シンデレラ


えーと、何故女装かは、チャットの時にカレンが…以下略。(裸エプロン参照)
見えないけど、リカルドもいるはずです。サラは魔法使い係。


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 「お久しぶり〜!」
 見つけた人影に、ダークマターは飛びついた。
 「あら、ダークマター。元気だった?」
 ルイは平然と抱き留め、ごろごろ懐くダークマターの頭を撫でてやった。
 ダークマターの背後には、彼と同じく旅装、つまりあまり忍者忍者していない出で立ちのクルガンとグレッグが立っている。
 「そっちの二人も元気?…って聞くまでも無いわね」
 主君をルイから引き離そうとじたばたしているグレッグと、それをこめかみ揉みつつ眺めているクルガンという図は、ダークマターから手紙で聞いていた通りであった。
 久々の胸の感触を堪能したのか、満足そうに体を離したダークマターは、そのままルイと並んで歩き出す。
 「景気はどう?」
 「ま、ぼちぼちってとこね。首都なりの繁栄はしてるけど、往時のドゥーハンにはまだまだって感じかしら」
 諸国をふらふらしているダークマター(及びクルガン&グレッグ)と違い、ルイは新首都に定住している。
 彼らは、イナカに無料救護院を設立したサラとリカルドに招かれて、出かけている最中であった。
 武神を倒し、ついでにアビスも彷徨いた彼らは、いつしか莫大な金額を所持していた。かといって、特に使い道があるで無し、リカルドとサラがパーティーを離脱してイナカに帰ると行った時には、快く大半を彼らに託したのである。そのおかげで、どう考えても領主の援助無しにはうまくいきそうにない『無料救護院』が、何とか無事設立されたのである。
 なお、主に救護院を切り盛りしているのはサラ。いくら元手が莫大と言っても、減る一方ではどうしようもない。そのため、リカルドは結局イナカに落ち着くことなく、傭兵として様々な所に出かけていっているのだった。仮にも武神を倒した『騎士』である。結構な雇い賃にも関わらず、引く手あまたであった。
 
 そうして、彼らはイナカに辿り着いた。
 「暑いねー…」
 荷物は従者(笑)に持たして、出来るだけ軽装になっているダークマターだったが、南に位置するこの地方の湿気には辟易していた。何せ彼は吹雪のドゥーハン生まれのドゥーハン育ち。晴れた日には日差し避けに迷宮に潜るという不健康な暮らしをしていたため、暑さには大変弱かった。
 「修行が足りん、修行が」
 汗一つ見せずにクルガンがイヤミを言う。ま、ダークマターも汗はかいてなかったが。そもそも汗腺が発達してないのかも知れない。
 「何なら、私がおぶって歩いても良いが」
 「余計暑いから、やだ」
 「…相変わらずね、あんた達って…」
 ぶつぶつ言いながらも、真新しい建物を見つけてそちらを目指す。
 すると、日が照りつける中、こちらを見ている女僧侶がいた。
 「こっちよ〜!」
 歩みを早めてサラの前へと辿り着く。
 「よく来てくれたわね!中で冷たいお茶でも出すわ入ってちょうだい!」
 ダークマターは、首を傾げながらも付いて入る。そこでテーブルを囲み、ある程度荷物を下に置いて、一服したところで。
 「何かさー…サラさー………太った?」
 一応遠慮がちに聞いたが、速攻クルガンに後頭部を殴られる。
 「女性に失礼な聞き方をするな!」
 「だって〜!何て言えば良いんだよ〜〜!」
 ぎゃあぎゃあ言い合うのをよそに、ルイもまじまじとサラを見つめる。
 「ひょっとして、サラ…」
 サラは、頬を染めて、腹部を撫でた。
 「やっぱり分かる?あと2,3ヶ月だと思うんだけど」
 掴み合いに発展していたダークマターとクルガンが、それを聞いて振り返る。
 「………何が、2,3ヶ月?」
 おそるおそる、といった風にダークマターが引きつった笑みを浮かべて問うた。
 「赤ちゃんが産まれるの」
 あっさりと答えを与えたサラに、素っ頓狂な声を上げて、椅子から転げ落ちた。
 「ええええええええええええっっっ!!!」
 「…そんなに驚くことでも無いと思うが。サラはリカルドと結婚しているのだし」
 落ち着いて茶をすするグレッグに、部屋の隅にまで逃げたダークマターが叫んだ。
 「驚く!驚くって!だって、そこに赤ちゃんが入ってるんだぞ!?」
 「…いや、普通だから。男の腹に入ってたら、俺でも驚くが」
 早めに立ち直ったクルガンが、席について茶を飲んだ。
 「だって!だって、リカルドとサラの赤ちゃんって!ひえええええええっっ!」
 何故かひたすら怯えているダークマターを除いて、皆は祝辞を述べたり世間話に花を咲かせたりするのだった。

