老子小話 VOL 982 (2019.09.07配信)

聖なる狂気を知る者は幸いじゃ。

彼はみずからを殺すことによって、

みずからを救うからだ。

(中島敦、「悟浄出世」)

 

今回は、中島敦氏の短編小説から

選びました。

悟浄とは、あの西遊記に出てくる

河童のお化けです。

悟浄は生きる悩みをいろんな妖怪や

仙人に聞き回ります。

今回の言葉は、老荘的仙人の語った

言葉です。

聖なる狂気を知らない者は、自らを

殺しも生かしもしないまま亡ぶという。

われわれの運命を決定する大きな変化

は、我々の意識を伴わずに行われる。

一番いい例が、自分が生まれるとき。

意識したときには、すでに生まれていた。

自分自分と自らを生かそうとすると、

かえって自らを殺す結果になる。

渓流が断崖から滝になって落ちるとき、

渦を巻く。

渦に巻き込まれれば、奈落の底に落ちる。

渦の一歩手前で、ああだこうだ悩んでいる

のが、傍観者を続ける悟浄。

人生という渦の中であえいでいる連中は、

はたで見るほど不幸とはいえない。

何もせず立ち止まっている傍観者より、

何倍も幸せだろうという。

「結果の成否を考えず躊躇する前に試みよう」

と悟浄の気持ちも固まってきた。

中島敦氏は77年前に33歳で亡くなった。

亡くなった年に「悟浄出世」は書かれた。

しかし、今読んでも古臭さは感じない。

悩み多き悟浄は、常に自分の中にいる。

 

有無相生

 

 

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