女王陛下のプティガーヅ




 レドゥアのノート。


 さて、我々は、真ん中の道を突き進み、ついに1階の中心付近を通り抜けた。そして、先へと進めそうな部分を見つけたが、道が途切れ、背の高いテーブルのように我々を睥睨していた。
 「うーん、ま、きっと、どっかに仕掛けがあるはずですから。行けるところから行っちゃいましょ」
 冒険者歴の長いダークマターが、気に病んだ様子もなく、軽く肩をすくめた。
 まあ、他の冒険者たちも、皆ここを通り抜けて下の階に行っているのであろうから、行き詰まることはなかろうが…。
 周りの敵は、これまでよりも徒党を組んでやってくる確率が高くなってきている。入り口付近に出没する魔物は、はぐれ者なのであろう。
 それにしても、化け猫の皮を剥いだり、妖鳥の足を切り取ったり…傍目には汚れな作業なのだが、ダークマターは黙々と着実に材料を獲得していく。
 それを指摘すると、幾分虚を突かれたような顔になってから、小首を傾げて笑った。…頬に血飛沫さえ飛んでいなければ、無邪気、と表現しても良いのだが。
 「ま、慣れてますから。得意ってほどでも無いですけどね」
 そうなのか?
 盗賊の手首を切って血を搾り取る様子は、流れるように整然とした作業に見えたが。
 「世の中には『解体』のプロもいるって話ですしー。俺なんて、まだまだ」
 あんまりそんな作業が得意なのも、誉れ高きクイーンガードとしては難のある話ではあるが。
 通路の脇に魔物の死骸を積み立てて、我々は先を進んだ。おそらく、それらは他の魔物によって綺麗に『片づけられる』ことであろう。
 階段を下りて、小部屋を進むと。
 なにやら祭壇のようなもののある部屋に通じていた。
 警戒しながら入っていくと、奥の祭壇前には、フードの男が佇んでいた。
 「おぉ、神よ!絶望しかもたらさぬ者よ!」
 男は天を仰いで呻いていたが、ふと我々を振り返った。
 「この迷宮は、死と絶望に満ち溢れている。あのシムゾンを見ると良い。あの男は、誰よりも恐れられる傭兵団の長だった。この私の仲間を、あっさりと皆殺しにしたのも彼だった」
 おや?何とかの悪魔、と評されているとはいえ、シムゾンという男は、決して残虐非道な男では無いと認識していたが。
 もしも、その認識の方が正しいとすれば、このフードの男の『仲間』は。
 「それが見よ!あの誇り高き男が破れたシャツ一つで迷宮を彷徨っている。君たちも見ただろう。あの哀れな姿を。闇に怯え、狂気に苛まれる惨めな男を」
 フードの男は、芝居がかった様子で天を仰いだ。
 「神とは、なんと残酷なことをなさるのか!」
 そして、足音も立てずに、我々の方へと歩を進めた。
 オティーリエの前へずいと近寄るのに、ダークマターが、すっと割り込んだ。
 「…饐えた、血と肉の匂いがする」
 その言葉には、何の感情も籠もっていないようだった。楽しそうでもなく、悲しそうでもない。怒りでもなく、ただ、事実を淡々と述べただけのようであった。
 「おぉ、ここは、いにしえより悲劇が染みついた儀式の間であるなれば」
 「そう?」
 ダークマターの頬に、微笑みが浮かぶ。
 「俺としては、何故、『饐えた血と肉』が動いているのかに、興味があるんだけどね」
 「ほほぅ」
 フードの男が、顔を仰け反らせて高笑を上げる。
 それを見つめるダークマターの顔は静かなのだが、何を感じ取ったのか、クルガンが気配を立てずに臨戦態勢を取った。
 だが、緊張が高まる中、背後の扉がばたんっと大きな音を立てた。
 「お頭!奴ら、もうこの階にはいないようですぜ」
 見事に盛り上がった筋肉に僅かばかりの防具。生粋のグラディエイターが、フードの男に近づく。
 「これは、残念だ。楽しき時間の過ぎるのは、なんと早いことか!」
 わざとらしく嘆いて、フードの男は仰々しく一礼をする。
 「では、いずれまたお会いましょう」
 やはり足音一つ立てずに、フードの男は筋肉男と共に出ていった。
 扉が閉じて、数秒後に、ダークマターが口を開いた。
 「あれは、危険です。『今の』俺たちの手に負える相手じゃない。出来るだけ関わらないのが無難でしょう」
 珍しいな。これがそんな慎重論を言い出すのは。
 「確かに、隙のない男ではあったが…」
