ピースオブパズル 5


 青年はクイーンガードとして取り立てられた。
 無表情で、感情を表してはいなかったが、青年の心は不安定だった。
 そこは、あまりにも綺麗すぎて、今まで住んでいた世界とは違いすぎたから。
  何故、この人たちは、自分に斬りかからないのだろう?
  何故、この人たちは、醜い自分を忌避しないのだろう?

 柔らかく己の名を呼ばれるたび、混乱した。
 誰にも攻撃されない、ということが分かると、絶望した。
  ここは、自分がいるべき場所ではない。
 そんな思いに捕らわれて、逃げ出したくなった。
 だが、司教の声が聞こえるのだ。
  あの女を殺せ
   醜いお前と同じように、壊してしまえ

 己を支配するそれに抗することも出来ず、ただ精神を縮こまらせて、耐えた。
 与えられる食事にも手を付けられず、柔らかなベッドに寝ることもできず、ただ石造りの床に、剣を抱えて寝た。
 とりあえず、表面上は破綻せずに、王宮での暮らしをなぞることは出来たけれど、ずっと落ち着かずに、ただただ「ここは自分が存在するべき所では無い」との想いだけが募っていった。
 だから、城外の任務を命じられたときには、むしろほっとした。
 
 初めての任務は、僻村の滞った税を徴収すること。
 馬に乗ったのも初めてだったが、すぐにコツを習得した。馬は、何も語りかけない青年にもよく答えてくれた。
 辿り着いた村は、疲弊しきっていた。まだ若い女が、乳飲み子を抱えて呆然としている。
 このままでは、子供も捨て、村から逃げ出すしかない。
 そんな言葉を聞いたとき、青年の心に何かが点った。
  子供を捨てる。
  そんなことを許してはいけない。

 だから、青年は力の及ぶ限りのことをした。
 ほとんど食事も取らず眠りもせずに熊を狩り、畑を耕した。村に獣が入り込まないよう、木を切って防御柵も作った。
 そして、女たちに知識を与えた。
 毒と呼ばれているが、花が咲くまでに球根を掘って、水にさらせば良質のデンプンが採れる植物のこと。
 どんな種類の木に虫が集まって、どの種類の虫なら食べられるか、ということ。
 そして、女性だけでは足元を見られると思って、クイーンガードという名を利用して、熊の肝や毛皮を取り引きした。
 誰かを救いたかったのでも、仕事を成し遂げたかったのでもない。
 ただ、子供が捨てられるという事態は我慢できなかっただけ。
 だから、感謝された時は、困惑した。
 城に帰って、報告したら誉められた時には、もっと困惑した。
 自分が命を無視したことは、知っていたし、むしろそんな命令を下した女王に敵意すら持っていたので。
 そして。
 「お帰り」と、言われたのだ。
 今まで、誰にも言われなかった言葉を。
 ここは、こんなにも綺麗な場所で、自分が存在するべき場所では無いのに、まるで青年がここにいるのが当然といったように「お帰り」と言われたのだ。
 どうしたらいいのか、分からなかった。
 青年は、ただ、その場を逃げ出した。

  か〜わ〜い〜い〜〜〜
  …は?何が?
  あぁ、何故、私はその場にいなかったのだ〜〜!
  いや、だから…可愛いって…何が
  (ふん、いられるわけないだろうが。一般忍者兵ごときが)
  貴様〜!言ってはならんことを〜〜!


 青年は与えられた自室で、とりあえず旅装を解いた。そして初めて空腹に気づいた。
 その村では供される食べ物には口を付けなかった。草の実を食べ、熊の血を啜り、川の水を飲めば、青年にとっては十分なご馳走だったから、彼らの食事を奪うような真似はしたくなかった。
 旅に必要な金は与えられていたが、飼い葉代を除いて全て村に置いてきたので、帰途は食事を取らなかった。
 帰ってきたのは夜であったため、もう食堂も閉まっている。
 青年は、考えた。
 城なら、ネズミの一匹や二匹いるだろう、と。そして、それはきっと下水のネズミに比べれば、丸々と太っていることだろう。
 短剣だけを腰に、青年は自室を出た。
 厨房付近に行き、鍵を開けて入っても良いだろうか、と考えていると。
 「…何をしている」
 ぶっきらぼうな声が聞こえた。気配もなく聞こえたそれに驚いて、体が跳ねる。
 青年を疑っているらしい忍者兵の長は、もう一度「何をしている」と聞いた。

