったんですかシャオさん。うら若き乙女が胸をときめかせる、年に一度の大切なあの日を‥‥」
「‥‥?」
「去年もその前もあったじゃありませんか。女の子が好きな男性に、いつもは口に出せない胸のうちを伝えることが許される、神聖なるあの日が‥‥」
熱っぽく語る宮内出雲。ちなみにこの青年、現役の神主である。まぁバレンタインデーが特定の宗教に関係あるかと言うと、そういうわけでもないらしいのだが‥‥。
「‥‥口に出せない、胸のうち‥‥?」
シャオリンの表情が険しくなった。手応えありと感じた出雲は、馴れ馴れしくシャオリンの肩に腕を回すと、空いた手で商店街の店のポスターを指差した。
「ほら、あの店にも、あそこにも‥‥そこら中に張ってあるでしょう、あの日のことを知らせるポスターが」
「‥‥特売日は今日までですけど」
「‥‥そ、そうではなくて‥‥あのケーキ屋さんをごらんなさい。所狭しと並べられた、色とりどりのお菓子の山‥‥その上に看板がでてますでしょう、ほら、セイント・バレ‥‥」
「ああ、バレンタインデー!」
シャオリンはぱっと顔を輝かせると、出雲の腕から飛び出して彼の真正面に瞬間移動した。そして支えを失ってよろめく出雲に、満面の笑顔を浮かべながら一礼した。
「思い出しました、出雲さん! そういえば去年もありましたね、チョコレートを渡す日が!」
「ふっ‥‥(ふぁさっ)」
あわてて体勢を立て直すと、出雲は再び半身の姿勢になって髪をかきあげた。
「ありがとうございました出雲さん。私って、大切なものを買い忘れていたんですね!」
「思い出していただけて嬉しいですよ。なぁに礼には及びません。シャオさんの素直な胸のうちを、形にして私の元に届けていただければ‥‥」
「大変! 急いで太助様に渡すチョコを作らなくっちゃ!」
「‥‥‥‥」
シャオリンの投じた無邪気な豪速球は、美形神主のハートをこっぱみじんに打ち砕いた。シャオリンはもう一度だけ一礼すると、楽しそうな表情を浮かべながら商店街に向かって駆け戻った‥‥かつて宮内出雲と呼ばれていた肉の塊をそこに残して。
**
「ふふん、ふふん、ふふ〜ん‥‥♪」
その日の晩。恋する乙女・愛原花織は、鼻歌を歌いながら自宅の台所でチョコ作りに専念していた。コンロに掛けられた鍋の中に、買い集めたチョコレートの欠片が続々と放り込まれてゆく。熱せられて溶けたチョコレートの香りが台所いっぱいに充満して、花織をハッピーな気分にさせていく。
「うふっ♪ 七梨先輩、待っててくださいね。花織の愛情を、今年こそ、たーっぷりと味わっていただきますから♪」
花織はうっとりとつぶやきながら、溶けたチョコを丹念に掻き回しつづけた。チョコレートが良い具合に溶け合い、香ばしい香りを立てている。そしてコンロの隣には、ハート型をした金属製の型が広げられている。溶けたチョコをその型に流し込み、冷蔵庫で冷やせば出来上がり!
なのだが‥‥。
「うん、うまく溶けたみたい。それじゃそろそろ隠し味を入れようかな♪」
コンロの火を小さく絞ると、にっこりと回れ右をする花織。コンロと反対側に置かれた食卓の上には、すでに隠し味の材料がずらりと並べられていた。花織は腰に手を当てると、それらの材料をひとつひとつ指差した。
「お砂糖、よぉーし」
まずは砂糖で甘みを調節。
「お塩、よぉーし」
ただ甘くするだけじゃだめだよね。逆の味も入れとかないと。
「七味唐辛子、よぉーし」
そうそう、アクセントも入れないと‥‥って、おい?
「ケチャップ、よぉーし」
‥‥確かに甘みにはちがいないけど‥‥。
「刻んだネギ、よぉーし」
なぜにネギが?
