シーン1。
 スリープシステムの中で、うなされている金髪の男。
 テロップ:クルガン。
 場面転換(ソフトフォーカスかけて夢の中であることを示唆)
 荘厳だが朽ち果てている寺院に飛び込むクルガン。祭壇の方向に立っている老司教、傍らにはソフィアが硬直して空中に浮かんでいる。
 ゆっくりと崩れ落ちる女王、その胸から白い光が浮かび上がり、老司教の手に収まる。
 「陛下〜!」
 その声に、一瞬だけ銀髪の剣士が振り返る。
 剣士の左手から氷塊が撃ち出され、クルガンの胸板を貫く。もんどり打って倒れたクルガンの見上げる先で、剣士は老司教に歩み寄り、3人の姿は揺らめいて消えた。
 「何故だ…何故裏切った…ダークマター〜!!」


第一話:クイーンガード、大地に立つ


シーン2。
 宇宙空間に浮かぶ宇宙船。ごうんごうん、とエンジンの響く広間に、クルガンが入ってくる。
 部屋の中央で、パネルを見つめていた初老の男が振り返る。
 テロップ:ガード長官 レドゥア
 「見つかったぞ、クルガン。あの星から陛下の御魂の反応がある」
 「あの星に…」
 パネルに映る青い星。
 「知的生命体が支配している『地球』と呼ばれる星だ。おそらくあの司教は、地球人共の魂を利用して、破壊の神を光臨させようと企んでいるのだろう」
 「…そんなことは、させん!」
 「あぁ。だが、まずは、クイーンガードたるに相応しい者たちを探すのだ」
 驚いたように声を上げるクルガンに、レドゥアは重々しく頷く。
 「俺一人で十分だ!」
 「あの司教の力を侮ってはならん!我らの陛下をお救いするためだ。このクイーンガードの剣に反応する勇者を捜すのだ!」
 「ちっ…」
 悔しげに唇を噛み締めながら、クルガンは剣を受け取り見つめる。
 「この剣は…あいつにも反応したんだ…信用出来るか」
 独り言のように呟きながらも、剣を手に広間から出ていくクルガン。
 「マスター」
 抑揚のない機械口調で、金色のオートマタが口を開く。
 テロップ:フリーダー
 「陛下の反応は、あの小さな島に最も高く出ています」
 「よし、ステルス機能オン。原住民…ごほん、地球人には分からぬように、あの島へ向かう」
 「了解しました」
 視点、宇宙船外側から。宇宙船が虹色の光に包まれ、その後消えたように見える。エンジン音と共に、視点は地球、日本へ降りていく。

シーン3。
 ファミレスで忙しく働いている若者たち。お客様にぶつかりかけて慌てて避ける一人のウェイター(わざとらしいほど大げさな動作で)。
 厨房に戻って次の盆を取る。だが、他のウェイトレスの手が当たって、スプーンが床に落ちる。
 ウェイトレス、それを拾って、エプロンの裾でぱぱっとはたいて、「はい」と盆に戻す。
 「何してるんだ!汚いだろう!」
 戻されたスプーンを取り出して、洗い場に放り込むウェイター。
 「この忙しいのに何やってるのよ!どうせ客には分かりゃしないわよ!」
 小声だがむっとしたように言うウェイトレス。
 「たとえ見えなくても、ちゃんとするのが客商売の信頼ってもんだろう!一度床に落ちたものを戻したりするなよ!」
 だんだん大声になるウェイター。
 視点、厨房から客席へ。ウェイターのセリフに、客が顔をしかめて料理半ばで席を立つ。
 レジでは、何人かの客がレジ係に詰め寄る。
 「この店じゃ、落としたものを食わせてるのか!?」
 「不潔…もう来ないわっ!」
 奥から慌てたようにスーツ姿の男が現れ弁解を始める。
 視点、再び厨房へ。
 レジ付近の声が届き、顔を見合わせるウェイターとウェイトレス。
 ややあって足音高く戻ってきたスーツの男が、ウェイターの鼻先に指を突きつける。
 「お前は、クビだ!」
 「何で、俺が!」
 「当たり前だろう!でっかい声で評判落とすようなこと言いやがって…昨日までのバイト代、返せと言われないだけありがたいと思いやがれ!」
 