  やめろーっ余計なシーンを映すな〜!
  あのね、はっきり言って、俺の方が恥なんだから、諦めなさいって


 隠すことでもないので、青年は素直に「腹が減ったので、ネズミを捕りに来た」と答えた。
 何度か言葉をやりとりして、ようやく忍者は青年の言うことを理解できたのか、数秒黙り。
 「馬鹿者!」
 と、頭を叩いた。
 驚いていると、忍者は早口で
 「そんなもん城内で食うな!」
 と怒って、厨房の鍵を針金で手早く開けた。
 「何か作ってやるから、待ってろ!」
 そう指示して、テーブルの上に出されている食材を見ている忍者に、青年は混乱しつつも問うた。
 「これは、女王陛下のもので、勝手に手を出してはいけないんじゃないか?」
 全てのものは、女王に搾取される。あの女は、民が汗水流して働いて得た物を、ただ漫然と享受している。そう教わってきた。
 忍者はうなり声を上げ、それからボールに卵を割り入れた。
 「陛下は、ガードが飢えてネズミなんぞ食う羽目になったら、嘆かれるだろう」
 「その…厨房長が、後で怒られたりはしないのか?」
 恐る恐る問う青年に、忍者はもう一度うなり声を上げた。そして、怒ったようにボールを掻き回した。
 「明日、厨房長には俺が謝っておく」
 青年はまた混乱した。女王が厨房長を咎めるのでは無いのか。そして、何故この男が謝るのだろう。
 竈の火に照らされた忍者の横顔は、ひどく不機嫌であったため、それ以上質問するのは止めておいた。
 青年は、落ち着かずに周囲を見回した。そこは、青年が見たこともないような食材に満ち溢れていた。
 クイーンガードとなってから、食事は城の食堂で供されていたが、あまりにもそれまでの食事と異なり過ぎたため、せいぜいパンと水くらいしか口にしていなかった。
 最初に女王と食事を共にする機会はあり、ロードに仕込まれた礼儀作法でもって完璧な食事マナーを披露することは出来たが、心の奥から立ち上る女王への敵意を押さえ込むのに必死で、ほとんど味も感じなかった。
 だから、初めて目にしたように、青年は周囲の食材を興味深く見た。だが、何がなんだかさっぱり分からない物が多かった。
 忍者は竈に鉄板を入れ、それから気づいたように戸棚をごそごそと探っていた。そして、目的の瓶を見つけだすと、テーブルの上にどんっと置いた。
 どすっと音を立ててイスに座り、忍者は恫喝しているような声で青年に言った。
 「言っておくが、味の保証はせん」
 青年は首を傾げた。忍者が何を作っているのか、見当も付かない。そもそも、青年にとって『食事』とは、すでにある何かを摂取することであり、作る物ではなかった。もちろん、知識だけはあったが。
 「明日になれば、携帯食を少し分けてやる。夜中に腹が減ったら、囓ってろ。俺はそうしている」
 携帯食、という単語も、知識はあったが、どんなものかはよく分からなかった。そして、戦闘に出ているのでもないのに、携帯食を常備しておく理由も理解できなかった。
 だが、青年は尋ねることはしなかった。どうも自分の育った環境とは異なりすぎて、あまり喋るとぼろが出そうだったから。
 そのうち、香ばしい匂いが漂ってきた。
 忍者が竈を覗き、鉄板を引き出す。放り投げるように鉄板の上の物を皿に取り、瓶からどろりとしたものをスプーンですくって乗せて、青年の前に置いた。
 湯気を出している茶色の物体に、青年は困惑した。パンの一種のようだったが、黒い物が分からない。
 「これは…?」
 仕方なく尋ねると、忍者はじろりと青年を見た。
 「スコーンだ。見て分からんか」
 「すこーん?」
 青年は、頭の中の書物をざっと検索した。だが、その単語に該当する項目は無かった。
 忍者はもう一度ぎろりと青年を睨んだが、皮肉でなく本当に分かっていないのに気づいたのか、スコーンを一つ手に取った。そして、真ん中から割り、黒い物…木苺のジャムを付けて挟んだ。
 それを一口ちぎって自分の口に放り込む。
 「…食えんことは無い」
 ほれ、と残りを差し出されて、青年はそれを手に取り、熱さに取り落としかけた。何せ、青年は温かな食事という物に縁がなかったので。
 何度か空中にそれを放り投げて、少し冷ましてから口に含んだ。
 じんわりと、ほのかな甘みが広がった。
 だが、そんなことよりも。
 青年は、突如として気づいたのだ。
 これは、初めて、『彼のために』作られた食べ物だ、ということに。
 ひょっとしたら、大昔に母が彼のために何か作ったこともあったかもしれないが、記憶の中には無い。せいぜい父や母のおこぼれを期待している光景しか思い出せない。
 もちろん、それ以降は言わずもがな。
 『彼のためだけに』作られた食べ物。
 意識すると涙が出そうな気がして、俯いて黙々と食べた。
 礼を言わなければ、と口を開きかけたが、鼻の奥がつんと痛くて、ただただ食べた。
 そうして、どうにか自分の感情を押しとどめることに成功して、青年はようやく顔を上げた。
 そっぽを向いている忍者に、小さく言った。
 「ありがとう。こんなに美味しい物を食べたのは、初めてだ」
 忍者は、最初疑わしげに青年を見たが、青年が真面目な顔をしているので、またそっぽを向いた。
 顔を背けたまま皿を取り、流しに突っ込む。
 「…まあ、その、何だ」
 忍者は流しに向かって、呪いでも吐いているかのような口調で言った。
 「そんなもんでよければ、いつでも作ってやる」
 「ありがとう」
 青年は、自分が微笑んでいることに気づかなかった。

