シーン1。
 薄暗い風景。周囲は吹雪。
 小屋の中の無線で通信している数名の男たち。
 「駄目だ、遭難者はかなり危険な状態のようだ」
 「しかし、この天気では、ヘリを動かすのは危険だ」
 時計の針、30分進む。
 外、僅かに雲の切れ間から陽の光が射す。
 「よし、出るぞ!」
 「待て!予報では、すぐにまた吹雪が…」
 「だが、これ以上待つのは、遭難者が危険だろう!行くぞ、グレッグ!」
 「分かった」
 制止を振り切り小屋を出ていく二人。
 乗り込んだヘリが上昇していく。

シーン2。
 上空から雪山を見下ろし、カメラズーム。
 一人倒れ伏し、もう一人が力無く手を振っている。
 「…天気が変わってきたな…」
 呟く操縦者。
 無言で装備を確認し、ロープを降りて下の端にぶら下がるグレッグ。
 「もう少し、右だ」
 口元のマイクで操縦者に指示する。
 「あと3m降りてくれ」
 だが、その途端に、突風が吹き、ヘリが煽られる。必死でロープにしがみつくグレッグ。
 グレッグの視点で、雪の積もった地面や雪の舞う空がくるくると回転し、急速に地面へとズーム。
 「う…」
 ぶれる視界の中で、ヘリがスローモーションで落ちていく。そして、そのローターに巻き込まれるように、地面の雪が削り取られ、遭難者二人も崖下へと消える。
 数秒後、爆発音。
 「う、うわあああああああ!」
 絶叫するグレッグ。そして、がくりと地面に顔が落ちる。
 うつ伏せで倒れているグレッグの背中に雪が積もっていく。
 視点、グレッグを中心に上空へズームアウト。


第3話:翼を取り戻せ!


シーン3。
 数mの崖の上で、クルガンが4人に講義している。
 「いいか、ガードスーツを装着すれば、身が軽くなり、この程度の高さなら、楽に上り下りできる」
 リカルドが恐る恐る下を覗き込む。
 「楽に〜?マジかよ」
 「さっさとガードチェンジしろ」
 「へいへい、分かりましたっ!」
 手甲に触れ、ガードイエローに変身したリカルドだが、やはり腰の引けた様子で下を見る。
 「さっさと…行け!」
 その尻を蹴飛ばすクルガン。
 「うわああああっ!………あれ?」
 じたばた落ちていたリカルドだが、途中でくるりと一回転して着地する。
 「うおっ!マジで体が軽いぜっ!」
 「だから、言っただろうが」
 腕を組み、ぶすっとした顔で呟くクルガン。
 崖を3度ほど跳ねるようにして上ってきたリカルドは、大げさに腕を振り回す。
 「おもしれーっ!オリンピック選手にでもなった気分だぜ!」
 「…オリ、ン…?まあいい。それが何かは知らんが、理解したなら、次はあっちで練習していろ」
 指さす先を追うリカルド。そこには切り立った10m以上の崖が。
 「マジですかぁっ!?」
 「うるさい、さっさと行け!」
 ぎゃーぎゃー喚きつつも、そちらに向かうリカルドを見送り、クルガンは視線を元に戻す。
 「さて、次は…」
 見回すと、わくわくした表情のサラ、面倒くさそうに髪を掻き上げているルイ、それから、無表情で俯いているグレッグがいる。
 「グレッグ。こういう時には、男が先に手本を見せるものだろう」
 グレッグが、目を上げるが、先にサラが金切り声を上げる。
 「あ〜!男尊女卑なんだ〜!何よ何よこんな崖楽〜に降りてみせるわよどいてっ!」
 クルガンを押しのけ、崖端で、
 「ガードチェンジ!」
 叫んでから飛び降りる。
 空中で3回転、ひねり入り。
 すたっと着地して両手を拡げる。
 「サラ=マクダフさん10点満点でーす!」
 それから、崖を戻り、ぴょんぴょん跳ねる。
 「うそーすっごいわこのスーツ!これ着て大会に出たら絶対10点満点で全国優勝するわよ!」
 画面、体育館。審査員が並ぶ前で、音楽に乗ってガードホワイトが演技をする。天井まで届くようなジャンプや5回転以上の空中回転を決め、審査員がおぉ〜とどよめく。並ぶ10点10点10点…の札。
 画面、元の視点へ。
 「な〜んちゃってな〜んちゃってきゃあっ!」
 両手を組んで飛び跳ねるサラに、ルイが自分の爪を見ながら言う。
 「芸術点で引かれて、最下位じゃ無いの?」
 画面、再び体育館へ。
 並ぶレオタードの少女たち。一人混じるガードホワイト。
 画面、元の視点へ。
 「そうかも〜がっかり〜」
 肩を落とすサラに、クルガンは明後日の方向を見ながら呟く。
 「お前ら…他人の星の栄誉あるガードスーツに向かって、失礼だな…まあ、センスについては、俺はとやかく言えんが」
 画面、宇宙船内部へ。
 「へっくしょん!」
 「マスター、お風邪ですか」
 「いや…なにやらムズムズとしただけだ」
 鼻をすすり上げるレドゥアと、パネル前に座っているフリーダー。
 画面、崖へ。
 「じゃ私もあっちに行くわね!いやーん楽しみ〜!」
 楽しそうに高い方の崖へ向かうサラ。
 残るグレッグとルイ。だが、グレッグはやはり俯いたままで無言でいる。それを見て、ルイは肩をすくめ、そのままの姿で崖に飛び込む。
 「お、おい!?生身では…」
 慌てて駆け寄るクルガンの前で、空中のルイがピンクの光に包まれ変身し、着地する。
 「まあまあね。この高さでぎりぎりってとこね」
 崖上に戻ると、クルガンが苦い顔で腕を組んでいる。
 「つくづく、賭の好きな女だな」
 「あら、ぎりぎりのところを確かめるのは、悪いことじゃないでしょ?」
 肩をすくめ、去り際グレッグの肩をぽんと叩く。
 「じゃ、ね。あっちで待ってるわ」
 押されるように、グレッグは2,3歩前につんのめるように歩き、崖に近づく。
 荒い、呼吸音。
 揺れる画面。
 雪山の場面フラッシュバック。
 座り込むグレッグ。
 「……駄目だ。私には、出来ない」
 「何故だ?あいつらを見れば分かるだろうが、この程度の崖、怪我すらせんぞ」
 「……理屈ではないのだよ……」
 硬い表情のまま立ち上がり、コートに手を突っ込んで、立ち去ろうとするグレッグ。
 「待て!」
 その肩を掴み、振り向かせるクルガン。
 「私は、臆病者だと言っただろう!私に、過大な期待をかけるな!」
 ヒステリックに手を振り解き、一瞬睨み合い、ばっとコートを翻して駆け去るグレッグ。
 高い方の崖上で、顔を見合わせる3人。