「かたくり粉、よぉーし」
‥‥あのぉ‥‥。
「粉チーズ、よぉーし」
‥‥か、花織ちゃんてばぁ‥‥。
「カレー粉、よぉーし」
‥‥もはや実況不能。こんな調子で、花織は食卓の上の皿を次々と確認していき、満足気に微笑んだ。まぁ、確かに世界に2つと無い『花織オリジナル』ができることは間違いないだろうが‥‥ちなみに花織の家族は、試食の生け贄にされるのを恐れてさっさと就寝している。
「うん、ばっちり♪ それじゃ、これからが腕の見せ所だよね♪」
花織はそう胸を張って宣言すると、食卓の中央にあったタバスコの瓶をつかみ、封を切った。そして、
「まずは下味をつけて、っと‥‥」
溶けたチョコの入った鍋に瓶の中身を豪快に投入‥‥この瞬間、鍋の中のチョコレートは『かつてチョコだったモノ』に変わった。チョコメーカーの人たちは、草葉の陰で泣いているに違いない。しかしそんな感傷など、乙女ちっくモードに入った愛原花織は持ち合わせていないのだった。
**
そして、翌日の放課後。
「七梨せんぱーい、お待たせー‥‥って、あれ?」
愛原花織は2年1組のドアを元気よく開けたが、既に教室の中はまばらだった。お目当ての七梨太助の姿はない。花織はきょろきょろと教室内を見渡し、知り合いの姿を見つけると彼の元へ駆け寄った。
「野村先輩! ねぇ、七梨先輩は?」
「あ‥‥花織ちゃんか。ああ、太助のやつならシャオちゃんと手に手を取って、ホームルームが終わった途端にすっ飛んで出ていったぜ」
「しまったっ!」
机に突っ伏していた野村たかしが顔を上げると、1年下の後輩は大きなハート型のチョコを胸の前で握りしめながら、悔しさに唇を震わせていた。ああ、この子は変わってない‥‥ちょっとほっとした気分になりながら、たかしはわざと軽い口調で問い掛けた。
「あれ花織ちゃん、まだ太助にチョコを渡してなかったのか?」
「うぅぅ‥‥せ、先生が悪いんです! 放課後までチョコ没収だなんて、さいてー! おかげでルーアン先生たちに後れを取っちゃったじゃないですか!」
どうやら意地の悪い担任に当たったらしい。だけど、不思議な偶然ってあるもんだよな‥‥たかしはそう心の中でつぶやきながら、自分に八つ当たりしそうになった花織を優しくなだめた。
「だったらまだ間に合うかもな。たぶん太助、いまごろルーアン先生と追っかけっこしてるよ」
「えっ?」
「キリュウちゃんと山野辺の提案でさ、放課後になるまで抜け駆け無しって協定を結んだらしいんだ、シャオちゃんたち。だからまだレースは始まったばっかりだよ」
「本当? ありがとう野村先輩、あたし頑張る!」
花織はこぶしを握り締めると、猛然たる勢いで教室を飛び出し‥‥かけて、ふと立ち止まった。机に突っ伏す体勢に戻った野村たかしの方に、小首をかしげながらゆっくりと歩み寄る。
「野村先輩‥‥どうして、シャオ先輩を追いかけないの?」
花織が自分のことを心配してる。ちょっと意外な展開にどぎまぎしながらも、野村たかしは精一杯いつもの自分を演じて見せた。
「あ、いや、俺はもう、シャオちゃんからチョコもらってるからさ。義理とはいえシャオちゃんの手作りチョコだ。こりゃもう、ゆーっくりと味わって食べなきゃなぁって、思ってた、とこなんだよな。あはは、あはは、はは‥‥・」
「‥‥野村先輩って、嘘つくときにおでこに皺がよるんですよね」
「なにぃ!?」
とっさに額に手をやるたかし‥‥それを見て、花織はくすっと微笑んだ。1つ下の少女にあっさりと虚勢を破られたたかしは呆然と口を開けて‥‥そんな彼の眼の前へ、マッチ箱ほどの小さな白い箱が差し出された。
「可哀相だから、あげます、野村先輩にも」
「‥‥え?」
白い箱は小さな白い手に乗っていた。その手を辿って視線を上に向けると、そこにはたかしの良く見知った‥‥見知っていたはずの少女が、そっぽを向きながらあさっての方向に向かって声を張り上げていた。
「い、言っときますけど、義理、義理ですからね! いい気にならないでくださいよ!」
「‥‥これ‥‥俺‥‥もらっていいのか?」
