老子小話 VOL 986 (2019.10.05配信)

うつくしや障子の穴の天の川

(小林一茶)

 

今回は、一茶の句を選びました。

この言葉は、遠藤周作著「死とついて

考える」(光文社文庫)で見つけました。

というか、冒頭に出てくる一茶辞世の句

です。

和室には障子がありますが、和室に住んだ

事がない若い人は障子を知らない人も

いるかもしれません。

木の格子に和紙を貼って出来たカーテン

が障子です。

紙だから、子供がいたずらして穴を開けて

向こう側をのぞく事があるわけです。

臨終に際し、一茶は寝床から障子の穴を

通して天の川を見ている。

もちろん室内は真っ暗で、障子の穴から

射し込む星の光は美しさを増します。

まるで浄土の世界が自分を呼んでいる

ようだと感じたかもしれません。

この世とあの世をつなぐのが、障子の穴

というところが印象的です。

人生長い間生きていると、あの世が見える

のは生活の中の一瞬です。

それは夕暮の何気ない景色の中に懐かしさを

覚えるときだと遠藤さんも語っています。

自然の美しさに囲まれて生きてこられたと

感じる充実感と同じ夕日を見てあの世に

旅立った親兄弟のもとへ帰るという期待を

抱く一瞬です。

この一瞬をとらえたのが、一茶の句だと

思いました。

夜空のもとで天の川を仰ぐのではなく、

限られた時間と空間の中で、一瞬の美に

感動する。

障子の穴には、心の穴という意味もあり、

その穴を通すから何気ない景色に意味を

見出せるともいえそうです。

 

有無相生

 

 

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