老子小話 VOL 978 (2019.08.10配信)

頓て死ぬけしきは見えず蝉の声

(芭蕉)

 

今回は、芭蕉の蝉の句をお届けします。

私が夏を一番感じるのは蝉の声です。

蝉しぐれの中を歩くとき、暑さを忘れ

幽玄の世界に引き込まれていきます。

魂が一時的にあの世にワープするような

気分になります。

蝉は何年も幼虫として土の中に居て、

地上に出て成虫になり鳴くときは、

死の一月前です。

「やがて死ぬ」というのは、蝉の声を

聞き、芭蕉が真っ先に感じたことです。

そして、その命のはかなさにも関わらず、

ひとの魂を震わせるまで力強く鳴く様を

耳にし、死ぬ景色に見えないと感じる。

何故鳴くかというと、鳴くのはオスだけで、

鳴いてメスに求愛しているわけです。

死の直前まで力をふり絞り、子孫を残そう

としています。

人間は人生半ばで子孫を残しますが、蝉は

死の直前で子孫を残します。

死の直前でよく元気に鳴くなあと芭蕉も

感動しています。

それどころか、蝉のように人生最後まで

志を遂げたいという気持ちまで、句に

表れています。

芭蕉は、この句に「無常迅速」という言葉を

付けています。

時人を待たずで、蝉の声がそれを教える。

お盆の季節となり、蝉の声を聞きながら

墓参りする方も多いと思います。

そのときは、先祖の霊と一緒になり、

無常迅速を味わっていただければ、

お参りの意義も増すのではないでしょうか。

 

有無相生

 

 

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