シーン4。
 バロック調音楽。地下神殿にて。
 老司教の前に立つメレク。その隣に、うずくまる獣人。
 テロップ:合成獣ウヒョウ。
 「ほっほっほ。こ奴には、人間の子供をさらい、高所に連れていく、という習性がある。我が子をさらわれ、為す術もなく貪り食われる親の絶望。高いところから突き落とされる恐怖。…黒き闇に染まった良い魂が集まることじゃろうて。ほーっほっほ」
 頷く老司教。だが、見回して重く言う。
 「ダークマターはどうした?」
 扉に控えていた下っ端が飛び上がり、へこへこと頭を下げる。
 「へいっ!隊長は、もうじき歌が完成する、とかで、後で顔を出すと伝えるよう言われておりやすっ!」
 「むぅ…仕方がない。ヴァーゴ!」
 「あいよ」
 もたれていたゲイズハウンドから身を起こして、気怠そうにヴァーゴが立ち上がる。
 「こ奴を連れて、地球人共の魂を絶望に染めてやるが良い」
 「はいはい。人遣いの荒いこったね。お前ら、行くよっ!」
 「へいっ!姐御!」
 
シーン5。
 暗い室内で、椅子に腰掛け、目を瞑り小さく歌っているダークマター。
 扉がノックされ、一人の下っ端(盗賊)が入ってくる。
 「隊長、良いんですかい?作戦はヴァーゴが行きやしたが、多分、大親分はお怒りですぜ?」
 ゆっくりと目を開けるダークマター。
 「構わんさ。この歌が完成すれば、我らが偉大なる司教様には、殊の外御満悦いただけるだろう」
 口調は、どこか皮肉げで、唇が歪んでいる。
 そうして、また歌い始める。
 出ていった盗賊、少し頭を振って呟く。
 「大丈夫かね、うちの隊長。やっぱ、俺たちがうまく立ち回ってあげないとなー」
  
シーン6。
 夕暮れ。路地裏の屋台で、熱燗をすすっているグレッグ。
 路地の角からそれを覗き込んで、慌てて顔を引っ込めるリカルド、サラ、ルイ。
 「ど、どうする?」
 「そりゃあんたが言って話しかけるしかないでしょ!?一番自然じゃないの」
 「かーっ!苦手なんだよなーっ、俺、演技派じゃねーんだよ」
 「演技部分に期待なんかしてないわよ。男同士、しみじみ語り合えって言ってんのよ」
 「男同士ってんなら、クルガンでもいいだろーっ!?」
 「俺か?
 壁にもたれかけて腕を組んでいるクルガンが、苦い顔で首を振る。
 「お前ら、俺がそういうのが得意だと思えるのか?」
 3人一斉にぷるぷると首を振る。
 「……自分で言っておいて何だが。……失礼だな、お前らは」
 
シーン7。
 屋台にぎこちなく歩いていって、グレッグの隣に腰掛けるリカルド。
 「あ、俺、はんぺんとちくわ。…おー、グレッグじゃないか!偶然だなぁ!(めっちゃ棒読み)」
 画面、路地入り口から覗き込む3人。
 「演技には期待してないって言っても…あれは、ひどすぎね」
 「もっと普通に声をかけられないのかしら普通に!」
 画面、屋台へ。
 「私に、何か用かね?」
 低く言うグレッグに、リカルドはわざとらしく驚いてみせる。
 「え?用?いやだなぁ、そんな、俺はたまたま通りがかっただけだぜー」
 しばらく無言で飲むグレッグ。
 「えーと、グレッグ?」
 いきなり吹き出すグレッグ。
 声を立てて笑うグレッグに、リカルドもひきつった笑いをこぼす。
 「はは、は、ははは」
 「い、いや、すまない。君たちは、面白いな」
 まだ笑いながら、額に手を当て、考え込むグレッグ。
 「…そうだな…君たちには、話しておいた方が良いのだろうな…。君たちも、こっちに来たらどうだ?」
 画面、路地入り口で顔を見合わせ舌を出すサラ、ルイ。