「要らなきゃいいですけど」
「ありがとう花織ちゃん、恩に着る!」
義理でもなんでも、野村たかしにとって生涯最初の戦果である。見栄も外聞もかなぐり捨て、たかしは震える手で白い箱を受け取った。たかしの愛の天使はもう一度だけ笑顔を見せると、行ってきま〜す、と元気よく教室を飛び出していった。
《きた‥‥この俺が、ついに‥‥お袋以外の女の子からチョコをもらう日が‥‥》
震える手で箱を開けるたかし。中から出てきたのはハート型の小さなチョコ‥‥では無かった。たかしの手に転がり出たのは銀紙‥‥いや、1/5くらいの板チョコの欠片を包装用の銀紙でくるんだ、いかにも『余りものですっ』と言いたげなチョコレートの欠片であった。
「花織、ちゃん‥‥」
複雑な心境で、それでも恐る恐るチョコを口に運ぶたかし。まるでネズミがかじるかのように、板チョコの欠片の隅っこに口をつけて‥‥。
「‥‥うまいっ!!!」
豊潤な味わいがたかしの口の中に広がった。既製品の板チョコがこんなに美味しかったなんて‥‥たかしは神の配剤に感謝しながら、1枚60円の板チョコの欠片を、少しずつ少しずつ丹念に味わった。
**
なんの目算も無く勢いだけで教室を飛び出した愛原花織であったが、太助たちの行き先を示す手掛かりは意外に簡単に見つかった。散乱する椅子、小山のように積み重なった机、2つに割れて無残に踏みにじられた黒板‥‥ルーアン先生の放った陽天心の爪痕が、学校中のいたるところに転がっていたから。
生徒たちが恐れをなして避けて通る残骸の中央を辿りながら、たったたったと軽快に駆け抜けていく花織。その胸にはハート型に固めた『花織の愛の結晶』がしっかりと抱きしめられていた。既に役目を終えて意味も無くうごめいている陽天心の残骸が、花織の眼には乙女の恋路を邪魔しようとして次々と蹴散らされていくお邪魔虫たちのように映った。
「絶好調! 七梨先輩、いま行きますからね♪」
陽天心の爪痕は2年1組を起点として、明らかにひとつの道を指し示している。花織は何の疑問も持たずにその道を辿っていった。3階、2階、裏庭を抜けて旧校舎の1階‥‥几帳面に陽天心の後についていく花織。しかしその道標は、旧校舎3階の階段を上がって右に曲がったところで、ぷっつりと途切れていた。
「あれっ‥‥?」
きょろきょろと辺りを見回す。ここを右に曲がれば、そのさきには理科室と理科準備室があるだけ。その先はどこへも行けない行き止まりになっている。このどっちかに七梨先輩は居るんだ‥‥ううん、でももしかして、理科室の窓から軒轅で飛んでいっちゃってたりしたら‥‥。
「‥‥遅かったわね、お嬢ちゃん」
足元の方から投げかけられた言葉に、花織は『きゃっ』と飛び跳ねた。おそるおそる視線を下に降ろすと‥‥ひときわ大きく積みあがった机と椅子の下敷きになって、こちらを見上げている恋敵の姿がそこにはあった。
「ルーアン先生‥‥?」
「たー様とシャオリンはそこの部屋の中よ‥‥まぁったく、このあたしが根負けするとはね。すばしっこくなっちゃって‥‥キリュウの試練ってのも伊達じゃないわ、やっぱり」
慶幸日天ルーアンは大の字になりながらつぶやいたが、その言葉に残念そうな響きはなかった。何だかいつもの先生と違うなぁ‥‥と思いながら、花織は意地悪く言葉を返した。
「ま、ルーアン先生もうお年だしぃ‥‥若い七梨先輩を追いかけるだけの、体力が‥‥ねぇ‥‥」
「なんとでも言ってちょうだい」
いつになく素直なルーアン。花織は大の字に投げ出されたルーアンの手に眼をやって、ははぁんと納得した。綺麗にリボンの掛けられた赤い箱。おそらく『ルーアンスペシャル』がそこに入っていたのだろう‥‥2つ折りにつぶれてしまった今となっては詮無いことだが。
「あぁらまぁ、お気の毒に♪ それじゃあたし、七梨先輩にアタックしてきますね♪」
花織は極上のウインクを恋敵に投げかけると、理科室に向かって歩き始めた。だがそんな花織の背後から、恋敵の意外な言葉が投じられた。
「愛原さん‥‥あんた、たー様のどこが好きなの?」
