女王陛下のプティガーヅ




 ユージンの記録



 さて、我々はダークマターの『陛下強化計画』に乗ったのだが。
 目覚めて一番にギルドに行って、陛下を『戦士』に転職する。
 それから店に行って、倉庫をごそごそを探ってみると。
 「フルプレートならありますけど…防御は高いけど、回避はいまいちってのがね」
 「お前の胸当てを陛下に…あぁ、いや、お前が前衛に行くのなら、防御は高い方が良いか」
 「それ以前に、もう俺用にカスタムしてますって」
 せっかく戦士となっても、鎧が無いことに代わりは無い。
 まあ、レベルが上がったので、生命力も伸びているが…そのせいで、パーティー内で最も生命力が無いのは、またダークマターになってしまった。それで前衛に行くのだから、良い鎧を着せておきたい、というのは、クルガンの愛ばかりではなく、至極真っ当な意見であろう。
 結局、後衛の陛下が攻撃されるとしたら、盗賊の弓か忍者の手裏剣であろうから、しっかり止めるフルプレートで良いだろう、という結論になった。
 レドゥア公と同じ魔法の弓を構えて嬉しそうにしておられる。
 いや、なかなか微笑ましい光景だな。
 そして、ダークマターはどこからか刀を調達してきて、侍になったのだった。

 迷宮に潜ると、あのガスドラゴンがいた部屋近くが賑わっていた。
 どうやら早くも支店が建ったらしい。あのルーシーという少女、なかなかのやり手のようだ。
 扉をくぐると、カウンターの前で我らが店主に会った。
 「あらっ、あんたたち、来てくれたの。なかなか良い店が出来たわよ。記念すべき支店第一号だから、あたしもわざわざ冒険者登録して、護衛の冒険者を雇って、ここまで見に来たの」
 ルーシーはご機嫌のようで、いつもの「大人になんか負けるものか」と言っているような思い詰めた顔が少し緩んで少女らしい顔つきになっている。
 うむ、今はそばかすが目に付くが、将来はなかなかの美少女になることだろう。
 「さ、どんどん拡大していくわよ〜。これからも、使えそうな部屋があったら、取っておいて頂戴!」
 …うーむ、他の階の空き部屋は、家主は誰なのであろうか。勝手に使って良いのだろうか…。
 「じゃあね!あんたたち、しっかり稼いで来てよ!せっかく店が出来ても、品揃えが悪いんじゃ、お客に逃げ出されちゃう!」
 ダークマターとソフィアがうんうんと頷いている。どうやらあの二人は買い物好きらしいから、お客の思考もよく分かるらしい。
 「さ、あたしは帰ろうかな。帰りは一瞬なのよね…誰か『支店の薬』でも開発してくれないかしら」
 ぶつぶつと言いながら、ルーシーは小瓶を一気に飲み干した。すぐにその姿が消える。
 どうでもよいが、その薬は飲まずとも使えるのだが…まあ飲みたいというなら止めはしないが、苦いと思うがな。
 それから、支店の品揃えを見ると。
 「…転職の玉がある…どんな仕入れ経路を持ってるんだ、あのお嬢さんはっ!」
 ダークマターが悲鳴のような声を上げた。
 せっかくの『陛下強化計画』が、いきなり玉の存在で意味が無くなったのが衝撃的らしい。
 「い、いや、でも、戦士になったから、レベルが上がったんだよな…転職玉で騎士になってたら、生命力はそのままだったし…これでいいんだ、これで…」
 ぶつぶつと手のひらに何か書いているダークマターを後目に、ソフィアが物欲しそうな目でモンクの玉を見つめた。
 「私も転職できるんだけど…普通に転職したら、この鎧と剣を外さないといけないのよねぇ」
 まあ、モンクの特徴は薄手のローブをまとって拳で倒す!だろうからな。
 「せっかくの攻撃力だし…このまま転職したいわ」
 陛下の方をお強請りの目で見つめている。
 むぅ…聖なる癒し手は、実に攻撃的だな。まあ、これまでの同行でよく分かってはいたが。
 「わたくしたちの手持ちで買えるのは、二つ…ですね」
 陛下が値段を確認して呟かれる。
 騎士玉とモンク玉…私の分の騎士玉まで回ってきそうにないな。
 「ぎりぎりになりますし、今回はモンク玉だけ買い求めてみましょうか」
 …どうやら、せっかく戦士になっているのだから、戦士として戦ってみたいらしい。陛下もまた、実に攻撃的なことだ。
 これだから、我らは悪属性なのであろうな…。
 
 陛下との連携を試すべく、少しずつ進んでいくと。
 「…む、呪文協力が使えぬな」
 「わたくしが魔法を使えなくなりましたから…」
 攻撃力は非常に上がっているが、後衛の魔法力は低い。何せ攻撃魔法を強化していたのは陛下で、その陛下が魔法を唱えられぬとなると。
 「やっぱ騎士玉買います?」
 「その方がよろしいでしょうか…」
 今一つ納得出来ぬという顔で陛下は溜息をつかれた。
 まあ、下の階層に潜るほど、魔物が落とす金も多くなってくるのだし、金も貯まるとは思うが。
 そうして連携が今一つしっくり来ぬまま進んでいくと…うっかりとシェイドにレベルを下げられたのだった……この私が。




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