女王陛下のプティガーヅ
ダークマターのメモ
俺は暗闇の中をぼんやりと漂っていた。
意識が拡散していく心地よさに目を閉じる。…まあ、目を開けても閉じても変わらず暗闇だけど。
暗闇は嫌い。
造り出された時のことを思い出すから。
そして、俺の行く末を思わずにはいられないから。
俺は目的を持って造り出された。だから、俺は、その目的を達成したら自動的に死ぬのだと思っていた。
なのに、死ななかった。
俺は、何故、生きているのだろう?いや、何故、生かされているのだろう?
どうせ、何を残すでもない存在なのに。
俺の魂は、87%しかない。ということは、子孫を生み出すこともできず、輪廻転生が出来るわけでもない。
死ねばそこで消滅する存在だ。
だから、生きていても何もならないのに…何故機能停止しないんだろう。
ずっと、不思議だった。
けれど、この時代に持ってこられて、ようやく認識した。
俺にはまだやることが残っているらしい。俺の存在理由は、このドゥーハンを救うこと。時代を超えても、それは変わらないらしい。
…このまま微睡んでいる方が、よっぽど気持ち良いけれど…「お前には、まだやることがあるだろう?」なんて聞き覚えのある声が囁くものだから、仕方なく意識をかき集めて、見てくれだけは整った出来損ないの器に押し込んだ。
肉体に繋がれると、ずっしりと重い感じがした。怠いなぁ。
「…あ〜…アレイド出す敵のパーティーは覚えてたのに…てっきりマジックキャンセル狙ってると思ってた〜」
ぶつぶつ言いながら目を開けると、妙ににこやかな顔の司祭が覗き込んできた。
「いやー、素晴らしい。あなた方の絆であれば、リーダーが亡くなられた際にはもっと感動的な儀式が出来ることでしょう。市民の方々にアピールするためにも、今度はリーダーが亡くなられた時に来て下さいね」
よーく考えると…いや、よく考えなくてもだけど…ひどいこと言ってるな〜、この司祭。
のそのそと身を起こし、とりあえず用意されていた服だけ着た。精神の皮鎧の修復は出来るだろうか。思い切り斧で切り裂かれたもんな〜。
その場でジャンプしてみたけど、やっぱり体が重かった。
改めて周囲を見ると、ちゃんと皆いた。何でだろう、もう誰かが死ぬのも慣れて、手分けしたりしてるのに。
特に、クルガンが苦虫を噛み潰した顔になってる。
「何だよー。探索が途中中断したから怒ってんの?ごめんって。今度から気を付けるからさ〜」
「…お前は、造りが普通じゃないからな。ひょっとしたら…万が一だが…蘇生出来ないんじゃないか、と思っただけだ」
「あ、なるほど」
確かに、俺は普通に神によって生み出されたものじゃない。てことは、神が蘇生してくれるかどうか分からないって思われるのか。
「俺がいらないなら、そもそもここに飛ばしたりもしないって。大丈夫」
どうやら、俺にはまだやることがあるみたいだし。俺の生存理由があるなら、まあもう少しこの器で頑張ってみようか。
もしも、この件が終わっても機能停止しなかったりしたら…俺はその時こそ、どうしたらいいのか分からなくなって狂うかも知れないけど。
「…なら、良いんだが」
まだ機嫌が悪そうだったけど、頭をがしがしと撫でられたので、まあ怒っては無いんだろう。
外に出ると夕方だったので、宿屋に向かって、俺だけさっさとベッドに突っ込まれた。
確かに怠かったのでさっさと眠っていると。
朝起きると、枕元に虎撤が置いてあった。何だっけ、こういうの…えーと…聖何とかが良い子にプレゼントを持ってくるって奴だ。
預けておいた俺の長船も戻ってきてるし…うーん。
ベッドに2本並べて考えていると、クルガンがもそもそと起き出した。今朝も寒いのに、よく素っ裸で眠れるな〜と思う。
「…忍者になってくる」
