女王陛下のプティガーヅ



 オティーリエの手記。


 わたくしは、市庁舎の看板がある広場で、足を止めた。
 さて、ここからどこへ行けば良いのだろう。
 道すがら試してみたが、わたくしが知っていたはずの魔法は、ほぼ使えない。
 僅かな威力の初歩火炎魔法が唱えられるのみ。これでは無理な行動は出来ない。
 頼りないローブと杖という姿は、駆け出しの魔術師と他人の目にも明らかだ。ただ一つだけ、回復の指輪を持っていたが、それは駆け出しが持っているにはそぐわないほど高価であったはず。よけいに危険な気がして、わたくしは指輪を付けた上に布を巻き手甲風にして隠した。
  
 わたくしは、このドゥーハンの力になる、と自らに誓った。
 現在ドゥーハンは魔女アウローラの呪いのもとにあり、魔女探索のために多くの冒険者たちが迷宮に挑んでいるらしい。
 もっとも、最下層まで潜れたものはいないようだが。
 聞けば、王女オリアーナは、魔女の呪いで亡くなった、らしい。
 わたくしの記憶では、聖王オルトルードの跡を継ぎ、女王となったはず。
 なれば、何かがおかしいのだ。
 王女は、実は、存命している。
 または……わたくしの時代に繋がるドゥーハンでは無い、別の世界のドゥーハンであるか、だ。
 古文書には、時々平行世界なる「似て非なる多数の世界」の可能性について書かれているものがある。それらは、ほとんどのものが失笑を買うような夢物語と言われてはいるが…この世に「絶対」というものは存在しないのだ。
 だが、仮にここがわたくしのドゥーハン(になる予定の国)でないとしても、わたくしはこの国を救うべく全力を尽くそう。
 本当に、微力ではあるが。
 
 さて、わたくしが、今出来ることは、といえば。
 わたくし同様駆け出しの冒険者を探し、パーティーなるものを結成して、迷宮に挑むより他にない。
 それが、僅かながらも、第1歩となろう。
 確か、街には冒険者ギルドというものが存在するはずだ。
 わたくしは、広場にいた者に場所を聞き出し、そちらへと向かった。
 良い仲間がいればよいのだが。

