楓(フォウ)「楊明様、私(わたくし)をお呼びになられて、一体なんの御用でございましょうか?」
楊明「ちょっと、実験につきあって頂きたいと思いましてね」
楓「実験でございますか?」
楊明「そうです。楓さんが居ないと出来ない実験なんです!」
楓(嫌な予感がするが、表情は変えずに)「それは一体どのような実験でございますか?」
楊明「確か、楓さんの力に『望導憑依(ぼうどうひょうい)』という、
モノに自らを落とし込んで、己の肉体のように操る能力がありましたよね」
楓「はい。左様でございますが、それが一体いかがなされたのでしょうか?」
楊明「特別なマネキンに『望導憑依』を行い、
楓さんが皆さんと同じように暮らせるかどうかを試してみようかと思うのです」
楓「・・・・・」(一考している)
楊明「楓さん?」
楓「しかしですねぇ・・・・」
楊明「同じように暮らすことが出来れば、主様に今まで以上の御助力をすることが可能になりますよ」
楓「それはとても魅力的なお話でございますが・・・」(気持ちが揺れ動いてきている)
楊明「私としても、楓さんともっと色んな事がしたいのです!」
楓「・・・かしこまりました。楊明様が私のことをそこまで思って下さっていたとは・・・・・
私今まで貴方のことを少々誤解していたようです」
楊明「楓さん。それ、嫌味ですか?」
楓「とんでもございません! 私はそのようなつもりで申した訳ではございません。
御気に障ったのでございましたら、謹んでお詫び申し上げます」
楊明「いえ、そんな・・・・。ともかく、ありがとうございます」
楊明は若干腑に落ちない部分はあったが、一応納得したらしい。
楊明「これで実験が上手く行けば、楓さんとたっぷりと遊べますからね!
私としては、それが一番の目的なんですよ」
楓「・・・・・・(呆れている)そちらが真意でございましたか・・・楊明様には敵いませんね」
楊明「いやぁ、それほどでもありますよぉ」
と言いながら頭をかく、楊明。
楓「楊明様一つ質問がございますが、よろしいでしょうか?」
楊明「はい。なんでしょう?」
楓「このように尋ねるのは失礼かもしれませんが、『私と遊ぶ』のではなく、
『私で遊ぶ』の間違いではございませんよね?」
楊明「あっ!! 失礼しました。『私で』と訂正させて頂きます。知教空天にあるまじき行為!
どうもすいませんでした」
と深々と頭を下げる楊明。
楓「楊明様、つくづく貴方には敵いませんねぇ」
楓は肩を竦ませて、呆れとも諦めとも思えるようなため息を一つ吐いた。すると楊明は、
楊明「そうだ! 訂正をして下さってありがとうございました」
と、再び深々と頭を下げた。
楓のモノローグ
(いつかそのお言葉を、後悔なされる日が来ることを御覧にいれましょう)
翌日の放課後、楊明はいつもの荷物に『交天鏡』を加え、屋上へと繰り出した。
今回は秘密の実験なので、観覧者は誰一人として居なかった。
楓「屋上で実験をなされるのでございますね」
楊明「そうです。あそこが一番見つかりにくい場所なんですよ♪」
統天書を手にした楊明はやけに嬉しそうだ。
バタン
屋上へと通じる鉄扉が重たい音を立てて開いた。
楊明「ふぅ、疲れました」
楊明は腕で額の玉の汗を拭い、肩で息をしていた。
楓「楊明様、その程度でお疲れになられてしまって、どうするのでございますか?」
楊明「そんなこと言ったって、楓さんでは開けられないじゃないですか」
楓「確かに仰る通りでございますが・・・」
楊明「だから、今のような危機的状況を回避する為にも実験を成功させねばなりません!」
楊明は力強く握りこぶしを作り、背中に炎の背景を背負って熱く燃えていた。
楓「やれやれ・・・でございますねぇ」
楓はやや半目で一人小声で呟いた。
楓「楊明様! あれが特別なマネキンでございますね!」
と楓は屋上の真中でうつ伏せに倒れている黒い人型の物体を指差した。
楓「大切なもののはずですのに、ぞんざいな扱いでございますねぇ」
楊明「え? 特別なマネキンは私の『万象封鎖』で統天書の中に大切に仕舞ってありますよ」
楓「では、それではあそこに倒れているのは・・・・・」
楊明と楓はお互いに顔を見合わせてる・・・そして二人同時に、倒れている者を凝視する。
楊明「大変です! 人が倒れてます! どうしましょう楓さん」
楓「この場合は、まずあの方が生きてらっしゃるかどうか脈をとり、
然るべき処置を施すべきでございます!」
楊明「わかりました。では早速!」
楓「よろしくお願いいたしますね」
楊明「はい! ・・・・え?」
駆け出そうとした楊明は、彫像のようにピタッと固まった。
楓「なぜなら私はあの方を介抱する事は叶いませんので、仕方ないのではございませんでしょうか?」