「へっ?」
「たー様はあたしと一緒に居れば、世界で一番の幸せを手に入れることが出来たはずなのよ。だけどたー様はあたしの愛を振り切って、起きるかどうかも分からない奇跡を夢見ながら、自分で見つける幸せのほうを選んだ‥‥よりにもよって、恋のイロハも知らないポケポケ娘を相手に、ね」
「‥‥どーゆー意味ですか?」
「あんたって、昔のあたしとやり方が似てるから」
ルーアンは花織の方を見ていなかった。天井を‥‥いやそれとは別の何かを見つめながら、慶幸日天はアルカイックスマイルを浮かべつつ言葉を継いだ。
「歩く道を自分で見つけようとしてるたー様に、愛原さん、あんたは何ができると思う?」
「‥‥あ、あたしは精霊とは、ルーアン先生やシャオ先輩とは違うから! 七梨先輩と一緒に、笑ったり泣いたり歳を取ったりしながら、一緒に歩いていくことができるんだから!」
「‥‥そう。じゃ、頑張んなさい。せいぜい後悔しないようにね」
思いもよらぬ恋敵のエールを背中に受けながら、花織は歩みを再会した。何よ何よもう、ルーアン先生ったら柄にも無いこと言っちゃって‥‥花織の頭は憤慨する気持ちでいっぱいになっていた。憤慨していないと、反発していないと、自分は前に進めないような気がしていた。ここに来るまでに膨張していた乙女ちっくな気持ちは、ルーアン先生の言葉によって跡形も無く消し飛んでいた。
「七梨先輩‥‥」
どきどきするような怖いような、変な気分。胸を高鳴らせながら、花織はそーっと理科室の扉を開けて中を覗き込んだ。
**
「シャオ‥‥」
理科室に飛び込んでから、シャオリンは一言も発しない。恥ずかしそうに俯いたまま、シャオリンは理科室の窓に背を押し当てて黙りこくっていた。太助は内心のもどかしさを押し隠しながら、密かな期待を抱きつつ彼女の言葉を待っていた。
《お話ししたいことがあります。お渡ししたいものも‥‥2人っきりで》
シャオリンがためらいがちにそう太助に告げたのは、最後のホームルームが終わる直前の出来事であった。去年までとは打って変わった静かな2月14日を過ごしていた太助は、その言葉で今日が何の日であるかを思い出した。彼はキリュウたちが画策した“精霊密約”のことなど聞かされていなかったが、それでも男児の本能によって、この言葉に秘められた意味を感じ取ったのである。
‥‥まさか放課後になった途端に、去年までと同様のドタバタ逃走劇が始まるとは思わなかったが。
「‥‥」
シャオリンはまだ口を開かなかった。夕日を背に受けた彼女の銀髪がきらきらと輝き、出来たての恋人の姿を一段と綺麗に見せていた。後光を背負った少女の姿はまるで絵の中から抜け出てきた妖精のようで、ごくり、と太助は思わず息を呑んでしまった。
「き‥‥」
綺麗だよシャオ、という気障な台詞を出しかけて、太助はあわてて口を手で押さえた。なに言ってんだよ俺は、ここは学校だぞ‥‥そう思いつつも、ルーアンの追跡を振り切って辿り着いたこの場所で美少女の姿を眺めているシチュエーションに、太助は不思議な感慨を覚えていた。ここに居るのは俺とシャオの2人っきり‥‥家に帰ったって、もうこんなチャンスは訪れやしない。しかも今日はシャオの方から誘ってくれたんだ‥‥年に一度の聖なる日に。おそらく山野辺あたりが一枚噛んでるんだろうが、それでも構わない。今年の俺は、シャオ以外の女の子からチョコをもらうつもりなんて、ないんだから。
「あの‥‥太助、様‥‥」
「ん?」
「‥‥ごめんなさい、やっぱり言えない‥‥」
シャオリンは再び俯いて首を横に振った。彼女は手を背中に回し、何かを隠すようなそぶりを見せていた。おそらくその手の先には‥‥思わず頬が弛みそうになるのを、しかし太助は精一杯にこらえ続けた。せっかく醸し出されたこの美しい空間に、チョコのことを気にして一喜一憂する自分の心はいかにも浅ましく感じられた。シャオの言葉を待とう、時間はいくらでもあるんだから‥‥太助はそう心に決めて、幾千年のときを越えてきた精霊が勇気を出すのを優しい瞳で見守りつづけた。