シーン4。
 制服から普段着に着替えているウェイターが、とぼとぼと道を歩いている。
 「あ〜あ。またクビだよ。俺は!商売人として、お客様との信頼ってものが如何に大切か、言ってるだけだってのによ〜!」
 大声で叫び、周りの人たちに指さされ、ウェイターは、びくっとしたように周りを見渡してから走り出す。
 公園のベンチに座り、頭を抱える。
 テロップ:リカルド。
 「これからどうする…家賃払ったら、メシが食えねぇよ〜」
 ベンチ近くの植え込みががさがさと鳴る。視点はリカルド足下、それに黒いブーツが視界に入り、じょじょに上へとカメラアップ。
 目の前に剣を突きつけられ、うわーっ!と声を上げるリカルド。
 クルガンは、睨み付けているが、剣は黄色い光を放つ。
 「…こんな奴が、クイーンガード、だと?」
 「なななな何だよ、お前!言っとくけどなー、俺は無職の上に無一文なんだからな!強盗しようったって、何も出てこねーからなっ!あぁっ自分で言ってて情けなくなってきたっ」
 「…うるさい。俺の方こそ情けない」

シーン5。
 ベンチに座っているリカルドは手に黄色いベルトの手甲を持って、ひっくり返したり手に巻いたりしている。
 「はー。じゃあ、何か?俺が、よその星の女王様を守る、クイーンガード(棒読み)とやらだってか?」
 「あぁ、そうだ。クイーンガードの剣が、お前を認めた」
 ベンチの背もたれに横向きに腰掛け、クルガンは別方向を見ながら言う。
 「…あのな。俺は今、そんな夢物語に付き合ってる暇ねーの。明日からのメシをどうするかの方が、よっぽど深刻な悩みだぜ」
 「…本来なら。我が星では毎年何万人もの若者がクイーンガードの適性試験を受けるのだ。そうして、合格した者は、第17代オティーリエ陛下の御代になられてより未だ4名。…それが何故、訓練すらしていない、お前如きをガードと認めなければならんのか…俺の方こそ頭が痛い」
 「あ〜?人に勝手にうだうだ言っておいて、その態度は何だよ!俺はそんなもの頼んだりしてねーんだよ!」
 「……まあ、そうだろうな。だが、同胞を守るための力を欲しい、と願うときがいずれ来る。それまで、その手甲は持っておくんだな」
 「あ、おい!」
 風が鳴り、ベンチの前の葉が旋毛を巻いた。
 「これ、どうしろってんだよ〜!」
 誰もいない空間に、黄色い手甲を片手に叫ぶリカルド。

シーン6。
 教室で講義を受ける看護学生たち。手元のノートにさらさらとペンを走らせる一人の学生にズームアップ。
 テロップ:サラ。
 やがて教室から出てきた学生たちは、口々に「お腹空いた〜」などと言っている。
 一人の少女が、ふと目を向ける。
 「サラ、どうかした?」
 「うん何でもないのちょっと先に行ってて」
 小走りに向かった先では、子猫が怪我をしてみゃーみゃーと鳴いている。泥と血に汚れた子猫をそっと抱き上げるサラ。
 「よしよし良い子ね大丈夫よ手当するだけだから…」
 だが、子猫は身藻掻いてサラの手から逃れる。それを追ったサラの視点先には、剣を向けたクルガン。
 「きゃあああっ!何、なんなのっ!」
 「騒ぐな、女」
 剣は白い光を放ち始める。
 「誰か来て〜!変質者よ〜!殺される〜!刃物持ってる男がいるわ〜!」
 「へ、変質者だと!?この、疾風のクルガンが変質者!?」
 「誰か〜!」
 複数の足音。
 そちらをちらっと見て、クルガンはちっと舌打ちし、風と共に消える。
 後には座り込んだサラと、子猫。

シーン7。
 ベッドに腰掛け、髪をといているサラ。
 「もう今日は何だったのかしら皆私の言うこと信じてくれないし猫ちゃんはいなくなるし大丈夫かしらあの猫ちゃん…」
 「…おい」
 男の声にびくっとして部屋を見回すサラ。すると、天井から逆さにクルガンが立っている。
 「話を聞け」
 「きゃあああああっ!痴漢よ〜!女子寮に男〜!いやあああっ!」
 「なっ…今度は、痴漢だと!?」
 「誰か来て〜!昼間もいた変質者なの〜!」
 部屋の外からの足音に、ちっと舌を鳴らして、クルガンは懐から手甲を取り出し放り投げる。白いそれを思わず受け取るサラ。
 「説明は、もういい!とりあえず、肌身離さず持っていろ!」
 また風と共に消えるクルガン。
 同時に部屋のドアが開き、少女たちがほうきやバッドを持って入ってくる。
 「どこどこっ!痴漢はどこっ!?」
 「あ…その〜…もう逃げちゃったみたい…」
 サラは、白い手甲を背後に押しやりつつ、照れ笑いをしてみせる。