いや、そんなメシを食ってくる、みたいなノリで言わなくても。
「薄いくせに」
「忍者は回避力で勝負だ」
まあ確かにクルガンの方が遙かに回避力が高いんだけどさ。実は俺はリーエに護りの胸当てを譲ったから、防御も回避も弱いし、生命力も低いんだけどさ。…自分で言って何だけど、薄い前衛だな〜。
「テュルゴーとか言う奴から手裏剣でも奪い取って…」
「クルガン。これ、使う?」
虎撤は、今、俺が持ってる中で一番攻撃力が高いんだけど。
クルガンの眉が上がった。
「あんた、昔も菊一文字装備して忍者になってたっしょ?それと同じで。また忍者用の良い武器が手に入ったら、装備し直せばいいんだし」
クルガンは眉を上げたまま、しばらく虎撤を睨んだ。
忍者としてのプライドと、攻撃力を秤に掛けてるんだろう。気持ちは分かるけど。
「…侍玉と、忍者玉がいるぞ」
「10万ゴールドくらい、軽い軽い。どうせお金あっても買うもの無いんだし」
「…リーダーが許可すれば、な」
あ、だいぶ傾いたみたいだ。
て言うかさー、俺の隣に立ったからって、俺の生存確率はあんまり変わらないようにも思うんだけどね。庇って貰う気も筋合いもないし。
ま、その配置の方が、慣れてるから良いけど。
てことで、俺がゆっくり朝飯を食べてる間に、クルガンは支店から玉を二つ買って忍者になった。
ついでに言うと、ユージンとソフィアはリディのところで情報を買って、買い占めた挙げ句に仲間になるという台詞を頂いて帰ってきたようだ。
うーん、この情報の中で使えそうなのはアレイドの習得法くらいかな。性格がどうとかなんて、女の子が読む雑誌の占いコーナーみたいだし。
心機一転、前衛にクルガン、俺、ソフィアという元クイーンガード勢、後衛にレドゥア、リーエ、ユージン、という配置で迷宮に向かった。
今回こそショートカットを使うぞー、とそっちの道に入ったら…こういう時に限ってピクシーが2体現れたりなんかして。
「…これで、50体倒したような」
「では、セラフショップに向かいましょう。随分待たせましたが、本当にいるのでしょうか」
ということで、2階への階段近くのセラフショップに行って、きょろきょろしていると。
「ばぁ〜〜〜〜」
可愛らしい少女の声がして、オークの着ぐるみが現れた。
「えへへ、びっくりした?もう、待ちくたびれちゃったよ。さ、ピクシーたんについてお話しようよ」
ヨッペンがその場に座り、礼儀としてリーダーであるリーエがその正面に座る。その両脇にレドゥア、ユージンという案外魔物の研究に勤しんでいる二人が座って。
クルガンとソフィアは、退屈そうに壁際で腕立て伏せを始めた。
俺はどうしようかな。ま、ちょっと聞いてても良いけど。
「…でね、ピクシーたんって恥ずかしがり屋でしょ?オークの格好をしてたら近寄って来てくれると思ったのに、全然来てくれなくって…そういうところも可愛いと思うんだけどさっ」
「ふむ、ピクシーの遭遇率と、その反応の確率として…」
「いやいや、実は我々が気づいていないだけで、密かに遭遇しては逃亡しているのかもしれないが…」
「でもね、あの暗〜いエルフの子に付いてるピクシーたん、あの子はいいよね〜。あんなに小さいのに気が強いなんて、すっごい萌え〜!」
「そういえば、ピクシーに属性はあるのだろうか」
「そもそも、ピクシーの雄というものを見たことがないのだが、どうやって繁殖しているのだろうな。是非とも見てみたいのだが」
「やだいやだい!あ〜んなちっちゃい体で雄と交尾するなんて…想像するだけでピクシーたんが汚れちゃう!はぁはぁ…」
「繁殖か…それは実に興味深い問題だが…」
「うぅむ、あれは体が小さいが成熟した個体だと思っていたのだが、幼女のピクシーというものも存在するのだろうか。だとすれば…」
