温泉

 それは一つの視覚的衝撃から始まった(大袈裟)
「!!?」
 太助は、自分の目の錯覚かと思った。 何故なら普段ロクに笑わない彼女が今、ニヤニヤと含み笑いをいるのだから。
「紀柳?」
「ん? なにかな? 主殿」
 急に普段の真面目な表情に戻り、返事をする紀柳。 太助はそのギャップに少し驚きつつも言って見る事にた。
「紀柳・・・今、温泉の事考えてただろう?」
「なに!? 何故判ったんだ?  主殿は”読心者”(エスパーのこと)か!?」
(紀柳さんはにはなるべく横文字喋らせたくないんだよぉ ふぉうりん)
 本気で、不思議でしょうがないといった感じで驚く紀柳。 太助は内心苦笑しつつも言葉を続ける。
「いや、今、紀柳の顔がニヤケてたんだよ。気が付かなかったの?」
「・・・うむ、そうだったのか。全く気が付かなかった」
「しかしな、主殿。私は決して、温泉が楽しみで楽しみでしょうがなくで、 顔がニヤケて、なおかつ、鼻歌まで唄いそうにっていたかも知れなくて、 あまつさえ、人目にはばからなかったら’すきっぷ’をしたいくらい 浮かれていた訳ではないぞ」
 おいおい、誰もそこまで突っ込んじゃいないよ。等と内心思いつつも、
「ホントに?」
 つい、追求してしまう。返ってくる答えは判っているというのに
「その・・・スマン・・・今の嘘だ。 私は温泉を非常に楽しみにしていた・・・・それで、思わず・・・」
 みるみるうちに彼女の顔に火が灯り、顔をうつむかせた。 太助は苦笑しながらも、一応取り繕った。
「ははは。紀柳がこの旅行を楽しんでるんだったらそれで良いんだけどね。 つまらない揚げ足とっちゃって、悪かったね」
 と、優しく微笑む。
「いや・・・その・・・主殿・・・うぅ・・・・あぁ・・・・あの・・・」
 意を決して喋ろうとして口を開いたり、それを躊躇して口を噤んだり、 そのまま俯いて、やや伏せ目がちに目をそらして口や頬に手を添えたりして、 顔は一貫して真赤なままだが、実に表情豊かたっだ。しかしながら太助は、 日頃、冷静沈着で無愛想な彼女が、 このように返答に窮してオロオロする姿を見て、不謹慎ながら楽しんでいた。



で、まってましたの温泉

カラカラカラ

 戸が軽快に滑る。彼女は湯気はれやらぬ、その場に足を一歩踏み入れた。 そしてその光景を目にし、彼女は思わず歓喜の声あげた。
「おおっ、誰も居ないとは・・・・これではまるで・・・」
 彼女は言葉の途中で思わずほくそえんでしまった。 しかし、自然と口元が緩む。それは仕方のない事だろう。
「これではまるで、貸し切り状態ではないか!!」
 当然の如く彼女は大喜びだった。



 ちゃぷん。


「はぁ〜〜〜〜〜〜〜」

 どこか熱のこもった長い息を吐く、そして目線もどこか遠い。


「気持ち良過ぎだぁ〜〜〜〜〜〜(ハート)」


 それは彼女の心の底からの本当の声だった。 そしてどこかつやっぽい声になっているのは気のせいだろうか?  しかし、本当に気持ちが良いだろう。

「あぁ、最高だぁ。温泉は最高だぁ〜」

 最早に温泉の魅力にとり憑かれ、トロンとした目で恍惚の笑みを浮かべて、 どこか壊れてしまっている感のある、紀柳を止めるものはそこには居なかった。

「んっ、はぁ〜〜〜〜。やはり温泉は良い」

 紀柳は浴槽で、力いっぱい伸びをした。七梨家の浴槽では、 幾ら伸ばせても流石に限界がある。しかし、ここでは話は別だった。
 暫くして、ふと、彼女は見なれないものを見つけた。
「ん? なんだこれは?」
 浴槽の壁から泡が勢いよく吹き出している。
「こ、これは、もしかすると・・・・てれびで見たことある。 ”じぇっとばす”というものではないだろうか。」
 しかし、彼女の疑問の声に答える者はこの場には、誰一人として居ない。 ここには彼女一人しか居ないのだから。
「まえまえから、一度味わってみたかったのだ」
 紀柳は、喜び勇んでその泡の前にかがみこむ。

 たぷんっ


これより紀柳視点で御楽しみください(笑)

「おおっ、これは!?」
 勢いよく噴出された泡が、体をほぐしてくれる。強すぎず。 そして弱すぎず、それでいて柔らかく・・・・実に気持ちが良い。 温泉の効果とあいまってその気持ち良さは計り知れないものとなった。 そして私の口から出た言葉は
「す、すばらしい!! 実にすばらしい。やっぱり温泉は最高だ。 じぇっとばすも最高だぁ(ハート)」
 絶賛の言葉だった。


 私はこの温泉を独り占めした気分でこころゆくまで満喫した。 実に良い湯だった♪



 温泉1日目、終了

多分続く


あとがき
旅行記ネタ温泉編です。描写のフォローちょっと、前半部分は、 いまいちはっきり書いてはいませんでしたが、宿に向って歩いている場面か、 宿の部屋とでも思ってください。全員集合だと、 話の収拾が付かなくなるので、太助君しかこの場にはいません。 そして、またもや『紀柳ショー』をやってしまった気がします(笑)
 温泉ネタということで、自分でも期せず 入浴シーン書く事になろうとは・・・・欲望の狭間で、 ちょっとえっちっぽい話に転がりそうになって私的に大変危険でした(爆)
(読者の皆さん「むしろ転がってみろ」とか思わないでくださいね。 あっしは一応一般向けのSSしか書かないつもりでいるんですから)

で、次回はちゃんと書ければ『秘境の湯』編です。 でも旅行記読よんじゃうとネタバレしまくりなんだよなぁ (自業自得、そして、苦笑)

2001年9月18日 ふぉうりん


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