シーン8。
 おでんをつつく5人。長椅子が狭いため、クルガンは一人壁際に立っておでんの串を眺めている。
 「…へー。あんた、山岳警備隊だったんだな」
 「あぁ。かつて父が雪山で遭難したときに、救出してくれた彼らに感動して、その道を選んだのだ」
 サラが勢いよく頷いて、串を皿に置く。
 「誰かに助けられたから誰かを助けたい。そうよねー分かるわ私もそうだもの」
 「……だが、私は……」
 ふと手を止めて、グレッグは俯く。
 ルイが顎に手を突いてグレッグを見つめる。
 「目の前で、仲間や助けるべき相手が死んで、自分も死にかけた。それで、臆病になるってのは、分かるけど」
 「……恥ずかしい話だが」
 グレッグは、お猪口の酒をあおる。
 「彼らを助けられなかった、そのことよりも、私は、自分がそのまま死んでいくことに恐怖を覚えたのだよ。このまま誰にも発見されず、死んでいくのか、と。彼らのことを思う余裕は無かった。ただ、ひたすら、私が死んでも、誰も気づかず、誰も悼んでなどくれないことが恐かった。…両親もすでに死に、仲の良い友人はと言えば…死んだあいつしかいなかったからな」
 手の中のお猪口を見つめながら呟く。
 「自分勝手な話だと分かってはいるがね」
 「い、いや、分かる、分かるって!」
 リカルドがはんぺんをくわえながら明るく言う。
 「俺もよー、一人暮らしだからよ。風邪とかひいちまったときには、うわー、このまま死んでも誰も俺に気づいてくれねーんだよなーって、この世に一人っきりみたいな気分になるぜ」
 「誰だって、結局は自分一人で生きてるんだけどね」
 「やだわルイ姉さんってばニヒルなんだから」
 黙って塀にもたれていたクルガンが口を開く。
 「もしも、お前たちが死んだら、栄誉あるクイーンガードの殉職として、星を挙げて盛大な葬式を出してやるが」
 思わず、がつっと額を屋台にぶち当てるリカルド。
 「…慰めているつもりなのかね?それは」
 グレッグも額に手を当てて苦笑しながら言う。
 「駄目か?やはり」
 しゃがみこんで、串で地面に何か書き出すクルガン。
 「難しいな…あいつが言うと、説得力のあるセリフだと思ったんだが…俺が言うとなぁ…」
 「お客さん、串は誤魔化さないで下さいよ!」
 「む?…あぁ、すまない」
 慌てて立ち上がり、ズボンで串の泥を払って親父に差し出す。
 頬杖を突きながら、ルイが呆れたように笑う。
 「葬式出してやるから安心して死ね、なんて、そんなセリフを説得力があるように言えるなんて、どんな奴よ」
 「あー!私も聞きたいって思ってたのよよくあんたが言う『あいつ』って誰のことかなーって」
 しばらくそのままの姿勢で固まっているクルガン。
 場面、どこかの広場。ソフトフォーカス付き。
 多数の兵の前に立つ銀髪の剣士が淡々としてはいるが力強い声で話している。
 「お前たちを、一人たりとも欠けることなくここへ帰らせることが俺の使命だろう。だが、俺の力が足りずに、帰らぬ者が出たとしたら」
 瞠目する銀髪の剣士。再び目を開き、手を握りしめる。
 「俺が覚えている。殉死として盛大に葬式が行われ、墓に葬られた後も、ずっとずっと俺が覚えている。お前たちが生きて為すはずだった夢や希望も何もかも、俺が覚えている。だから許せ、とは言えない。だが!」
 剣の柄にかかった手に力が込められる。
 「お前たちの命を、俺に預けて欲しい!」
 兵たちの突き上げる拳や歓声に剣士の姿は見えなくなる。
 場面、ゆっくりと路地へ戻る。
 「…あいつは、誰よりも部下を大事にし、傭兵たちに慕われていた。……今は、もういない、俺の…友人だ」
 「死んだのかね?」
 グレッグの問いに、一瞬唇を噛み締めて、それから視線を逸らす。
 「今、話すべきなのは、お前のことだろう!お前はどうしたいと言うんだ!?」
 屋台に手を突き、迫るクルガンの方は見ずに、グレッグはおでんの串を回している。
 「死ぬのは恐い。死のイメージに繋がる高いところも恐い。…私は、このままだらだらと平凡な日常を続けていたいのだがね」
 「お前は!誰かを助けたい、と思っているのではないのか!?」
 胸ぐらを掴むクルガンの肩をルイが押しとどめる。
 「やめなさいよ。そんなこと、強制できるものじゃないでしょ!」
 「分かっているとも、そんなことは!…あぁ、くそっ!やはり、お前らだけで話せ!俺は知らん!」
 足音高く去っていくクルガン。
 「あーっ!勘定くらい払って行け〜!」
 リカルドの声が追う。
 グレッグの横顔、僅かに綻んでいる口元アップ。
 「君たちといると、楽しいのは確かなんだがね」

シーン9。
 シーツを被って眠っているリカルドの耳に、ふーっと息がかけられる。
 「お、き、な、さ、い、よ」
 場面、宇宙船広間へ。
 そこに響きわたる「あーーーっ!?」という叫び。それが、続けて2つ。
 しばらくして入ってくるガードレンジャーたち。
 「ルイ姉さん!もう少し普通の起こし方はできねーのかよ!?」
 「あら、サービスよ。お金払って貰ってもいいくらいなのに、何がご不満?」
 「…私も、もう少し普通の起こし方希望だ」
 「見られちゃった見られちゃった見られちゃった見られちゃった…」
 ごほん、とガード長官の咳払いが響く。
 「クルガンはどうした?」
 ルイが肩をすくめる。
 「あいつってば、扉のロックが硬くて。部屋に入れなかったのよ」
 「あ?そういや、俺の部屋も鍵はかけたはずなんだけどよ?」
 「あ私も」
 ルイがさりげなく髪にピンを刺す。
 「ま、どうでもいいじゃない、そんなことは」
 その間に、レドゥアはフリーダーに命じて、クルガンの部屋に声を流させる。
 「起きて下さい、クイーンガードクルガン」
 フリーダーの声には全く反応しないクルガン。
 『クルガン、本当にもう、お寝坊さんね』
 柔らかな響きの女性の声に、リカルドやサラたちは顔を見合わせる。
 「ねねね今のクルガンの恋人かしら!?」
 「うわっ仏頂面してるくせに生意気なっ!」
 レドゥアがマイクを持つ。
 「クルガン。起きぬか!」
 しばし待つも反応無し。
 「仕方があるまい。フリーダー。パターンDだ」
 「了解しました」
 フリーダーの指が一つのボタンを押す。
 『クールガン♪早く起きないと、あんたの分までプリン食っちゃうよ?』
 流れてきた声にもう一度顔を見合わせる4人。
 「プ、プリン?」
 「プリン食うのか!?あの顔で!?」
 「いや、プリンにも驚きだが、それよりも、どこかで聞いた声だとは思わないか?」
 「そうなのよね、どこかで聞いた声だと…」
 しゅん、と音がして、広間にクルガンが飛び込んでくる。
 何かを探すように素早く広間を見渡し、視線、フリーダーの指先へ。
 「ガード長官!タチの悪い冗談はよせ!」
 「その歳になって、自分で起きぬお前が悪い」
 ぐしゃぐしゃの髪を手櫛で整え、紐で縛るクルガン。
 「分かった、俺の非は認めるから、その声で起こすのは止めてくれ」
 「一番、効果的であるからな」
 約束はせずに、レドゥアはパネルを操作する。
 次々に複数の画面でニュース番組が流される。
 カメラ、一つの画面にズーム。
 「さて、次の行方不明の児童です。A区の○田○美ちゃん6歳、○田×美ちゃん3歳の姉妹、×野×奈ちゃん4歳、△下△くん5歳……」
 レドゥアが操作し、画面いったん小さくなる。
 「どうだ、地球人よ。朝から行方不明の子供のニュースばかりなのだが、これはよくあることなのか?」
 「そんなわけあるか!」
 速攻リカルドが突っ込む。
 「小さな子供ばかりお母さんはきっとすっごく悲しんでるわどうしたのかしらでもこんなに一度にいなくなるなんて偶然のはずはないわよ」
 「一晩でこれだけの地域にわたって一度に誘拐…複数犯ね」
 サラとルイの言葉にレドゥアが頷く。
 「うむ、まだ老司教の仕業かどうかは分からぬが、非常事態には違いない。ガードレンジャー、出動せよ!」
 「「「「「はいっ!」」」」」

