老子小話 VOL 987 (2019.10.12配信)

蓋均無貧、和無寡、安無傾。

(論語、李氏第十六)

 

(けだ)し均しければ貧しきこと無く、

和すれば寡なきこと無く、

安ければ傾くこと無し。

 

今回の言葉は、論語から選びました。

「つまり、公平であれば貧しいことも

なくなり、仲良くすれば、少ないことも

なくなり、安定すれば危険もなくなる。」

「国を治め家を治める者は少ないことを

心配せず、公平でないことを心配する。

貧しいことを心配せず、安定しないこと

を心配する」とは中国の古い言い伝え。

今回の言葉は、この中国の言い伝えを

孔子が心理学的に解釈したものです。

この解釈は、日本でも戦中も戦後に

わたり、標語になったそうです。

戦中は戦費がかさみ、物資は乏しい。

敗戦後は産業が疲弊し、物資は乏しく

生活は困窮する。

こんな時政府は、たとえ乏しくても、

公平に分けて不満が出ないようにする。

国民は周りを見ても皆貧しいので、

不満は抱かず、助け合い仲良くなる。

公平に貧しければ、貧しいと感じない。

政府が心配するのは、人心が安定しない

ことを心配する。

今の世の中、この裏返しの世界です。

格差が広がり、公平でなくなる。

多数の高齢者を少数の若者が経済的に

支えるのがいわくつきの年金制度。

また高齢者の医療や介護を支えるのが、

社会保険制度。

今や日本は老人に優しく若者に厳しい

社会になりました。

長生きというコストのかかるサービス

を国家が負担しているからです。

一方、自然界には自分の生は自分で

支えるという厳しい掟がある。

身体が動かずえさを採れなければ

餓死しなければならない。

生のサービスを受けられるのは、

生まれたての稚児のみです。

自然界では、死という公平さがある。

老若男女を問わず強弱賢愚を問わず、

えさが尽きたとき、死を迎える。

孔子の言葉は、治世者の視点から

国民が感じる公平性の重要性を

述べたものですが、自然界にも、

死という公平性の掟があるわけです。

誰の世話にもならず、自分の生を

自分が支える掟は、生死の境では

必ず生きてくる掟だと思います。

 

有無相生

 

 

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