 そうして、わたくしは冒険者ギルドの門をくぐった。
 中では、ちょうど騎士が冒険者たちに声をかけていたところであった。
 何でも輸送兵団の一つが消息を絶ったとか。
 だが周囲の反応は冷たい。説明していた騎士にもそれが分かったのか、今度は皆にではなく一人一人の目を見るように、「誰か手を貸してくれる者はいないか!?」と問うていたが、頷く者は誰もいない。
 わたくしにも、その騎士の視線は止まったが、駆け出しの上に一人では如何にも無理そうであったのだろう。特に声がかけられることもなかった。
 わたくしとしても、力を貸したいのは山々であったが、それはこれから集まる仲間次第であろう。
 さて、あの奥に見えるカウンターが、冒険者を斡旋する場所だろうか。
 わたくしがそちらで、教えられた通り冒険者台帳に記帳をしていると。
 背後の扉が、軋む音を立てた。
 わたくしは、つられたようにそちらを振り返る。
 先頭に立っていたエルフと目が合う。
 その赤い瞳が丸く見開かれた。
 「へいっ!」
 「待った〜!」
 多分、「陛下」と呼びかけたであろうその口を、背後のエルフがそれ以上に大声で遮りながら手で塞いだ。
 「もがっもががっ!」
 「その名称で呼ぶなっ!あんたたちもだっ!!」
 振り返って背後に叫ぶエルフの、金髪の三つ編みが揺れる。
 それを聞いて、口を慌てて閉じた者たちが、ゆっくりと順番にわたくしの元へと歩み寄った。
 懐かしい、顔。
 特に、その中の一人は…過去の記憶に棲む顔であった。
 その者が軽く腰を折り、わたくしの手に接吻する。
 「愛しいオティーリエ…再びお目にかかれて、このレドゥア、これに勝る喜びはございません!」
 何故か戦士の姿になっている女性エルフが、優雅に一礼する。
 ただの戦士姿の人間の男が、騎士風の敬礼をする。
 そして、先頭に立っていたはずのエルフが、ようやくわたくしの側にまで歩み寄り、深く頭を下げた。
 その後ろから同じく歩いてきていたエルフは、ふと振り返って、誰にともなく話し始めた。
 「あ、どうぞ、お気になさらず。ちょっと街に入る前にはぐれちゃった仲間と会えて、喜んでいるだけですからー」
 それで初めて、わたくしたちがギルドの冒険者たちや騎士団の者に注目されていたことに気づいた。
 目立つのは、あまり得策ではない。だが、彼の言葉に納得したのか、冒険者たちの好奇の視線は減りつつあり、好意的な言葉がいくらか寄せられた。
 ただ、騎士団長だけが未だわたくしたちの関係に興味を持っているようで、彼に聞いていた。
 その返事は、というと。
 「えーと、ですね。主従関係と申しますか。ぶっちゃけ、女王様と下僕たち、とでもお呼び下さい」
 これだけ冗談めかして言ったら、よもやわたくしが本当に女王とは思われないだろう。
 だが、騎士団長の苦笑を見るに、何と言うか…珍種の動物でも見ているような感じとでも言おうか、なにやらおかしな推測をされている気がして、些か不愉快ではあった。
 彼は我々にしか聞こえない距離にまで来てから、軽く頭を下げた。
 「すみません。一応、誰かがつい『陛下』だの『女王』だの口走ってしまったときのために、伏線を張っときました。これで誤魔化されてくれると良いんですけどね」
 あまり期待できない、といった顔で首を傾げる。
 そういえば、彼は昔から細かいところに手を回す男だった。…恐ろしく鈍感なところもあったが。
 「ご苦労でした、ダークマター」
 「いえ」
 如何にも「ご苦労ってほどじゃない」と言いたそうな顔で、彼は苦笑した。
 彼も含めて5人の者に囲まれ、わたくしは、ゆっくりと口を開いた。
 「再び、皆と出会えるとは思ってもおりませんでした。我らが善なる神に感謝しましょう」
 わたくしは、少しく目を閉じ、過去を振り返る。
 そして、目を開け、彼らの顔を見回した。
 何故か、若返っているレドゥア。
 華奢になってはいるが、相変わらず情熱的な瞳をしているクルガン。
 生気に満ち溢れ、勝ち気そうに目を輝かせているソフィア。
 わたくしが肉眼で見ていた頃と違い、エルフになっているダークマター。
 忠誠心篤い騎士であるユージン。
 