 クルガンは不満そうだ。いつでも首を落とせる、とでも思っているのであろう。盗賊のくせに。
 「多分、あんたもやり合い辛いと思うよ。何せ、呼吸も心拍も、何も感じられないからね」
 憂鬱そうに首を振って、ダークマターは首にかけた聖印をいじった。
 「あぁ、呼吸をしていない相手とは、やりにくいな。攻撃のタイミングが読め……」
 頷きかけて、クルガンがぴたりと止まった。
 「…心拍も、無い?」
 「少なくとも、俺には感じられなかったよ。呼吸にせよ、心拍にせよ、注意して見てれば、僅かなりとも筋肉が動くもんだけどね」
 「それは、厄介だ。攻撃しにくいこと、この上ないぞ」
 冗談のように肩をすくめて、クルガンは手にしていた石化のダガーをしまった。
 そういう問題でも無い気がするのだが。
 そもそも、呼吸も心拍も無いのに、何故動いていられるのか。不死者だとすると、あのように知能が高いタイプはかなりの高位の魔物…たとえば、ヴァンパイアロードのような。
 「部下の方なら、引き受けても良いがな」
 やはり冗談の続きのように、ユージンが笑った。確かに、あの脳味噌まで筋肉のような男は、攻撃力は馬鹿にならないとはいえ、大した脅威でもない。
 「関わらないように…したいけど、あっちから近づいて来るんじゃないかしら?ダークマターってば、わざと興味を引いたでしょ」
 「へ…リーエに近づいたからね。まだしも俺の方がマシっしょ」
 あっさりと言って、ダークマターは祭壇の方へ向かった。
 無論、私としても、不死者(推定)がオティーリエに近づくのは好ましくはない。だが、駆け出しの僧侶が立ち向かえる相手でも無い以上、あれがダークマターに近づくのも、やはり好ましい事態とは思えぬ。
 「ダークマター」
 オティーリエの毅然とした声からも、それが感じられる。ダークマターはちらりとこちらを振り返り、すぐにまた祭壇へ目を向けた。
 「大丈夫っしょ。あの手のタイプは、俺たちみたいな『虫けら』は、いつでも握り潰せると思ってるでしょうから。わざわざ向こうから近づいて来たりはしませんて。…たまたま遭遇しちゃった時が、勝負でしょうね」
 それきり、その話題には興味が無い、と言いたそうに、祭壇の黒ずんだ染みや、燭台に顔を近づけ、子細に検分したり匂いを嗅いだりし始めた。
 我々も祭壇に歩み寄る。
 「そういえば、依頼が無かったか?『可変通路の奥の、祭壇のある部屋でメダルを落とした』。ここでは無いのか?」
 言って、クルガンが祭壇の裏へ回って、下を覗き込んだ。
 「…袋が見えるな。誰か、杖を貸せ」
 ソフィアがごそごそと背中から封傷の杖を取り出し、クルガンに手渡した。
 その杖を祭壇の下に突っ込み、押し出したのだろう、私の足下に埃にまみれた袋が現れた。
 腰をかがめて拾い上げたのと同時に。
 「やっぱりここだったのね」
 奇妙に甲高い女の声が背後から聞こえてきた。
 オレンジ色の髪を振り乱した背の低い女が、金色の瞳をきらめかせた。
 「あぁ、疑ってたんじゃないのよ。あたしも、もう一回ここを見てみたかったのよ」
 …察するに、これが依頼の女か。
 女は、祭壇の中心に突き立てられた剣を見て頷いた。
 「やっぱりそうだわさ。これはサンゴートの王が持っていたっていう剣だわさ。黒き霊が憑いてたっていうウィリアム王。そういえば、ちょっと前に盗まれたって噂になってたわ。これで辻褄が合うんだけど…」
 ポポーとかいう女は、髪を掻きむしりながらその場を行ったり来たりする。
 「あんたたち、黒き霊って知ってる?死に神とも言うけど」
 「えぇ、存じております」
 オティーリエの頷く顔には、穏やかな微笑が浮かんでいるが、内面は穏やかとは言えぬであろう。あの不愉快な存在は、一生知らずにすませても良いような代物であるからな。
 「そうよね、有名な話だものね。黒き霊は、死者の魂を刈り集めて黒き力にする…あぁっ!あたし分かっちゃったわ!あの怪しげな儀式は、黒き霊を呼び起こすためのものだったのね!」
 確かに、あれを喚び起こそうと思えば、生け贄が必要であろう。この迷宮は、悪しき魔力が集まりやすい構造をしている。他の場所で行うよりは、比較的容易に召喚できるであろうが…だが、何のために?
