『ジョンカラ竜飛 恋さびれ』


  
まえがき



   私は翻訳家として外国語の--私の場合はチェコ語の--文学作品を翻訳するわけだが、そんなとき同じ翻訳にたいして、まったく反対の評価を聞かされることがしばしばある。ある人は非常にこなれた訳で、リズム感もあり読みやすいと言うかとおもうと、今度の君の訳はひどいね、固くて読みづらいという人もある。そんなとき、いい評価よりも、悪い評価を下した人の言葉のほうがどうしても引っかかる。

   とくに、君の訳は日本語になっていないところがあるなんて批評されると、ほんとにそうなのかなあと、表向きのおだやかな対応にもかかわらず、内心ははなはだおだやかではないのである。どうしたらいい? と自問する。要するに、おまえの日本語はなっていないということだ、と自答する。そんなことはあるもんか、おれの訳が日本語になっていないなんて!

   そこで、翻訳家は考えたのである。それじゃ、翻訳でない、最初から日本語のものを書けばいいじゃないか! そこに舞台監督がしゃしゃり出て、おい、おれが昔書いた論文をネタに、一丁、小説でも書いてみたらどうだ? とけしかけた。うーん、それはいいかもしれん・・・が、おれはこの年になるまで小説なんか書いたことないんだぜ、短編だって書いたことはない。じゃあ、翻訳だと思って書けばいいじゃないか、そしたら、逆に、おまえの日本語の文章のうまさだか、まずさだかも暴露されるかもしれんぞ・・・。

   アマチュア作家の誕生にはこのような、自問自答もあったのである。そうなると、書くものも、思いっきり、友人知人の予想もしないようなものがいい。そこでアマチュア作家は、ついに長編小説に取り組む決心をしたのである。そうなると気分を引き締めるために、作家としての筆名も新たにつけたほうがいいだろうということになり、ここに津野田正彦なるアマチュア作家が誕生したわけである。






津野田正彦著                                      


ジョンカラ竜飛 恋寂れ



                  
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* 主題歌『ジョンカラ竜飛恋さびれ』 唄との譜面へ