シーン8。
 狭い路地でおでんの屋台(いかにもうらびれ)。
 無言で熱燗を飲んでいる深緑色のコートの男。
 「はいよ、天ぷらとコンニャクと卵」
 親父が目の前に皿を置く。やはり黙ったまま食べる。
 暗がりから近づく影。
 その足下に、おでんの串が突き刺さる。
 「…ほぅ…今度の男は、少しはマシなようだな」
 緑色の光を放つクイーンガードの剣を手に、クルガンは呟く。
 「わひゃひひはにはひょうはへ」
 だが、男の言葉に、ぴくりと片眉の上がるクルガン。
 「…口の中のものを、食べてしまってから話せ」
 数秒、無言で租借。
 「私に、何か用かね?」
 平然とした表情で、繰り返すコートの男。
 「話がある」
 気を取り直してそう言うクルガンに、コートの男は屋台の長椅子から立ち上がる。
 「お客さん、お勘定!」
 「ひーふーみー…計17本だな」
 「毎度〜!」
 カメラ、クルガンの足下の串を映し出す。
 「さて、行こうか」
 ばさりと格好良く翻るコート。
 男の横顔にテロップ:グレッグ。
 路地の街灯の元で、クルガンは緑色の手甲をグレッグに渡す。
 「そのような夢物語を信じるとでも思っているのかな?」
 コートのポケットに手を入れたまま、グレッグは無表情に言う。
 「現実だ。いずれ、老司教は地球人の魂を刈り集める作業を始めるに違いない。それを阻止するには、クイーンガードの力が必要だ」
 「…私には、無理だろう」
 グレッグ、遠い目になる。
 「私は死に怯え、再び大空を翔る翼を失った臆病者だ。戦いには、不向きな男だよ」
 ばさり、とコートを翻して立ち去ろうとするグレッグ。
 「待て」
 振り返るグレッグに、緑色の手甲が投げられる。
 「どうせ、それはお前にしか使えん。持っておけ」
 「…だが、私は…」
 「死に怯え、戦わずしてまた死の淵に落ちるというなら、それもお前の選択した道だろう。俺がとやかくいう筋合いではない。だが、もしも、お前の心に戦士の魂が残っていると言うなら、それはお前の力になるはずだ」
 風と共に消えるクルガン。後には、手甲を持つグレッグ。
 「この平和な日本で『戦士の魂』…か。ちょーっとずれた男だな」

シーン9。
 薄暗い間接照明の室内に、正装した男女が幾人も。
 一つのテーブルでは、ルーレットが行われている。
 際どい衣装の女性ディーラーが、ルーレットを回す。カメラ、女性の胸元をズーム。
 若い男が、鼻を伸ばしてそれに見入っているが、女性の微笑みと「どうぞ」という声に、はっと我に返って、手持ちのチップを全部賭ける。
 「…赤の9。残念でしたわね」
 はぁっと大きな溜息を吐いてよろよろと立ち上がる若者。
 それを見送り、一瞬婉然とした微笑を浮かべ、また賭を始める。

シーン10。
 かつかつとヒールの音を鳴らして歩く女性が、振り向く。
 テロップ:ルイ。
 「このルイ姉さんを尾けるなんて良い度胸じゃないの。さっさと出ていらっしゃいな」
 影から現れるクルガン。
 「あら…まあ少しは良い男ね。私に何か用なのかしら?」
 無言で剣を向けるクルガン。ルイの手が、自分のベルトにかかる。
 剣はピンクの光を放ち始めた。
 「ふん…この疾風のクルガンに立ち向かおうとする度胸は認めてやってもよい」
 「疾風だか失効だか知らないけど、人に刃物を向けるんじゃありませんって、ママに教えて貰わなかったのかしら?」
 「…お前と敵対しようとしているのではない」
 剣を収め、話を始めるクルガン。
 ぼけていた風景、焦点合わせ。音楽、再開。
 「ふぅん…それで、私に何のメリットがあるって言うの?」
 「メリット?異星の女王を救うということが、お前たちにとっては何の興味もないことであろうことは理解している。だが、自分たちの同胞が禍つ神の生け贄になろうとしているんだぞ?」
 「…興味無いわ」
 あっさりと言って、歩き出すルイ。
 「待て!」
 目の前に立ちふさがるクルガンの脇を通り過ぎ、ルイは振り返る。
 「私を同胞愛なんてもので説得できるなんて思わないことね。馬っ鹿みたい」
 つん、と顔を上げて歩き出すルイの背中に、クルガンが声をかける。
 「……チップは、この地球人の魂全部」
 思わず振り返るルイに、ピンクの手甲が放り投げられる。
 「壮大な賭けだとは思わんか?」
 「…言ってくれるじゃない」
 手甲を受け取ったままの姿勢で、ルイが微笑む。
 「私は、ディーラー。…自分がギャンブラーになる気は無いのよ」
 「お前が参加しない、というなら、他の者がそのチップを全額賭けるだけのことだ。そいつが全部スるのをただ眺めていたいだけ、というなら、そうしていればいい」
 風と共に消えるクルガン。
 ルイは手甲を見てちょっと肩をすくめ、それをハンドバックにしまう。

