◆老子小話 VOL
973 (2019.07.06配信)
人間の心の二元素は
懐かしさと喜びだ。
(岡潔、「数学する人生」)
最近、森田真生氏が、数学者岡先生の言葉を
「数学する人生」(新潮文庫)にまとめました。
今回は、最終講義から選んだ言葉です。
正確には、森田氏の結語から借りました。
懐かしさとは、自他を超え周囲と心が通いあう
実感と説明しています。
常に大地(全体)から生命を受け続ける自分(個)。
一本の大木が大地なら、木にぶら下がる葉が
自分という存在。
自分ひとりで生きる糧を得ていると思ったら
大違いで、木から養分や水分を得ているから
生き続けられる。
他から切り離された快楽を追求してみても、
最後は虚しくなるだけ。
心が自分の内にとどまっている限り、生きる
喜びは得られない。
心が自分を乗り越え、外側に広がっていき、
周囲と溶けあう時、喜びが湧いてくる。
先週お届けした蕪村の句で言えば、蚊という
ささやかな命と心を通わすとき、自分と蚊の
間の区別はなくなり、同じいきものとして、
生きる喜びを共感できるようになる。
岡先生の、大自然(大宇宙)を情(心)と呼んだ
ところがすごいと思いました。
大宇宙の情が折に触れて、いろいろな形で
表れるのを情緒と呼ぶ。
それら情緒と、自他という区別を乗り越え、
心を通わせることを真の自由という。
荘子的には、逍遙遊の境地に至ることだと
思います。
一瞬自分を忘れて周囲と同化しさえすれば、
喜びがじわじわと湧いてくる。
数学の道を究めると、自然に老荘の道も
究めている。
道を究めると、普遍的な境地に至るようです。
有無相生