シーン10。
 歌っているダークマターの部屋の扉がノックされる。
 「隊長〜」
 「入れ」
 「失礼します」
 肌に入れ墨を施した筋肉質の戦士が入ってくる。
 「ヴァーゴの姐さんの言いつけ通り、子供たちの誘拐任務をとりあえず終了いたしました」
 「ご苦労だった」
 「それでは、これで」
 戦士は出ていきかけて、止まり、扉に向かって呟く。
 「これは、俺の独り言ですが。何せ、皆、そんな任務に就いたことがないもんでね。ひょっとしたら、縛った縄が緩かったんじゃないかなーとか思うんですが…もう一度縛り直しに行った方が良いんですかねぇ」
 ダークマター、黙って立ち上がる。
 「私は、ヴァーゴの仕事を見物に行って来る。…徹夜仕事だったお前たちは休んで良い。だが」
 すれ違いざまに、とん、と戦士の肩を叩く。
 「もしも、余裕があるなら、人質保管場所周囲の警戒にあたれ。仮に逃げ出してきた人質があれば、ショーの前にコボルトたちの手に掛かったり、落ちて死んだりしないよう、身柄を確保せよ」
 「了解しました。身柄の確保ですね。ショーの前に死んでは、効果が薄いですからね」
 「そうだ。……任務、ご苦労だった」
 「はっ!」
 敬礼した戦士の前をダークマターは通り過ぎていく。
 それを見送って、戦士は握り拳を作る
 「うっし、隊長は隊長だ。俺たちはあんただから付いて来たんすからね」


 アイキャッチ

 CM:「楽しい幼稚園4月号、今回の付録は!」
    「ガードチェンジ!」
    お面と手甲を付けてポーズを取る5歳児。
    ガードレンジャーなりきりセットと!
    紙で出来たロボットから、輪ゴムで玉が撃ち出される。
    悪の司教を倒せ!ガードロボ、ガードナイトパチンコ(的付き)!
    「楽しい幼稚園は、毎月26日発売!」

 CM:「楽しい大学生4月号、今回の付録は!」
    大きなお友達のための雑誌「楽しい大学生」!
    大きなお兄ちゃんたちには、ガードホワイト、ガードピンクの特大水着ポスター!
    大きなお姉ちゃんたちには、ガードレッドと銀髪の剣士の
    クイーンガード時代のエピソードが、写真と文章で語られるぞ!
    新しいキャラの紹介や設定が読めるのは、この雑誌だけ!
    「楽しい大学生は、毎月5日発売!」

 アイキャッチ


シーン11。
 どこともしれぬ鉄塔の上。縛られた子供たちが泣いている。
 その部屋の外で、ヴァーゴがイライラと扉を蹴る。
 「うるさいよ、ガキ共!あたしはガキが大嫌いなんだよっ!まったくもう、あのウヒョウとかいう奴は、夜行性だかなんだか知らないけどさっさと寝やがって…あたしだって眠いんだよ!」
 「あ、姐御は寝て下さって結構っすよ!俺たちが見張ってますって!」
 「そうかい?じゃあ、ちょっと休むけどね…逃がしたりしたら、承知しないよっ!」
 「へいっ!任せといて下さいっ!」
 頭を振りながら去っていくヴァーゴ。
 扉の前に立つコボルト2匹。
 一匹が扉から中を覗いて、吠える。
 「おい、おまえらぁ!逃げんじゃねーぞ!扉の前は、俺たちが見張ってんだからなっ!」
 「そうだそうだ!姐御のお仕置きはすっげーんだぞ!逃がさねーからなっ!」
 いっそう高い声で泣き出す子供たち。
 「あーうっせーうっせー!」
 扉がばたんっと開かれる。
 室内には泣いている子供たちだけがいるが、何人かがもぞもぞと動いている。
 「よし、ほどけたっ!」
 4人のやや年齢の高い子供たちが立ち上がる。一人が部屋の隅の丸い鉄ふたに手をかける。それを開けると、梯子が下へ繋がっているが、相当高い。
 ごくり、と鳴る喉。
 「小さい子には、無理だよ、これ」
 「俺だってやだよ、恐いよ」
 迷ったように見ているが、泣いている小さい子供たちに駆け寄って、頭を撫でる。
 「絶対、助けを呼んでくるから。それまで頑張って!」
 2人の男の子と、2人の女の子が鉄ふたをくぐって梯子から降りていく。
 下から手を伸ばし、ふたを閉めて一心不乱に下を目指す子供たち。
 
