旅行記ルーアン編? それとも食べ物編?  鶴ヶ丘中学校2年1組。2学期が始まったばかりで、 まだこの頃は残暑が厳しい。本日の授業は全て終了している。 つまり放課後なのである。
「ルーアン先生」
 遠藤乎一郎が、クラスの担任たる。ルーアンに声を掛けた。
「何かしら?」
「ルーアン先生達って、この前徳島に行ったそうじゃないですか?」
「ええ、そうよ」
 事もなげに答えるルーアン。
「徳島では、どうだったんですか?」
 乎一郎は期待に瞳を輝かせながら尋ねた。
「・・・そうね。・・・・」
 ルーアンは、過ぎし日の旅行の頃の記憶を掘り起こした。


1.新幹線(ルーアン編)
 まず新幹線は、退屈だったわね。駅弁は美味しかったけど、 食べる物食べたら、なんだか眠くなっちゃてね。 あと、家を出るのが朝早かったせいもあったかもね。 て、乗ってる時間の半分くらいは寝むってたわ。なんかその間に、 たー様とシャオリンになにかあったみたいだけど・・・そういえば、 紀柳もなんか顔が赤かったわね。何か知ってるかも知れないわね。 あとで問い詰めてやろうかしら?


 で、徳島に着いたわ。一体どんな名物料理が私を待っているのかしら?

 確か、その日の晩はカレー屋だったわね。

 別に名物料理ってわけじゃないけど、あたしはその時なんとなくカレーが 食べたくなったから、お店に入っちゃったのよね。 長旅で空かせたお腹にはカレーは格別だったわよ♪

「あのぉ。先生、一つ質問良いですか?」

「何かしら?」

「気になったことがあるんですけど・・・・その時、紀柳さんは、 一体何を食べたんですか?」

「ああ、あのこ、あのこはたー様に「辛くないものは無いか」 って聞いてハヤシライスを頼んでたわよ」

 人のことなのに何故かホッとする乎一郎、これも彼の優しい人柄か?


 そうね。次の日は、「どさんこ」って御店でラーメンを食べたわ

「徳島なのに「どさんこ」なんですか?」

「ん? 遠藤君、なんで不思議がるの?」

「だって「道産子」って北海道生まれって意味ですよ」

「あらそうなの? 知らなかったわ。道理でたー様とお姉様が苦笑いしてたのね」


 次の日の朝は「翔月」という所で朝ご飯を食べたわ。 お姉様が「まるで翔子とシャオが経営してるみたいな名前だな」 って笑ってたわよ。御店の名前はいまいちだとあたしは思ったけど、 でも、ホテルの名前は最高よ! だって「サンシャイン」ってついてるのよ!  やっぱりあそこの支配人はなにが一番大事かってよく判ってるのよ!

 ルーアンの話を聞きながら乎一郎は思った。 翔月にサンシャイン・・・・これで、大地関係の名前の施設でもあれば 完璧だなぁっと一人、密かにほくそえむのであった。 そしてこんな想像をしてみる。

ホテル「サンシャイン・・・」=支配人ルーアン先生
食事処「翔月」=料理長シャオちゃん
温泉部長(?)=紀柳さん

「ぶっ」

 どうやら、乎一郎の笑いのツボに入ったらしい。
(※ふぉうりんと空理空論さんも同じような事を言って笑ってました)
 乎一郎はなるべく声を殺して笑っていた。

 そうそう古いつり橋を見たわね。あの時はちょっとしたことがあったけど・・・

 祖谷(いや)名物の祖谷蕎麦と「あめご」という川魚を食べたわ。 あめごがとっても美味しかったわ。あと「日本一美味しいかき氷はじめました」 って幟(のぼり)も下がってたわね。そうそう、 あと「いや壮」(いやそう)とかいう、ふざけた看板も見つけたわよ。

 そうそう、あと、シャオリンみたいな地名が近くにあったわね。 たしか、ボケとかなんとって言って・・・・(ひでぇな)