  (しくしくしくしくしくしくしくしく……)
  グレッグ、うるさい
  餌付けとは卑怯なり〜〜〜
  …あの時、そんなつもりは一切無いぞ
  あの時じゃなきゃあったのか
  木苺のジャムが決め手だったのね何度スコーン作ってもダークマターってば何か違うって納得してくれなかったのよ
  サ、サラ、そーゆーことは言わなくていいから
  照れない、照れない
  いや、実際あれって今から思えば大したこと無い代物だったんじゃ…小麦粉はだまになってるわバターは均一に混ざってないからぼこぼこに穴開いてるわトドメに砂糖入れるの忘れてるわ…
  ……だから、ジャムを付けてやっただろうが
  そんなもんに絆されるなんて〜一生の不覚〜若気の至り〜俺のアホ〜


 自室に戻ってから、青年は先ほどの出来事を思い返した。
 あの忍者は、憎むべき女王の仲間ではあるが、彼に食べ物を作ってくれた。
 だから、あの男を害するのは、駄目だ。女王を殺すときにも、あの男を傷つけないようにしなければならない。
 青年は真剣にそう考えて、それからふと気づいた。
 女王は殺さなければならない。
 それは、そう決められたことであり、青年の存在理由だ。
 だが、他の者を傷つける必要は無いのだ。
 初めてそう思い至って、青年は少し気分が軽くなった。
 それなら、女王以外のものは綺麗だと思って良いのだ。

 青年は、それからも少しずつ任務をこなしていった。
 人と触れ合うのは苦手だったけれど、部下を統率する身としてはそうも言っていられない。青年にとって、他人の心を推し量ったり、傷つけないように言葉を選ぶのは難しかったのだけれど、せめて自分に出来ること、と全員の名前を覚え、家族構成や環境など出来るだけの情報を覚えていった。
 そのうち、青年の実力を認めたのか、傭兵部隊は進んで青年の配下となった。

  実力…ってだけでも無かったらしいがな
  違うの?
  お前が入って半年後の『ドゥーハンナウ』では、一気に『上司にしたい男』のNo1にまでなってたぞ。ちなみに俺は、割と下の方だ。聞けば、俺の部下でもお前に入れてた奴が結構いた
  何、その『ドゥーハンナウ』って
  知らんのか?大衆向け娯楽雑誌だ
  あ〜それ俺も読んだかもしんねー。新刊じゃなかったけどよ
  うーん…俺って治癒魔法もかけられたから、確かにその辺の貴族の配下よりは生存確率高かっただろうけどね
  (いや、選ばれた理由の大半は「可愛いから」だった気がするが…ごほごほごほ)
  なっ、何それ!?
  いやその…日常生活がすっとぼけてて危なっかしくて放っておけない、というか…最初は冷酷に見えるのにいったん馴染むと妙に甘いというか…「隊長には俺たちが付いててやらねばっ!」だの「隊長、一生付いていきますっ!」だの「時々恥ずかしそうに笑う顔がたまらんっ!」だのという類の理由が多かったと
  あいつらにまでそんな風に思われてたなんて…不覚(がくっ)
  まあまあ。慕われてた証拠じゃない


 青年は、感情をあまり出さなかったが、感情が無いのではなかった。
 むしろ過酷な環境の中で磨滅しないようひっそりと心の奥にしまい込んでいただけだった。
 だから時折、ふとした弾みに感情が漏れ出ることがあった。
 そんな青年のことを「本当は優しい人」と思いこんで、「私にはきっと心を開いてくれる」と側にいたがる女性は多かった。

  本っ当〜〜に多かったぞ…陛下やソフィアを筆頭に侍女だの王宮関係のみならず一般人まで…(ぶつぶつ)