シーン12。
 下水道をうろついているリカルドとグレッグ。
 「うーっ、くせーっ!マジでこんなとこにいるのかよー」
 「そう言うな。外からは見えぬ部分の捜索、となれば、廃ビルの内部などもあるではないか。高いところが苦手な私に、付き合って貰おうじゃないか」
 「分かってるよ!女にこんなとこ来いとは言えねーもんなー。きっとうるせーからな!」
 「はは、そうだろうな」
 手にしたライトが横道を照らし、二人は進んでいく。
 「でもよー、俺はてっきり、あんたがガードレンジャー(棒読み)そのものを止めるっつーかと思ってたぜ」
 「まあな。私としても、それが一番の逃げ道だと分かってはいるのだが」
 苦笑して、グレッグは口に巻いた布を引き上げる。
 「まあ…知った以上、私に出来ることはやるのも良いかもしれんと思ってな。…援護くらいなら、可能だろうから」
 「グレッグ〜!」
 「うわ!抱きつくな!私のコートに汚れが付く!」
 「…てーか、下水道潜るのにコートってのもすごいけどよ。じゃなくて!俺は嬉しいぜ、グレッグ!一緒にやって行こうぜ、ガードレンジャー!(やっぱり棒読み)」
 「君は…あれか?まだガードレンジャーなのが恥ずかしいのか?」
 「そりゃあなー。正義の味方〜なんてなー。23歳の男がやるもんじゃないよなぁ、やっぱ」
 「私など26歳だが」
 「恥ずかしいだろ?やっぱ」
 「いや、その点については、まったく問題ないが」
 「…………」
 「…………」
 見交わす顔。グレッグは大真面目。
 「ま、まあ、ともかくこれからもよろしくな、グレッグ!さ、今度はあっち探そうぜ!」
 「こら、下水を跳ね上げるな!コートに汚れが〜!」

シーン13。
 廃ビルの階段を上がっては部屋を探すサラとルイ。
 「いない…わね…まったく…もう…どこに…いるの、よっ!」
 「だらしないわねぇ、若いくせに。ダイエットだと思いなさいな」
 「ふえーん!」
 肩で息をしているサラと対照的に、息一つ乱していないルイ。
 「さ、次行きましょ、次」
 「あーんルイ姉さん待ってよー!」
 よろよろしながら追うサラ。

シーン14。
 ひゅんひゅんと音を立ててビルのてっぺんに跳び上がるクルガン。
 更に避雷針の上まで登り、目に赤いマスクを付ける。
 「忍者アイ、発動!」
 画面、普通のビルの俯瞰から、拡大、さらに拡大、拡大。
 「どこかに怪しい動きは無いのか?」
 いったん縮小、再び拡大。
 窓に映る女性の着替えシーン。
 レースのカーテンに遮られて、はっきりとは見えない。
 「むぅ、惜しい。……じゃなくて!次だ、次!」
 
シーン15。
 梯子を降りていく子供たち。
 あと1/3位のところで、一番下を降りていた男の子の手が滑る。
 「うわああああっ!」
 落ちているところを、横からシーフが飛びついて脇に抱え、鉄組にぶら下がる。
 「おーっと、危ねー危ねー」
 「離せよ!」
 「暴れんな、んでもって、喚くな!」
 子供を担ぎ上げて、小声で囁く。
 「逃げたのがばれてもいいのか?」
 慌てて手で口を覆い、他の3人を見上げる男の子。
 「よーし、強いぞ、小さくてもさすがは男だ」
 肩に子供を担いだまま、上っていくシーフ。
 「いいか、ガキ。お前は、逃げたんじゃねぇ。初めて捕まったガキだ。なーに、あいつら人間の顔の区別は付かねーからよ。ちょいとこうして…」
 懐から酒瓶を子供の髪に振りかける。
 「うわ、酒くせ!」
 「で、上に着いたら、盛大に泣き叫ぶんだな。もういっぺん逃げようとすんなよ?ちょいと動きがありそうなんでな」
 「分かったよ。ありがとう、おじさん!」
 「けっ!お前らのためじゃねーよ!…けどな、ま、俺にもガキがいるからよ」
 後は黙って上っていくシーフ。
 上の方で、尻をつねられて、泣き出す子供。
 「うわ〜ん!恐いよ〜!助けて、お母さ〜ん!!」
 「うるせぇよ、このガキ!」
 引きずるように連れていき、途中でヴァーゴが扉から顔を覗かせる。
 「うるさいねぇ、何の騒ぎだい!あたしは眠いんだよ!」
 「あ、すいやせん、ヴァーゴの姐さん!いやぁ、帰ろうとしたら、このガキが俺にぶつかって大事な酒瓶を割やがったんで、ついでに人質の一人にしてやろうと思いやしてね。連れてきたんすよ」
 「ふん…まあ、人質は多いに越したこたないからね。さっさと部屋にぶちこみな!うるさいんだよっ!」
 「へへ、すいやせんね、まったくもう」
 子供の口を塞ぎつつ、へらへらと笑ってシーフは子供を部屋まで引きずっていく。
 「ん〜?うわ、酒臭いガキだな!」
 「あぁ、悪いね、俺の酒がかかっちまってねぇ」
 「うー、さっさと部屋にぶち込め、さっさと!」
 鼻に皺を寄せてうなるコボルトに愛想笑いしつつ、シーフは扉を素早く開けて子供を突き飛ばし、また素早く閉める。
 「んじゃ、俺はもう寝かせて貰うとするか〜。いやー、徹夜はこたえるねー」
 