‥‥そして、しばしの時が過ぎて。
「これっ!」
シャオリンは突然腕を振ると、両手を太助に向けて差し出した姿勢で、深々と頭を下げた。恥ずかしさのためだろうか、顔を上げないまま彼女は一気に言葉を吐き出した。
「太助様、私‥‥守護月天の私が、こんなこと、いけないことは分かってます‥‥でも今日は、特別な日だって聞いたから。いつもは言えない胸の奥の気持ちを、女の子の方から話していい、そういう素敵な日だって聞いたから。だから‥‥その‥‥」
「シャオ‥‥」
「これっ! 私の気持ちです、受け取ってくださいっ!」
一気に想いを言葉にした守護月天の手が、ぶるぶると震えていた。差し出された両手には、太助の予想通り、綺麗にリボンの掛けられた薄手の箱が乗せられていた。太助はいっそう優しい光を瞳に宿らせると、震える手で差し出された白い箱を、ゆっくりと丁寧に自分の両手に移した。
「ありがとう、シャオ‥‥シャオの気持ち、ありがたく受け取らせてもらうよ」
「本当ですか?」
「ああ‥‥ここで開けてもいいかな、これ?」
姿勢を正したシャオリンは、眼に指をそえながらこくりと頷いた。太助はこれまでないほどに胸をどきどきさせながら、箱に掛けられたリボンをほどき、包装紙のテープを剥がし始めた。
**
冷たい風が、花織のスカートを揺らしていた。
子供たちの笑い声が、まるで別世界の出来事のように、花織の耳に入ってきた。
ここは学校からの帰り道、川沿いの土手。2月の冷たい風の中にもかかわらず、河原で遊ぶ子供たちの表情は眩しいほどに輝いていた。だが傷ついた乙女の心は冷たく冷え切って、ちくちくとささくれ立った痛みを発していた‥‥あたかも彼女が腰を下ろしている、夏までは青々と茂っていた枯れ草の斜面のように。
「あたしの、弱虫‥‥」
夜遅くまでかかって作った、ハートのチョコレート。大好きな七梨先輩に渡す、あたしの真心の結晶。とびっきりの笑顔で『はいっ』って差し出して、七梨先輩が照れながら受け取ってくれる‥‥さっきまでそう信じて疑わなかったのに。
「七梨先輩‥‥」
ふたりっきりの理科室でシャオ先輩を見つめる、七梨先輩の瞳。ほとんど言葉を交わさないのに、それだけですべてが満たされてしまうような、不思議な空間‥‥まるで世界にはあの2人しか居ないみたいで、静寂を破るのをためらってしまうような、とっても綺麗な‥‥あたしの眼を釘付けにした、赤い夕日に包まれた絵の中のような光景‥‥。
「あたしの、ばか‥‥」
入って行けなかった。あの2人の仲に飛び込んだら、一生七梨先輩にうらまれそうな‥‥死ぬまで後悔しそうな、そんな気がして、扉のそばから一歩も動けなかった。こんなのあたしらしくない、先輩が好きなら思い切って‥‥そうささやく声が頭の隅で聞こえたけど、あのときのあたしは金縛りにあったみたいに、身動きひとつすることができなかった。
《愛原さん、あんたは何ができると思う?》
ルーアン先生の一言が頭から離れなかった。あたしに何ができるの?‥‥シャオ先輩みたいに、そばに居るだけで七梨先輩を満たしてあげられるような女性に、あたしはなれるの?‥‥あたしは『うん』と言えなかった。返事をするのがすごく怖かった。きっとなれる、と信じていられた昨日までのあたしは、夕日に照らされた夢のような光景を前に、すっかり意気地を無くしていた。
《これっ!》
そして、シャオ先輩が動いた。背中に隠し持っていたチョコレートを、両手で差し出すシャオ先輩‥‥もう見ていられなかった。あたしは無我夢中で学校を飛び出した。勇気さえ出せばいくらでもチャンスはあったのに、なす術なくシャオ先輩の先行を許した自分が情けなかった。喜んでチョコを受け取る七梨先輩の表情が、まぶたの裏にはっきりと浮かんできた。そんな光景は見たくなかった。それに、もし笑顔の七梨先輩が振り返ってあたしに気がついたら‥‥あたしが持ってるチョコに気がついたら。あそこに留まって、そんな惨めな思いをするのは嫌だった。
「どうしよう‥‥」
