女王陛下のプティガーヅ





 ソフィアの日記。



 いつも通り迷宮に…と言いたいけど、今日は3階でアースジャイアント狩り。
 私の後ろでユージンがぶつぶつと呟いている。そんなに盗賊なのがショックなのかしら。
 それにしても、敵が欲しい時に限って見あたらないものね。こっちから敵を求めてうろうろするのって何だかさもしい気がするわ。目的は戦闘じゃなくてアイテムなんだし。
 まあそれでも何体かジャイアントを見つけて、フロントガードしつつ背後で長がストレインを唱えては、陛下が盗んで、荷物が一杯になったら殺してというのを繰り返して。
 2回迷宮に潜ったところで、ようやくアーマークラッシュを2つ手に入れてルーングレイブに交換できたのだった。
 まあ、今は盗賊だから、ルーングレイブ装備できないけど。
 ユージンは今はレベル16なので、ついでに17になってから騎士玉で戻ろうということで、次は6階に向かった。
 サッキュバスが向かってきたらどうしようって思ったけど、今度は何故か陛下が集中攻撃を受けている。いえ、全部かわしてるけど。
 「…やはり、彼女たちは騎士道に惹かれてやってきていたのだな…」
 全く口づけされる気配のないユージンが寂しそうに呟いた。
 「んー…ひょっとしたら、あっちも堕落させるのなら騎士!とかいうプライド…は無いか、仲間内の競争?みたいなのがあるのかも」
 ダークマターが首を傾げながら言った。
 だとしたら、ユージンが騎士に戻ったらまた集中攻撃なのかしら。
 長が、ふむ、と呟きながら魔物図鑑をぺらりとめくった。
 「そのような記載は無いが……む、すでに70体ほど倒しておるな」
 仲間を呼びまくるものね。特に意識して養殖したわけじゃないけど、増える増える。
 「ほほぅ。では、サッキュバスファンの集いが開けるな」
 ユージンが嬉しそうに顎を撫でた。またあのヨッペンとかいう奴のつまらない話を聞かなきゃならないのね…お仕事だけど…。
 「それでは地図を埋めたら、いったん帰りましょうか」
 浮いて向こうへ渡れない黄金のタイルを前にして、私たちは道を引き返していった。
 この通路から飛び降りる瞬間ってイヤなのよねー。敵の真上に飛び降りれたら良いんだけど、一瞬の隙に背後からやられる、なんてことになったら目も当てられないわ。
 結局、2チーム連続で戦闘したけど、幸いバックアタックは食らわなかった。
 周囲を見れば、そこも踊り場みたいな場所で…あら、誰かいるわ。
 「やっぱりそうだ…ここにも見覚えがある…上の墓も、エルフの王の墓で、作り上げられた近習たちが共に葬られて…」
 ぶつぶつ呟いていたクンナルが、私たちに気づいて顔を向けた。
 「…何だ、君たちか。何か用?」
 「わたくしたちは、特に。ただ、メラーニエが貴方を捜しています」
 「メラーニエちゃんが?今、どこにいるの?」
 「入り口近くの部屋ですが…」
 「面倒だなぁ、ここまで来て、あんなところまで戻るの。君たちが上まで送ってあげなよ。僕はもっと先に進むんだから。僕の夢が現実に重なってきてるんだ…僕はもっともっとこの目で見たい」
 クンナルも恋する男ってよりは錬金術師ってことね。古代ディアラントの遺跡の方が可愛い女の子よりも興味深いなんて。
 クンナルは夢見る瞳を上に向けて、またふらふらと歩いていき…呪文を唱えて消えた。転移したのか、スルーの呪文を唱えたのかは知らないけど。
 「まあ…伝言はしたことですし…」
 長もうむうむと頷いているし、陛下もクンナルの気持ちが分からないでも無いみたい。
 そりゃ、私も全く分からないってわけじゃないんだけど…でもあの子、これからどうするのかしら。
 「意外といるもんなんですねー、古代ディアラントの血を色濃く引いているエルフって。あれで乙女だったら狙われるところだったなー」
 ダークマターが暢気に呟いてから、少し首を傾げた。
 「…あ、でも、人間の感覚だと大昔って感じだけど、エルフ的には大した代重ねじゃないのかな」
