老子小話 VOL 976 (2019.07.27配信)

闇は無ではない

闇は私たちを愛している

 

光を孕み光を育む闇の

その愛を忘れてはならない

(谷川俊太郎、「闇は光の母」)

 

今回は、谷川俊太郎さんの詩の一節です。

「自選谷川俊太郎詩集」(岩波文庫)の

「闇は光の母」は、

「闇がなければ光はなかった。闇は光の母」

で始まります。

ビッグバンで宇宙が始まる前の世界は闇です。

ビッグバンで光は宇宙に散らばり、今もその

残骸が背景放射として宇宙を埋めている。

光を得て生命が生まれ、万物は進化してきました。

しかし、万物の始原は闇だった。

「光の母は闇」という表現は、老子と同じです。

生命を生み、生命を育む光を生んだ闇。

その闇に愛を感じるのは人間しかいません。

この広い宇宙になぜ人間が生まれてきたのか?

それを探求すると、始原たる闇の愛に到達する。

なぜ自分が今ここに存在しているのか?

これもまた闇の愛に到達する。

人間の社会も、喜びという光を放つ一方で、

恨みや憎しみという闇を内包しています。

闇から抜け出たときに光の有り難さを感じる。

光を浴びているときは、闇にいた自分を思い出す。

闇は生命の母であり、その愛に育まれて

ひとは成長し、社会に光を放っていく。

万物の始原を闇とし、そこから放たれる光を

生命の営みとするなら、闇は光の母となる。

自分の人生においても、闇は光の母となる。

谷川さんの詩は、是非全体を味わってください。

闇の意味がさらに深まります。

 

有無相生

 

 

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