あたしの自慢の手作りチョコ。七梨先輩に渡すはずだったチョコを持ったまま、ここまで逃げてきてしまったあたし‥‥弱虫で、臆病で、意気地なしのあたし。もう今更、七梨先輩に会いになんて行けない。
もし行ったら七梨先輩は‥‥ううん、七梨先輩は優しいもの、はにかんだ笑顔を浮かべながら、あたしのチョコを受け取ってくれると思う。だけど、そんなの違う。そんな上辺だけの笑顔はかえって残酷‥‥シャオ先輩に向けた七梨先輩の眼を、あたし見ちゃったんだもの。本当に嬉しいときの輝きを見ちゃったんだもの。あれよりランクが下の笑顔を見せられたって‥‥何万回みせられたって、あたしはハッピーになんかなれっこ無いもの。惨めなだけだもの。
「花織ちゃん?」
そのとき。花織の名を呼ぶ少年の声が、すぐ後ろの方から掛かった。太助の声ではなかった。花織のことを良く見知った、ドジでカッコ悪くてうるさくて‥‥それでいて気がついたらそばに居る、温かい声が彼女を呼んでいた。
「どうしたんだよ、こんな寒い中で。太助には会えたのか?」
‥‥あっちいって、野村先輩。
心の中でそう念じながら、花織は振り向くこともせずにぎゅっと自分の膝を抱きかかえた。尋常ならぬ様子を感じ取った野村たかしは、わざと軽い口調で場を盛り上げようと努めた。
「いやぁ、さっきのチョコ、サンキューな。まぁ俺にとっちゃ、山のように受け取ったチョコの中のひとつに過ぎないんだけどさ。やっぱ義理とはいえ、年下の女の子からもらうってのは格別のもんがあるよなぁ」
「‥‥」
「あ、疑ってるな。嘘なんかじゃないぜ。ほらほら、おでこに皺なんて寄ってないだろ。こっち見てごらんよ、花織ちゃん」
自分の額を指差しながら、花織の背中に顔を寄せるたかし‥‥そして背中越しに覗き込んだとき、たかしの視界に見覚えのある物が飛び込んできた。さっき教室で会ったときに花織が胸に抱いていた、ハート型のチョコレート。それがなぜ、いまだに花織ちゃんの手に‥‥はっと気づいて、たかしは顔を上げた。
「花織ちゃん、それ‥‥」
太助に渡しそびれたのか、と言いかけて言葉を飲み込む。しかしどんな言葉が後に続くかは、あまりにも明白だった。花織の顔がぱぁっと紅潮する。
「の‥‥野村先輩は、関係ないでしょ!」
「ま、まぁ、そりゃそうだけどさ‥‥なんて言うか、その‥‥気を落とすなよな、花織ちゃん」
「違います!!!」
花織は猛然と立ち上がった。焼けるような憤激が全身を駆け巡っていた。よりによってこんな時に‥‥やりきれない想いが一気に吹き上がり、思いがけない言葉となって花織の口からほとばしった。
「これ、違うんです! 七梨先輩に渡すような、そんな、大したチョコじゃないんです!」
「‥‥?」
「これ、本命チョコを作った時の余りで作った、嘘の義理チョコなんです! 嫌いな人に配る、ぜんぜん美味しくない、大失敗の‥‥」
「嘘の‥‥チョコ?」
「そうです。愛情なんか全然入ってない、あたしの嫌な気持ちが一杯つまった‥‥嫌らしくて、恥ずかしくて、みっともない気持ちが‥‥捨てちゃいたいようなあたしの中の気持ちを固めて、嫌いな人に食べてもらうための、チョコなんです‥‥」
あたし、何を言ってるんだろう‥‥心の隅で理性がそう警鐘を鳴らしていたが、次々と口から飛び出す言葉の奔流を遮ることはできなかった。七梨先輩のために作ったチョコがまだ自分の手元にあるなんて、絶対に認めるわけにはいかなかった‥‥とくに、この無神経な先輩の前では。
「‥‥そう、なのか‥‥」
「そうです! バラバラに割っちゃって、何食わぬ顔をして、これから大嫌いな人たちに配って回るつもりだったんです! こんなの早く手放してしまいたかったから‥‥こうやって、バラバラにして‥‥」
たかしに背を向けたまま、花織はハート型のチョコを頭上に振り上げた。七梨先輩に受け取ってもらえないなら、こんなチョコ‥‥半ば自棄になりながら、チョコを土手に叩きつけようと花織は両手に力を込めた。
「‥‥こうやって‥‥」
ぽたぽたぽた。