 確かに私たちは人間よりは長命だけど…500年以上生きるのはエルフでも長老扱いなのよね。
 「とにかく。どうします?入り口まで戻って、メラーニエちゃんに伝えますか?私は気が進みませんけど」
 色好い返事じゃないものね。陛下も少し悩まれたみたいだけど、クルガンが地図を差し出して説明した。
 「あと少しだけここを埋めれば完成なんですが」
 「…それでは、ここだけ進んでから、移送の薬で戻りましょう」
 ということで、マップ埋めに進んで。
 扉の前に門番のように立っていたマスター忍者が5体。
 当たっても大したダメージにはならないんだけど…ならないんだけど…。
 しまった!っと思った時には、首筋が熱くなって。
 私もついにこの時代では初死亡だったらしい。
 なお、私が死んだ後、死体を抱えて移送の薬で入り口に戻ってメラーニエちゃんにクンナルのことを伝えたらしい。
 生き返ってからそれを聞いて、メラーニエちゃんはさぞかしがっくり来ちゃっただろうな、と思って、
 「誰か、慰めてあげたの?」
 と聞いたら、ダークマターに大真面目な顔で
 「何で?」
 と聞き返された。
 クルガンも腕を組んで苦笑している。
 「…ま、思い切り罵られたからな。役立たず!だと。…無論、あのピクシーの方にだが」
 それでも慰めるのが男ってもんでしょ!もう…女心の機微ってものが分かってないんだから!
 「それで、メラーニエちゃんはどうしたの?まさか、放ってきたんじゃ…」
 放っておいても転移の薬くらい持ってるだろうけど、それをちゃんと無事に地上まで送るのが礼儀ってものでしょ。
 はぁ?という顔のダークマターは、まあ基本的に情が薄いからしょうがないとして…クルガンを八つ当たり気味に殴っていたら、陛下と長が合流した。
 「酒場に依頼が出ております。メラーニエが、錬金術師のいるパーティーに入れて欲しい、と」
 あら、ちょうどいいじゃない。長は錬金術師なんだし。
 期待の目で陛下を見たのに、陛下は微妙に視線を逸らした。
 長も苦虫を噛み潰した顔でむぅと唸っている。
 「迷宮内で石を作る気は無いぞ」
 「というか、あんなの連れて歩くの、鬱陶しいし」
 「まあ、人数的には無理だな」
 「か弱き少女を無理に迷宮に連れ歩かずとも…我々は、更に深い階層に潜るのだし」
 …反対意見が多いわね。
 でも、あの子が他のパーティーでやっていけるかどうか分からないし…変な奴らに引っかかったら可哀想だし…。
 「ソフィア。彼女は我々のパーティーには向いていませんよ。それは理解していますね?」
 「…はい」
 当たった敵は、友好的でもぶちのめ〜す!!ですものね…スルー?何、それ、おいしい?ですものね…。
 けど…うーんうーん…。
 私がもじもじしていると、ダークマターが片手を上げた。
 「とりあえず。あのうじうじ小娘は、迷宮に潜るのが第一目的じゃないように思うんですが。要するに、魔法石さえ手に入りゃいいんでしょ?」
 「…まあ…そのような感じでしょうね」
 「なら、俺たちが材料採ってきてやるから大人しくしとけよってことで良いんじゃないですか?」
 ぽん、と私は手を叩いた。
 「そうよね、そういう約束でギルドで待っていてくれたら、私も安心だわ」
 「我々のメリットは、何も無いがな」
 彼女の身の安全以上のメリットなんて必要無いでしょ。
 もちろん、私だって、手に入った材料を半々であげる、なんてことは考えてないわ。材料が余ったら、で良いと思うし。
 「では、ソフィア。貴方が酒場で彼女たちに話を持ちかけてみなさい。もしも、彼女たちが、実際に迷宮に潜りたいのだ、と言った場合は、我々は意に添えないことを伝えておくように」
 「はいっ!」
 うふふ、あんな可愛い子なんだもの、ギルドで待っててくれると思ったら、戦い甲斐もあるってものだわ。
 それじゃ、行って来ま〜す。






 レドゥアのノート。



 さて、小娘は無事、ギルドで待つことを了承したらしいので、これで迷宮内で余計な依頼をされることは無くなった。
