矢口のオールナイトニッポンの中で一般公募されたハロプロラジオドラマのプロットとして応募した作品。
このラジオドラマプロット募集自体が今回で2回目でした。
リベンジを期しての再チャレンジというわけです。
これは2作品応募したうちのもう片一方で、もう片方はのちのち使えそうなので、こっちだけ掲載。


『降りたことのない駅』


山手線の西側、新宿駅から恵比寿駅の間は、とても華やかで若者に人気のあるエリアである。だけどそんな絶好のロケーションの中に一駅だけ、とても地味で目立たない駅がある。
それが代々木駅。
実は駅には、『駅の精』というその駅についている妖精がいるのだが、代々木駅の精はなんで自分の駅だけこの辺りで浮いているんだろうと悩んでいる。

久美は、亀戸に住むフリーターの女の子。中野に住む彼氏とはいつもこの代々木駅のホームで待ち合わせして、そこから渋谷、原宿、恵比寿、新宿に遊びに行っている。代々木駅で降りたことは一度もない。
久美には、小さな頃から不思議な力があった。それは街のあちこちにいる妖精と話ができること。今日も代々木駅の精が久美に話しかける。

『彼氏、今日も遅刻だね』
『あら代々木ちゃん。そうね、まぁいつものことだから』
『ねぇ今日こそはここで降りてデートしなよ』
『嫌だよ。代々木なんて何もないじゃん』

やがて代々木駅の精は、他の駅を研究しようと、久美のデートについてくるようになる。
『ちょっと、デートの邪魔しないでよ』
久美のそんな台詞はお構いなく、勝手についてくる。そして他の駅の精から、人気の秘密を聞いてそのまねをしだした。

原宿駅の精からは、竹下通りのことを聞いてタレントショップ街を作る。
でも集めたのはぱっとしないタレントばっかり。
新宿駅の精からは、アルタのことを聞いて同じような集積ビルを作る。
けれども、入ったテナントは予備校ばかり。
どれもうまくいかず落ち込む代々木駅の精。

『いいじゃない、別に今のままで。代々木ちゃんはみんなの役にたってるんだよ』
『そうかなぁ・・・・久美ちゃんは誰かの役に立ってるの?』
『え・・・私は・・・・』
久美は毎日が楽しかった。けれども、特にやりたいこともなく、誰かの役にたつこともなくただ日々をすごしているだけ。
『わたし・・・・』
『えっ、ご、ごめんね久美ちゃん、別にそんなつもりでいったんじゃ・・・』
逆に落ち込む久美。

数日後。
久美がたった一人で代々木駅にくる。
『代々木ちゃん、いい予備校紹介して』
『えっ!?どうしたの、久美ちゃん』
『私、もう一回勉強やり直してみる。大学に入って勉強して、自分のやりたいことを見つけるの』

人間の女の子と、人気者になりたい駅の妖精。
そんな2人の間にいつの間にか芽生えた友情。そんな物語。

(終)




◆あとがき。

ということで、今になって読み返してみると出来の悪さに恥ずかしくもなるんだけど、せっかくなので載せておきます。
まず、プロットの前提条件として、地域性の濃いものって条件がありました。だから地名ってところから入って、とりあえず思い浮かんだのが代々木駅。ある意味異彩をはなっている駅じゃないですか。だからこれはネタとして使えるなと。で、代々木駅の精を『代々木ちゃん』って呼ぶとなんかかわいらしくていいなと。そのあたりから書き始めた企画です。

ただまぁ、思いつき自体は悪くないと今でも思うんだけど、そのあとの消化が足らなかったなと。まず、代々木を舞台にしているにしては代々木の特徴だったり、代々木ならではのエピソードみたいなのをプロットに組み込めていない。これが致命的ですわな。そこをもうちょっとがんばれれば、もっとよくなったし、入選の可能性もなくはなかったんでしょうけど。
ただその辺りの物足りなさは、書き上げた後も気にはなっていたんだけど、時間がなかったのと、まぁプロットだからいいだろと、そんな感じでこのまま送ったのです
でもまぁ世の中そんなに甘くはないということです。

でもね、これを書いたことによって、けっこう勉強になったこと、ヒントになったことってのはたくさんあって。
この後に書いてそして入選させてもらったMBSの方のプロットは、結構このプロットの教訓を参考にしてるのですよ、話自体の方向性も似ていなくはないし。ニッポン放送のこのプロット募集がなかったら、そしてこのプロットを書いていなかったら、MBSのほうの作品は多分かけてなかったと思うのです。そういう意味では、僕にとっては重要なプロットだったなと思うのです。



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