老子小話 VOL 972 (2019.06.29配信)

昼を蚊のこがれてとまる徳利かな

(与謝蕪村)

 

今回は、蕪村の句をお届けします。

蚊というものを最近あまり見ませんが、

夜寝るときにプーンという羽音で寝付け

なかった経験はよくあります。

昼に見かけないのは、忙しくしているので、

蚊に気づいていないだけかも知れません。

蕪村の句に驚かされるのは、17文字から

句が生まれる背景がすべて想像できること

です。

まずは彼の観察力でしょう。

徳利にとまる小さな蚊を見逃さなかった。

昼間っから酒を飲んで、倒れた徳利をぼうっと

眺めている。

目はうつろいでいるので、プーンという羽音で

徳利にとまったことに気づく。

夏のだるい気分を酒でまぎらわせる、くつろいだ

生活観がにじみ出ています。

そして、蚊はどうして徳利を選んだのだろうと

ふと思う。

きっと、「こがれて」とまったのだろう。

「こがれて」は、酒の匂いにひかれて、

居ても立ってもいられない蚊の気持ちを

読んでいます。

もはや、蚊に自分を投影している。

自分が蚊になったのか、蚊が自分になった

のかわからない白昼夢を漂う。

まるで、荘子の「胡蝶の夢」と同じ状況。

蕪村の17文字は、さらに自分が見た景色

を時間を逆戻りして再構築する。

昼の真っ盛り、蚊がプーンと飛んできて、

恋焦がれてとまった先を見ると、なんと

酒のしずくがついた徳利だった。

俺を刺しにきたのじゃなく、お前も俺と

同じく酒が好きだったのか。

老荘的桃源郷の世界が味わえる句です。

 

有無相生

 

 

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