シーン11。
 宇宙船内部。
 クルガンがレドゥアに報告している。
 「…といった具合で、今のところは誰も積極的にガードになろうとはしていない」
 「むぅ…」
 「俺では、これ以上の説得は無理だ。…性格的に、向いていない」
 苦い顔で言ってから、遠い目をするクルガン。
 「…あいつらなら…違うかもしれんが」
 ふと目が覚めたように首を振り、きびすを返す。
 「司教が活動を始めれば、地球人共も危機感を感じ、ガードになる決意ができるだろう」
 部屋から出ていくクルガン。
 レドゥアは考え込みながら呟く。
 「…彼らの自覚を促すには、司教の活動を期待するしかない、とは…何とも矛盾した話だ。…フリーダー」
 「はい、マスター」
 「各地の『ニュース番組』とやらの電波をチェックしろ。些細な情報も見逃すな」
 「了解しました」


 アイキャッチ

 CM:「ガードチェンジ!」
     ジャケットをばさっばさっと音を立ててポーズを取るクルガン。
     その前で同じようにジャケットを着てポーズを決める5〜6歳児。
     「これで君もガードレンジャーだ!」
     子供用ガードジャケット(袖口色:赤・黄・緑・白・ピンク)
 CM:「ガードチェンジ!紅き疾風、ガードレッド!」
     手甲収納の剣が赤く光る。
     「君にクイーンガードの資格はあるか!?」
     クイーンガードの剣(電池別売り)

 アイキャッチ


シーン12。
 灯りのない暗い室内で、ガラスの棺に横たわる女性。
 テロップ:ソフィア。
 その横に立つ銀髪の剣士。
 ガラスに手を触れながら、独白。
 「もしも、今、貴方が目を覚ましたら…俺を怒るだろうか。それとも恨むだろうか」
 手が握り拳になる。
 「だが…それでも、これが『私』の選んだ…」
 閉じた瞼を、すっと開き、無表情に部屋を出る。

シーン13。
 大きな広間。装飾の主体は黒。怪しげなコードが天井から垂れている。音楽はバロック調。
 銀髪の剣士が入ってきて、視線がそちらへ向く。
 中央正面の老司教(全長約5m)が、口を開く(エコーがかかって室内に響いている感じ)
 「何をしていた、我が息子よ」
 銀髪の剣士、答えず壁際で腕を組む。
 テロップ:ダークマター。
 「ほっほっほ。ダークマター殿も退屈されておるのでしょう。じゃが、我らが女王陛下の魂を核にした武神の復活もようやく目途が付いたことじゃし、これで、地球人共の魂を刈り集める作業を開始出来ますぞ?」
 暗紫色のフードで腰の曲がった老人が杖を手に高々と笑う(楽しそう、というより皮肉っぽく)。
 テロップ:メレク。
 「こんなひ弱な地球人共など、あたし一人で十分さ」
 「そうですとも、姐御!」
 カメラ、白い肌の女へ。背後には犬の顔の獣人や、巨大な犬が従っている。
 テロップ:ヴァーゴ。
 老司教、重々しく頷く。
 「よかろう。では、ヴァーゴ。地球人共を恐怖のどん底へ叩き込むが良い。恐怖を味わわせば味わわせるほど、良い魂が手に入るであろう」
 「任せといとくれ」
 婉然とポーズを取るヴァーゴ。
 「さあ、行くよ、お前たちっ!」
 「へいっ!姐御っ!」
 部屋を出ていくヴァーゴと手下たち。
 それを見送ってから、銀髪の剣士も動く。
 「我が息子よ。何をするつもりだ?」
 部屋の出口で、振り返らずに呟く。
 「見物に、行くだけだ」
 広間に残る老司教とメレク。
 メレクも歩き出す。
 「ほっほっほ。では、ワシも研究の続きに戻るとするか」