 「うわー、鳥肌立ってきちゃったわ。あたしは、いったん街に戻るわ」
 ポポーは寒そうに両手で自分の肩をかき抱き、それから呪文を唱えかけて、中断した。
 「忘れてた!これ、お礼よ。これがあれば、普通なら黒き霊が憑いてないと見えない扉に入れるようになるんだわさ。あたしの研究の成果よ!じゃあね!」
 一枚のメダルを残し、ポポーは騒がしく去っていった。
 ふむ、便利なものではあるが…1枚だけか。
 「先ほどの扉に入れるのですね」
 オティーリエはメダルをしげしげと眺めている。私も覗き込んだが、何が材料とも分からぬ物質で出来ているようであった。あのような小娘如きに遅れを取っているとは…不覚だ。
 
 それから、我々は他の小部屋にも回り、レバーを二つばかり倒してみた。一つは、倒したときに遠くから地鳴りのような振動が感じられたので、恐らくあの道が繋がったのであろう。そう考え、我々は分断されていた道へと戻ろうとしていたが。
 「どうした?」
 前を歩いていたクルガンが、不意に振り向いた。
 一体、何を言っているのかと思えば、その視線の先にはダークマターがいる。
 どうかしたのかと改めて見てみれば、ダークマターは酷く不機嫌そうに唇を歪め、視線を下に向けていた。……これがこんな表情をするのは珍しい。いつもどちらかというと脳天気に笑っているのだが。
 そして。どうでも良いが、何故前を歩いているクルガンが、背後のこ奴の表情に気づくのだ。…考えるのは止めよう。恐い考えになりそうだ。
 「…別に」
 クルガンに声を掛けられたというのに、ぶっきらぼうな返事である。
 顔だけ振り向いていたクルガンが、すっかり向き直ってダークマターの前に立つ。かと思うと、前髪を掻き上げて、熱でも測るかのように額を突き合わせた。…夕べもやっていたが…お前たち、それは普通の行動なのか?男同士では変ではないか、とか思わないのか!?いや、家族なら普通の行動ではあるが。しかし、お前たちは家族ではなく、だな…。
 「あの辺を嗅ぎ回りすぎたんじゃないのか?」
 「……そーゆー『気分の悪さ』じゃない」
 そう言って、重く息を吐く。
 だが、『そーゆー』のでは無いにせよ、『気分は悪い』ということか。
 オティーリエも僅かに首を傾げられ、そして何かを考えるように目を閉じた。
 「考えてみれば、本日はかなり迷宮にいましたね。時刻は分かりませんが、もう夜になっているかもしれませんし、今日はここで切り上げることに致しましょう」
 「…俺なら、平気ですよー」
 そんな投げやりな言い方で、信用できるか。
 ソフィアが背嚢から帰還の薬を取り出す。
 「私、帰ったらゆっくり髪を洗いたいわ。何だかあの部屋の匂いが染みついたみたい」
 微笑みながら髪を払い、薬瓶の蓋を開ける。
 ダークマターも、抵抗する気はないのか、大人しくそれを振りかけられたのであった。

 外に出てみると、やはりすでに日は落ちていた。
 暗い中、宿に戻れば、本日の部屋割りは。
 「3人部屋が2つ御座いますが…」
 我々も出世したものであるな。少なくとも、人数分はベッドがある。
 一つの部屋に集まり、防具を脱いだり、戦利品を仕分けたりしながら、ソフィアが軽く言った。
 「ユージンは今日も司教様のところに行くのかしら?クルガンとダークマターは一つのベッドで寝るし、私たちって4つベッドがあれば十分なのね」
 「いや、今日は、私は…」
 ユージンが手を振って、否、と答える。珍しいことだ。毎日通っていたのだが。まあ、たまには顔を見せずにいるのも良いだろう。