 最初、青年はひたすら困惑した。
 青年のように醜い生き物に、「好きです」と言い出す女性の存在が信じられなかった。
 何を言って良いのか分からなくて、立ち竦んでいると、その女性は思いきったように青年の胸に飛び込んできた。
 咄嗟に受け止めた青年は、心の中で悲鳴を上げた。
 その綺麗な生き物は、あまりにも柔らかくて頼りなく、肩を掴んで押し返そうとすると、その骨の細さが恐いくらいだった。
 格闘を仕掛けられた時に相手の技を外す方法には熟練していたが、こんなに脆そうな生き物を傷つけずに己の体から引き剥がすのは、至難の業のように思えた。
 女性は彼の胸のあたりの服にしがみつき、頬を寄せて囁いた。
 「私のことが、お嫌いでしょうか?」
 その女性のことは知っている。確か女王付きの侍女の一人だ。青年が知っているのはそれだけだった。嫌い、も、好き、も無い。
 「いきなり妻に、とは申しません。ただ、貴方のお側にいたいのです」
 そう言いながら、女性は何かを期待するかのような目で青年を見上げた。
 だが青年が動く様子が無いのを見て、そのたおやかな腕を上げた。
 女性の手が首に触れた途端。
 青年は反射的にそれを払いのけかけたが、その細い感触に驚いて、すぐに勢いを緩めた。女性は幾分驚いたような顔をしたものの、すぐにまた微笑んで彼の首に手を回した。
 女性の手に力が込められ、顔を引き寄せられようとしているのは分かったが、何故そんなことをするのかは理解できなかった。
 青年は、困惑したまま女性の力に抗した。女性の非力さを思えば、それは容易いことだった。
 だが、一向に事態は変わらない。青年は、自分でこの体を離すことが出来ないのなら、女性が諦めるのを待とうと思ったが、女性は「私のことが、お嫌いでしょうか」といったようなことを繰り返すばかりだった。
 ひどく長い時間が過ぎた気がした。
 意識の端で、よく知った気配が掠めた。
 青年は振り返り、その名を呼んだ。
 「クルガン!」
 その気配は数瞬躊躇ったが、青年が繰り返して呼ぶと、静かに歩いてきた。
 「御邪魔かと思ったんだが」
 「クルガン。この人を傷つけないように体を離すのはどうしたら良いんだ?」
 「…はぁ?」
 忍者は改めてじろじろと一見抱き合っている女性と青年を見た。その不躾な視線に、女性は頬を赤く染めて腕を下ろした。
 「振り払うと骨を折りそうで、動けなかったんだ」
 そう説明すると、一層女性の顔が赤くなった。それは羞恥のためでは無かったが、青年には全く理解出来なかった。
 「あのな、ダークマター」
 忍者は、ほとほと呆れた、と言わんばかりにこれ見よがしの溜息を吐いて見せた。
 「お前は、女というものに幻想を持ちすぎだ」
 同じように、青年には忍者の言葉も全く理解できなかった。
 「女ってもんは、時として男よりも丈夫なものだ。お前が本気で急所を狙わない限り、振り払ったくらいでどうこうなるか」
 青年の疑いの視線に忍者はもう一度溜息を吐いた。そして、面倒くさそうに青年の首根っこを引っ張り、女性の体から距離を取らせる。
 「その気が無いのなら、さっさと断れ。それが一番手っ取り早い」
 「その気?」
 「…あ〜…つまり…」
 忍者は女性をちらりと見た。
 「結婚でも申し込んだか?それとも一晩でも良いから寝てくれと言ったのか?」
 女性は、きっ、と忍者を見上げ、叫んだ。
 「私は、この人の側にいたいだけです!」
 「それで?そう言われてお前はどう思うんだ」
 青年はようやくゆっくりと考えることが出来た。そして、結論を言った。
 「他人が側にいるのは好きじゃない」
 「…おそらく、お前が言ってる意味は、全然違うとは思うが、まあいい。一応確認しておくが、この女が抱きついてきたとき、柔らかくて気持ちいいなぁ、とか、もっと触っていたいなぁ、とか思わなかったのか?」
 青年は、また考え込んだ。
 「ふわふわして頼りなくて、壊したらどうしよう、と思った」
 忍者は額を押さえて何か痛みでも堪えているような顔になった。
 「お前…今度花街に連れていってやるから、そこで思う存分揉まれて来い…」
 青年は、花街という単語は理解できなかったが、揉まれて、と言う言葉から、修行の場か、と思った。
 「違う聞き方にするぞ。お前、この娘の名を知っているか?」
 「いや。侍女の人たちまで個体識別はしていない」
 ほらな、とでも言うように忍者は女性に肩を竦めて見せた。女性は震える声で青年に詰め寄った。
 「そんな…!私が水を汲んでいたら、優しく手伝って下さったのに…!」
 青年は首を傾げて思い出そうとした。そして、女性が何故怒っているのか分からないまま、思いついたまま答えた。
 「目に付いたらたいてい手伝ってるんで、貴方が含まれていたかどうか覚えていないんだが…」
 「私の摘んだ花を綺麗だねって仰って下さったのに…!」
 「綺麗な花は、綺麗だと言うが…」
 女性がいきなり泣き出したので、青年は困惑した。だが、どうしたら良いのか分からないので、傍らの忍者の顔を見上げてみた。
 忍者は苦虫を噛み潰したような顔をするだけで、どうしろ、とは言ってくれなかったので、青年は困惑したまま、女性をただ見つめていた。
 「ごめんなさい…失礼いたします…!」
 女性は、それだけ言って、走り去った。それを見送って、青年は呟いた。
 「えっと…これからは、侍女の人たちまで、全員名前を覚えた方が良いんだろうか?」
 「いや…とりあえず、お前は『女』ってもんを覚えろ…」
 
