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待合せ 煙草を取り出したが、目の前にある禁煙の札が突然目に止まりまた胸のポケットにしまった。駅における煙草とは、街における火葬場のようなものらしい。きっとみんな必要としているものなのに、みんなその煙を何故か毛嫌いする。きっと彼らは煙の神聖さについても真正さについても考えたことがないのだろう。 普段はそんなことはどうでも良いのだが、今日この時間ばかりは妙に手持ち無沙汰だった。胸に閉じ込められた相棒のことばかりが気になった。こんなことならこんな場所にするんじゃなかった。けどここしか思いつかなかった。僕には余りに情報というものが足りない。けど、それで普段は十分なのだ。もっとも、今この時間も「普段」だとすると、やはり僕には情報が足りないということになろう。
仕方なく、鞄からCDを取り出して、プレイヤーに無造作に突っ込んで、聴いた。CDの裏面は下品な青い光をたたえていた。タイトルも何もついていない。良く解らないが、最近彼女から借りるCDは何時もそんなだった。聴けば解るよ、最近ラジオで良く流れてるし、と彼女は言っていたのだが、聴いてみても誰のうただかさっぱり解らなかった。確かに僕は部屋にいる時間の半分以上ラジオと共に過ごしている、けど知らないものは知らない。聴いたことも無いし、好きでも嫌いでもない。音はずれていなかったが、全く歌が上手いとは思えない。最近こんな歌手が多すぎる。きっとこの青い光のせいだ。昔は、この象の欠伸のような声も七色に輝いていたに違いない。案の上、名前のない彼女は歌っている。 とくに理由なんて無いのだけど、最近腕時計をつけなくなった。しかし21年も生きていると、時間を知る必要がないのに時計を確認したくなる瞬間が必ずあるものだ。時計を探した。無い。諦めきれずに、周辺を軽く周ってみたがやはり、無い。なんてことだろう。今日たった1人の相棒に出会う前に僕は2人の相棒に見放されたことになる。 そこで携帯電話が鳴って初めて気がついた。電話を見て時間がわかる、なんて便利な世の中なのだろう。表示された名前を見て、一瞬うんざりし僕は電源を切り、また入れた。約束の時間まであと5分あった。僕は相棒の在り処を教えてくれた電話主の彼に、恐らく最初で最後の感謝の言葉を心の中で呟き、そっと電話の電源を切った。 そう言えば、彼女が僕の携帯に電話をかけたことってあったっけ?
目を閉じた。象の欠伸が延々と聞こえる。つられて僕も欠伸をした。そう言えば彼女はアフリカに行きたいと良く言っていた。きっと、この歌声が知らず知らず彼女を遠い異国へ誘っているのだろう。 帰る前には別れがある、僕らは知っている。さよならはまだ早すぎる。そうだろう?
遠くに僕は彼女を見つけた。こちらには気がついていない様子だが、彼女は確実に僕の方へと近づいていた。やっぱり携帯電話なんて必要無い。今度から腕時計をつける代わりに携帯電話は家に置いてくることにしよう。
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