…いやー、リーエはよく我慢して聞いてるな〜。
飽きてきたんだけど…ちょっと口出してみようか。
「気が強い、と言えばね、最近の流行の言葉で言えば、クルガンはツンデレってやつだと思うんだ」
「ツンデレ!ツンデレって良いよね〜!ピクシーたんに「あんたなんか興味無いんだからねっ!」って罵られてみたいな〜!あぁん、ピクシーたん、萌え〜!」
「まあ、基本的に奴らは人間には興味無かろうがな」
「いやいや、案外近寄って来ますからな。是非とも捕まえてみたいものですな」
………。
俺はずりずりと下がって、壁に背中を預けて座った。
クルガンが腕立て伏せをしながらじろりと睨んでくる。
「…何を言っとるんだ」
「んー、ちょっと確認しただけ」
「何を?」
俺は一見討論しているらしい4人の輪を指さした。いや、4人って言っても、リーエは相づち打ってるだけだけど。
「実は、誰も相手の言うことは聞いて無くて、自分の言いたいことだけ言ってるんじゃないかな〜って」
「…ま、そのようだな」
延々2時間ほど続いたその『座談会』は、ようやく終了した。
「あ〜〜〜!すっきりした〜!言いたいことを大きな声で言えるっていいね〜!」
これでも普段はちゃんと我慢してるんだ…ちょっと見直しておこう。
「君たち、結構聞き上手だし。またしようね!うーんピクシーたんも良いんだけど、今度はもっとこう…お姉さまタイプが良いかな…うーん、また思いついたら依頼するからね!それじゃ!」
スキップしながら出ていったヨッペンを見送ってから、他の人を見ると。
リーエはぐったりしてたけど、レドゥアとユージンはヨッペン同様すっきりした顔になっていた。案外、近い人種だったのか。
「それでは…5階に参りましょう…」
「御意。いやはや、なかなか良い息抜きでしたな」
「はっはっは、次は是非サッキュバスあたりでお願いしたいところですな」
…俺も、クルガンに関しての座談会があったら混ざれるんだけどな。まあ、テーマが何であれ、俺だけクルガンの話をしてても3人とも全然聞いてないだろうけど。
ソフィアの日記。
今度こそ転移陣で4階まで行ってから、5階に降りた。クルガンの地図を見ながら、まだ行ってない場所を探索していく。
レバーを引いて、落とし穴を作動させて、またレバーを引いて…面倒ねぇ、誰がこんな仕掛けを作ったのかしら。
炎が消えて、部屋の中央の転移陣を通ってまた別の場所に行って。
そしたら、とある部屋で『ここです』っていう看板を見つけた。
「何が、ここなのかしら」
「地下5階に急いできてくれ、とかいう依頼のことじゃないか?さて…」
「あぁ、来てくれたんですね!」
振り返ると…オーガを6体引き連れたオーガロードがにやりと笑っていた。
「…何か、お困りのことでも?」
一応、礼儀正しく仰られている陛下をエルフ3人が前に出て隠す。
「わざわざ狩られに来てくれて、ありがとうよっ!」
…敵、決定。
「ま、ラッシュはしてこないしょ。またダブルスラッシュ食らったら死ねるけど」
背後で長がスプリームを唱えた。前衛が1体眠ったので、これでダブルスラッシュの確率は低くなる。
「オーガロードは銀の盾を持ってる可能性があるんで、盗んで欲しいところだけど…」
「前衛に出てきてくれれば、そうしましょう」
暢気な私たちに向こうは驚いたようだった。まあ、向こうからすれば、私たちが餌のつもりなのよね。私たちからすれば、あっちがカモだけど。
結局。
「…おのれ〜!向こうからカモネギが来てくれてウハウハ作戦が〜!」
「で、銀の盾っぽいの盗れました?」
「…タワーシールドのようですね…鑑定してみないと分かりませんが…」
「ざーんねん。もっと美味しいネギ背負って来てよ〜」