 「で呼んだのは何もこの報告をするためじゃないのよ」
 会話が一段落した時点で、サラが両手を前に組んだ。
 「やっとここも1周年になることだし何か催し物でもしたいと思ったの。ちょうどうちの馬鹿旦那も帰ってくる事だし…」
 「旦那!旦那だって!うきゃああああっっ!」
 「お前はちょっと黙ってろ!」
 「それでね皆の協力を得たいな〜なんて…」
 にっこり笑って言うサラは、昔の勝ち気なだけの少女ではなかった。ただで済ませられる仲間をとことん使い倒してやろうという思い切りしたたかな女性に成長していた。
 それが分かっていても、特に抵抗する理由もない仲間は、苦笑して引き受けるのだった。
 「どーでもいーけど、そーゆーのって、子供達にさせて、村の皆さんとかに見て貰うもんじゃないの?」
 壁際にくっついたまま、ダークマターがぼそりと言う。
 「それもいいんだけどまだ小さい子ばかりで歌くらいしか歌えそうにないもの。あらでもそれもいいわね今度やってみようかしらバザー形式で寄付金代わりにお金取って見せ物にするの」
 くどいようだが、そこにいるのはしたたかな以下略。
 「でも今回は子供達を楽しませてあげようと思って。あぁ劇って言ってもそんな難しいものにするつもりはないのよ?子供でも分かるような話で笑いを取れれば」
 「何故、笑いを取る必要があるんだ…」
 「子供達にはたくさんの笑顔をあげたいじゃない」
 それは大変良い理屈だったが、笑われる立場からするとたくさんの反論をしたい気分ではあった。
 しかし、彼らは大人であった。
 そして、かつ、結構ノリが良かった。
 「良いだろう、その劇の内容とは?」
 何故か仕切っているクルガンに、サラは台本を渡して笑った。
 「シンデレラよ。男女逆バージョンの」
 
 2日後にの夜には劇をする、と言われて、彼らは大忙しで準備をしていた。
 「書き割りとかはもう子供達に描いて貰ってるからね♪」
 「それは、ものすごい前衛芸術な室内だな…」
 「グレッグ!そこでだべってないで、衣装を合わせろ!」
 そこに数着おかれていた女の服を、クルガンがばばばっと検索し、一枚取り上げる。
 「お前の体格ならこれが何とか入る。スリットが思い切り開くが」
 「ふむ、これは、なかなか」
 「サラ!どこかで体格の良い女性が着るネグリジェを貰って来い。俺はそれを適当に作り替えて着るから」
 無言でちくちくと裁縫しているダークマターに、ルイがこっそりと近寄って呟く。
 「意外と、クルガンが乗り気なのね」
 「……慣れてるから」
 やはり小声で返された内容に、ルイが思わず悲鳴を上げかけ、慌てて口を覆う。
 「な、慣れてるって何!?あいつ女装趣味でもあったの!?」
 「いや、そーじゃなくて」
 ダークマターは、一瞬手を止め、遠い目をした。
 ピンク色のふわふわした飾りを持ちつつ、宙に向けて呟く。
 「昔さー、宮殿内でもよく催し物があったんだよねー」
 この場合の『昔』とはクイーンガード時代のことであろう。
 きっとさぞかし晴れやかなものであっただろうと想像で心躍らせるルイに、ダークマターの淡々とした声が続けられる。
 「で、そんな時にはよくソフィアが仕切っててさー。俺が入って最初の年に、俺とクルガンは女装させられてさー」
 栄誉あるクイーンガードの出し物としてはどうだろう。
 軽く頷けないものを感じて、ルイは微かに顔を引きつらせた。
 「当然クルガンは抵抗してさー、辛うじて女装、みたいな中途半端な格好で、如何にもやりたくありませんって感じで出場してー。…負けたんだよねー。騎士達の女装ラインダンスに」
 いやん。
 これまでの城に対する憧れだとか何とかががらがらと音を立てて崩れていく。
 「で、ほら、クルガンって負けず嫌いじゃん。次の年にはもー張り切っちゃってーびしばしにお化粧して笑いを取ったよ、もー」
 どこから聞いていたのか、衣装の方からクルガンが言葉を挟む。
 「結局、今度は侍女達の水芸に負けたがな」
 そんな勝負、負けて当然だとかは思わないのだろうか。
 …思わないのだろう。
 熱血クルガン、「俺はどんな勝負でも受ける!」である。
 「ふっ、やるからには、完璧を目指す!男は黙ってスネ毛で勝負だ!」
 「ちなみに、俺は笑い取り係ではなく、シャレにならない係でした…」
 「あぁ、2年連続、催し物の後には、お前んとこ夜這いに来る奴がいたな」
 「ぎたぎたにのしてやったけどねー」
 虚ろに笑うダークマターに、ルイはどうしても言わずにはいられなかった。
 「拒否出来なかったの?その催し物」
 それには、元クイーンガード二人揃って叫んだ。
 「俺たちが、ソフィアに逆らえると思うか!?」
 『聖なる癒し手』って…ルイはついにブラックアウトした。

 
 そうして迎えた子供達向けの劇では。
 予定通りリカルド(継母)、クルガン(姉1)、グレッグ(姉2)の登場で子供達を爆笑の渦&恐怖のどん底に叩き込んだのだった。
 なお、観客は子供であったので、ダークマターの『シャレにならない女装』は、シャレとして受け止めて貰えず、単に『綺麗なお姉さん』扱いとなったため、劇終了後の人気はリカルド達に集中した。
 「いいもーん、別に悔しくないもーん」
 子供達の環から外れて呟くダークマターの姿を、様子を見に来ていた領主が見初めてしまい、夜這いに来たのは、また別のお話。