シーン15。
 ようやく地面について走り出す子供たち。
 だが、角を曲がったところでコボルトに突き当たる。
 「あ、こいつら!まさか、逃げてきたんじゃねーだろなっ!」
 剣を振り上げるコボルト。
 悲鳴を上げて逃げる子供たち。
 「待ちやがれっ!」
 コボルトの剣が子供に当たる寸前、別の剣がそれを弾く。
 「おいおい、コボルトさんよ。人質は、まだ殺すもんじゃないだろ?剣を振り回すのは感心しないな」
 戦士が止めている間に、もう一匹のコボルトが一人捕まえる。
 そして、戦士ももう一人を捕まえ、担ぎ上げる。
 3人目の子がそれを見て、戦士に突進してくる。
 「このガキ!」
 叫んで掴み上げ、耳元で素早く囁く。
 「こういう時には、一人だけでも逃げ切るもんだ!後ろは向かずに全力で走れ!」
 そして、大きく振りかぶり、
 「そういう悪い子は、お仕置きが必要だなぁ!」
 と言いつつ、思い切り投げつける。
 遠くで積み上げた段ボールに突っ込む子供。
 一瞬涙ぐむが、起きあがって走り出す。
 「あ〜!この筋肉馬鹿!どこまで投げてんだよ!」
 「おー、そりゃすまなかったな」
 コボルトが一匹追いかける。
 戦士はもう一匹のコボルトと、鉄塔に上り始める。
 「悪いな、お嬢ちゃん。あんたはゲームオーバーだ」
 
シーン16。
 全力で走っている子供。
 「待ちやがれ!」
 子供の耳に、誰かの声が聞こえる。
 「次の曲がり角は、右に行け」
 走る子供の前が十字路になっている。
 画面、それを追うコボルトの視線に。
 子供が十字路に差し掛かった瞬間、目の前に黄色い砂塵が舞う。
 「うわっ!ぺっ!ぺっぺ!」
 目を覆い、唾を吐き捨てたコボルトが、再び目を開けると子供の姿は見えなくなっていた。
 「ん?どっちだ!?」
 地面に鼻を寄せるコボルト。
 だが、すぐに顔を上げる。
 「うっわ、何の匂いだか知らねーが、薬くせーっ!うー…こっちか!?」
 左側に曲がっていくコボルト。
 それを見送る視点で、画面、黒いブーツの足先だけ映す。
 
シーン17。
 廃ビルから出てくるサラとルイ。
 その前に走ってくる汚れた子供。
 「どうしたの!?」
 「ひょっとして…さらわれてた子?!」
 「た…助けて!まだ、みんな、捕まって…るの!」
 抱き寄せながら、顔を見交わすサラとルイ。
 画面、下水道へ。
 リカルドとグレッグの手甲からルイの声が流れる。
 「子供が一人、逃げてきたわ!場所が分かるわよ!」
 頷き、走り出すリカルドとグレッグ。
 画面、避雷針上のクルガン。
 忍者アイの画面で、鉄塔に上るコボルトと戦士を見つける。
 その手甲からルイの声。
 「子供が一人、逃げてきたわ!場所が分かるわよ!」
 「こっちも見つけた!その子供は、とりあえず安全なところへ確保!ガード長官、頼む!」
 「分かった。こちらに任せろ」

シーン18。
 5人鉄塔の下に揃っている。
 「この上だ」
 グレッグは、見上げて、目を回し、ひざを突く。
 「む、無理だぞ、私は」
 「そうだろうな」
 そう言って、クルガンは鉄塔に手をかける。
 「俺たちが上るとしよう。お前は、下にいて、雑魚共を片づけろ」
 「そのくらいなら、出来ると思うが…」
 「では、行くぞ!ガードチェンジ!」
 5人揃ってガードチェンジする。
 4人が鉄塔に手をかけて登り始めると、爆発が起こり、地面に叩きつけられる。
 「うわ〜!」
 「きゃあ!」
 ゲイズハウンドの背に乗って、ヴァーゴが駆け下りてくる。
 「やらせないよ、ガードレンジャー!ほら、ウヒョウ!あんたもさっさと降りてきな!」
 猫科の動物の動作で、怪人が4つ足で駆け下り、途中で空を舞いガードレンジャーの背後に降り立つ。
 「ウ〜ヒョウッ!」
 奇怪な掛け声と共に、鋭い爪がふるわれる。
 避けるガードレッド。
 だが、背後の鉄塔の枠組みに当たり、1本易々と切り裂かれる。
 「げーっ!当たりたくねーっ!」
 ガードイエローが嫌そうに叫び、慌てて剣を構える。
 「ウ〜ヒョウッ!ヒョオォ〜ウッ!」
 シャキーンシャキーン!とふるわれる爪。
 一回は剣で払うが、2撃目をくらって、ガードスーツから火花を飛び散らせてやられるイエロー。
 「あはははは!お前たち!やっちまいな!」
 ゲイズハウンドの背中で、ヴァーゴは杖を構える。
 コボルトたちがかかってくる。

シーン19。
 少し離れたところにいるダークマターとシーフ&戦士たち。
 「隊長〜、人質のいる部屋の窓を開けっ放しにして来ちまいやした〜」
 「俺も、部屋の扉の鍵をかけ忘れたような気がしますね」
 苦笑するダークマター。
 「そういう、お前たちのドジなところが大好きだよ。だが、罰を与えられたくなければ、口に出しては言わない方が良い」
 「へへへへ」
 頭を掻くシーフ&戦士。
 「では、お前たちは帰れ。何、後はヴァーゴとウヒョウの『手柄』にしてやらねばな」
 「へいっ!では、地下で待機してますっ!」
 消えた後には、ダークマターだけが残り、僅かに笑いを浮かべた顔で鉄塔の方を見ている。

