「M」

第1章 side-B


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なんだか、やたらと彼女と目が合う気がする。
まさかね、気のせいだよね。確かに私は目立つけれども、それでもこんなに広い会場でこう頻繁に彼女が私を見るわけがない。

私はモーニング娘。という名のアイドルグループのコンサートを見に来ていた。
20代も半ばにさしかかったいい歳の女が、たった一人で見にくるというのは少なからぬ抵抗があった。
けれど、いつもTVで見ている彼女たちの生の姿というものをどうしても一度見てみたくなったのだ。
それで何かが変わるかもしれない。そんな都合のいい期待をしていた。そんなことがあるわけがないと分かっていながら。

そのグループの中でもとびきり背の低い女の子が私のお気に入りだった。
体がすごく小さいのに、声が大きくて、そしてメンバーの中でも飛びぬけて大きな動きをしている彼女。
私の持っていないもの、私が欲しかったものをすべて持っている彼女。
そんな彼女に興味を持ったのが、私がこのグループのファンになったきっかけだった。今ではメンバー全員に好意を持っているけれども、でもやはりその背の低い彼女だけは特別。だからきっと、さっきから彼女とだけ目が合うような錯覚をしているに違いない。

『邪魔だよなぁ、前のでっかい女。全然見えねえよ』
そんな声が後ろの席からかすかに私の耳に届いた。
あぁ、やっぱり来ちゃったか・・・・。
身長が181cmあり、痩せてはいるものの肩幅の広い私は、後ろの席の人にとっては邪魔だろうなとはコンサートに来る前から思っていたことだ。
だけど実際にコンサートが始まり、前の男の人たちが曲の間中ずっとジャンプしていたり、頭上で手を合わせていたりするのを見て、おとなしく立っている分には大丈夫かなと少し安心して見ていたのだけれども・・・。
私は椅子に座ることにした。もう十分に彼女たちの姿は見れたし、あとは音を聞いて感じているだけでもいい。それで後ろからくる敵意がやわらぐならそれでいい。
それが私の生き方。今までも、そしてきっとこれからも。

私が椅子に座ると、後ろにいた男の子達は、『ラッキー』と声を上げた。そして今までに増して大きな声で歓声を上げるようになった。
私は目を閉じて、頭の中でステージの上にいるメンバーを想像しながら、コンサートを感じていた。
そしてアンコールが終わるまで、席を立つことは無かった。



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