ぐんま見聞録第190号別冊付録 協働の現場から/内海辰男さんに聞く

内海さんの写真

内海 辰男(うつみ たつお)
吾妻郡東村在住 59歳

「箱島ホタル保護の会」会長。
建築業の傍ら、地元・箱島のホタル保護に力を尽くす。

「箱島ほたる保護の会」

 吾妻郡東村・箱島地区は、野生のホタルが飛び交う自然豊かな地域です。無数の光で、見る者を幻想的な世界にいざなってくれるホタルですが、過去にはかなり数が減ってしまった時期もありました。そのホタルを守ってきたのが「箱島ホタル保護の会」です。
 現在、地域住民が中心となって、ホタルと人間が共存できる環境づくりに取り組んでいる同会の会長・内海辰男さんにお話を伺いました。

「保護の会」発足のきっかけ

 もともとこのあたりには、ホタルがたくさんいたんですよ。それが昭和60年ごろ農薬が使われた関係で、ホタルが絶えかかった時期があって。当時は大変だったみたいです。こんなことじゃいかん、ってね。現在は保護地が3カ所あるんですが、もともとは私の前の会長が第一保護地をつくったんです。田んぼを借り上げて、川をつくったんですね。そのあと、平成10年から私が会長を引き継ぎました。保護の会の活動には、最初から参加していましたから、20年以上になりますね。
 発足当時は村の審議会みたいなのがあって、いろいろな役職の人が入ってましたが、今は全くの有志です。学校の先生や、県の職員、自営業の人やサラリーマンの人とかですね。会員数は現在16人で、私が一番年長になります。

「保護の会」の活動

 ホタルが出始めると、保護の会の会員がその数を毎日数えています。人間の目で見て数えることですから、たくさんになると概数でカウントすることになりますが、それでも毎日やって目安にしています。だいたい夜8時から9時ごろまで巡回して数を出しています。
 会の活動は、年2回の清掃活動、草刈り、6月〜7月の巡回、といったところですね。シーズン中は毎日、天候、気温、ホタルの飛散などのデータの日誌を作っています。お客さんの数もわかる範囲でカウントしています。ピーク時には細い道が人でいっぱいになるんですね。ここ3年くらい、お客さんが急に増えた感じがします。
 シーズンには、地元の子どもたちに対して、「ホタル鑑賞会」を毎年やっています。夏休み前の時期、100人くらい参加しますね。毎年やっているし、村の子どもたちにとってホタルはすぐそばにある、あたりまえのもの、という感じみたいです。まわりから見ると、うらやましがられる環境なんでしょうけどもね。
 孫や子どもに見せたい、といって、遠方の方からホタルを売ってくれないかという連絡をもらうこともあります。そういう時は、ぜひ自然の中で飛んでいるホタルを見に来てください。それが本物のホタルですよって、お話しています。
 活動を通して、うれしいなあと思うことは、見に来てくれる人が「きれいでしたよ、たくさん飛んでいましたよ」と声をかけてくれること。頑張ってくださいとか声をかけられると、うれしいし、また頑張ろうという気になりますよ。励みになりますしね。逆に、純粋にホタルの保護の活動以外の部分で(例えばお客さん対応とか)やる仕事が増えてしまったのは、大変といえば大変ですね。シーズン中の土曜日だけでも、もう少し人手があるといいいなと思いますね。

村の人との「協働」

 村の人たちもホタルの保護に理解を示してくれて、例えばシーズン中は保護地周辺の家々でも光が漏れないように工夫してくれたり、お客さんを保護地まで案内してくれたり、とても協力的にやってくれますよ。シーズンの2カ月間は保護地のまわりの街灯を切ってしまうんですが、それについても理解してくれますね。
 年2回、春と秋に川の清掃をしていて、村の人がみんな率先して参加してくれています。これは定着しましたね。
 こうやっていろいろと協力してくれるのも、「わが村のホタル」っていう思いがあるからだと思いますよ。みんな、この土地でホタルといっしょに育ってきたわけですから。

ホタルの住みやすい環境

内海さんの写真 今年は6月4日に最初の3匹が確認されました。 例年に比べて遅い方でした。天候に左右されるようで、毎年、時期になると心配でね、いつ出るかいつ出るかって。下水道が完備されて、その影響がホタルにも出てるみたいです。水がきれいになって、栄養分のある水が川に流れなくなったんです。それで、ホタルのエサになるカワニナとかが育たないんですね。おそらくその影響だと思いますが、保護地によってはホタルがかなり減りました。きれいになることはいいんですが、ホタルの生育にはあまりよくないんですよ。小動物が絶えてしまうようなこともあると思いますね。難しいんですが。
 よく知られているゲンジボタルとヘイケボタル、数はヘイケの方がずっと多いんですね。エサの影響があって、ゲンジはカワニナしか食べないが、ヘイケはカワニナのほかにもタニシやモノアラガイも食べる、いわゆる雑食ですね。まあ、食べるものがたくさんあるわけです。
 ホタルっていうのは、どこの地域でも育ててみたいようですね。地域おこしみたいな感じで。そういうところへ、私たちの会が蓄えてきたノウハウとかを提供するのもいいんじゃないかと思います。営利目的ではなく行政などを通じて、地域の活性化のためにやるのなら、協力したいと思いますね。実際、難しい問題はあるんでしょうけど。ホタルが育つ環境っていうのもありますから、どんなところでもできるわけじゃないですけどね。
 そういう意味でも、これまでホタルが絶えずに、毎年飛び続けているのは、ここがホタルにすごく合っている環境なんだと思います。保護の会の活動もありますけど、それ以前に箱島はホタルが育つ環境に恵まれているっていうのが一番ですね。

「保護の会」のこれからについて

 村の合併があって、そのあとどうなっていくか、ということは課題ですね。まだ先は見えない状況ですけど。例えば、毎年行っている学校の鑑賞会も、もしかしたらほかの地域の学校も加わって数が増えるかも知れませんよね。そうなると、忙しくなるかとは思いますが、ホタルを見たい、というところにはなるべく説明をしたりしていきたいですね。
 個人的には、カワニナがどうやったら増えるかというような研究もしていますよ、小川を作ったりしてね。ホタルだってエサがあれば、自然と増えますしね。1匹のホタルに対して、カワニナがたくさん必要なんですよ。
 また、ホタルの養殖の研究もしてみたいとは思います。ただ、養殖のホタルと、野生のホタルは、やっぱり違いますね。元気が違うんですよ。そういう面でも、野生の箱島のホタルは有名っていわれてますね。大げさじゃなく、6メートルくらいの高さまで飛びますから。元気いいんですよ。自慢のホタルです。

** このページは、群馬県のホームページ「県民参加・意見募集」の中から一部(ぐんま見聞録バックナンバー第190号より)抜粋させていただきました。 **

もどる