楊明「言われてみれば・・・って、一緒に傍に居てついてくるくらいはしてくださいよ!」
楓「確かに楊明様の仰る通りでございますね」
楓は頷く、そして二人で倒れている者の傍へと近づいていった。
その者は黒髪で短髪だが、彼女達の共通の知り合いによく似ていた、
そしてそれを強調すかのように若干差異はあるが見覚えのある服装をしていた。
楊明はその者の脈をとる。
楊明「あっ!!」
楓「!! どうなされました!?」
楊明「この人・・・・」
楓「・・・・」
楓は楊明の一挙一動を注意深く見守っている。
楊明「黒いシャオリンさんみたいです!」
もし楓に肉体があるのならば、彼女が盛大にずっこけた音が聞こえたことだろう。
楓「・・・・・」(撃沈中)
楊明「しかも、黒いという点で私とおそろいです!」
その時何者かの手が楊明の腕を掴んだ。
楊明「うわっ!」
黒髪の少女(以下 少女)「し・『幸せの真っ赤』・・・・ガクッ」
楊明・楓「「・・・・・・」」(滝汗)
さすがにこのままでは本当に危険だと思い、二人は無言で頷きあって、
迅速に手当てを施すのであった。
彼女は目を醒ました。彼女の視界に入ってきたのは、どことなく見たことのあるような天井だった。
少女「・・・・ここは・・・・どこだ?」
シャオリン(以下 シャオ)「気がつかれましたね? 具合はいかがですか?」
少女「貴方が私に手当てを?」
そう問われたシャオは、静かに首を横に振った。
シャオ「あちらにいらっしゃるお二人が、あなたを見つけてここまで運んでこられたのですよ」
(楊明さん。お疲れ様です<ふぉうりん)
そう言ってシャオは部屋の隅で心配そうに黒髪の少女の方を眺めていた、
楊明と楓の方を手で示した。
楊明「あの・・・」
少女「なにかな?」
楊明「真っ赤ってなんですか?」
少女「・・・・・・」
楓は楊明のとなりで音を立てずに沈んでいた。
楊明「統天書を調べても載ってないんですよねぇ」
少女「一体なんのことだ?」
楊明「屋上で倒れてた時に言ったじゃないですか」
少女「・・・・すまないが、その時の事は憶えていないんだ」
楊明「憶えてないってどういうことですか?」
少女「言葉通りの意味だが・・・」
楊明「記憶喪失ってことですか?」
少女「・・・・・記憶喪失?・・・・そんなはずは・・・・」
楓「では、お尋ねいたします。貴方のお名前は、なんと仰るのでしょうか。お聞かせ願えませんか?」
少女「私の名前は・・・うっ、頭が・・・・・くっ、思い出せない・・・」
言葉を濁した少女は頭を両手でおさえて、苦しそうにうつむいた。
楊明「記憶喪失ならば、無理に思い出そうとしない方が良いですよ。
まだお疲れの御様子、もう少し休まれた方がよろしいでしょう」
少女「それは申し訳ない。お言葉に甘えて休ませてもらおう」
少女はそう言って再び横になり、暫くすると静かに寝息を立て始めた。
シャオ「眠られたようですね。よっぽど疲労が溜まっていたのでしょうね」
シャオの言葉を合図に三人は部屋から退出した。
楓「楊明様」
楊明「なんでしょう?」
楓「あの方の素性のことですが」
楊明は黙って楓の言葉の続きを待った。
楓「私達だけの秘密になさいませんか?」
楊明「・・・・そうですね」
黒髪の少女が異世界からの来訪者ということを統天書にて、彼女達は知ってしまったのだった。
その日の夜、七梨家で家族会議が行われ、暫くこの家に少女をおき、様子を見ることとなった。
(ルーアンは食事の取り分が減ると抗議したが、
結局七梨家の『真の支配者』那奈の鶴の一声によって決定された)
数日後、回復した少女がお礼も兼ねて一同に挨拶をした。
少女「この家の方々の御厚意には、本当に頭が下がる思です。心から感謝します」
少女は体を90度に折り曲げて最敬礼を行った。
太助「そんなにかしこまらなくていいよ」
少女「え? でも」
少女は申し訳無いといった表情で少々上目遣いに太助を見返した。
太助「・・・・」(ちょっと照れる)
しかしその瞬間、彼の周りの温度が急激に変化したような気がした。
楊明「どうしたんですか? 主様。
・・・ああ、この方は髪型は違えど顔はシャオリンさんにそっくりですからね」
楊明の言葉を引き金に、太助の背中に痛みを伴うほどの厳しい視線が突き刺さる。
那奈「なぁに照れてんだよ。お前のシャオはこっちだろうが」
那奈は太助の首をごきっと無理やりシャオの方に向かせて、笑いながらその背中をバシバシ叩いた。
和やかな雰囲気の中、一人ささくれて居た者が約一名いたが、
あえて気にしないことにしよう(ひでぇ)
紀柳「ところで、貴方のことはなんと呼べばよいのだ?」
汝昴「黒いシャオリンだから、”くろピー”でいいんじゃないの?」(ひでぇ)
楓「ルーアン様、一体どこから”ピー”などという言葉が出てこられるのですか?