ダークマターがしゃがみ込んでオーガロードをつんつんとつついた。言ってることは酷いけど、やってる姿は可愛いわぁ。
クルガンは落ちているバトルアックスを拾って溜息を吐いた。
「報酬の斬り裂きの斧、というのも嘘なんだろうな」
まあ、いいじゃない。どうせ誰も斧なんて使う気無いんだから。
他の冒険者が騙されないように<ここです>の看板を引っこ抜いて…剣で斬ろうかと思ったけど、そこまででもないから…。
「ちぇえええい!」
拳を繰り出して4分割ほどにすると、ダークマターがぱちぱちと拍手してくれたが、ユージンが顔を手で覆って嘆いていた。
「あぁ、聖なる癒し手のイメージが…」
「いまさら〜」
「うむ、こいつは昔からこんな性格だったぞ。対外的には取り繕っていただけで」
僧侶って戦士には劣るけど戦う力もそこそこあるっていうのが定説なのに、私が戦うと何故そんなに意外だと思うのかしら。昔からそうなのよねぇ。女エルフは黙って微笑んで癒しておけってのかしら。
そこからまた探索を進めていったら、何だか壁に奇妙なものが並んでいる部屋に着いた。
フリーダーとかいうあのオートマタに似てるわね。
私たちが眺めていると、奥からころころ転がるようにポポーがやってきた。
「見てよ!凄いでしょう!ここは古代エルフの都市、ディアラント…予想はしてたけど、間近に見られるとは思わなかっただわさ」
うっとりした目で壁面を眺めている。
金色に光る肌に、すっごく細い女性形のオートマタは、フリーダーよりも何だか無機質っぽい姿に見えた。いろいろと種類があったのね、きっと。ギョームが見たら感涙に噎び泣きそうだわ。
しばらくポポーの話をぼーっと聞いていたら、聞いたことのない言葉がどこからともなく聞こえた。
溜息にも似たかすかな声に、ダークマターが敵を見つけた草食動物のように首をもたげた。
「エクス、メリ?…」
ダークマターは問いかけるように小鳥の囀りのような言葉を続けたが、悲鳴によって中断した。
ばっとそちらを見ると、騎士の一人が腹を押さえていて…後ずさったところに、さっくりと首を切断されていた。壁から抜け出た2体のオートマタによって。
更に壁から動き始めたオートマタたち。…いやだ、全部で何体いるのかしら。
「キキュ!キュキュキキキュ!」
ダークマターの口から、あのフォークとお皿を引っ掻き合わせるような音がした。
う゛ん、と妙な音を立てて、壁で身じろいでいたオートマタが止まる。
だが、すでに壁から離れていた2体のオートマタは、少しだけ動きを止めた後、私たちに襲いかかっていた。
「早いな…ホールドアタックと…牽制しといて!あの切れ味はやばい!」
ダークマターの指示に、私たちはいつも通りに展開する。
オートマタは確かにピクシー並に素早かったが、魔力で縛り付け斬りつけていく。
「喰らえ!ソウルクラッシュ!」
「…いや、ソフィア、仮にも女性なんだからさ〜、喰らえ、は止めといた方が…」
ぶつぶつ言いながら、ダークマターが左翼に回り長船を優雅に振った。
がきり、という手応えに顔を顰めつつも、思い切り攻撃を叩き込む。
そうして、3分ほどで2体のオートマタを倒した。私は少し攻撃を食らったけど、すぐに護りの胸当てで回復できるくらいの傷だった。
「…あなた達、やっぱり本当に強いのね。2階でスケディムを倒したっていうのも嘘じゃ無いって分かっただわさ」
ポポーが感心したように言った。
ダークマターは虚空を見つめてしばらくあの小鳥のさえずりと引っ掻き音を呟いていたが、やがて諦めたのか肩をすくめた。
「返事は無し、と。…どっかから声だけ伝達して起動させたのかな」
「闇と戦え、とか言ってただわさ」
「あ、ポポーさんも古代エルフ語理解出来るんだ」
「研究者だもの、当たり前だわさ。そっちのあの変な音は何?」