シーン20。
 ウヒョウとはガードレッドが対峙し、コボルトたちと戦っているのはガードイエローたち4人。
 「おい!ここは俺たちが押さえてるから、子供たちを頼む!」
 「分かったわ!」
 頷き合って鉄塔を登り始めるガードホワイトとピンク。
 「ザクレタ!」
 「きゃああっ!」
 ヴァーゴの杖から火炎が飛び出し、二人を包む。
 「この…よくもやったわね!おばさんの相手は、このルイ姉さんがしてあげるわっ!サラ、行きなさいっ!」
 地面から素早く立ち上がり、ガードピンクはヴァーゴに詰め寄る。
 鞭が唸りを上げてヴァーゴの杖に絡みつく。
 睨み合う二人。
 場面、ガードレッド対ウヒョウ中心へ。
 「ウ〜ヒョウッ!ヒョオオゥッ!ヒョウッ!」
 両手の爪がシャキーン!とふるわれ、それをガードダガーで払うガードレッド。
 最後の一撃は回転して避けるが、また鉄塔の枠組みが1本切り裂かれる。

シーン21。
 鉄塔の上、ガードホワイトへ。
 扉の前で見張っているコボルト2匹をガードロッドで殴り飛ばし、ガードホワイトは扉をばたん!と開ける。
 「うわあああああん!」
 泣いている子供たち。
 「大丈夫よ!助けに来たの!」
 次々に子供たちのロープを切るホワイト。
 窓を開け放ち、下を見る。
 「でもどうしよう…ガード長官!ここからそっちに子供たちを転送できない?!」
 「駄目だ。上から見えていなければ転送出来ぬ」
 「あぁんもう!抱きかかえたって4人くらいの子しか運べないわ1回降りてまた上がってくるしかないわよね」
 背中に一人おんぶして、両手に1人ずつ抱え、胸に一人抱っこして、4人の子を持ち、
 「絶対助けに来るから!おとなしく待っててね!」
 そう言って、窓から飛び出すガードホワイト。
 子供たちは悲鳴を上げる。
 「あぁん崖から飛び降りるの練習してて良かった〜!」
 
シーン22。
 再び、ガードレッド対ウヒョウ。
 「ウ〜ヒョウッ!」
 また、鉄組が1本切り裂かれる。
 がくんっ!と揺れる鉄塔。
 「しまった!」
 慌てて鉄塔を見上げるガードレッドにウヒョウの攻撃がヒットする。
 「ぐぅっ!」
 火花を飛び散らせて倒れるガードレッド。
 「大丈夫か!?」
 ガードイエローがフォローに入る。
 場面、ガードホワイト着地シーンへ。
 「長官!転送して!」
 「了解」
 ホワイトの周りの子供たちが消える。
 「これで安心して…もう一回上に!」
 ガードホワイトが鉄組に手をかけ、登り始めるが、ますます鉄塔が揺れる。
 「きゃあああっ!倒れるかも〜!?」
 その声に、はっと顔を上げるガードグリーン。
 視界、揺れて斜めになっている鉄塔。
 見えるはずはないが、部屋の中で泣き叫んでいる子供たちが写る。
 「この速度では…あと1度、上って飛び降りるのが限度か」
 呟きながら、見回す。
 ガードレッド、ガードイエロー、どちらも胸に傷を負いながらウヒョウと対峙している。
 ガードピンクはヴァーゴと睨み合っている。
 そして塔を上るガードホワイト。
 コボルトの剣を払いながら、独り言を呟き続けるガードグリーン。
 「私しかいない。私しか、子供たちを助けられない。私なら、子供たちを助けられる」
 雪山に墜落する視界のフラッシュバック。
 「私は。厳しい大自然に挑む人間を守護する存在となりたかった。自然の前に力尽きた人間の、希望でありたかった」
 ぐらりと揺れる鉄塔。
 「えぇい、臆病者のグレッグ!どうせ一度は失った命ではないか!救える命を見捨てたのでは、私は一生悔やみ続けることになる!」
 ガードナイフを複数放って、コボルトたちをひるませ、ガードグリーン、鉄塔を見上げる。
 「おおおおおおおおおおっ!」
 叫びながら、鉄塔を猛然と上るガードグリーン。
 「グレッグ?!」
 ホワイトも追い抜き、鉄塔上の部屋に飛び込む。
 中の子供たちを抱え上げ、追いついたホワイトを一瞬振り返る。
 「残りの3人は、頼む!」
 「分かったわ!」
 4人抱えて、窓から飛び出す。
 「私は!天駆ける自然の守護者!碧天の翼、ガードグリーン!」
 背中からV字の風切り羽根が伸び、滑空して地面に着地する。
 「私は!もう躊躇わない!」
 その背後にホワイトも着地する。
 子供たち、転送される。
 直後、地響きを立て、倒壊する鉄塔。
 ガードグリーンとホワイトに駆け寄るガードレッド、イエロー、ピンク。
 「やったな、グレッグ!」
 「ま、そんなところね」
 無言で頷くガードレッド。
 それに、頷いてみせるガードグリーン。
 「では、行くぞ!ウヒョウとやら!」
 「…むぅ、今日は仕切らせておいてやるか」
 呟くガードレッド。
 「ガードレンジャー連携アレイド!今必殺の!ファイブスラッシュ!!」
 ガードグリーンの掛け声で、5人の武器を組み合わせた必殺技が炸裂する。
 「ウ〜〜〜〜ヒョオウッッ!!」
 倒れ、爆発するウヒョウ。
 「やったわ!」
 喜ぶガードレンジャーと、地団駄を踏むヴァーゴの耳に、歌声が聞こえてくる。
 哀切な響きの男声だが、どこか不安定な歌だ。
 「この声は……どこにいる!?」
 周囲を見回すガードレッド。
 鉄塔近くの廃ビル屋上で、歌い続けるダークマター。
 「そこか!」
 そちらに向かおうとするガードレッドだが、ウヒョウが倒れた地点の異変に気づき振り返る。
 「ウウウウウウウ………ヒョオオオオゥッッ!」
 周囲の空気がどす黒く染まり、収束したかと思うと、ウヒョウが巨大化して復活する。
 「な、何!?」
 目を伏せたまま歌い続けるダークマター。風が銀色の髪を巻き上げる。
 「やるねぇ、お坊っちゃん」
 呟くヴァーゴ。
 だが、ウヒョウが踏み出し、ガードレンジャーに爪をふるう余波でコボルトたちが弾き飛ばされ、眦を吊り上げる。
 「ちょいと!あたしたちは味方だろう!?」
 「ウ〜〜〜ヒョオゥッ!」
 構わず、辺り中を破壊するウヒョウ。
 「ちっ!お前たち!撤退するよっ!巻き込まれちゃあ、馬鹿みたいだっ!」
 消え失せるヴァーゴと手下たち。
 破壊されたコンクリート塊を避けつつ、ガードレッドは手甲に叫ぶ。
 「ガード長官!対抗策は無いのか!?」
 「む…まだガードナイトは未完成だ」
 「くそっ!」
 一人、身を翻すガードレッド。
 「お、おい、クルガン!」
 ガードイエローが声をかけるが、全く聞こえていない様子で、廃ビルに駆け上がる。
 「ダークマター!!」
 銀髪の剣士の背後に叫ぶが、歌を中止する様子はない。
 ガードダガーを構え、突進するガードレッド。
 振り返り、剣で弾くダークマター。
 しばらく見つめ合う二人。
 だが、その時、ウヒョウの爪が、廃ビルもえぐる。
 足下のコンクリートが崩れ、舌打ちしながら飛びすさるガードレッド。
 ダークマターも宙を舞うが、同時に歌を中断する。
 「ヒョオオオオオオオッ」
 その途端。
 悶え苦しむウヒョウ(巨大バージョン)。
 「……まだまだ不安定か」
 それを見て呟き、ガードレッドを振り返る。
 「命拾いしたな、ガードレンジャー。次は、こうはいかないぞ」
 「待て!」
 ガードレッドのダガーが触れる寸前、消え失せるダークマター。
 ダークマター地点に焦点。
 同じ視界だが、焦点ボケのまま、ウヒョウが黒い粒子化して消え失せる。
 ぼろぼろになって、それを見上げるガードレンジャー。