出雲様の時といい、貴方の命名感覚には疑いを覚えてしまいますよ」
汝昴「あんたってば、あたしに突っ込むときだけは、本当に遠慮無しよね」
楓「そのようなことはございません。恐らくルーアン様の思い過ごしでございましょう」
汝昴「そ〜お?」(疑いの眼差し)
太助「まあまあ、ルーアンもその辺にしておけよ」
汝昴「たー様がそう言うなら、この辺にしといてあげる。楓、次はこうは行かないわよ?」
シャオ「お二人とも、とっても仲がいいんですね」
シャオは本気で言っているようだ。ルーアンは盛大に転んだ。
楓「本当にシャオリン様の仰る通りでございますよ」
楓もしれっと笑顔で答える。
紀柳「ところで、呼び名は・・・・」
楊明「そうですよ。このままだとこの方は”くろピー”さんになってしまいますよ」
少女「それは困ります」
きっぱりと少女は言い切った。彼女の言葉には一点の嘘はない。つまり本気だということだ。
那奈「それじゃあ、あたしが名づけてやろう。”くろくろちゃん”なんてどうだ?」
太助「それじゃ、いくらなんでもあんまりなんじゃないか?」
太助は2秒で那奈の意見を否定した。
シャオ「那奈さん。太助様の言う通りですよ」
紀柳「そうだぞ、那奈殿。それではルーアン殿と、大差がないぞ」
那奈「みんなで言う事ないじゃんか」
流石の那奈もこれだけ言われてしまっては引かざるを得なかった。
楊明「それでは、私がとっておきの名前を・・・」
全員「「却下」」(シャオ以外)
楊明「ひ、ひどい・・・」
少女「あの・・・名前・・・名前だけは思い出せたんですけど・・・」
その少女はどこか申し訳なさそうに静かに申告した。
全員「「え!?」」
少女「私の名前は『ヤミノ』といいます。皆さん改めてよろしくお願いしますね」
多分続かない(オイ)
あとがき&楽屋裏&多分お詫び
ふぉうりん(以下 ふぉ)「いや〜、皆さんお疲れさまでした。
特に横で見守ってくださった、空理空論さん」
空理空論(以下 空)「どもー、お疲れ様です〜」
楓「私は楽をさせていただきましたよ♪」
楊明「私の扱いがなんか酷く感じるんですけど・・・・」
ヤミノ「それは日頃行いというヤツのせいだろう? 身に覚えはないかな?」
楊明「ありません!(即答)清く正しく毎日他人(ひと)で遊んでます!」
空「こいつ、救いようがねえ・・・」
ヤミノ「地の底に堕ちたヤツの戯言は放っておくとしてだな、あれではまるで私が偽者ではないか?
ふぉうりんよ、その処遇についてなにか貴方から弁明の言葉はあるかな?」
ふぉ「仰る通りでございます。返す言葉もございません」
空「『真っ赤』がよくなかったのだろうか・・・?」
ふぉ「でも、それって提供して下さったの空理さんじゃあ・・・・」
空「・・・運命って事で(コラ)」
ふぉ・楓「「運命って貴方・・・・」」
ヤミノ「ほう。ならば私は運命というヤツに逆らってやろうか?」(ニヤリ)
ふぉ「こら、そこ、人様を脅さないの」
楊明「関係ないですけど、最初ヤミノさんを見た時、
シャオリンさんが何か嫌な事でもあって墨汁を頭からかぶったのかと思いましたよ」
楓「一体何処からそういった突飛な発想が飛び出されるのございますか?」
ヤミノ「それについては、私も興味があるな、是非’御教授願いたい’<強調」
楊明「くっ・・・残念ですが今回はそういう時間は無いみたいですが・・・
でも残りの時間全てを費やしていいというのなら是非にでもお教えしますよ!
というわけで楊明ちゃんの誰でもわかるてきとー講座始まり〜♪」
空「始めるなっての!」
ヤミノ「空理殿、面目無い」
ふぉ「じゃ、ちょこっと今回のネタばらしをば、
今回のコンセプトは『知教空天&望導想天』の融合世界へヤミノが現れるという、
私のイメージだと『劇場版』と言ったところでしょうか?(でも導入部分のみ(汗))
さてと、そろそろ締めるけどいいかな?」
全員「「それでは!」」
2001年9月6日 ふぉうりん&空理空論
最後に・・・多分この話の続きはよほどの事が無いと、書く事が出来ないと思います。
本当に申し訳ありません読者の皆様御容赦下さい。