シーン14。
 商店街を逃げまどう群衆。それを追いかけ、手に持った剣で攻撃する犬面の獣人たち。
 テロップ:ヴァーゴの手下:コボルト
 背中をばっさりやられた人間から、白い光が浮かび上がり、飛んでいく。
 悠然と現れるヴァーゴ。その腰に付けた壷に、光は入っていく。
 「あはははは!弱い、弱いねぇ、地球人共!もっと、逃げるがいいさ!あーっはっはっはっは!」
 
シーン15。
 今度はマ○クで店員をしているリカルド。
 だが、店の外で叫び声が聞こえ、逃げていく人たちが見える。
 「何だぁ!?」
 顔を見合わせるリカルドと隣の店員。
 一人の男が、転げるように店に入ってくる。
 「た、助けてくれ!化け物が…!」
 直後、ガラスを破って入ってくるコボルト。
 リカルドは、男を抱きかかえるように、店の裏口から飛び出す。

シーン16。
 看護学生たちが講義を受けている教室に、看護婦が一人飛び込んでくる。
 「急患が大勢運ばれて来ています!至急、病院で、各自看護を手伝うように!」
 慌てて皆と共に駆け出すサラ。
 だが、途中の病院入り口で立ちすくむ。
 次から次へと運ばれてくる怪我人たち。
 「ひどい…一体何が起きたの!?」
 ウェストポーチが白く光る。
 「原因を確かめなきゃ!」
 走り出すサラ。

シーン17。
 公園で鳩にポップコーンを蒔いているグレッグ。
 公園入り口から叫びながら入ってくる人間たちや追ってくるコボルトの騒ぎで、鳩は一斉に飛び立つ。
 「やれやれ。逃げられてしまったか」
 ポップコーンを自分の口に放り込みながら、グレッグは呟く。
 平然と座っているグレッグに一匹のコボルトが近づき、剣を向ける。
 「へっへー、腰でも抜けたのかい?臆病な地球人よぉ」
 「確かに、私は臆病者だ」
 やはり平然と返すグレッグ。
 「そうかい。死にな!」
 剣を振りかざすコボルトの顔に、ポップコーンが命中。
 「いてっいててっ!」
 「死ぬのが恐い臆病者としては」
 笑って、ばさりとコートを翻す。
 「三十六計逃げるに如かず!」
 走りながら、呟くグレッグ。
 「あいつらの分布と移動速度から見て、こちらの方角が手薄なはずだ」
 コートのポケットから緑の光が漏れる。

シーン18。
 マンションの1室で、のんびりと朝食を摂っているルイ。手元のリモコンでテレビを点ける。
 「…一体、この生物は何なのか、まるで犬が二足歩行に進化したような生物であります!彼らの目的は、また、今までどこにいたのか!謎の生物に襲われた人たちで一杯の、都立病院からお送りしております!大人も、子供も、全く区別無く虐殺していく彼ら…」
 ナレーションに合わせて、多数の人間が倒れ伏す公園や、戦場のような病院内が映し出される。
 リモコンでテレビを消すルイ。
 「馬っ鹿みたい」
 だが、コーヒーを飲み終わり、テーブルに置くときには、イライラしたようにがたんっと音を立てる。
 「あ〜っもうっ!」
 髪をくしゃくしゃと掻き乱し、立ち上がるルイ。
 「ルイ姉さんは、お人好しだわ、まったく」
 ベッドのサイドテーブルからハンドバッグを取り上げ、中からピンクに光る手甲を取り出す。

シーン19。
 宇宙船内部。
 ドアが開いた途端に飛び込んでくるクルガン。
 振り向くレドゥアの前にはパネルが浮かび、画像が次々と映し出されている。
 「ついに、始まったか…」
 「そのようだ」
 また、飛び出していくクルガン。

