「M」

第10章 side-B


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宗像は一心不乱にmシステムの端末コンピュータを操作していた。
モニター内にはたくさんのウィンドウが開かれており、それぞれが様々な図形を表示している。
あるものはステレオのグラフィックイコライザーのように常にメーターを上下させ、あるものは次々と宗像にしか意味のわからない数値を吐き出し続けている。
やがて、一つのポップアップウィンドウが効果音とともに開いた。
宗像はそのウィンドウを見て、
『来たな』
と独りつぶやいた。
『西田君も今度はちゃんと時間通りにやったようだな』
そして、再び何かしらの操作を急いで始めた。

ちょうどその時、研究室のドアがノックされ、返事も待たずに開かれた。
『宗像教授、よろしいですか?』
宗像が教授職を務める東西大学の、やや歳のいった女性事務員である。
『今は忙しい、後にしてくれたまえ』
と宗像は不機嫌そうに返した。
だが女性事務員はそれを少しも気に留めずに、自分の話題に早速移行する。
『教授の所に上坂という学生がおりましたよね。3年ほど前でしたでしょうか?』
『足立さん、今忙しいといっているでしょう』
宗像はさらに不機嫌な声で返すが、それでも足立は全く気にせず続ける。
『彼の連絡先を知りたいので教えてくださいませんか。院の卒業証書が預かりっぱなしになっているのですよ。もう3年も。いつまでもそんなものを大学で預かっておくわけにまいりませんからね』
『知りませんよ連絡先なんぞ。それこそ足立さんのところの仕事でしょう。名簿なりなんなりあるでしょう』
『名簿の連絡先はとうに引き払っているらしくてね。実家の方でも今どこで何をしているかわからないなんて答え方で。
まったくひどい家庭ですわ。あんな家庭でしたらないほうがいいですわね』
宗像は独身である足立に皮肉のひとことも言いたくなったが、それを実行には移す勇気はなかった。
『では私にもわかりませんよ』
宗像は相変わらず端末を操作しながら話す。
『あれ?上坂君は最近教授の研究室に来ているのではないのですか?』
『は?彼がここにですか?』
ここではじめて宗像は顔をモニターから上げた。
『ええ。2週間ほど前に私構内で見ましたよ。あと、真田講師も3日ほど前に見たって。だから教授の研究室に手伝いか何かで通いはじめたものだとばかり思っていたんですけど』
『そんなことはありません。彼とは4年前っきりだ。あんな使えない学生に用はありませんよ』
『そうなんですか?じゃぁなんでここに来ていたのかしら』
『知り合いにでも会いに来てたんじゃないですか。とにかく私は知りませんよ。仕事があるんでもうお引取りください』
『おかしいわねぇ』
そういいながら足立はドアを閉めて去って行った。

『全く』
そういって舌打ちすると、宗像はまた自分の仕事に戻った。



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