老子小話 VOL 995 (2019.12.07配信)

斧入れて香におどろくや冬木立

(蕪村)

 

悲しいニュースが入ってきました。

アフガニスタンで長年人道支援を続けられた

中村哲医師が現地で銃弾に倒れました。

医療の前に、生きるには水が必要だと考え、

井戸を掘ることから支援を始めた。

そこには、荒涼とした地に潤いをもたらし、

それが心の潤いを生み、平和に繋がるという

強い思いがあったからだと思います。

今回は、哀悼の意味を込め、蕪村の句を

捧げます。

冬木立は、落葉した冬の樹木です。

そこに斧を打ちいれると、みずみずしい

香りが漂ってきた。

荒涼とした冬枯れの木の内側では、脈々と

生命の息吹が流れていることに驚く。

たったそれだけのことですが、おもてに

見える荒涼とした背景と、その奥に宿る、

命を支える潤いとのコントラストをずばっと

表現した句だと思います。

それも視覚ではなく、嗅覚から感じたのも

即時的で感動を強めています。

中村さんの人道支援の原点に、この感動が

あったように感じます。

砂漠に用水路を建設し、地に潤いを戻し、

農業を起こし生活が安定すれば、自ずと

心にも潤いが生まれてくる。

そんな信念に支えられ、活動を続けられた

と思います。

蕪村の句に繋がる、自然の神秘を垣間見る

体験は、人生に大きな影響を与える可能性

を秘めているようです。

 

有無相生

 

 

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