シーン20。
 公園で、周りを見回すクルガン。
 同時に、色々な方向から駆けてくるリカルド、サラ、グレッグ、ルイ。
 黄色い手甲をかざして、叫ぶリカルド。
 「おい!どうなってんだよ!こいつが引っ張るから、こっちに来たのは良いけど、一体何が起こってんだ!?」
 「…狂える老司教が、活動を開始した、ということだ」
 周りから現れる数十体のコボルト。
 「おーや、まだ、生きてる人間がいたのかい?」
 テーマミュージックと共に現れるヴァーゴ。
 妖艶にポーズを取る。
 「おばさんが皆を傷つけたのっ!?」
 叫ぶサラ。
 「お、おばさんだってぇ!?」
 「胸が垂れていてよ、お・ば・さ・ん」
 胸を反らすように腰に手を当て睨み付けるルイ。
 「…くっ…くっくっくっくっくっ…あーっはっはっはっはっはっは〜!」
 笑いに、怯えるコボルトたち。
 「お前たち!やっちまいな!」
 「へい、姐御っ!」
 輪を縮めるコボルト。
 手甲をかざし、ポーズを取るクルガン。
 「ガードチェンジ!」
 変身シーン。
 「ガードレッド!」
 背後、赤い爆発。
 「お前たちも、ガードを付けろ!そして、『ガードチェンジ』と叫べ!」
 慌てて手甲を付けるリカルド。
 「…ガードチェンジ!(棒読み)…うお〜恥ずかしいぞ〜!」
 変身シーン。
 「ガードイエロー!」
 背後、黄色い爆発。
 「ガードチェンジ!これでいいのかしら?」
 変身シーン。
 「ガードホワイト!」
 背後、白い爆発。
 「ガードチェンジ!」
 最初からポーズ込みでコートを翻し、びしっと決めているグレッグ。
 「ガードグリーン!」
 背後、緑の爆発。
 「…馬っ鹿みたい…ガードチェンジ(色っぽく)」
 変身シーン。
 「ガードピンク!」
 背後、ピンクの爆発。

 視点、公園の木々を通してガードレンジャーを見る感じで。
 「…あれは…」
 ガードレンジャー一人一人をズームした後、ガードレッドに固定。
 「クルガン。戦士の心得もない者を、戦場に引きずり出して、どうするつもりだ?」
 呟く銀髪の剣士の横顔。

 「まさか、クイーンガードかい!?聞いてなかったよ、こんなことは!」
 歯噛みするヴァーゴ。だが、すぐに杖をガードレンジャーに向けて呪文を唱える。
 真っ赤な爆発。
 クルガンは吹き飛んだ後、空中で回転して着地するが、他の4人は地面に転がる。
 「あはははは!所詮、付け焼き刃のガードじゃないか!お前たち!かかりな!」
 「くっ!ガードスーツは、このくらいの衝撃は吸収するはずだ!お前たち、立ち上がれ!そして、戦え!」
 ガードレッドは、ガードダガーを片手にヴァーゴに接近する。
 地面の4人は、藻掻きつつも何とか身を起こす。
 「…あっの野郎〜!勝手なことほざきやがって〜!」
 片膝を突いたガードイエローが、手甲から剣を引き出す。
 「ガードソード!」
 近づいていたコボルトを切り払う。
 「これでも、剣道有段者だぜ!」
 ポーズを決めるガードイエロー。
 「私は臆病者で、戦いには向いていない、と言ったはずなのだがな」
 呟きながら、手甲からナイフを複数取り出す。
 一閃すると、コボルトの喉にガードナイフが突き刺さる。
 「接近戦は嫌いなのだよ。死ぬかも知れないからな」
 両手にガードナイフを複数持つガードグリーン。
 「ちょっとちょっとやだわやだわこっち来ないでよもう嫌だわ私みたいなか弱い女の子に何が出来るって言うのよ〜!」
 叫びながら手甲から棍棒を取り出す。
 「こっち来ないでよ馬鹿〜!」
 コボルトを両手の棍棒でめった打ちにして、ポーズを取る。
 「元高校女子新体操都大会2位サラ=マクダフ!…な〜んちゃって」
 セリフ最初はきりっと、最後は可愛らしく。
 「面倒なことに巻き込まれちゃったわね」
 手甲から鞭を引き出すガードピンク。
 ぴしりっと地面を鳴らし、ポーズを取る。 
 「さあ…誰が私の鞭を味わいたいのかしら?」
 顔を見合わせてから突っ込んでくるコボルトに、何度も打ち付けられる鞭。
 「うふふふふふ…癖になりそう」
 あくまで色っぽく。