花織の大きな瞳から、いつのまにか大粒の涙がこぼれ出した。凍りついたように動きが鈍くなった唇に代わって、感情のはけ口が瞳に移ったかのようだった。そしてその瞬間から、振り上げた両手は金縛りにあったかのように動きを止めてしまった。この指を放せば、チョコは下に落ちる‥‥そう分かっているつもりだったのに、花織の指は縫いとめられたかのようにチョコに貼りつき、微動だに動かなくなってしまっていた。
こんなもの、こんなもの、こんなもの‥‥花織の中の意地っ張りな部分がくり返しそう叫ぶ。だが彼女の身体はそんな心の動きを嘲笑うかのように、ぴくりとも動こうとしなかった。花織の身体はあくまで本当の彼女の気持ちに忠実であった。
‥‥そして。花織の指先から、ふとチョコの手応えが消えた。
「‥‥えっ‥‥?」
思わず振り返る‥‥だがそのとき、大きくて温かい何かが背中に押し当てられるのを花織は感じた。振り向こうとする身体の動きを制止され、花織は首だけを横に曲げて背中合わせに立つ少年の横顔を見つめた。
「やめときな、花織ちゃん。前に言ってたろ、俺のことが大嫌いだって‥‥だったら、俺が引き受けてやるから。花織ちゃんの大嫌いな気持ち、俺が1人でもらってやるから」
「‥‥そんな、こと‥‥」
「だからさ。太助にはそんな顔、見せるなよな」
花織は顔を正面に戻すと、真っ赤になって俯いた。
「俺さ、花織ちゃんが羨ましかったんだ‥‥いつだって前向きで、エネルギッシュで、なにがあってもくじけなくって‥‥それが花織ちゃんの良いとこだと思うんだよ」
「‥‥野村先輩の、いじわる‥‥」
「温泉で言ったよな、太助とのこと応援してやるから負けんなって‥‥俺に出来ることなんて何もないかもしれないけど。でも花織ちゃんにこういう面があるって分かって、俺、なんだかほっとしてるんだよ」
「‥‥嫌い、野村先輩なんて‥‥」
俺ってカッコイイ‥‥そうやってすぐに自分に酔ってしまうのが、野村たかしの悪い癖であった。
「ま、義理チョコもらったことでもあるし‥‥今日のことはみんなには内緒にしといてやるよ。だから言いたいことがあるなら、俺に向かって言っちまいな。嫌なもの全部吐き出して、明日からいつもの花織ちゃんに戻ってくれよ。な?」
「‥‥嫌い、嫌いよ‥‥」
「そうそう、嫌なことはぜ〜んぶ俺のせい! そういうことにしとこうぜ、花織ちゃん。どーせ花織ちゃんには、このチョコをばらまくなんて出来っこないんだし‥‥嫌なやつ代表ってことで、俺が全部引き受けてやるから」
「‥‥」
「開けるぜ、このチョコ?」
「‥‥大嫌い‥‥先輩なんか、だいっ嫌い!‥‥」
肩を震わせながら花織はそう断言し、ハンカチで顔を覆った。背中から伝わる振動を肯定の返事と取ったたかしは、チョコレートの包装を解き‥‥ハート型の片側を口の中に差し込んで、ぱりっと歯を噛み締めた。
**
それから、しばらくの時間が経って‥‥涙を拭いた愛原花織は、冷たい風を遮ってくれる大きな背中のぬくもりを感じながら、おそるおそる話しかけた。
「‥‥ありがと、野村先輩‥‥」
「‥‥」
「泣いたら、何だかすっきりしました‥‥そうですよね。こんなのあたしらしくないし、こんなんじゃ七梨先輩を振り向かせるなんて、できませんよね」
「‥‥」
背中の少年は無言のまま、花織に体重を預けてきた。より温かくなる背中のぬくもりを感じ、花織は頬を赤らめた。
「先輩のおかげで、あたし、元気になれそうです‥‥どうしてなのかな‥‥野村先輩と居ると、何だか、あたし素直になれるような気がするの‥‥」
「‥‥」
「不思議なの‥‥何て言ったらいいのかな、野村先輩って、何だか‥‥お兄ちゃんみたい、なんですよね‥‥」
「‥‥」
「同じ恋の苦しみを知ってるから、なのかな‥‥野村先輩って、何でも分かっちゃうんですね‥‥あたし、先輩のことは好きでもなんでもないけど、だけど、何だか‥‥」
「‥‥」
もじもじしながら、花織はたかしと向き合うべく身体をひねった。押しつけ合っていた背中が一瞬離れる。
「こういうのもいいかなって‥‥きゃっ!」
どど〜ん!