 だが、そう考えていたら、ユージンは、ひどく改まった顔で、我々の方に頭を下げた。
 「出来ることなら、今宵、陛下とガード長と話がしたいのだが」
 …『陛下』と来たか。
 それで、話の内容は予測が付くというものだが…さて。
 「構いません。では、クルガン、ソフィア、ダークマターがあちらのへやを使いなさい」
 あっさりと承諾された。まあ、避けていても仕方のない話ではあるが。
 その後の夕食の席は、どうにもこうにも葬儀のような空気が拭えなかった。
 ユージンは硬く思い詰めたような顔をしているし、ダークマターも憂鬱そうな顔のままであったし。
 やれやれ。普段、不真面目に過ぎると思っていたのだが、ダークマターの脳天気な態度は、場を和ませるのに役立っていたのだな。
 ぼそりぼそりと砂でも噛んでいるかのような顔で食事を終え、さっさと席を立つ。
 「すみません。先に部屋に戻ります」
 無礼を咎める気にもなれぬ。
 てっきりクルガンも後を追うかと思ったのだが、そこまではしなかった。心ここにあらず、といった顔はしていたが。そして、最後には、給仕の娘に何か言っているかと思えば、部屋に戻るときには紙の包みを手にしていた。匂いから察するに、甘い菓子でも包んで貰ったのであろう。つくづくと甘い男だ。…子供に対する態度にも思えるが。

 さて、部屋の前で彼らと別れ、我々も部屋に落ち着いたのであるが。
 ベッドに腰掛けられた陛下の前に畏まり、ユージンは膝を突いた。
 「話というのは、他でもありません。…私が、陛下に反旗を翻した件についてです」
 ずばっと言い切ったな。
 「陛下からはお咎め無く、変わりない態度で接して頂いておりましたので、この暖かな雰囲気に癒されそうになってはおりましたが、やはり改めて陛下には償いを…無論、償えるものではないことは十分承知してはおりますが…」
 「ユージン=ギュスターム卿。顔をお上げなさい」
 陛下はゆったりと微笑まれ、たおやかな指を組んでおられる。
 「確かに、貴方が謀反を起こした、と小耳には挟んでおります。ですが、わたくしが直接それに関わっていたわけではありませんし、今一度、貴方が何故謀反を起こしたのか、貴方の口から聞きたく思います」
 「はっ!」
 ユージンは、跪いたまま顔を上げ、話し始めた。
 頭の中で何度も繰り返していたのであろう、それはゆっくりとした口調ではあったが澱むことなく滔々と語られた。
 言い訳がましいこともなく、ただ事実だけを述べていく。
 …まあ、私としても無関係な話ではなし、実に落ち着かぬ時であった。
 ユージンが口を閉じると、陛下は半眼になっていた瞼を開けられ、ほぅっと息を吐かれた。
 「では、貴方は死に神に滅せられてしまったのですか」
 「は…」
 「惨い話ですね…」
 いや…そこに感想が行き着くのは、どうかと思うが。
 「わたくしとしては、卿はあくまで民を思って行動したこと、わたくしに害意があってのことではなし、不問に処したいと思いますが…レドゥア、貴方はこの件に関して、如何なる意見を持っていますか?」
 「私、ですか」
 それはまた…何とも答え難い質問をされる。
 「私は、後悔は致しませんぞ。私は、私のやり方で、陛下とドゥーハンを守ろうとしたまでのこと。仮に再びあの時に戻ったとしても、私は同じ道を選ぶでしょう」
 「…そうして、私も、やはり同じ道を選ぶ。間違いと知っていても、ただ漫然と傍観していることには耐えられぬ」
 ユージンはゆっくりと首を振った。