 ガードレッドのガードダガーを一回は杖で払うヴァーゴ。
 だが、すぐに2撃目が入り、バランスを崩す。
 3撃目で、腰の壷が飛んでいく。地面に落ち、砕けた壷から幾つもの光が飛び出し、天を駆け、意識のない人たちへと戻っていく。
 「ちっ!しまった!」
 ヴァーゴの視線がそちらに向いた隙に
 「今だっ!」
 ガードレッドのガードダガーがヴァーゴの首に叩き込まれる…と思った瞬間。
 突如、ヴァーゴとガードレッドの間に、銀髪の剣士が出現、ガードレッドのガードダガーを剣で受け止める。
 「退け、ヴァーゴ。ドゥーハン星随一の忍者と接近戦を行おうとするな」
 ガードレッドを見つめたままヴァーゴに指示するダークマター。
 一瞬、悔しそうに顔を歪めるヴァーゴだが、気を取り直したように離れて杖に魔力を込める。
 「確かにねぇ。あたしの本業は、火炎魔法さっ!」
 「それも止めておくんだな。可愛い手下たちも、黒こげになるぞ」
 「ちっ!分かってるよっ!」
 その間も、ガードレッドのガードダガーと、ダークマターの剣は鍔迫り合いを続けている。
 ガードレッドが叫ぶ。
 「何故だ…何故、お前はあの狂った司教に従う!?陛下に忠誠を誓ったお前が、何故…!」
 瞬間挟まれる映像。
 「よくやった、我が息子よ」
 老司教の重々しい声。続いて
 「大儀、ご苦労でした。わたくしのガード」
 威厳に満ちているが優しい女性の声が被る。
 「…説明を、する気は無い」
 剣に力を込め、ガードレッドから距離を取るダークマター。
 「ヴァーゴ、今日のところは、退くが良い。これ以上続けると、消耗戦になるだけだ」
 「…分かったよっ!」
 悔しそうに言って、ヴァーゴは杖を向ける。
 「この小便臭い小娘ども!次に会ったら容赦しないからね!帰るよ、お前たち!」
 「へいっ!姐御!」
 コボルトたちがヴァーゴの側に寄り、光が彼らを包む。
 その位置まで身を引いて、ダークマターは剣を腰に収める。
 「その素人たちを率いて、どこまでやれるのか。興味深く拝見させて頂く。疾風のクルガンよ」
 「待て!」
 ガードレッドの目前で消え失せるダークマター。
 手を伸ばした姿勢で動きを止めるガードレッド。背後に残り4人が駆け寄ってくる。
 「ダークマターっ!!」
 絶叫するガードレッド。

シーン21。
 老司教の前に足音高くやってくるヴァーゴ。
 「全く、何だってんだい!クイーンガードは、レドゥアって年寄りと、熱血馬鹿しか残っていないって話じゃなかったのかい!?4人も増えてるじゃないのさ!あたしの可愛い手下たちがやられちゃったじゃないか!」
 「あれは、地球人たちだ」
 反対側の入り口から歩いてくるダークマター。
 「我々に対抗するべく、ガードスーツを適当な若者に授けたのだろう。…所詮、素人が『良い武器』を持った、程度のことだ。気にすることはない」
 メレクが杖を振り回して笑う。
 「ほっほっほ!しかし、地球人は、ドゥーハン星人よりも、基本体力は上じゃぞ?今のうちに叩いておけばよいものを…何故、見逃したのかのぅ、ダークマター殿?」
 杖を向けられても、ダークマターは微動だにしない。
 「我が息子よ」
 重い響きに、ダークマターは首を巡らせる。
 「今、あの4人を殺したところで、次の候補が現れるだけの話だ。ならば、少しは夢を見せておけば良い。…その方が、より絶望が深くなる」
 「さすがは、我が息子」
 満足そうに頷く司教。
 ダークマターはマントを翻し、部屋を出ようとする。
 「それでは、失礼する。もうじき、良い歌が完成しそうなので。…とても、良い歌が、ね」
 「歌ぁ?何だい、坊ちゃんは、お歌のお稽古なのかい?」
 あからさまに馬鹿にした口調だが、ダークマターは振り返って微笑んでみせる。
 「あぁ。いずれ、君も聞くことになる。…素晴らしい鎮魂歌をね」
 