 「わたくしの大事な友たち。わたくしは、このドゥーハンを救いたい。力を貸してくれますか?」
 
 彼らは、一斉に頷いた。

 わたくしは、本当に素晴らしい『友』を持った。

 ただ…これは、わたくしの個人的な感情だが…何故か、レドゥアを見ても、かつてのような胸の高鳴りを感じないのだが。
 何故だろう……。






 ダークマターのメモ。


 ギルドで冒険者の登録をして、とりあえず酒場に向かうことにした。
 まだ再会の喜びに浸っている奴らばっかだったんで、俺が全員分の登録をしたんだけどさー。…陛下ってば本名書いてんのな、『オティーリエ』って…。一応、これって公式文書なんだけどなー。いいのかなー。
 まあ、俺らの時代になって、数百年も過去の冒険者登録なんて見たりしなかったから、構わないのかもしれないけど…俺なら、書かないけどね。
 ま、リーダーがそれでいいってんならって、俺らの名前も本名で書いちゃったよ。
 あ、リーダーは勝手に陛下で登録したけど。いいよな?だって、俺はやる気ないし、ガード長はその気かも知れないけど、やっぱ陛下の方が上司だろうしね。
 で、酒場のテーブルに落ち着いて。
 まずは重要課題を提案することにした。
 「で、何て呼ぶ?」
 「はあ?」
 「だからさー、へ…じゃなく、こちらの女性を、何て呼ぶか、だよ。きっちり決めておかないとさー、万が一他人もいるところで『陛下』なんて言っちゃったら、ホント、ややこしいことになると思うんだよね」
 「うむ、それはそうであるな。この時代には、この時代の『陛下』が存在するのだし」
 ガード長が重々しく頷く。それから、少しばかり照れくさそうに早口で、
 「私は『オティーリエ』と呼んでも構わぬのだが」
 はいはい。
 この人にとっては、主従の枠を思い切り越える機会で、ラッキーなんて思ってんのかもしれない。まー別に反対する気もないけど。
 「オティーリエ……やはり、抵抗があるな」
 小さく口にしてから、クルガンが顔をしかめる。ユージンも同意らしい。
 「オティーリエ様、ではいけないのかしら」
 呼び捨てだから何となく落ち着かないのであって、様を付けたら、というソフィアの提案だったが、結局は、何でリーダーに様付けするんだよ、っていらない憶測を生むことになると思うんだよね。
 それに、長いし。
 俺は、何でも良いんだけどな。
 ああでもないこうでもないって頭突き合わせるのに飽きたんで、俺は席を立った。
 「あ、それ決めといてよ。俺、ちょっと依頼が無いか、見てくる」
 ついでに、酒場の主人の人柄も見ておきたいし。
 ホントは主人との顔つなぎもするべきなんだけど、それはリーダーの役割だと思うんだよね。だけど、一応あんまり下品な男だったりすると陛下にはさせらんないし、ま、ちょっと値踏みだけしとこう。
 そーゆー細かいことは、冒険者やってた俺しかピンと来ないんだろうなぁ。クルガンもちょびっとは冒険者やったけど、もうすでに俺らが一目置かれてた頃に参入したからなー。下っ端でうまいこと立ち回らなきゃならない時のことなんて、分かんないだろうな。
 で、カウンターに向かってると。
 横合いから何か下品な笑い声が響いてきた。ちらっと見ると、完璧な酔っぱらい。みっともないなー。
 でも、そこを通らないと行けないし、そっちは見ないようにして通ってると、何か腕に当たった。
 ………おっさん………。
 自分で頭の上まで持ち上げたジョッキが俺に当たって酒がこぼれたからって、怒鳴るなよ。
 無視して通り過ぎようとしたんだけど、思い切り腕を引っ張られた。
 「てめぇ、人の酒こぼしといて…!」
 呂律の回らない調子で怒鳴りかけたのが、ふと止まる。…こーゆー時って、もっとイヤなこと言い出すんだよなー。
 「綺麗な、姉ちゃんだな」
 ほら。
 もー、何で俺ってこう、見かけだけ綺麗に生まれちゃうかな。…でも、そういう風に生んだのって、俺(つーかクイーンガード・ダークマター)?
 「あぁ、はいはい。俺は男だからねー。分かったら、その腕、放してねー」
 うんざりと言ってやったのに、おっさんはもっと力を込めて、俺を引っ張り……ぎゃーっ!何が嬉しくて、こんなおっさんの膝の上に座らにゃならん!そんなサービスはしとらんぞ〜!
 「細い腕してんな」
 悪かったな!
 「ホントに男かどうか、確かめてやる」
 うぎゃーっ!服をめくるな〜!
 ちなみに、俺は僧衣で、上半身には鎖帷子付けてるけど、下はぴらぴらのままです。さて、それでめくるとどうなるでしょう。
 足が見えますわな。よりにもよって、日にも焼けてない白くて細い足が。
 おっさんの動きと、ついでに同じテーブルのおっさんの動きがぴたりと止まった。
 はいはい。ちょっと色っぽい姿を御披露してしまいましたね。
 あんまり、騒ぎは起こしたくなかったんだけど。
 ついでに言うなら、レベルが下がってるから、上手に手抜きが出来ないんでやりたくなかったんだけど。