 我々には崇高な使命があるのだから、小娘の護衛だのレベルアップだのくだらぬ依頼で水を差されるのではたまらぬ。
 しかし、すでに受けている依頼となれば、話は別だ。
 きっちり埋まった魔物辞典を片手に、我々は1階のセラフショップへ向かった。
 そこでは、いつものオークの着ぐるみから頭だけ出した鬱陶しい男が待っていた。
 「うわー、早かったねぇ!」
 「はっはっは、サッキュバスファンの集いとなれば、力が入ったからな」
 …いや、ユージン、お前と一緒にするな。
 今回の依頼達成が早かったのは、単にピクシーと違って複数で出現することが多かったせいだろう。おまけに増える。
 ユージンが腕をかぽーんと鳴らしながら気合いを入れて話そうとしているところを、着ぐるみは私の手から魔物辞典を奪い取った。
 「えーと…あ、本当にちゃんと記載されてる…なるほど…うわぁ、幻惑のローブを剥ぎ取って…え…ええええ!?」
 そういう呟き方をされると、我々が女性型モンスターの衣を剥ぎ取って何かしたみたいではないか…。
 着ぐるみは本を食い入るように見つめ、何度も同じところを目が動き…嘆くように天を仰いだ。
 「お姉さまぁ!夜這いだなんて…夜這いだなんて…僕のところには、一度も来てくれてない!」
 着ぐるみは血走った目で我々をじろりと見渡して、私に本を放るように返した。
 「こうしちゃいられない!僕もお姉さまに夜這いして貰わなくっちゃ!」
 どたどたと足音を立てて、着ぐるみは走っていった。
 …ふーむ。
 オティーリエが私の手から本を取り、サッキュバスのページを読んだ。
 「気に入った者の元へは、たとえ街へでも向かうことがある…。街にサッキュバスが現れたという話は、聞いたことがありませんが…」
 「まあ…その…貴族の元には、来る、という話で…」
 浮気の誤魔化しのための噂ではあるが。同様に、貴族の奥方やシスターが覚えもないのに妊娠するのはインキュバスの仕業と言われておるな。無論、本物でない確率の方が、確実に多かろうが。
 「ふ、サッキュバスにも選ぶ権利というものがありましてな、いやはや、ヨッペンに夜這いをかけるサッキュバスはなかなかおりますまいて」
 「モンスターの基準なんて、人間とは違うんじゃないかなぁ」
 ダークマターのひっそりとした反論は、ユージンの耳には入らなかったようだった。
 「しかし、残念。せっかく私が身を張って、サッキュバスの生態について詳しく説明できるよう、情報を得たと言うのに」
 お前のは、ただの趣味だ。
 まあ、私もサッキュバスについて大いに語り合いたい…い、いや、語っても良いのではなかろうか、くらいには思っていたが。
 まあ、ともかく依頼はまた一つ達成した。
 これで受けている全ての依頼を達成したので、心おきなく6階を攻略できるというものだ。

 予定通り、ユージンは騎士に戻りルーングレイブを装備している。そのおかげか、回避力のせいかは分からぬが、今度の探索ではユージンがサッキュバスの口づけを受けることは無かった。まあ、盗賊だと見向きもされなかった心の傷から、相手はモンスターだと再認識して真面目にかわしたのかもしれぬが。
 そうして、クルガンの地図に従いスイッチを入れていく。
 ようやく空中に浮遊していた黄金の通路が全て繋がったので、先へと進んだ。
 ところが、ある部屋の前に細く延びる通路に着いた途端、クルガンとダークマターが我々を通路の端へとほとんど突き飛ばすように追いやった。
 二人揃って我々の抗議の声など気にも留めずに武器を抜きつつ空間に向かって戦闘態勢になる。
 そうしていると…いや、そんなことを考えている場合では無いのだろうが…エルフの耳と金髪というせいなのかもしれないが、驚くほど似通って見えた。
 会話を交わすことなく、お互いの考えていること、次に行うことを熟知しているような…あぁ、いや、そういう表現も気持ち悪いが…いや、双子のようだ、と喩えれば良いのか。
 まあ、ともかく。
 我々には感知できなかったが、<何か>の存在を感じ取ったらしい二人の姿に、我々も戦闘態勢を取る。