  あらやだ花街ってあったのねドゥーハンに
  そう言えばあったわねぇ。今じゃすっかり王宮が管理してるけど、昔は雑多な娼館やたちんぼがいたもんだわ
  ………
  ………
  あら、どうかした?
  いやその…それ、多分、俺のせい……
  俺は何度、こいつを連れて行くんじゃなかったと後悔したことか……
  連れて行ったんかい!(意識だけでツッコミ)
  話せば長いが、花街でやることもやらんで女の身の上を聞いた挙げ句に、陛下に娼婦たちの権利と健康管理がどうのと上申しやがって…
  だって〜子供を置いてきただの子供を堕胎しただの言われて、何もしないわけにもさ〜
  おかげで俺は後でソフィアに激しく殴られたぞ。ちなみに長の説教は32時間にも及んだ…


 青年は、部下は意識して覚えていたが、改めて意識しないとその他の人々のことまでは記憶していなかった。そんな中で、ソフィアは別格だった。
 彼女はクイーンガードの同僚であったし、よく視界の中に存在したから、いやでも覚えざるを得なかった。

  …そんな理由か…ソフィアが聞いたら泣くぞ…

 それに、彼女は、青年に愛の告白をする女性たちとはどこか異なっていた。触ったら折れそうな女性と違って、彼女は見た目の割に丈夫で、青年が触れても壊れそうに無かった。他の女性と一緒にいると、繊細なガラス細工を前に緊張しているような気分になったが、その辺の男性並に丈夫そうな様子を見ると、何となく、ほっとした。

  すまん、今、これを見ずに済んで、ソフィアは死んでて良かったな、と思ってしまったぞ

 それに、彼女はクルガンと仲が良かった。最初こそ、彼女のクルガンへの激しいスキンシップに驚いたが、あそこまでされてクルガンが怒らないと言うことは、きっとそれで良いんだろうと思った。青年の知識では、男女の濃密なスキンシップは、愛し合う男女の間でなされるものであったので、クルガンとソフィアとは結婚はしていないがきっとそれに近い仲なのだろうと思った。

  (………っっっ!!!)←色々言いたいことはあるが、とりあえず言葉にならないらしい
  
 青年にとって、この世で最も困惑することは、厳しい戦況でもなければ難解な結界の解き方でもなかった。
 己に好きだと告白してくる女性の扱い方ほど悩ましいものはなかったので、女性と二人きりになると緊張を強いられたが、彼女といるのはそんなに苦痛ではなかった。
 何故なら、他の男性と愛し合っている女性なら、青年に告白してくることは無いだろうから。
 だから、彼女にお茶に呼ばれて一緒に飲んだり、泉に出かけていったりするのは、気楽で良かった。
 特に彼女は森の民らしく草花に造詣が深く、本で読んではいるが実際に見たことは無い青年の知識を補充するのに役立ってくれた。

  な・ん・で・だーっっ!
  うわ、何、びっくりした
  何で俺がソフィアと愛し合ってるなんぞという恐ろしいことを考えるんだっ!いや考えた理由も今『見た』が、それにしたって何でまたっっ!
  ……違うの?
  全っ然!違うわっっ!あいつのは、ただの乱暴者だっ!
  『聖なる癒し手』さまって…
  え〜?でもだって、あんた以外にはそんなに…
  そりゃ、俺には本性がばれてるから遠慮なくやってるだけだっ!一応惚れた男の前では取り繕ってたがなっ!
  へ〜、ソフィアって他に惚れた男がいたんだ〜
  ………待て、今、お前は本気で言ってるか?
  うん?何か変なこと言った?
  (今ほどソフィアが哀れだと思ったことは無いな…)
  今、見てるだけの私たちにすら分かるのにねぇ…
  え?なになに?え?え?誰?俺も知ってる人?
  ………よーーーーく、知ってるだろうな………