 結局のところ、私のやり方も、ユージンのやり方も、あの老司教の掌で踊らされていただけではある。ダークマターがいなければ、今頃オティーリエの魂を核にした武神が地上に君臨し、ドゥーハンのみならず大陸中を死の国に変えていたやもしれぬ。
 だが、それでも。
 私は、私の手にオティーリエを取り戻したかった。
 民がいくら飢えようと、街が死に至ろうと、オティーリエさえこの手に戻れば良かったのだ。
 ユージンもそうなのだろう。
 何度同じ機会を与えられても、婚約者を捨て、瓦礫の王となる道を選ぶのであろう。
 人間とは何と不器用で融通の利かぬ生き物であることか。
 「では、レドゥア、貴方も、ユージンに悪感情は抱いていませんね?」
 むぅ…私から陛下の御魂の容れ物たるホムンクルスをさらったのは許し難い行為ではあるが…すべては、過去のこと(いや、未来のことか?)であることであるし。
 「そうですな。今現在が良き『仲間』であれば、他に抱く感情のあろうはずもございません」
 「では、ユージン、貴方も、レドゥアに悪感情は抱いていませんね?」
 ユージンは、顎を撫で、それから頷いた。
 「そうですな。ガード長の一途な愛には敬意を抱きこそすれ、敵意は全くございません」
 い、一途な愛…そういう表現をされると、些かくすぐったいのだが。
 「では、問題ありませんね」
 にっこりと花が咲くような笑みをこぼされる。
 「レドゥアのそれはわたくしを想ってのこと、ユージンのそれは民を想ってのこと。わたくしに是非は問えません。ただ、『今』にしこりが無きよう願うのみです」
 そうして、ゆっくりと目を閉じられる。
 「全ての責めは、あの老司教に…あの者にもあの者なりの理屈があったのでしょうが…そして、ダークマターを遣わされた神に感謝を捧げましょう」
 「神の遣いと言うには、些か人間臭いですがな」
 理屈では分かっていても、どうしてもあれに謝意を示すのは躊躇われる。私としてはそうやって茶化すのが精一杯だ。
 ユージンも冗談めかして笑う。
 「いやいや、面白い男ですな、彼は。生前、親交がなかったのが惜しまれます」
 それには、二人で首を振った。クイーンガード・ダークマターとは、全くとは言わぬまでもずいぶんと異なるタイプであるからな、今のエルフは。
 何となく場が和んだところで、遠慮がちに扉がノックされた。
 「…よろしいでしょうか?」
 ソフィアがそっと顔を覗かせる。
 「どうかしましたか?」
 オティーリエの言葉に、するりと部屋に入ってきたソフィアは、ふぅっと大きく溜息を吐いた。
 「…耐えられませんわ、あの雰囲気に」
 一体…ダークマターがまだ陰鬱な空気を振りまいているのであろうか。
 「私を完全に無視して、いちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃ……砂を吐きそうですわっ!」
 あぁ…そっち方向か…。
 ダークマターを好きなソフィアでさえ砂を吐くということは、私などその場にいたら、全身蕁麻疹であろうな…。
 「…ふむ、替わった方がよろしいか?」
 「そうして頂戴。精神的にダメージを受ける覚悟がいるけど」
 ソフィアはぐったりと膝に顔を埋めた。
 「あぁ、ダークマター…私が生きてさえいたら、あの甘えんぼさんは、私のものだったのに〜!」
 それにしても、先ほどから、『生前』だの『生きていれば』だの、奇妙な会話を交わしているものだな、我々も。この辺は、あのオークが聞いておらねば良いが。
 



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