 その帰りの途中に『秘境の湯』っていう温泉に行って、ってこの話は 紀柳に聞いたほうが面白いかも知れないわね。あの時のキリュウったら、 ほんと可笑しかったわよ。

 それから、遊覧船にはあたしは乗れなかったわね・・・・丁度その時、 クリームコーヒーでお腹壊しちゃっててね・・・

 その後、脇町って所にの『うだつの町並み』って言ったかしら、 お饅頭屋さんが閉まってて残念だったのを憶えてるわ。

 帰る日の鳴門の渦潮もとい、強風に煽られに行ったわね・・・・


回想

「なんなのよこの風は!?」
 あたしは髪とスカートを両手で押さえるで精一杯だったわ。
「風がなんだかべたべたしますぅ。太助様は大丈夫ですか?」
 自分の顔をぺたぺた触りながら、たー様を気遣うシャオリン
「ん? 俺は平気だよ。シャオは?」
「私は太助様が平気なら、私も平気です」
 なんて笑顔で返すシャオリン。
「コラ! そこぉ。ラブコメやってんなぁ!!」
 あたしの手の届かない所でいちゃいちゃしやがってぇ(怒) それにしても邪魔な風ねぇ。
「・・・ふむ、この風は試練に使えるか・・」
 なんて風なんかものともせずにしれっとして、 紀柳は自分の世界で独り言を言っていたわ。
「なんだい。なんだい。こんな風くらい。 サハラ砂漠の砂嵐に比べたら屁でもないよ!」
 お姉様も、無茶苦茶なことを言ってわねぇ。
「那奈姉、それ比較の対象が間違ってる・・・・」
 先頭を悠々と歩いてた紀柳は、たー様の方へ振り返って
「なんだ? 主殿これくらいの風で・・・」

ごおぉぉぉぉお

 その時強い風が吹いたわ。

ビシッ!

「ぐわっ!?」

「大丈夫ですか? 太助様!?」

「っ、痛ててて・・・紀柳、これも試練かなのか?」

「今の、わざとでは・・・スマン主殿。・・・その・・申し訳無い」

   紀柳の後ろ髪が強風で舞い上がって、 鞭のみたいにたー様の顔に直撃したのよねぇ。 たー様、とっても痛そうだったわ。不可抗力とはいえ、 流石に紀柳も申し訳ないと思ったのかしらねぇ。


  ・・・・なんてこともあったわね。


 結局渦潮は見れなかったんだけどね。戻ってきたときには、 風で皆物凄い髪型になってわよ。お互い指差して笑ってわね。


 その日のお昼には
「たらいうどん」って名前の名物うどんを食べたわよ。 ほんとそのまま、人数分のうどんがタライに入って出て来たわ。 何故かあたしだけ別のたらいに別けてあったけど・・・・

 乎一郎は一人納得して頷いていた。

「遠藤君?」

「いえ、なんでもありません。それで結局どうしたんですか?」

 あたしの目の前のたらいはすぐに空になったから、 たー様達のたらいを皆で突ついて食べたわよ

「やっぱり・・・・・」

「まっ、今回の旅はこんな所だったかしら」

「それにしてもなんだか、食べ物のことばっかりですねぇ」

「しょうがないじゃない。担当なんだから」(危険発言)

「今、なにか言いましたか?」

「べつにぃ・・・・なんか食べ物のことばっかりしゃべってたら、 なんだかお腹が空いちゃったわ」

「あっ、先生! 僕、この前、新しく開いた食べ放題のお店を見付けたんですよ!」

「え? 食べ放題!? いいわねぇ。行きましょう!」

 二人が出て行こうとした教室の開け放たれた窓から、 セミの声と、風に吹かれて揺らめく木々のざわめきが聞こえてきた。



ー了ー



あとがき
今回はかなり苦しみました。なにせ私自信が小食で食べ物に結構無頓着 なものでから(苦笑)
 なんだか、食べ物編というより旅行記編ルーアン版 といった感じになってしましましたね。
 行程を殆どはしょってる分、所々で旅行記には語られなかった部分や 逆に脚色された部分が入り混じってます。探してみてください(笑)
 渦潮の話は独立した話にしたかったのですが、 小ネタ程度だったのでここに放り込みました。 この話自体が小ネタの集合体みたいなものですからねぇ。 では、次回は上手く書ければ「秘境の湯」編です。
はたして紀柳の運命は!?(大袈裟)
あと、つり橋もとい「かずら橋」はいずれSSにするかも知れません。

2001年9月23日 ふぉうりん
2001年10月6日 細部修正


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