花織は自分の眼を疑った。背中の支えを失った野村たかしが、まるで彫像のように眼の前に倒れてきたのだ。後頭部をしたたかに打ちつけたはずのたかしは、それでも頭を抱えたりはしなかった。彼の顔にはあのニヤついた笑みはなく‥‥マネキン人形のように何も映さない瞳と、唇に浮かんだ白い泡を拭おうともしないまま、少年は冬の路上で冷凍マグロのように横たわっていた。
「‥‥」
心配することも忘れて唖然とする花織‥‥その彼女の眼に衝撃的な光景が映った。たかしが右手に持っていたハート型のチョコレート‥‥本来なら七梨先輩が食べるはずだった、花織の自慢のチョコレート。それを持った手が転倒の衝撃で、力無く路上に放り出されていた。そして当たり所が悪かったのか、ハート型のチョコは‥‥半分がたかしの手に、もう半分が冷たい冬の路上に。真っ二つに割れて転がっていた。
「‥‥」
それを見た花織の全身が震えた。込み上げてくる何かをこらえるかのように、花織はほっぺたを膨らませ‥‥そして街中に響き渡るほどの大音声で絶叫した。
「野村先輩の、ばかーっ!!」
横たわるたかしは何の反応も示さなかった。
「信じらんない! さいてー! 何よもう、デリカシーないんだから!」
力の限り叫んだ花織であったが、既に黄泉の国へと旅立った少年には彼女の声は届かなかった。花織は失礼千万な先輩を一顧だにせず、さっさと背を向けると大股で自宅へと歩き去った。あとには花織スペシャルの直撃を受けた屍が残された‥‥そして程なく、冬の北風にさらされた無残な屍の頭に、河原の子供の打ったホームランボールがぽーんと命中した。
**
シャオリンから受け取った白い箱を開封した太助は、われと我が眼を疑った。箱の中央には、銀紙で包んだ真四角の何かがあって、その周りを小粒のチョコレートが取り囲んでいたのだ。てっきりハート型のチョコが中央にあるものだと思い込んでいた太助は、半信半疑で銀紙を取り払った。
「こんなこと、言っちゃいけないんですけど‥‥でも、勇気を出して、言います‥‥」
重苦しいシャオリンの言葉を聞きながら、太助は自分の手にしたものを持ち上げ、裏返し、振ってみた‥‥見間違いではない。これはチョコではなく、真新しい一冊の本‥‥しかも表紙には『試験に出る数学』と明記してある。
「太助様、一体いつまで、中学2年生のままで居るつもりなんですか?」
「‥‥はぁ?」
「去年も、一昨年も、ずぅっと2年1組のまんまで‥‥ちゃんと進級していただかないと、私が那奈さんやさゆりさんに叱られてしまいます」
「い、いや俺だって、好きでそうしてるわけじゃ‥‥」
文句があるなら桜野みねね先生に言ってくれ‥‥そう言いたげな太助であったが、この物語の作者は遠慮がないのだった。
「今度の期末試験こそは、本気で頑張っていただかないと‥‥私も一緒にお手伝いいたします。太助様、今夜からさっそく始めましょうね♪」
「あ、あのぉ‥‥」
「チョコレートを食べれば、疲れた身体も元気になるそうですから‥‥それだけあれば、試験の日まで頑張れますよね、太助様?」
「はぁ‥‥」
七梨太助は守護月天の思いやりを感じ取りながら、両眼から滝のような涙を流した。それと時を同じくして、彼ら2人の担任教師が扉の外で豪快にひっくり返った。
Fin.
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