 ソフィアも前に出ようとしたが、振り向くことなく二つの声が重なった。
 「お前は、下がっていろ」
 「ソフィアは相性悪いかも」
 回避力はクルガンがダントツで一番、次にダークマター。ソフィアも普通よりは早かろうが、モンクという装備の制限のため防御の割には回避が弱い。
 ということは、回避力を必要とされる何かがいる、ということか。
 何も無い、と思えた空間に、ゆらりと人影が現れる。
 「…ほぅ…俺の気配に気づくとは、なかなかの腕前だが…何も知らぬのに気の毒だが、ここで死んで貰う」
 黒衣の男から殺気が放たれる。
 「マスター」   (マスター忍者だ、回避高いな)
 「魔法」     (魔法なら落とせるだろう)
 「迎撃」      (発動するまで迎撃するのが肝だね)
 ダークマターとクルガンの会話は単語で成り立っていたが、どうやらそれで意志疎通出来ているらしい。
 ともあれ、二人だけに任せてはおけぬ。忍者は素早いが、魔法を発動できれば、それで落とせるはずだ。
 オティーリエを庇うように腕を上げ、私は呪文を唱え始めた。オティーリエも同じく呪文を唱え、魔法協力を発動させる。
 忍者がゆっくりと…いや、残像か?クルガンとダークマターの刀も同じく緩やかに動き始め…。
 「お止めなさい!」
 扉の向こうからの声に、黒衣の忍者の動きが僅かに鈍った。
 「しかし…」
 「もう、良いのです。もう誰の命を奪うこともなりません。…冒険者の方、申し訳ありません。どうぞ、扉を開けて、中に…」
 黒衣の忍者は1秒足らずの間、悩んでいたようだったが、構えを解いた。
 しょうがないので、我々も呪文の詠唱を中断する。
 クルガンとダークマターは、また完全にコピーされた幻影のように同時に刀を下げたが、鞘に納めはしなかった。
 「扉を開けろ、だってさ」
 「どうする?あれを先に行かせるか?」
 「あんたが先頭、俺がしんがりで?」
 「罠の可能性は?」
 「9割方、オリアーナ」
 「だろうな」
 オリアーナ、という言葉に反応して、また黒衣の忍者から殺気が漏れたが、すぐに押さえ込まれた。
 「…何を、知っている?」
 「たぶん、あんたが想像しているよりも遙かに多くを」
 黒衣の忍者は我々の顔を順に見つめていき、本当は不本意なのだろうがゆっくりと扉を開けた。
 その後からクルガンが続き、ダークマターが扉の脇に立っているのを横目に我々も中へと入った。
 最後に入ってきたダークマターが、小さく呪文を唱える。簡単な封印の魔法のようだ。
 確かに、背後から敵が入り込むのは勘弁して欲しいところだがな。
 周囲を見回してみると、その部屋だけは迷宮とは思えぬほど磨き上げられていた。美しく水の流れ落ちる壁を背景に、一人の女性が立っている。
 どこかオティーリエに似ていなくも無い、金髪の人間女性。
 「初めまして。わたくしはオリアーナ。半年前に死んだとされている王家の第一王女です」
 普通なら、そこで驚きの声でも上げるべきだったのだろうが、我々はすでに王女が生きていることは想定していたので、彼女の存在に動揺はしなかった。
 ダークマターが眉を寄せて呟く。
 「護りが薄いよね。ここへ通じるスイッチの守護にマスター忍者はいたけど、倒しちゃったし…今、通路はしっかり通ったし…隠れ続けるつもりなら、さっさと俺たち出ていってもう一度スイッチオフした方がいいのかも」
 オリアーナ王女は、その言葉に首を振った。
 「いいえ、わたくしはもう逃げません」
 「それは危険だ!」
 「これ以上、わたくしのために犠牲を出したくはないのです。冒険者の方も、貴方たちも」
 「俺たちのことはいい。人殺しと後ろ指を差されていた俺たちを、あんたたちは人間として扱ってくれた。それで十分だ」
 …さて、ドゥーハン忍者部隊は、この時期に正式に王族直轄となったのだったか。
 我々の時代に、忍者に面と向かって殺戮機械なんぞと言う輩はおらなんだが…聞こえたら血の気の多い忍者長が怒鳴り込んでいくからな…今はまだ立場が確立しておらぬのか。
 まあ、いい。
