女王陛下のプティガーヅ
ダークマターのメモ
酒場から店に行ってみると、予想通り店主のルーシーはその話に興味津々であった。ただでくれるものなら何でも嬉しい。うん。それは商売人の魂だね。裏があるから安いとかただとかなんだけど…まあ、この場合リスクを負うのは俺たちかな。
「はい、じゃ、ここに書けばいいのね?新しい支店を迷宮内に出したい…っと」
うわー、ホントにしっかりものだよ。従業員宿舎じゃなくて、支店出すのか。でも、いいかもしんないな。冒険者が直接売って、買っていける店があれば、重宝するかも。…まあ、場所にもよるけど。確か1階の立て札があった場所だよな?あそこまで帰ってたら、普通に町中まで戻ってもいいような気もするけど…。
「じゃ、よろしく頼むわ。あんた達、意外と役に立つわね」
誉めてるつもりなんだろなー。ま、店の従業員としちゃ、ほとんど顔も出さないし、大したことやってないけどな。…そもそも給料も出てないし。
んで、そのまま迷宮に入っていった俺たちだったが。
入ってすぐに、俺は冒険者仲間から聞いた話を思い出した。確か、騎士団による迷宮アンケートとやらが行われてるとか何とか。
陛下に話してみると、あっさり「協力いたしましょう」ということになった。基本的に、陛下は騎士団に鷹揚だからなー。俺的には、国家の危機に何やってんだって感じだけど。
まあともかく。
アンケート場所に行ったら、質問用紙をくれた。えーと…なになに…。
「それではっ!準備が出来次第、また来て頂きたいのでありますっ!」
「あ〜、別にいいよ、今、やっちゃって」
何でわざわざ出直さなきゃなんないのさ、面倒くさい。
「よ、よろしいのでありますかっ!?」
「うん、上から、ベルグラーノ騎士団長、7つ、4つ、出来ない、以上ね」
騎士はフルフェイスを被ってたので表情はよく分からないが、ちょっと慌てたらしい。
己の手持ちの紙と、俺の顔を何回か見比べて、それから背後の宝箱をごそごそし始めた。
「素晴らしいでありますっ!再調査に行かずとも、すぐに答えられるとはっ!しかも、全問正解でありますっ!貴方がたのような冒険者ばかりであれば、魔女討伐も順調に行くのでありますがっ!」
…いや…そんな簡単なもんじゃないと思うけど…。
「これは、報酬代わりでありますっ!お役に立てばよろしいのでありますがっ!」
いちいち、気合いの入った喋り方する騎士の兄ちゃんから護符を貰って、部屋を出る。
んで、見てみると。
何か、死に神が憑かないらしい。
「そういえば…わたくしたちは、依頼を受けていましたね…」
あ〜、思い出すのも腹が立つあの魔術師ねー。俺としては、あいつの名前が「スコーン」ってのが、ますます腹が立つわけだが。俺の愛するスコーンと同名など、それだけでも首を斬ってお釣りが来る。
まあ、それはともかく。
依頼は依頼なわけで。
死に神は、長い間迷宮でうろついてると、全員サービスで付いてくるんだが。
誰に憑いても恨みっこ無しの確率勝負に出ようと思ってたんだけど…こんな護符があるってことは。
「じゃ、陛下が持つってことで」
「わたくしが、ですか?命中率が上がるようですし、前衛の者が持てば…」
「いえ、やはり、ここはへ…リーエに持って頂きたい」
陛下は納得してないような顔つきだったけど、俺たち全員が陛下に押しつけたので、渋々身につけた。よし、これで陛下以外の5人の確率っと。
さすがに陛下に死に神憑けるのは気が咎めると思ってたんだ、ちょうどいいや。
んで、その死に神だけど…ま、探索してたら、勝手に湧いて出てくるでしょ。
てことで、俺たちは地図を見ながら3階のレバーのある場所を目指した。そこで駄目なら、ホントにそのまま4階に行かざるを得なくなる。あ、いや、まだこの階の最下層に行ってないかもしれないけど。
んで、いつも通りに戦って、レバーのある場所に来て、せーの!でレバーを左に回すと。
…落ちましたよ。
めでたくトラップ発動?
幸い落下速度は大したこと無かったので、俺たちは無傷で下に辿り着けた。
「あ〜〜!ようやく来たのね、あんたたち!遅すぎて、どうしようかと思ったわよ!」
何だ、案外元気そうだな、このピクシー。
とか思ってると、周りを見回す暇もなく、ピクシーに押されてドアから出て行かされた。あ〜…もう一回落ちないと、マップが埋まらないのかー。
クルガンも衝撃を受けた顔で、羽ペンを握り締めている。たぶん、中には何も無かったとは思うけど…でもきっちり探査しないと落ち着かないって気持ちは分かる。
まあ、からくりは分かったから、あの部屋に行ってまた落ちてくれば良いだけだけど。…面倒臭いんだけどねー。
んで、目の前では、ピクシーとうじうじ小娘の再会劇が行われ。
と思ってると、変な髪のエルフがやってきた。錬金術ギルドの兄ちゃんだ。どうやら趣味で潜っているらしい。これだから錬金術師ってやつは変な奴が多いって言われるんだ。
で、うじうじ小娘は、無事兄ちゃんをナンパすることに成功したのだった。
うーん、あんな変な髪の男が好みなのか?絶対クルガンの方がイイ男なのになー。性格もまぁ悪くないのは俺が保証するのに。
ま、あのピクシーの口振りからするに、単に錬金術師としてスカウトしてるんだろうけど。
いや、荷物持ち?何かふらふらしながら行っちゃったよ、あの断髪エルフ。
やっぱりね、男たるもの、たとえ非力でも意地でも強いふりをしていて欲しいわけ。クルガンみたいにさ。クルガンの場合は、本気で前の自分のイメージが抜けてないってのもあるんだけどさ。
まあ、それはともかく。
依頼は一つこなしたことだし、とりあえずこの閉まった部屋の中もマッピングしてから先に進みたいというクルガンの希望もあり、もう一度落ちに行くことになった。
んで。
その過程で。
普通の敵だったんです。
前衛に3体くらいいて、後衛に2人盗賊で、いつも通りスレイクラッシュ行ったりして…したら。
盗賊が何故かどっちも陛下を狙いやがりまして。
いや、よもや、集中攻撃受けるなんて思ってませんで。
結論。
陛下、初死亡。
うわー、この時代に来て、初めての死人だよー。
動揺する長とか蹴っ飛ばして、とりあえず目の前の敵を倒すことに全力を注いださ。
んで、戦闘終了後、陛下の死体を取り囲んでみたけど、やっぱり死んでました。
まあ、当たり前の如く、帰ろうと思ったんだけど、帰還の薬はいつの間にか一つになってたんだなー。リープは…使える人が死んでるし。
てことで、薬使って帰ったんだけどさ。
何故か皆が俺を責めるんだよね、情が薄いって。何だよ、取り乱せって言われても困るってば。
いや、そりゃ陛下のことは尊敬してるし、好きだけどさ。
死んでも寺院で復活できるし。
俺的には、死に神憑けてなくて良かった、ラッキーくらいのつもりだったのに、皆は深刻な顔をして反省会をし始めた。
ちぇー、つまんないから、グレッグのとこにでも遊びに行ってよっと。