 ………殺す。

 俺は、思い切り頭を後ろに仰け反らせた。おっさんの鼻の骨がぐしゃりと潰れた感触がする。
 悲鳴を上げて、おっさんは自分の鼻を押さえようとする。つまり、俺の腕を掴んでいた手を離すってことで。
 おっさんの膝から降りて、横に立つ。おっさんは何やら怒鳴りながらふらふら立ち上がる。
 その懐に入って、膝のバネを利用して思い切り伸び上がる。で、膝はその勢いのままに突き上げると。
 普通なら同性として遠慮してあげる部位に膝蹴りが叩き込まれる訳です、はい。
 で、思わず屈んだ所に、遠心力付けてこめかみに回し蹴り、と。
 力が一般エルフ並に劣ってても、やり方次第では酔っぱらいの一人や二人、片づけられるよ、俺。
 ま、あんまり高レベルの冒険者には通じないだろうけどね。
 で、どうせ同じテーブルのおっさんも加勢してくるだろうなーと思ってたら。
 ……あぁ、もう吹っ飛ばされてる……。
 喉元に手刀は、マジで死ぬかもしれません、クルガンさん。
 相変わらずおステキな黄金の右ストレートでした、ソフィアさん。
 あぁ、もう、ユージン卿まで…お願い、酒場で抜刀はやめて。
 陛下、杖を構えるのは……
 「待った〜!魔法はマジでやばいって〜!」
 