シーン22。
 私服に戻ったガードレンジャーたちが、公園に集まっている。
 疲れ果てたようにベンチに座り込む4人の前に立つクルガン。
 「これで分かったか。狂える老司教が、地球人の魂を集めようとしている、ということが」
 だらしなく足を伸ばし、上を向いたリカルドが、投げやりに言う。
 「分かったよ、分かりました!だがよ、何で、俺たちなわけ?」
 「それは、この剣がお前たちを選んだからだ」
 うつむき、胸の前で両手を組んでいたサラが呟き始める。
 「神様神様サラは他の人の命を救いたくて看護士への道を歩み始めましたなのに何故戦わなければならないのですか私が目指しているのは大勢の命を救う優しい看護士なのです…」
 「お前が戦うことによって、大勢の命が助かる。看護士というのが何かは知らんが、僧侶のようなものなのだろう?寺院で治癒魔法をかけるよりも、余程大勢を救うことになる」
 「そうじゃないそうじゃないのよ…」
 確信に満ちた口調で言い放つクルガンに、サラはますます俯く。
 ルイはイライラしたように髪を掻き上げる。
 「まったく、迷惑な話だわ。他の人を当たりなさいな」
 そして、ベンチから立ち上がり、颯爽と歩き出す。
 「待て!」
 その腕を掴んだクルガンの手を払い、睨み付ける。
 「あいにく、これからお仕事なのよ、坊や。正義の味方ゴッコは、子供たちだけでおやりなさいな」
 わざとらしい優しくゆっくりとした口調で言い、再び歩き出す。
 「私も、降りさせてもらおうか。やはり、戦いなどには向いていないのでね」
 ベンチから立ち上がり、コートをばさりと翻すグレッグ。
 「戦わずして死ぬつもりか!」
 「こういう言葉を知っているかね?『君子、危うきに近寄らず』。臆病者で結構。私はどこまでも逃げ続けてみせるよ」
 すたすたと去っていき、数m離れたところで、ふと止まり、振り返る。
 「…引き留め…ないのかな?」
 腕を組んだクルガンが、苦々しく言う。
 「臆病者は、戦場では無用、いっそ邪魔だ」
 「それは、残念」
 おどけたように肩をすくめ、また歩き出すグレッグ。
 ベンチでは、リカルドが上を向いたまま呟く。
 「あ〜、晩飯、どうしよう…」
 「晩御飯…あ〜!」
 急に叫んで立ち上がるサラ。
 「私病院飛び出してきちゃったんだわどうしよう急いで帰らなきゃ」
 「おい…」
 手を伸ばすクルガンに目もくれずに、泣き言を叫びながら走り去っていくサラ。
 数秒後、リカルドが上を向いていた頭を戻す。
 「あれ?俺だけ?」
 腕の手甲と話していたクルガンがリカルドを向く。
 「仕方がない。『栄誉あるクイーンガード号』で、食事を提供する」
 「お?マジ?お〜!これで一食浮いたぜ〜!」
 ガッツポーズをするリカルド。
 「フリーダー、転送頼む」
 直後、リカルドとクルガンの体が虹色に光り、消え失せる。

シーン23。
 宇宙船内部。
 テーブルに付き、わくわくと待っているリカルドの前に、1cm四方の物体がころりと置かれる。
 「何だ、こりゃ?」
 摘み上げて眺めるリカルドに、クルガンがあっさりと言う。
 「食事だが?」
 「はあ!?食事ってのはよー、もっとこう…なあ!?」
 「何を言っているのか分からんが…これは栄養バランスに優れた高性能携帯食だぞ?何が不服だ」
 一応口に放り込み、むぐむぐと口を動かすが、どんどん嫌そうな顔になるリカルド。
 「…全然味しねーし」
 「これは、飲み込むものだぞ?噛んで服用するものではない」
 「あ〜もうっ!帰せ!帰してくれっ!俺は牛丼が食べたいんだ〜!」
 
 視点、宇宙船外部へ。空中に浮かぶそれに、リカルド叫びが徐々にフェードアウト。

 
次回予告。
 「さあ、クルガン。ゲームの始まりだ。…あぁ、でも、今のあんたは、ゲーム開始時間に、手駒を揃えることすら難しいのかな?」(声:ダークマター:冷淡かつ囁くように)
 駆けるクルガン!
 だが、他の4人のメンバーは、ガードレンジャーとしての自覚は全く無い。
 「もういい!貴様たちをあてにはせん!」
 その頃、メレク特製合成獣ゾウダゾウが、街の人々を石像に変えるという事件が起きていた!
 一人でゾウダゾウに戦いを挑むクルガン!
 戦いは嫌だ、と言いつつも、やはり気になってこっそりと様子を見に来ている4人!
 クルガンの想いは、4人に伝わるのか!?
 次回、『孤高の忍者、クルガン』にガードチェンジ!
 「まったく…周りのことがぜーんぜん見えて無いよね、クルガンって」(声:ダークマター:いきなり可愛い口調)




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