シーン23。
 宇宙船内部広間。
 レドゥアがパネルを操作すると、歌声が流れてくる。
 「これが、今回の歌だ。これを、逆回転してみると」
 やはり男声の哀切な歌声。
 クルガンの眉がぴくりと上がる。頷くレドゥア。
 「レクイエム…」
 「はぁ?」
 クルガンの言葉に、首を傾げるリカルド。
 「あいつがよく歌っていた歌だ。死者の魂が迷うことなく天へ召されるように、と。誰よりも、死者に敬意を払っていた男が、何故!」
 だんっと壁を殴りつけるクルガン。
 「鎮魂歌の、完全な裏返しの歌だ。多分、これは、死者の魂を強制的にその場に留まらせ、安らぎではなく凶暴に活性化させる作用があるのだろう」
 そこまで言って、レドゥアは首を振る。
 「クルガン。あれはもう、我々の知っていたダークマターとは思うな。老司教の部下であるただの敵だ」
 「そんなことは……分かっているとも!」
 足音高く部屋を出ていくクルガン。
 残された4人は顔を見合わせる。
 まだ流れている鎮魂歌に、ふとグレッグが首を傾げた。
 「この声、どこかで聞いたことがあるな」
 「何言ってんだよ。あの銀髪の剣士の声だろ?」
 「そうではなく、違ったセリフを…あっ!」
 「ああっ!」
 同時に声を上げるグレッグとルイ。指を突き合わせて叫ぶ。
 「「プリン!」」
 エコーがかった再生。『クールガン♪早く起きないと、あんたの分までプリン食っちゃうよ?』
 「ええええええっ!?」
 叫ぶ4人、徐々にフェイドアウト。

シーン24。
 地下神殿、老司教の前に立つダークマター。
 「…歌っている間だけ効果があるのでは、まだまだ未完成だが…もう少し改良すれば、完全にその場に固定できるはずだ。お気に召して頂けましたか?我が父よ」
 「うむ。よくやった、我が息子よ。今後の成果を期待している」
 満足そうに頷く老司教。
 壁際でヴァーゴは舌打ちする。
 それに振り向き、苦笑するダークマター。
 「生前の記憶や知能は完全に無くし、周囲の生ある者をただ破壊する、という衝動しか持っていないのだ、あれは。その部分の改良は難しい。巻き込まれたくなければ、早く撤退するんだな、爆炎のヴァーゴ」
 「今度から、そうさせて貰うよ」
 「では、失礼する」
 広間を出ていくダークマター。
 廊下を歩きつつ、手を開いて見つめる。
 数本、手に残る白い毛(ウヒョウのものと推測)。
 「…許せ、とは言えない。だが、俺もいずれは、そこへ行く。その時…心ゆくまで俺の体を引き裂くが良い……」
 顔を上げ、歩くダークマター。
 その背を映し、画面、フェイドアウト。


次回予告。
 「グレッグだ。さて、プータローの私やリカルドはともかく…」
 「待てーっ!プータロー言うな〜!せめて就職浪人〜とか、フリーター〜とか言ってくれよ〜!」
 「衣食住を確保してくれるこの職業は大変有り難いのだが、学生をしているサラはそうはいかないらしい」
 教官に怒られているサラ。
 「いいか!?今度のテストで赤点を取ったら、留年だぞ!」
 「ええええっ!?」
 ガードレンジャーとして授業を抜けたりテストをさぼったりしてしまったサラに、留年の危機が襲いかかる!
 「ああぁん!今後1週間絶対ガードレンジャーしないんだから!!」
 もちろん、こっちの事情はお構いなく暗躍する老司教!
 敵巨大化に対抗するガードナイトは完成するのか!?
 サラの試験勉強はどうなる!?
 次回、「サラ、留年す!?」にガードチェンジ!
 「まあ、良いじゃないか。人生、休息期間もあってしかるべきだ。留年結構じゃないか。プータロー生活も楽しいものだぞ?」
 「プータロー言うな〜!」




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