 俺の貞操の危機(?)に、皆で立ち上がってくれるのは嬉しいんだけどさー…もうちょっと、目立たずに済ませたかったと肩を落とす俺は、恩知らずでしょうか。






 クルガンの覚え書き。


 勝手に単独行動を取った挙げ句に、酒場の連中に生足を見せびらかし(俺でさえ、ちょっと息が止まったぞ。青い僧衣と白い足というコントラストは)、騒動を起こしたダークマターに懇々と説教すると、「俺が悪いんじゃない〜」と、ぶつぶつと反抗するので、もう一発殴ってやった。
 そうすると、ぐずぐずと泣き出してしまった。全く…他の連中が甘やかすから、すっかり駄々っ子になってしまって。
 「そうよね〜、ダークマターが悪いんじゃないわよね〜。あんなセクハラオヤジは、根絶すればいいのよっ!」
 あぁ、ほら、言ったそばから甘やかすなっ!お前もいつまで泣き真似をしているかっ!
 そういう具合に俺たちが、不本意ながら大騒ぎしていると、店の奥から眼光の鋭い男が姿を現した。
 むぅ…これは、かなりの使い手だな。
 一度手合わせして頂きたいものだ。………俺のレベルが戻ってから。
 「お客さん」
 声も渋い。
 それまでソフィアの胸に縋り付いてぐしぐしと鼻を鳴らしていたダークマターが、いきなり跳ね起きて、そいつに向かって頭を下げだした。
 「すみませんっ!騒ぎを起こしたのは、俺が悪いんですっ!すみませんっ!」
 ひたすら謝る姿を見ていると、何となくむかつく。
 「…悪いのは、あいつらだろうが」
 しまった。自分で自分の言葉を否定してしまった。
 ソフィアの視線が痛い。
 「御主人。申し訳御座いません。これほどの騒ぎとなったのは、わたくしたちの不徳のいたすところです」
 陛下が、何とも優美に頭を下げられた。だが、数瞬後には昂然と頭をもたげられ、きっぱりと言い切った。
 「ですが、仲間の一人が公衆の面前で辱めを受けたとなれば、相手を誅するのも、また仲間として当然の理。それについては謝罪する意志を持ちませんよ」
 「うわ〜ん!だから、あんまり事を荒げないで下さいってば〜!」
 ダークマターが泣きながら陛下の袖を引っ張るが、陛下は揺るぎなくお立ちになり、相手を見つめておられる。
 酒場の主人は、ふっと笑い、軽く頭を下げた。
 「こちらこそ不快な思いをさせて申し訳ない。私が目を離した隙に、あのような輩に好き勝手させたことをお詫びする」
 …出来た男だな。
 こちらが駆け出しの冒険者であることは一目瞭然だろうに、頭を下げるとは。
 「この酒場では、一般市民から迷宮に関しての依頼も受け付けている。腕の良い冒険者は大歓迎だ。君たちは、経験は少なそうだが、かなりの素質を持っているように見受けられる。頑張ってくれ」
 そう言って、主人はまたカウンターの奥に引っ込んでいった。ついでに、片手で3人の男を引っ張って行っている。かなりの力だな。
 それを見送ってから、ダークマターが床にへたりこんだ。
 「あー、あせった。出入り禁止とかになったら、どうしようかと…」
 「何か、不都合でもあるのですか?」
 陛下が差し出す手を断って、ダークマターはゆっくりと起き上がり、僧衣を払った。
 「まー、色々と。こういう冒険者が集まるとこに出入り禁止ってのは、情報も依頼も集まらなくて、ちょっと不便かと」
 依頼など受けずとも迷宮探索に差し障りは無いが、たしかに小銭を稼げるという利点はあるな。
 我々のように手元不如意の場合には、結構侮れないかもしれん。
 情報は、無論、死活問題となり得る。
 酒場の主人には目をかけられたようだし、結果オーライとすべきか。
 そして、俺たちがテーブルに戻ると、エールのジョッキを片手に持った赤ら顔の中年が寄ってきた。
 服装から見るに、先ほどのおっさんの仲間ではなさそうだが、酔っぱらいには違いない。俺が身構えていると、中年はまるで気付いていないように、ぺらぺらと喋りだした。
 「いやあ、お見事でした、冒険者の皆さん。良いものを見せて頂きました!特に、そちらの僧侶の方!いやあ、素晴らしい。一見華奢でありながら、あのように大の男を蹴り倒すとは!」
 …一瞬、ダークマターの足を誉めてるのかと思って、殴るところだったぞ。
 中年は、お茶目に片目をつぶって見せた。
 「ですが、老婆心ながらご忠告申し上げれば、あのように足を高く持ち上げるなら、ズボンは履いておく方がよろしいでしょうな。太股まで丸見えでしたからなぁ。いやあ、眼福、眼福」
 ………。
 やっぱり、後で殴ることにしよう。
 ダークマターの唇も引きつっている。
 「うーむ、男の太股が見えたとて、何が眼福なのだろう…」
 ユージンだけが、どこかずれたことを呟いていた。…いや、当たり前と言えば、当たり前の感想なのだが。
 「いや、それでですね。私が言いたいのはですね。あ、私、ライマンと申しまして、市の職員なんですが」
 出された手を握る者は誰もいなかった。
 「ただいま、市では駆け出し冒険者のために500Goldの補助金を出してましてね。ここに申請用紙がございまして。5人以上のパーティーを組んでいる方なら誰でも補助金を受けられるという実に良心的な制度でして。ここにサインさえいただければ、それでOKです。如何ですか?」
 …どうも信用できん。
 「書類を見せて頂けますか?」
 陛下が柔らかい声で仰い、渡された書類を読んでいく。市の書類となれば、鬱陶しい言葉使いの文章だろうが、そのへんは陛下はお得意だ。任せておいて問題なかろう。
 ダークマターが、ちらっとこっちを見た。唇が、動く。「うら、とって」
 俺は気配を出来るだけ消してそこから抜け出した。
 カウンターに向かい、店員に、
 「あの男は?」
 と聞くと、グラスを磨きながら肩をすくめてみせる。
 「あぁ、ライマンさんね。いつもここで飲んだくれてんだよ。本人は役所に「冒険者に接触するための正当な行為」って言ってるらしいけど、たいがいは単に酒飲んでるだけさ。ああやって、たまに「私は仕事してます」って言うために、役所の宣伝もしてるけどね」
 …まあ、詐欺行為では無かったか。
 俺はテーブルに戻り、ちらっと目を上げた陛下に、頷いて見せた。
 陛下はにっこりと微笑まれ、ペンを借りて書類にサインされる。
 ライマンとやらは、それを見もせずに
 「はい、確かに。では、これが500Goldです。また、縁があったらお会いしましょう」
 書類をポケットに無造作に突っ込んで、またエールを片手に立ち去っていった。店員に、おつまみを追加注文しながら。
 ソフィアが陛下から袋を受け取り金貨を数える横で…何故か、ダークマターも小さい袋を手にしていた。
 「俺のおみ足、拝観料」
 ………僧侶が、スリなんかするな………。
 「えぇ、それは正当な報酬です」

 そうか!?本当に、そうなのか!?



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