 青年は、少しずつその綺麗な世界に慣れていった。もちろん、自身がその世界にそぐわないことは重々承知していたけれど、綺麗な世界を眺めているのは好きだった。
 だが、そんな中で、どうしても苦手なものがあった。
 女王陛下である。
 青年にとって、女王は憎むべき対象で、壊すべき相手であった。
 未だ司教から命は下っていなかったが、一言あれば、青年は女王を殺す剣となるのだ。
 青年は、女王には必要最低限の言葉しか使わなかった。感情が出ないよう、接触も最低限に留めておいた。
 そんな青年を、女王に忠誠を誓ったクイーンガードは信用しきれなかったのだろう。青年を女王と二人きりにすることはなかった。
 だからこそ、司教はまだ命じなかったのだろうけれど。
 ある日、青年は忍者と何度目か数えるのも忘れた立ち会いを行った。青年は不覚をとり己の刀を取り落としたが、すぐさま体術で向かっていった。
 結局、忍者も体術で応戦し、最後には子供の取っ組み合いのケンカのようになってしまったが、ともかく青年は楽しい時を過ごしたと思い、身なりを整えようと自室に向かいかけた。
 渡り廊下の端で、忍者は硬い声で青年を呼んだ。
 振り返った青年の目には、夕日が逆光で差し込み、忍者の表情は見えなかった。だが、その空気から、忍者が深刻な話をしようとしていることを理解した。
 青年は、今の刻を振り返った。何かおかしなことをしでかしただろうか、と。
 「お前の戦い方からは、死の匂いがする」
 青年の体が強張った。青年は、己の技術が、多数の屍の上に成り立っていることをよく知っていた。
 「お前の剣は、騎士共や剣士のそれとは違う。俺たち忍者に近いものがある。…一撃で、他人を殺す剣に」
 一撃で殺さねば、自分がやられる。青年はそう反論したかったが、口は開かなかった。
 「ダークマター」
 忍者は、静かに滑るような動作で青年に近寄った。
 間近から、夕日よりも紅い瞳が、青年を見つめる。
 「お前は、何者だ?」
 青年は答えを探した。
 様々な単語が、頭の中を駆け巡った。
 だが、最終的には、一つの言葉に行き着くのだ。
  女王を裁く剣
 そして、それが……上っ面の響きの良さとは異なり、ただの陰湿な暗殺者を意味することも、本当は気づいていた。
  さて、どう切り抜けよう。
 感情を無くした瞳で見返しながら、青年は己を上から観察しているような気分になった。
 意味が分からないふりをするか。
 怒ったふりをしてこの場から離脱するか。
 冗談と受け止めて笑うべきか。
 それとも。

 今、全てをぶちまけてしまうか。

 青年は己の心の動きに驚いた。
 そんなことが出来るわけないのに。
 なのに、それは3日徹夜した後のベッドの誘惑のように、青年に甘く囁きかけてくるのだ。

 もう、己を偽る必要は無くなるのだ。
 さあ、すっきりしようじゃないか。


 「もし、そうなら」
 己の口から言葉が滑り落ちるのを、青年はどこか遠くで聞いていた。
 「もし、俺が暗殺者だというなら。あんたはどうするんだ?クイーンガード・クルガン」
 首筋に当てられた刃はひどく冷たかったが、青年には愛撫のようにさえ思えた。柔らかな日差しの中で頬を撫でてくれる手のような。
 いっそ自分からその刃に首を滑らせたい誘惑に駆られて、初めて。

 初めて青年は、本当に己が滅したかったのは、女王ではなく青年自身であったことに気づいた。

 だって、この世界は本当に綺麗で。
 それに似つかわしくないのは、青年の方だった。
 綺麗な世界に潜み毒を吐く悪しき蛇は、女王ではなく青年自身だ。
 
 青年は、笑った。
 子供のように、楽しそうに笑った。
 目の前の忍者の表情が厳しくなり、左手が青年の額を掴んだ。そうして、刃を押し当てる手に力が込められても、青年はただ声を上げて笑うばかりだった。

 「何をしているのです!」
 突然、渡り廊下に凛とした声が響いた。
 青年の目には、まだその姿は映らなかったが、声と気配から、ソフィアを従えた女王であることはすぐに知れた。
 「陛下」
 硬い声で返事をした忍者は、手は緩めなかった。ソフィアが小走りに駆け寄って来ても、その視線一つで彼女の動きを止めた。
 「わたくしのガードが、同じわたくしのガードに向かって、何をしているのです」
 「陛下」
 声にやや苛立ちが混じった。自らが忠誠を捧げる相手に向かって苛つくなんて、なんてこの男は短気なんだろう、そう思って青年はまた笑い声を上げた。
 「刃を引きなさい、クイーンガード・クルガン」
 「しかし」
 「引きなさい」
 声が高くなったのでも大きくなったのでもない。だが、その声に含まれるものに、忍者はゆっくりと左手を離した。それでも短刀は青年の首筋に当てられたままだ。
 「陛下。この男は危険です。いつか陛下のお命を奪うかもしれない。…俺はそれを放っておけません」
 「構いません」
 「陛下!?」
 クルガンとソフィアの声が重なる。
 女王は青年を真っ向から見つめて、微笑んだ。
 「わたくしが自らのガードに命を狙われると言うなら、わたくしは相応のことをしたのでしょう。構いません。貴方がわたくしを裁く剣となりなさい」