 それよりも、だ。
 「リーエ。いかが致しましょう?事は王女一人の命云々というレベルでは無いのですが」
 王族たる者、己の身の安全のみを謀って隠れているというのなら、出ていくというものを止めはせぬのだが、ディアラントの血を引く乙女となれば話は別だ。
 もしも王女がウェブスターの手に落ち、仮に武神が起動してしまったら…魔女の出番を待つまでもなく、このドゥーハンが終わる。
 オティーリエも眉を寄せ、先祖である王女を見つめた。
 「ウェブスター公の手に落ちぬようすべきなのは確かですが、ここで隠れているのと、王宮に戻るのとどちらが安全かと言うと…」
 普通なら、王宮の方が安全であろう。
 ただし、王宮内に裏切り者がいない、という前提に立てば、だが。
 ユージンが片手を上げて、意見を述べる姿勢になった。
 「思うのだが…ひょっとして、あの摂政は、己が正しいことをしていると思っているのではないか?王女一人の犠牲で、強大な兵器が手に入り、魔女も闇の眷属も倒せると思っているのなら…賛同する者もいるやもしれぬ」
 少しばかり唇を歪めて、自嘲するように付け加える。
 「私の反乱に多くの者が従ってくれたのも、私は正しいことをしていると信じて彼らを説いたからだ。悪しきことを成そうとして仲間を集ったとしても、腐った果実しか手に入りはしない」
 それはあるな。
 我々は、武神が神などではないことを知っている。
 だが、あれを強大な武力とだけ認識していたならば、己が魔女からドゥーハンを救う英雄となる、と思いこんでも仕方が無い。
 そして、騎士団を温存して冒険者如きに魔女討伐を任せている王に不満を抱く者も多かろう。
 だとすれば、まだしもこうやって迷宮内に隠れている方が安全なのかも知れぬが…更に下に降りるとなると敵も強かろうし、魔女や闇の眷属による脅威も増える。
 …ダークマターあたりが強固な封印の魔法でも使った方が安全ではなかろうか。
 オティーリエにそう言うと、ダークマターがどこか上の空な視線で曖昧に頷いた。手が動いているところを見ると、適した術を検索しているらしい。
 「まあ…やってやれないことはないですけど…王女の味方も通れませんよ?食事とか大変かも」
 我々が代わりに世話をする…何のために迷宮に潜っているのか分からんな。
 王女が我々の顔を不思議そうに見つめる。
 「あなた方は、一体…冒険者では無いのですか?」
 茶々を入れそうなダークマターの口をクルガンが塞ぎ、その間に、オティーリエが柔らかく微笑んで胸を反らした。
 「お気になさらず。わたくしは、わたくしのものを守ろうとしているまでです」
 …聞きようによっては、ひどく不遜ではあるが。
 まあ、間違ってはおらぬが。
 更に何か言いかけた王女の言葉を、外からの悲鳴のような声が遮った。
 「何、これ!入れない!?王女さま!ご無事ですか!?」
 ダークマターが舌打ちをして手を上げ、指先が何かの文様を辿った。
 途端に開いた扉から、エルフの少女が転がるように飛び込んできた。
 「王女さま!逃げて!ウェブスターが来ちゃった!」
 「わたくしは、もう逃げないと決めたのです」
 「王女は、逃げ隠れせず、姿を現す、とお決めになったようだ」
 「そ、それにしたって、ここで捕まっちゃ駄目でしょ!せめて王宮に戻りましょう!?」
 エルフの少女たちが王女の元に駆け寄り、転移の薬を振りかけた。
 姿が消え失せたのを見送って、我々も部屋の外に出る。
 ダークマターが扉にまた呪文をかける。
 「…中にいる、と思いこんで、無駄な時間を潰してくれれば儲けものってくらいで」
 そうしてさっさと黄金の道から先へと進んだが、ウェブスターと思わしき集団は見かけはしなかった。
 下へと向かう階段を見つけたのだが、ともかくは王女の身が心配だ、上に戻って情報を仕入れた方が良い、と言う結論になり、我々はリープの呪文で戻ったのだった。



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