「第3世代高速機械言語」
「…聞いたことが無いわさ…」
「おそらく、研究者とかオートマタ専門技術者とかが使ってた言語だろうからね」
ポポーは興味深そうにダークマターを見つめたが、ダークマターは心ここにあらず、といった風に壁や天井を見ていた。
ポポーは何か言いかけたが、陛下の声に振り向いた。
「あの…騎士の方は絶命しておりますが、早く蘇生すればまだ間に合うやも知れませんが…」
私たちが上に連れて帰る義理は無いわねぇ。まあポポーが置いて行くなら、人情としてこっちも放っておけないけど。
「そうね…いろいろと考えたいこともあるし、私はいったん帰るだわさ。また、今度ゆっくり!」
ポポーは手を振り、騎士の死体と共に帰還の薬で帰っていった。
ダークマターはまだ壁のオートマタを調べている。
「…誰、が、起動させたか、だよねぇ。…いや、ほとんど見当は付いてるけど、だとしたら、何で、彼女は起動コードを知ってるのか、という…」
ぶつぶつ呟きながら壁に沿って歩いている。
「おい、次に行くぞ、次」
クルガンの声かけにも反応しないので、舌打ちしながら連れに行ったところで。
ぐもぉおおん
死神が出現する気配がした。
ユージンが青ざめた顔で叫ぶ。
「近いぞ!…というか、すでに壁から滲み出して…」
「帰りますよ!」
それでもダークマターは反応しなかったので、クルガンが無理矢理腕を引っ張ってきて…陛下がリープを唱えて…。
「いやん、またレドゥアですか」
「お前が遅いから…」
クルガンに殴られつつダークマターがにやにやと言った通り、死神は長に憑いていた。居心地良かったのかしら、長の体。
「…どうせ憑くのなら、3階の死神扉を開ければ良かったですね…」
陛下ってば、案外、長に厳しいわね。
まあ早々に祓った方がいいだろうと、6000ゴールドかかるのは承知で寺院に向かっていると。
「あ〜!君、また死神憑けてるんだ〜!ひょっとして、自虐的?自虐的なの?」
甲高い声と共に姿を現したのは、あのスコーンとか言う魔術師だった。
真っ赤な唇を吊り上げて、スキップしながら近寄り、跳ねるように長の周囲を回った。
「うっふっふーん。ねぇ、不幸?すっごく、不幸?」
おかしいわね、ダークマターが妙な魔法をかけてたはずなのに。ダークマターも眉間に皺を寄せて魔術師を理解できないものを見るように睨んでいる。
魔術師は大げさに胸に左手を当て、右手を天に掲げた。
「あぁ…僕は不幸な人間を見るのが大好きなのに…どうして、こんなに胸が痛いんだろう。君のその額の『死』、それを見ると愉快でたまらないのに、逆に胸が押し潰されるような気持ちにもなる…僕はまるで二つに引き裂かれたようだ…」
芝居がかったセリフに、長と陛下が目を白黒させている。
長はぜいぜい言いながら無視して寺院へと一歩踏み出したが、目の前に魔術師がひょいっと現れ、長の顔を挟むように手で持ち、じーっと見つめた。
「はっ!まさか、これが…恋!?」
ずるっとクルガンとユージンが足を滑らせているのが見えた。ダークマターはまだ不思議そうな顔で首を傾げている。
「そうか…これが恋なんだねっ!不幸な君を見ていると、幸せなのに胸が痛いなんて…あぁ、僕が君の不機嫌顔を吹き飛ばしてあげたいっ!」
「…いらぬわっ!」
叫んだ弾みに咳込みながら、長は魔術師を手で押しのけた。
「あぁん、つれないね〜、でも僕はそんな自虐的な君が好きだ!大好きだ!君こそ僕の愛…」
あ、長がダッシュしたわ。
「待ってくれ〜!ジュッテーーーム!」
とりあえず。
長は寺院に駆け込んで死神を祓うことは出来たらしい。けれど、それ以上に厄介な者にとり憑かれたようで、宿屋に帰ってきた時には、げっそりとやつれ果てていたのだった。