 お前は、あの女を裁く剣となるのだ

 「貴方達は、わたくしを守るために命を賭けてくれる。ですから、わたくしも貴方達に命を預けます」

 お前と同じように、醜く壊してしまえ

 青年は、女王の前に歩み寄った。
 背後から、ぴったりと忍者が付いて来ていたが、気にならなかった。
 小柄な女性を見下ろすように、青年は、じっと見つめた。
 「それは」
 感情の籠もらない、平坦な声が言葉を紡いだ。
 「対価交換を意味します。俺の命も、貴方の命も、平等である、と、そう仰るおつもりですか?」
 「えぇ」
 女王はすぐさま返答した。
 青年は首を傾げた。
  この人は、本気で言っているのだろうか。こんなに綺麗な人が、こんなに醜い彼と、等価であるなどと、本気で思っているのだろうか。
 「俺の意見を言わせて貰えるなら」
 青年は、ぼんやりと言った。
 「今、俺を殺しておいた方が良いと思いますが」
 途端、また刃を向けた忍者を、女王は厳しく叱責した。
 そうして、防具一つ付けていない柔らかい体を、青年の前に晒して立っている。
  この人は、本気で俺に命を預けるつもりだ
 青年は理解した。
 これからは、女王と二人きりとなる機会もあるに違いない。忍者がどう反対しようと、女王は意を曲げないだろう。
 退路を断たれた、と青年は思った。
 もう、言い訳は通用しない。
 女王と二人きりになる機会が無い、もう少し待ってくれ、と、言い訳することは出来ない。
 青年は、また笑った。
 『言い訳』と考える時点で、もう己の心が決まっていることに気づいたから。
 それでも、青年は最後に確認した。
 「クイーンガードでなくても、お役に立つ方法はいくらでもありますよ。それでも、俺を側に置くと仰る?」
 「えぇ、期待しています、わたくしのガード」
 「そうですか」
 青年は、空を振り仰いだ。
 もう夕日も落ち、空は紺色に染まりかけている。
 「綺麗ですね」
 青年は、そう呟いた。
 そして、初めて心から、女王の前に跪いた。
 「陛下が望むなら、俺はクイーンガードであり続けます」
 声として出たのは、ひどく感情の籠もらない簡素な言葉であったけれど。
 青年は、初めて己の意志で進むべき道を決めた。

 その場の空気は穏やかであった。
 だが、石造りの渡り廊下は、日が落ちると同時に急激に温度を下げた。
 冷たい風が、その場を吹き抜けた。
 「寒いわね。早く入りましょう」
 女僧侶の薦めに従い、女王は扉から王宮内に帰っていった。
 青年も、後ろに従い、最後に振り返った。
 冷たい風と共に、闇が迫ってきていた。
 青年は知っていた。
 もはや、暖かく心地よい眠りを味わうことは不可能なのだ、と。
 いつでも心を研ぎ澄ませておかねばならないのだ、と。
 あの司教から女王を守り抜くのは、とても厄介なことだろうけど。
 「それでも、俺はクイーンガードらしいですよ」
 青年は、小さく闇に向かって呟いた。
 そうして、明かりの灯る室内へと向かったのだった。



 彼らの視界が、王宮から極彩色の部屋へと戻った。
 一斉に息を吐き、座り込む。
 「つ〜か〜れ〜た〜」
 「もうちょっとダイジェスト版にならなかったのかな〜」
 恨みがましげに見られてピクシーはぐるりと回った。
 「これは想いが強く残ったものなんだから。あたしがどうこうできるわけないだろ」
 ダークマターは俯いて、髪を掻き上げた。それから、ふと気づいたように首を傾げた。
 「…あれ?ここで過ごした時が刻まれてるなら分かるんだけど…何でクイーンガード時代の、しかもあんな妙な時期で区切られてんのさ」
 ピクシーはぐるんぐるん回った。水晶も困ったように明滅を繰り返した。
 「細かいことは、気にしない!」
 ピクシーに断言されて、ダークマターは、がくりと首を落とした。
 「はいはい。俺が悪かったです」
 「ものすごく中途半端だぞ!続きはあるんだろうな!」
 怒鳴りつけるクルガンに、ピクシーがむっとした顔を向ける。
 「そりゃあるさ。続きが見たきゃ、さっさと行きな」
 すぐにでも行きたそうなクルガンを、ぐったり座り込んだダークマターが目だけで見上げた。
 「ちょっと落ち着きなって。水晶は逃げないんだから」
 「滅茶苦茶に気になるだろうが!確かに、お前はあの時から変わった。本当に陛下に忠誠を誓っているように見えた。いや、今のを見る限りでは、実際そうだったんだろう。それが、何故、お前は……!」
 握り拳を震わせるクルガンを、感情の無い瞳で見つめて、ダークマターは自分の膝に顔を埋めた。
 「んなの知るか。その辺は俺も思い出してないんだから、俺に聞くな」
 「だから、早く行くぞ!と!」
 「あんた、短気すぎ。もうちょっと俺に整理する時間ちょうだい」
 さすがに、その言葉にはクルガンも口を噤んだ。
 仕方なくダークマターの隣に腰を下ろして…こうしたら文句を言いそうな奴が大人しいことに気づいた。あたりを見回すと、部屋の片隅に黒衣の忍者は蹲っていた。
 「…何をやっとるんだ」
 黒衣の忍者は、壁に向かってぶつぶつと呟いていた。
 「私はダークマターの初めての仲間で…初めて笑った時にも一緒にいたし…初めて仕えた忍者であったのに〜〜……」
 グレッグは、ぼろぼろの毛布に顔を埋めた。
 「私の主君の『初めて』を、すでに他の男に奪われていたとは〜〜〜」
 リカルドが寄っていって、ぽん、と肩を叩いた。
 「グレッグ。気持ちは分かるぜ。気持ちは分かるんだが…言葉を選べや。ルイ姐さんが喜ぶじゃねーか」
 「何でよ」
 ルイの投げナイフを避けて、グレッグは毛布をじっと見つめた。
 「ここんとこが好き…」
 「人の毛布の穴に、指を突っ込まない!」
 
 自分たちのリーダーがクイーンガードであったという衝撃的な事実と、さらには暗殺者であったという一大伝記を見てきたはずなのに、いつもと変わりなく騒いでいる冒険者を見て、クルガンはちょっと呆然とした。
 「なぁ、ダークマター」
 「なに」
 「お前、ひょっとして……すごく、苦労してるか?」
 ダークマターも、彼らを見た。
 毛布に頬摺りしながら床をころころ転げているグレッグを抱き起こそうとしたり怒鳴りつけたり毛布を引っ張ったりしている仲間たち。
 「いい人たちでしょ」
 ぽつん、と呟かれた言葉に、クルガンは渋々同意した。
 「まあ…な」
 ダークマターは自分の膝の上に顎を載せ、両手を投げ出した。そして、平板な口調で小さく呟く。
 「こんなに良い奴らで、好意に値するって思うのに…好きだと思えない俺って、やっぱ、いかれてんだろうね〜」
 クルガンの眉が、左右の高さを変えて吊り上がった。
 彼から見れば、ダークマターは仲間に馴染んでいるようだったのに、実は彼らのことが好きでは無かったのか。
 ダークマターは自分の髪をくしゃくしゃと掻き回し、そして勢いを付けて立ち上がった。
 「さ、次、行くよ〜」
 のんびりとした声を上げると、4人の仲間は振り返った。
 「はぁいクイーンガード様!」
 「…やめなさいって」
 冗談のようにそう呼んだサラに苦笑して、それからダークマターはふと表情を無くした。
 「どう思う?」
 「何が?」
 「あんた達から見て、どう思う?俺はやっぱり『あいつ』だと思うか?」
 「へ?」
 一様に口をぽかんと開けて、彼らはダークマターを見た。クルガンも驚いたように見つめる。
 確かに種族も、姿も少し異なっているが、基本的なパーツは人間であるクイーンガードダークマターと、このエルフのダークマターは共通していた。
 それに、彼自身が言ったではないか。
 『俺の部屋』と。
 一番に口を開いたのはグレッグだった。
 「個人的には、別人であっても一向に構わないが。むしろその方が望ましい」
 「…こだわるんじゃねーよ、『初めて』に」
 とりあえず呆れてから、リカルドは自分の腰の大剣をぽんと叩いた。
 「俺は、一緒だと思ったぜ。何つーか…戦い方とかが」
 「あたしもね一緒だと思ったのよ性格っていうか捨てられた子供みたいな目がってあらやだごめんなさい本当にそうだったわねそんなつもりじゃなかったんだけどあたしが言いたかったのは寂しそうに『自分はここにいていいのか』って自問してる姿がそっくりだと思ったのよ」
 「別人って言い張る方が難しいんじゃないの?」
 彼らの言葉に、ダークマターは頷いた。
 「俺もね、思考過程とか記憶法が同じだから、同一人物である確率の方が遙かに高いのは理解してるんだけど」
 虚ろに開いた瞳孔が、天井の色の奔流を見上げた。
 「だけど、認めたくないんだよ。…認めたら…それは、つまり…」
 最後は口の中だけで呟かれた。
 すぅっと瞳孔が縮んだ。
 「何でもない。じゃ、次、行こうか」
 

 気が急いているのか、クルガンが先頭に立っている。ここから先は迷うことはないと知っているから、ダークマターはそれを放っておいた。
 クルガンとは対照的に、彼の足取りは鈍い。
 この奥で、ついに真実が突き付けられるのだろうか。
 彼がエルフであり。
 本当の意味で感情を持つことが出来ない、その理由が。
 もう半分以上は諦めてはいるのだけれど。いや、いっそ、突き付けられた方がすっきりするのかも知れないけど。
 「87%…か」
 彼は小さく呟いた。



 全ては、この奥に。








どうでもいい話ですが、作中女の子の骨は私が高校の時に友人触って感じた感想。
「こ、これが女の子の骨格か〜!」…いや、俺様も女ではあるが、普通に骨太。
女の子って華奢だなぁ、骨は細いし折れそうじゃん!って感じで衝撃的でした。

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